表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤のケッツヒェン~邪神の思惑が絡む世界で~  作者: たきしむ
第三章 エレフセリア魔術院編
63/88

第四十七.五話 ドラゴン退治

 





「というわけで、ドラゴンロードを倒しに行きますよ」


「ちょっと待て」



 近所に買い物に行かせるような軽いノリで二郎が言ってきたが、聞き捨てならないワードが混入していた。
















 学校が休みで、さて今日は華雪と一緒に遊ぶかと計画を立てていたのに、朝シャワーをして部屋に戻ったらごく普通にいた二郎のせいで、全てが崩れるような音がした。


 その予感は間違いではなく、未だ半裸の俺に向かい、開口一番、おはようでもなくとんでもない事を言ってくる。






 そして、冒頭の言葉に繋がるのだ。



「俺は今日は宿題をしないといけないんだぞ。

 ドラゴンだが何だが知らんが、そんなものに構っている暇はない」


「宿題が終わっているから、遊ぼうと華雪さんを誘ったのはどこの誰ですか。

 ツヴァイを置いているんですから、大体のことは筒抜けですよ」


「ぐっ。

だが、楽しみにしていると言っていた華雪を悲しませるのはお前の心でも痛むだろ」


「ご心配なく。

 貴方が修行をしたいと私に申し入れたと言ったら、あっさりと」



 そういう優しさは他のところで見せてほしかったな。


 というか、そこで少しでも駄々を捏ねていてくれれば、二郎のよく分からないドラゴン退治に付き合う事もなく、一緒にデートができたのに。



 逆恨みに近いが、ちょっとだけ華雪を恨んだ。


 まぁ、それでも愛しくて可愛いという想いは一ミリも変わらないが。



「分かった。着替えるから待ってろ」


「早くしてくださいね」



 二郎に対しては遠慮することなく、思いっきり恨むが、俺に力が無いのは事実だし、恨んだ所でこいつの行動が改まるわけがない。



 無駄に体力を消耗するだけだと自分に言い聞かせ、戦闘用の服に着替えた。


 学園服も戦闘用に作られてはいるが、あれを駄目にされると困るので、華雪にカッコいいと言われた、最初の国で買ったやつにする。



 最後に刀の点検をし、腰に刺して完成だ。



「準備、できたようですね」


「ああ。ドラゴン退治に行くぞ」



 気合いを入れるために、俺はそう宣言した。











 二郎に連れられて来たのは、何処かの山の頂きだった。


 ゴロゴロと大小の岩が転がり、冷え冷えとした空気が身の体温を奪っていく。


 酸素も薄く、いつもよりも深く呼吸をすることで、体内の酸素を補う。



「あれ、見えますか?」



 環境に適応しようとしていると、二郎が岩の向こう側を指差す。


 慎重に岩の陰から顔を出し、指差す方を見た。



 そこには虹色にテラテラと輝く鱗を身に纏い、巨大な翼を背につけた、誰もが一回は見たことがあるような分かりやすいドラゴンがいた。


 大きさは華雪が対峙したキマイラの三倍程。


 五階建てのビルぐらいの体躯を誇り、少しでも動けば暴風を起こす事は容易に想像できた。



 グルグルと機嫌悪そうに喉を鳴らしながら、しきりに鼻をヒクつかせる。



「臭う、臭うぞ。人間の臭いが」


「分かっているとは思いますけど、あれがドラゴンロードです。

 殺すか殺されるかまで手出ししませんので、精々頑張って下さい」



 岩場の後ろから二郎に突き飛ばされた。


 出た先では、当然ドラゴンロードがいて、そいつと目が合う。



「ほう。自分から出てくるとはな。

 潔く餌になる覚悟ができたという訳か」


「んな訳あるか!!」



 口をガバリと大きく開け、俺を食おうとしてきた頭を避ける。


 地面がビスケットのように割れ、砕けた破片から自分の顔を守るために腕を交差させながら、大きく後退する。



 一旦、体勢を直すためにさっきの岩陰の後ろに逃げ込むが、そこには二郎の姿はなかった。



 期待してなかったが、俺を置いて帰ったようだ。


 ドラゴンロードに勝って、あっちに帰ったら、絶対に一太刀浴びせてやる。


 逃げて帰る気も、ましてや喰われる気も現時点では更々ない。



 二郎は俺の事は好いてないが、訓練に関してだけは誠実に取り組んでいる。


 となれば、俺ならギリギリ死ぬ気で頑張り、運が味方すれば、勝つ可能性があるのだろう。



 ならば、俺は全力をもってドラゴンロードを倒すだけだ。



 契りの結晶でニュンフェを呼び、俺は岩陰から出た。



「何だ?折角岩ごと焼いて喰ってやろうかと思ったのに」


「生憎、俺は餌になる気はない。

 だから、お前にはここで死んでもらう」



 刀を構え、そう言えば、大口を開けて笑われた。



「アーハッハッハッハッ!!

 人間風情が俺を殺すだと!?精霊を連れているからか、その自信は!」


「しゅ、主人よ。

 あれは駄目だ。ドラゴンロードにはほぼ魔法が効かないんじゃ!」


「マジかよ!」


「そういうことだ!!」



 風を裂いた爪が俺に襲いかかる。


 ギャリリリリッと刀でいなすが、不完全だったのか腕が痺れるような衝撃を受けた。


 潰されてないだけマシだが、しばらくはしっかり握れそうにない。



「主人!!」


「お前は小出しに目を狙え!!

 回避優先で、攻撃を食らわないようにしろ!!」



 心配するニュンフェにそう叫ぶ。


 魔法が効きにくくても、五感の一つである目を狙われ続けるのはウザったいだろうし、目眩ましにもなる。



 彼女は分かったと返事をし、物理攻撃が届かないような位置まで下がり、初歩的な炎の玉を放つ。


 ドラゴンロードはニュンフェの魔法に反応することなく、俺を切り裂こうと、連続して爪を降り下ろしてくる。


 身体強化で避け、手首にあたる部分を斬りつけるが、数ミリの浅い傷ができただけで、切断までには遠く及ばない。



 二郎に訓練をつけてもらってから、攻撃を受けてもこんなにダメージを受けなかった生物は人外二人を除くといなかった。




「厄日だ。華雪との楽しいデートの予定が、でっかいトカゲとハイキングになるなんてな」


「でっかいトカゲだと!?」


「ああ。空が飛べるだけのトカゲだ。

 魔法が効きにくいだろうが、刀で斬りにくいだろうが、お前は俺が殺す。

 それで、この戦いを笑い話に変えて、華雪のご飯をまた食べるんだ」



 だから、ここで死ね。



 刀を構え直し、気合いも入れ直す。



 条件は最悪だが、俺は死ぬわけにはいかない。


 あの瞳を悲しみの涙で満たすことは二度としてはいけないのだ。



 魔法で体を強化し、弾丸のようなスピードでドラゴンロードに突っ込む。


 どこぞの人外に作られたらしい刀に魔法はかけられないので、切れ味を増すことはできない。


 純粋に俺の力量で殺傷能力が決まる。



 爪での攻撃を避けられ、懐に潜りこまれたドラゴンロードの脇腹に俺が出せる最速の突きを繰り出す。


 刀を扱う上では推奨されない技だが、それでも硬い鱗を傷つけて体にダメージを入れられる技を俺は他に知らない。



 突きが推奨されない理由は、突いた後に引き抜くという余計な動作のせいで防御が遅れるとか、相手が体内に刀を入れたまま動くと曲がるとかなどの理由があるが、今はこれ以外どうしようもない。


 変に力を入れると折れるとも言われたが、折れた時にまたどうするか考える。



 バキッと鱗を割り、内部の肉に刀が突き刺さった。


 ドラゴンロードは痛みに慣れてないのか、空気をビリビリ震わせる程の咆哮を上げる。



 ひとまず距離を取ろうと刀を抜き、身体強化で移動しようとするが、その前に背筋に冷たいものが走り抜け、直後大きな衝撃が俺を襲った。


 空中に吹っ飛ばされながらも刀を手放さずに、衝撃が襲ってきた方を見れば、尻尾を第三の足とすることで自由になった片足が俺を蹴り上げたらしい。


 鋭い爪の先に赤いものが着いていることを視認すれば、衝撃を一番受けた左腕がひしゃげながらズタズタになっていることを実感してしまう。



「主人!!」



 地面に叩き付けられる前にニュンフェが風の精霊魔法で落下ダメージを感じさせることなく、地面に寝かされる。


 飛びそうになる意識を繋ぎ止め、重傷な部分を手早く使えるギリギリの状態に治療する。



 ドラゴンロードは火を吹き、狂ったように爪を俺達に突き立てるが、ニュンフェが張ってくれた結界のおかげで、傷は増えてない。


 だが、そんな結界も長くは持たないだろう。


 顔色が刻一刻と悪くなる彼女は逃げてくれと言ってくる。



「余が時間を稼げば、主人だけなら逃げられる」


「断る。俺はあいつを倒すと決めたんだ」



 必要最低限動くようになった重い体を起こす。



「どうして、まだ戦おうとするんじゃ!?

 あんな一撃では、倒すのに何回も攻撃しなければならないんじゃよ!!

 無理じゃ!その前に余と主人の魔力は尽きてしまう!!」



 さっきの傷口は焼いて塞がれているので、出血死を待つことはできない。



 ニュンフェの様子から見るに、彼女の魔力はあと二割程で、俺は身体強化の魔法が十秒も使えればいいぐらいしか残ってない。


 さっきの一撃を食らう前にとっさに結界を張ったのはいいものの、完全に身を守れたわけではなく、重傷を負って治療した魔力の消費が多かった。


 完全に治した訳じゃないから痛みが絶え間なく襲うし、貧血で体が重い。



 けど、こんなことは何度もあった。


 何度でも俺の前で華雪が傷つき、俺も同じぐらい傷ついた。


 そう、たくさん数えきれないほどーーーーー。



 バチンッと自分の中の何かのスイッチが切り替わった音がした。






 その頃、二郎は魔術で誰にもバレないように、攻撃の巻き添えにならない場所で待機していた。



 最初から五郎を殺す気はなかったのだ。


 華雪が悲しむようなことはしたくない二郎は、渋々ながらも死にそうになったら守るために、その場に留まっていた。



 戦闘をずっと見守り、五郎が重い一撃を食らった時には、これで終わりかと思った。


 魔力の残量も見えている二郎には、もうドラゴンロードを殺せるような魔法は使えないし、あの体ではろくに刀を振るうことができないことも見抜いている。



 最後まで戦おうとする姿勢だけは評価するが、もう止めなければならないと、魔術を解いて回収に向かおうとしたその時、二郎は気づいた。


 五郎の雰囲気がガラリと変わったことに。



 まるで別人が入ったかのように鋭い剣気を放つ彼は、二郎が訓練

 をつけてどうにか半人前にした子供のものではなく、幾人も斬り殺して完成させた大人のものだ。



「記憶が、戻ったのか!?」



 思わず敬語ではなく、乱暴な口調で誰かに確認するかのように言う。


 それぐらい驚いているのだ。



 五郎は刀をぶら下げながら、ニュンフェの結界から出て、自然体でドラゴンロードの近くまで歩いていく。


 止めるべきかと思ったが、もう少し見ていようと、二郎はまだその場から動かなかった。



 餌が無駄な抵抗をやめて出向いてくれたと勘違いしたドラゴンロードは、やはり焼くのではなく生で食べようと、五郎を掴もうとその手を伸ばす。


 が、それは結論から言えば間違いだった。



 ぼとりっ、と地面に大きなものが落ちる。


 ドラゴンロードの腕の先から落ちたそれは、血に汚れながらもも鈍く光る虹色の鱗が合間に見えた。


 手が切り落とされたのだとドラゴンロード自身が理解するよりも早く、不気味に黒く光る刃と青い空と首のない大きなドラゴンが彼には見えた。



 首のないドラゴンが自分の本体だと気づくことは永遠にない。


 なぜならば、その切り口から盛大に血を吹き出し、頭が転げ落ちたドラゴンロードはそのまま絶命したからだ。















 俺は目を覚ました。


 体を起こすと、そこには複雑な顔をした二郎がいる。



「生きてるってことは、俺はあのトカゲに勝ったというわけでいいんだな」


「そうですね。

 思い出したんでしょう?全てを」


「はあ?思い出したって何を?」



 そう聞き返せば、はぁ!?とすごい顔をされた。



「思い出したから、刀に魔力を喰わせてドラゴンロードの首を落とせたのでしょう!?」


「あの刀に魔法は付与できないだろうが」


「・・・・・・高校生の山口五郎?」


「それ以外なんなんだよ」



 今度はため息をつかれる。


 そして、マジ死ねと暴言を吐かれ、二郎はガックリと項垂れる。



「華雪さんにいい報告ができるのかと思いましたが、どうやら私の勘違いだったようです。

 豆腐の角で頭をぶつけて百回死んでくれませんかね」


「折角生きれたのに死ぬ馬鹿がいるか」


「面倒な男ですね。

 もう頭かち割った方が早いんじゃないですか」



 首を動かして、降り下ろされた拳を避ける。


 すぐ横に食い込んだそれは、当たれば二郎の言葉通りに頭が割れただろう。



「死にかけた相手に対して随分だな」


「当ててないじゃないですか。


 はぁー。もういいです。

 明日の授業の準備をするので、帰ります」



 二郎は椅子から立ち、部屋から出ようと入り口に向かう。


 が、出る前にピタリと足を止め、こちらを振り返った。



「次はもっと死にそうな相手を用意しておきますね。

 死にたくなかったら、精々早く思い出すことです」



 それだけ言って、二郎は出て行った。


 俺は疲れていたので、そのままベッドに転がる。



 ご丁寧に俺の部屋に運んでもらっているので、明日までゴロゴロしていても問題ない。


 治療してもらっても怠いのは無くならない重い頭を何とか動かし、記憶を遡る。



 ・・・・・・全く思い出せない。


 しかし、何か懐かしいものを感じた気はする。



 これ以上悩んでも思い出せないのなら、明日に備えてゆっくりしていた方がいいと、考えることをやめた。


 ただ、何故か脳裏に泣いている華雪の姿がちらつき、気が休まることはその日はなかった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ