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赤のケッツヒェン~邪神の思惑が絡む世界で~  作者: たきしむ
第三章 エレフセリア魔術院編
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第四十二話 命啜丸

 





「いや、駄目だよ」


「そこをなんとか」



 お昼休みの時間を使い、何とかルーク達に模擬戦許可がもらえるようにお願いするも、すげなく断られる。


 二郎にも同じようにお願いをした後だが、こちらもとりつく島なく断られている。



「華雪ちゃんが弱くないのは知っているけど、だからといって、無意味に危険に晒したいわけじゃないわ」


「桐生さんの言う通りです。

 神話現象に巻き込まれたわけでもないのに、華雪さんがわざわざ戦うのは了承できません。


 それでも納得できないようなら、私にでも命令してください。

 勇者一行を皆殺しにしろとでもね」



 もぐもぐとお稲荷さんを食べる桐生と二郎にそう言われる。



「むー。駄目か?」


「そういう可愛く首を傾げる姿は、もっと高級な装飾品をねだられたりする時に見たかったなぁ」



 朱音に教わった、必殺・首を傾げる攻撃も、ほんのりと彼らの頬を染めるだけで、効果がない。


 これでみんなイチコロよ、と言っていた朱音に、何の成果も得られませんでしたと、今度言わなければ。



 効かない必殺技にいつまでも頼る私ではなく、違う方向からアプローチすることにした。



「よし、分かった。

 私が傷一つでもついた暁には、お前らのお願いを何でも聞いてやるという条件ではどうだ?」


「それ、本気で言っているのか」


「本気と書いてマジと読む。この条件なら乗るだろ?」



 血を吸い尽くしたいのも、鎖で繋がれた人形にしたいのも、彼らは隠してはいるが、私には分かっている。


 鈍いだの何だの言われているが、その辺はちゃんと分かっているのだ。


 そして、隠しているからこそ、こうやって私から振らない限り、表に出せない。



 二郎とルークは顔を見合せきょとんとしてから、言葉を理解できたのか、とてつもなく邪悪な笑みを浮かべた。


 あまり見ることない、神話生物として何かを企んでいる時の顔だ。



 しかし、五郎と桐生がその悪どい表情にドン引きしたせいで、すぐに二人ともいつもの顔に戻った。


 レアな表情だから、しばらくそのままでもいいと思っているのは私だけのようだ。



「本当に何でもですか?」


「女に二言はない」


「・・・・・・いいよ。

 担任のボクの名で申請しておくよ」



 ルークはそう言うと、玉子焼きを口に放り込んでから立ち上がる。



「ご馳走さま、華雪。

 鎖を磨いて、楽しみに五時限目を待ってるよ」


「楽しみにしているといい。

 もっとも、その鎖に出番はないがな」



 あははと笑いながら、ルークは申請をするためにその場から去った。



「さて、私も色々と準備しましょうかね。

 今日のお弁当も美味しかったですよ、華雪さん」



 にっこりと笑った二郎も同じ方向に行ってしまう。



「うわぁ。どうするの、華雪ちゃん。

 傷一つでもついたら、本当に強制拉致監禁ルートよ」 



 桐生も彼らの欲望は知っているようで、困ったような顔をこちらに向けてくる。


 私は安心させるように自信満々に頷いた。



「傷一つつかないから問題ないな。

 使いなれてない武器というのが、少し不安だが、まぁ、何とかなる」


「何を使うんだ?」



 いつもとは違う武器を使うというところに、興味を惹かれたのだろう。


 五郎がお茶を飲んだ後に聞いてきた。



「ん?そりゃあ、勿論ーーーーー」



 刀だろ。



 私はにやりと笑って答えた。











 私の能力は空間系に特化している。


 それは昔の実験の成果だが、これがまた何かと便利だ。



 死んで転生モドキをする私が手に入れたものは、ネックレスと身に着けている服以外は、その都度リセットされていた。



 分かりやすく言えば、ゲームでコンテニューするたびに所持金ゼロで装備が村人の服だけで始まるようなものだ。


 神話生物と相討ちになったと思ったら、初期装備で道端に放り出されている、あの虚しさ。


 折角、苦労して手にいれた魔導書も、戦利品のアーティファクトも無かったことにされてしまうのだ。



 それに困った私は、非力な能力をフル活用し、ドリームランドと現世の間に私が死んでもリセットされない空間を作り上げた。






「な。面白くない所だろ」



 ちょっとした儀式をし、自分の空間に繋げた私は、行きたいと言った五郎と桐生を連れてきた。



 私の空間は一戸建ての家のような形状になっており、いつも空間を繋げるのは玄関なので、今回もそこに繋がっていた。


 これで他の空間のように面白いものがあったりすればいいのだろうが、普通の一戸建てにそんなことを求められても困る。



 桐生は目をぱちくりとさせ、それから複雑な表情をしてから、靴を脱いだ。



 彼女には、この家が何を模して作ったのか分かってしまったのだろう。


 それでも言わない優しさに救われた。



「ほら、山口も早く靴を脱ぎなさい。

 ぐずぐずしていると、昼休みが終わっちゃうわ!」


「言われなくても分かってる」



 五郎は何故か首をひねりながら、靴を脱ぎ、周りを見回す。



 壁には申し訳程度に絵が額に入れられて飾られているが、全てありきたりな風景画だ。



 廊下に面している扉は閉まっており、どれが何の部屋かは掛けられているプレートで判断できる。


 まぁ、私の空間なので、私が把握してないということは有り得ないのだが。



「刀がおいてあるのはこっちだ。

 あっ。言っておくが、勝手に他の部屋に入るなよ。


 場所によっては存在してなくて、そのまま虚空へボッシュートされるからな」



 そう釘を刺せば、五郎は私の服の端を掴み、桐生は私と手を繋ぐ。



 虚空へ飛ばされるよりも、私が見られたくないものの方が多いが、こう言っておけば詮索されずにすむし、変な気も起こさない。


 何事も本音と建前は大事だし、嘘は言ってない。



「こうしておけば、安心ね」


「そうだな。華雪が勝手にはぐれたりしないしな」


「人混みでもなければ、はぐれたりしないぞ」



 彼女達をひっつけながら、階段を上り、左手奥にある物置と書かれたプレートがぶら下げられた部屋に入る。



 そこは床に紙が散らばっており、足の踏み場がない。


 物も沢山置いてあり、とても人を入れるような部屋ではなかった。



 そのことを忘れていた私はあちゃーと手を額に当てる。



「あー。そういえば、資料ひっくり返したままだったな。

 悪いが、廊下で待っててくれるか?」


「片付けるのぐらい手伝うが?」


「気持ちは嬉しいが、時間もないし、何より五郎には見せられないようなモノだから」



 魔術や神話生物についての資料なので、文字列を追って理解したりしてしまうと、あっという間に正気が削れてしまう。



 五郎達を廊下に待機させ、資料を踏みながら、刀の置いてある場所まで足を滑らせないように歩く。


 部屋の奥に立て掛けられていた刀を、ようやく手にしたときはヘロヘロになっていた。



「それか?華雪が言っていた刀というのは」


「ああ。銘は命啜丸(めいせつまる)

 斬られた傷が自然治癒では治らないというのと、相手の命を喰らうことから名付けられた刀だ」



 これだけ聞くと便利な刀のように思えるかもしれないが、使えない点も多い。



 まず、この刀の特殊能力は神話生物には効かないし、発動させるのも魔力を多く消費する。


 この時点で、この刀の使えなさが分かるだろう。


 神話生物相手にはただの刀というだけで、無価値である。



 それだけではなく、持ち主に精神攻撃をし、負ければ体を乗っ取られるというハイリスク付きだ。


 相手をじわじわと殺したいとかいう特殊な事情がない限り、本当に使い道のない刀なのだ。



 あまりにも使えないので、今日まで死蔵されていたモノだが、ここにきてようやく日の目を見ることができる。


 多くの魔力を消費してでも嫌がらせしたい人間ができた。



 面白いものがあると持って帰ってきてしまう癖が、ここにきて役に立った。



「そんなもの使って、華雪が体を乗っ取られたりしないのか?」


「欠片でも人間だった時ならともかく、完璧に人外になった私に隙などない」



 試しに抜いてみるが、精神攻撃特有の気持ち悪さはない。


 しかし、頭の中に低くねっとりとした声が響いた。



 《血が、生き血が足りないィィィィィ》



 使ったことがないから知らなかったが、この刀、喋るらしい。


 精神攻撃をしてくるだけで喋るとは思わなかった私は、ちょっと驚いた。



「華雪ちゃん?」


「何でもない。驚いただけだ」


「何に驚いたんだ?」



 傍目から見れば、刀を抜いた私が勝手に驚いているだけだ。


 逆に周りにいる奴の方がびっくりする。



「刀が喋ったことにだな」


「はぁ!?大丈夫だったんじゃなかったのかよ!?」


「喋ってくるだけで実害はない」



 こうしている間にも、殺したいだの、生き血を啜りたいだの、うるさいがそれだけだ。


 私という存在を侵されている感じはしない。



「喋ってくる時点で、気が散って実害になるけどね」


「そういえば、こういう時の対処法を藤堂に聞いたことがあるな」



 戦闘狂という性質上、様々な相手と闘い、それに合わせて様々な武器を見てきた藤堂に、意思がある武器との付き合いかたを酒のつまみに聞いた記憶がある。


 その時は私がそんな武器を使う予定が無かったので聞き流していたが、大事なことは覚えている。



 要は畜生を調教するのと一緒だと。



「命啜丸、黙れ」



 私にしては低い声で一括すれば、ぴたっと話し声が止まる。


 代わりに刀本体がカタカタ震えるが、力を込めて握れば、それもなくなった。



「おお。あいつもたまには役に立つ知識を話してくれるな」


「そんな感じでいいのか」


「どちらが上か分からせれば、何もしてこないと藤堂が言ってた」



 私自身の力が最低レベルでも、門にして鍵とルークの力の一部を取り込んでいるので、私の方が上だと勘違いしてくれたようだ。


 虎の威を借る狐のようで微妙な気持ちになるが、力のかさ増しがバレずに刀を使えれば、私の心情など微々たるものだ。



 万が一バレて反抗してきたら、その時は迷わず折ろう。



 そう心に決めて、鞘に刀を納めた。



「桐生からもそんな危ない刀を使うなって言ってくれよ」


「私はそんなに危険性はないと思うわ。

 どちらが上か分かった刀が謀反を起こすことはまずないもの。

 酷い扱いをしようとも、上のモノには逆らわないってのが、こういうモノの良いところよ」



 こういうことの専門家でもあった桐生が大丈夫だと太鼓判を押せば、五郎はそれ以上何か言うことはなかった。


 しかし、刀に華雪に迷惑をかけるようなら俺が折る、と宣言はしていたが。



 そんなこんなで目的の刀を手に入れ、元の学校に戻るために一階に行こうとすると、五郎にちょっといいかと言われた。



「何だ?五郎」


「この部屋は物置なのか?」


「見ての通り、あまり使わないものをここに押し込んでいるから、物置なんだが」



 面白い質問をされる。


 物置と書かれているプレートがぶら下がり、中も雑多にモノが置かれている部屋が物置以外の何であるのか。



 だが、五郎は納得がいかないのか、しきりに首を傾げている。



「何か、違和感があるんだよな」


「私が作った空間で違和感があると言われてもなぁ」


「まぁ、いい。俺の勘違いだろう。

 さくっと学校に戻って、あの馬鹿を倒しに行こうぜ」



 私をじっと見ているだけで、その違和感に付き合うのに飽きたのか、五郎は私から目を逸らした。



「そうね。遅れる方が困るもの」


「帰るまでにタイムラグがあるし、もう帰ったほうがいいな。

 忘れ物はないよな?あると困るんだが」


「身に付けているもの以外はないはずだ」


「なら、よし」



 一階の玄関に向かい、元の所に繋がる扉を開ける。


 繋げるのが面倒なだけで、帰るのは扉を開けるだけでいいとお手軽になっている。



 二人が潜ったのを確認すると、人気の無くなった廊下から、聞こえるはずのない声が聞こえた気がして、ガンッと壁に自分の頭を打ち付けた。


 当たり所が悪かったらしい額から、黒い液体がつぅっと流れ、それが私を冷静にさせる。



「あー。壁紙張り替えないとな。

 その前に額の傷が先か」



 治しておかないと、彼らに心配される。


 最近できるようになった裏技を使い、表面上は傷がないように見せかけた。



 血を拭き取れば、綺麗な白い肌が玄関脇の鏡に写る。


 傷が見えなくても傷ついてはいるので、その部分がズキズキとするが、自業自得だ。



 黒く染まってしまった壁紙はまた来たときに張り替えようと、今度こそ玄関の扉を潜った。






「遅かったな」


「ちょっとな。後片付けがあっただけだ」



 五郎からの疑念を適当に誤魔化して、私は持ってきた刀を腰に差し、気合いを入れるために両頬をぱしんと叩いた。



「よっし!行くぞ、五郎、桐生。

 養豚をブヒブヒ言わせて、五郎が弱いっていうのと、私がチビっていうのを撤回させてやる!!」



 おおー、と私が拳を天に突き上げれば、桐生はノリよく、五郎は恥ずかしそうにしながらも同じように拳を上げてくれた。






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