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赤のケッツヒェン~邪神の思惑が絡む世界で~  作者: たきしむ
第三章 エレフセリア魔術院編
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第四十四話 クリーピードール

 





 寮の部屋に帰ると、ツヴァイがとてとてと駆け寄って出迎えてくれた。



「今日はすごく汚れているから、お風呂に入ってからな」



 全体的にベタベタなので、頭を撫でてやることもできない。



 しかし、そこは賢いツヴァイ。


 一声鳴いて、自分の定位置である彼用のベッドに行った。






 私は風呂場に直行し、とりあえず身を清める。


 服は魔法で綺麗にしたが、自分の体はどうもお風呂に入らないと気が済まなかったのだ。


 もっと劣悪な環境で生きてきたというのに、自分の順応能力には驚かされるばかりだ。



 魔法で汚れが綺麗に落ちた制服に身を包み、頭にタオルを掛けながら、ツヴァイが待っている部屋に戻った。



「改めて、ただいま。ツヴァイ」



 今度こそ駆け寄ってきた彼を抱き上げ、その毛並みを堪能する。


 暇を見つけてはブラッシングしている彼の毛並みは言い表せないほど素晴らしい手触りだ。



 存分にモフモフしてから、私はソファーに座った。



「さて、練習をしないとだな」



 指先に小さな球体を生み出し、それを空中に浮遊させる。



 実はこれ、神話生物として得た力のコントロールするためにしている練習なのだが、進捗は芳しくない。


 一センチほどの球体を一個出現させて、一分程度しか操れないと言えば、どれだけ私がコントロールできてないか分かるだろう。


 理想としては門にして鍵のように触れるだけで相手を死に至らしめるような球体を出すことだが、今の私では精々表面を腐食させることぐらいしかできない。



 嘘、私の能力弱すぎ?と悲しみに暮れながらも、地道に練習だけはしている。


 今日も今日とて、書き損じた羊皮紙に球体を当て、貫通させるために力を籠める。



「だぁっ!!まじで私の意識が無いときは人体貫通できたのかよ!?」



 一回も貫通することなくボロボロになってしまった羊皮紙を燃やし、飽きたら私はそのまま寝転ぶ。



 私が二郎と五郎を襲った事件は学園に来る前に聞いたが、そんな必殺技が使えるなんて知らなかったので、まじかと三回ぐらい聞き返してしまった。


 それを聞いたからこそ、コントロールに勤しんでいるとも言うが、ここまでできないと見間違えだったんじゃないかと、ちょっぴり思う。



 ぐだぐだとしていると、ピンポンパンポーンという音が響き渡った。



「夜ご飯の支度ができました。食べる方は食堂まで来てください」



 初日と同じように流れた寮内放送に、今日は食堂に食べに行くかと、ふと思い付いた。


 気まぐれな決断だったが、これが更に面倒な事を引き起こすとはこの時の私が知っていたら部屋に引き込もっていただろう。


 だが、未来視などできない私は、ツヴァイを置いてのこのこと食堂に行ってしまった。











 食堂はかなり広く、それなりに人がいた。



 女性特有の黄色い声で空気中が埋め尽くされていたが、私が食堂に入った途端、それは一気にピタッと止んだ。


 臆することなく食堂内を歩けば、まるでモーゼが海を割った時のように人波が私を避けるように割れた。


 効果音を入れるならずざざざっという感じだろうか。



 私に触れたら何かに感染するとでも思いこんでいるのか、食事の受け取り口に並ぼうとすれば、どの女もどうぞどうぞと私を前に押し出す。


 混んでいる割にはスムーズに食事を受け取ることができた私は適当に空いてる席に座る。


 そこを中心に十席ぐらいは人がいなくなった。



 周りを気にすることなく食事を口に運ぶ。


 この世界の水準で見るならご馳走とも呼べるものだが、二郎が作ったものに比べると子供のままごと遊びで作った泥団子と同じような味がするそれを、ひたすら咀嚼しては嚥下(えんげ)する。



 栄養が取れれば文句は言わない。


 何だったら食べなくてもいいぐらいだ。



「ちょっといい?東雲」



 機械的に食事を口に運んでいると目の前に黒髪をツインテールにした女が立っていた。


 その後ろには二十人ほどの女がいて、こちらを見てくる。覚えてないが、彼女達が元クラスメートなのだろう。



 食事が終わっているのか、はたまた食べないのか、誰一人として手に食事が乗ったお盆を持ってない。



「座りたいなら勝手にどうぞ。私にはこの一席だけあれば十分なんでな」


「馬鹿じゃないの?誰も座りたいなんて言ってないわよ。

 アンタに用事があるの!」


「見て分かる通りに私は食事中だ。

 食べながらで聞ける用事ならともかく、そうじゃなかったら出直せ。

 ヒステリックに叫ばれていたら他の利用者に迷惑だ」



 屍鏡が運営している学院なので、彼に迷惑が掛かるのは私の本意ではない。


 珍しく常識的な切り返しをするが、それが女の癇に障ったのか鬼のような形相をする。



 その女は咄嗟に手を伸ばし、コップに入っていた水を私にぶっ掛けてきた。


 避ける気も魔法を使う気も起きなかったので、そのまま水を被る。


 常温よりも冷たい水が髪を伝い、顔や洋服まで濡らしていく。



「お前は何がしたいんだ?私の食事の邪魔か?」



 濡れた髪がうっとしいのでかき上げ、即席のオールバックにする。


 五郎と二郎とお揃いだとちょっとテンションを心の中で上げてから、目の前の女を見やった。



「アンタが悪いのよ!!アンタのせいで圭吾は今熱を出して魘されてるわ!!

 責任を取ってどうにかしなさいよ!!」



 さっきの何倍もヒステリックに叫ぶ女に周りの奴が食事を止めて、遠巻きに野次馬をし始める。



 助けに入られても困るが、せめて初日に会った寮母とやらを呼びに言ってくれてもいいんじゃないかと思う。


 まぁ、寮母に介入されたところで事態はややこしくなるだけで改善はしないが。



 とりあえず、私が今しなければならないことは、このヒステリー女に穏便に食堂からご退場願い、食事はもういいとして、ツヴァイにバレる前に服を乾かして部屋に戻ることだ。


 そのためには彼女を刺激しないようにしなければ。



「圭吾って誰だ?私の知り合いにそんな奴いないんだが」



 最初の事実確認は大切だ。


 これを怠ることにより両者の間で認識の齟齬がでてしまうことは非常に好ましくない。



 そういう意図で聞いたのだが、何故か目の前の女はその質問がお気に召さなかったようで、赤かった顔を更に赤くさせる。



「自分がさっき左腕を斬りおとした相手で、クラスメートだった人をよくそんな風に言えるわね!!」


「ああ、さっきの馬鹿男のことか。

 そう言ってくれないと判別がつきにくいんだから、最初からそう言ってくれよ」



 私が納得したところでほぼゼロ距離から火炎球が飛んでくる。


 レパートリーが少ないのか、それともイメージがしやすいのか分からないが、さっきも火炎球を斬ったなと思いつつ、手のひらに魔力を集めて握りつぶすことで周囲への被害をゼロにする。



 やったのは目の前のヒステリックツインテではなく、三列目の一番右に居る女だ。


 そっちを見るとひいっと情けない悲鳴を上げて他の女の後ろに隠れる。


 盾にされた女は庇うように私を睨み付けてきた。



 一気に面倒になってきてため息をつく。



「それで、身の程知らずの馬鹿男が熱を出して魘されているという話だが、それと私の関係性が見いだせないんだが」


「アンタの怪我が元で熱を出してるの!!

 アンタなら治せんでしょ!?治しなさいよ!!」



 話は見えたが、人に物事を頼む際は下出に出るという法則を知らないようだ。


 そんな態度で誰が治すと思っているのだろう?


 脅せばみんながみんなハイハイと言うことを聞いてくれると勘違いしているのだろうか?



 いや、この半年で勇者一行という肩書を得て、増長してしまっているのかもしれない。


 他の人間ならば魔王を倒してくれる勇者達はまさしく希望の星だ。


 少々理不尽な命令だって聞き入れてしまうに違いない。



 ただ、それに当てはまらないものもいて、その中の一人が私だったというわけだ。



「さっきルークも言っていたが、模擬戦の怪我は自己責任だ。

 自分たちの治癒能力の低さを私に八つ当たりされても困る。

 自分たちの力のなさを悔んだらどうだ?


 そもそも私をこんな大人数で囲っている暇があったら看病でもしてこい。

 そっちの方がよっぽど有意義に時間が使える」



 的確なアドバイスを送ってやる。



 私としてもそろそろ部屋に帰らないとツヴァイに怪しまれそうで怖いから、一刻も早く解散してくれというのが本音だ。



「なら、力づくでさせるわ!!芽衣、お願い!」



 ヒステリックツインテがそう言うと、私の体を光のゴツイ鎖が拘束する。


 それはぎゅうぎゅう私を押しつぶそうと負荷をかけてくる。



 異世界の暮らしでストレスが溜まり、思考が短絡的になるのは理解ができないでもないが、もう少し考えて行動しろとは言いたくなった。



 攻撃していい奴は攻撃される覚悟がある奴だけという、素晴らしい名言があるだろう?


 芽衣と呼ばれた女はその覚悟があるのだろうか?



「最終通告よ、東雲!今すぐに圭吾の怪我を治しなさい!

 さもなければ、アンタを殺すわ」


「殺す、とはまた大きく出たな。

 殺される覚悟がある上でそれを言っているのか?」


「あの刀がなくて、身動きを封じたアンタに何ができんのよ!!呪文を詠唱するよりも先に握りつぶされるわ!

 あの意味わからない刀さえなければ、アンタなんて恐れる要素がない、ただのチビよ!!」



 なるほど。


 私が強いのはあの妖刀のおかげと目の前の女は思っているようだ。



 それは他の女たちも同じようで、誰一人として恐怖の色に染まってない。


 仕方ないと言えば仕方ないが、どうして誰一人として私の素の戦闘能力だと思わないのだろうか?


 やっぱり見た目の問題か?



 一応、危機的状況に陥っているらしいので、表情を崩さずにポーカーフェイスで通す。


 油断すればアホらしくて笑ってしまうのを堪えている私を、誰か褒めて欲しい。



「こんなに見物者がいる中で殺したら困るのはそっちじゃないか?」


「勇者一行の肩書を使えば、ここにいる奴らぐらい口止めできるのよ!

 あの先生達には誰も知らないうちにアンタが脱走したとでも伝えておくわ!

 だから、安心して死になさい!!」


「馬鹿が言うセリフってどうしてこんなに統一されているんだ?

 そういう法律でもあるのか?」



 真面目に驚きながら、二郎がこの前発動させたものと同じ魔法を発動する。



 対象は食堂にいる奴ら全員で、動くなと命じるだけでみんな人形のように動くことはできない。生かすも殺すも私の自由だ。


 光の鎖をあまり力を込めず破壊すれば、信じられないという顔で見られる。



「残念ながら、こういうのはあまり効かないんだ。

 ああ、魔法で縛りを追加しておこうか。〝魔法を発動しようとした奴は全身火炙りにされる痛みを体感する”。

 こうしておかないと魔法を使う馬鹿がいそうだからな」



 実際、何人かが魔法を使おうとしていたらしいが、私が言霊魔法で条件を追加すれば、すぐに使うことを諦めた。



「さて、私を殺そうとしたヒステリックツインテ女。

 お前をどうやって痛め付けようか私は考え中だ。


 何か希望はあるか?」



 殺しはしないが、それなりに痛い目には遭ってもらう。


 毎回のように噛みつかれてきても困るからだ。


 馬鹿の集団だから、一回や二回では学習できないかもしれないが、根気強く私達に逆らわないように躾をしなければならない。



 ヒステリックツインテ女は口をパクパクさせるだけで何も言わない。


 今度からツインテ金魚女とでも呼んでやろうか?



「リクエストがないなら、適当に・・・・・・ちょうどいいのがあったな」



 アイテムボックスから材料を出し、即興で魔法で形作る。


 それは目の前の女達を模したリ○ちゃん人形ぐらいの大きさのクリーピードールだ。



 夜暗いところで絶対に遭遇したくないようなドールを三体作る。



 一つはツインテ金魚女、もう一つは光の鎖を出した奴、最後の一つは最初の方で火炎球を飛ばしてきた女だ。


 その人形が完成すると、それぞれ対になる女の胸元に人形を当てる。



 これで、私の発動したい魔法の条件が整った。



「それ、どうするつもりよぉ・・・」



 ツインテ金魚女はすっかりドールの不気味さに飲み込まれたのか、さっきまでの威勢の良さを失くしている。


 その眼はドール達に固定されたまま動かない。



「このドールは私が魔法でそれぞれ感覚を共有している。

 例を見せてやろう」



 一番前に居る、ツインテ金魚女を模した不気味なドールの頬をフォークで軽く傷つける。


 すると、人間の彼女の頬も傷つき、そこから血が一筋垂れた。



「ひぃっ!」


「このように、ドールが傷つけば、お前らも傷つく。

 それで、このドールに擬似的な人格を与えてあげると・・・・・・」



 魔法で三体のドールに偽りの魂を入れる。



 悪意のある悪戯を私の元クラスメートにするのが好きという設定にした。


 殺すことは禁止する条件も付け加え、安全面に配慮する。



 偽の魂がドールに入り起動すると、それぞれ甲高い声でケタケタ笑い始めた。


 より一層、恐怖を煽ることができるだろう。



「解除の方法は人形を捕まえて、胸の部分にあるコアを本人が飲み込むことだ。それしかない。

 下手に破壊すれば対応している奴は死ぬから、そのつもりで」



 いってらっしゃいと私が言うと、ドール達は空いていた食堂の窓から暗くなった外へ飛び出した。


 それを見届けてから、言霊魔法を解く。



「追いかけないと外は危険が一杯だ。

 演習場の森とかに迷い込んで魔物に襲われたりすれば、強度が低いドールなんか一発で破壊されるぞ」



 学院にはあえて魔物を放し飼いにしている演習場がある。



 私達が授業に使った森もその一つで、普段は結界に覆われており、中の魔物が外に出ることはない。


 しかし、外から中に入るのは比較的容易く、あのドール達ならそれを可能にする能力がある。



 状況が飲み込めたのか、更に顔を青くする彼女らは、正気に返ったものから私に見向きもせずに外に向かって走っていった。



「明日の授業に遅刻しないで影響のない範囲で探せよー」



 やる気のない私の応援が白々しく、静かな食堂に響いた。






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