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赤のケッツヒェン~邪神の思惑が絡む世界で~  作者: たきしむ
第三章 エレフセリア魔術院編
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第三十八話 寮のお部屋

 





 午後の授業は全て座学なので、教科書を見る振りしながら、ずっと二郎が言った意味について考えていた。


 二郎は意味なくあんな事を言ったりしない。


 何か違和感や他の要因があったから、注意喚起もかねて私に言ったのだ。


 その何かが私には分からない。



「華雪、問題解けたか?」


「うん?あっ、ああ」



 考えている間に問題を解く時間になっていたようだ。


 周りはルーク達が怖いのか、見た目だけは真剣に取り組んでいる。



「できたなら、ヒントだけでももらっていいか?

 こんな言語、あっちの世界じゃ見たこともないからな」



 本日最後の授業は強力な魔法を学ぶために必要な、古代の魔法書に使われている言語を覚える授業だ。


 現代まで改訂され続けている初心者向けの初級・中級魔法とは違い、上級あたりからは使い手が少ないので、魔法書をわざわざ新しく書き換えたりする人がいない。


 古代語を学ばないと魔法書自体が読むことができないので、習得ができないのだ。



 元いた世界で言えば、英語の授業みたいなもので、覚えればそう難しいものでもない。


 それは私の意見だが、難易度的には日本語とさして変わりがない。


 イス人やミ=ゴの言語に比べれば、簡単な部類だ。



 ただ、間違えたまま魔法書を読み解き、それに従って魔法式を組み立てた場合は、術者の死に直結する。


 強力な魔法式ほど間違えて使えば術者へのリバウンドが強い。


 術者の命だけで賄えればいいが、それでも足りない場合は周囲へ甚大な被害を及ぼす。



 それもあってみんなは真剣に取り組んでいるのだろう。


 魔法式が見える二郎や桐生、あとは人間辞めたら見えるようになった私、最初から見えていたルークには関係ない話だ。


 五郎が強力な魔法式を組み立てる時は誰かしらついているので、彼も特に学ばなければいけないという内容でもない。



 しかし、彼は自分でできることは自分でしたいと意欲的に授業に取り組んでいる。



「どこで引っ掛かっている?」


「ここの訳は火の精霊が踊るなのか、それとも火の玉が舞うなのか分からない」


「ここは火の玉が舞うだな。

 前文の墓場の周りを青白い光を放ち飛んでいるという描写から、ウィルオウィスプを関連付けて考えないといけない。

 また、その後の文でも冷たい魂という表記があるから、熱い火の玉は除外だ」


「ほう。そう解けばいいのか」



 教科書にかりかりと書き込む五郎の横顔を見る。


 記憶にあるより若いが、確かに山口五郎の顔だ。


 指輪も私と同じ場所に填まっている。


 そして、何より私自身が彼だと断定していた。



「なんだ?顔に何かついてるか?」


「いや、綺麗な顔をしているなと思ってな」



 誤魔化すためにそう言ったら、五郎は顔を赤くする。


 口元を手で覆い、視線を剃らす彼は新鮮だ。



 そんな彼目掛けて、何かが飛んできた。


 魔法で強化されている、石つぶて程の大きさのそれを、五郎は首を動かすだけで避ける。


 壁にめり込んで粉になったそれは、どうやらチョークのようだった。



「避けないでくださいよ。チョークがもったいないじゃないですか」


「馬鹿か。今の当たっていたら、俺の身体に穴が空いていただろうが」


「風通しが良くなっていいじゃないですか」



 投げたのは二郎のようで、彼は投擲後の体勢で笑っていた。



「俺の綺麗な顔が風通しよくなったら、華雪が悲しむだろうが」


「ご心配なく。私の顔も貴方と一緒ですから。

 むしろ、いつも仏頂面しかできない貴方よりもいいんじゃないですか」


「はっ。いつも気持ち悪い笑顔を張り付けている奴よりも、たまに自分に対して本当の笑顔を見せてくれる奴の方がいいに決まっているだろ」


「はいはい。喧嘩はそのへんにしておいて、答え合わせするよ」



 バチバチと目に見えないプラズマを空中に撒き散らしている二人をルークが落ち着かせる。



 当初はルークの暴走を止めるために二郎を補佐として置いたのだが、今見ている限り、二郎の方が暴走している。


 最終的に上手くいっていれば問題はないが、二郎のストレスがヤバイので、私が回復したら、昼食時にした生気供給でもしよう。











「やっと終わった・・・・・・」



 一日の授業を受け終わった私は、塩を浴びたナメクジのようにぐったりとしていた。


 元クラスメートや屍鏡の部下、そして桐生の家族だった王子様。



 たかだが一日の間に、学園で回収できるフラグをほぼ回収したのだ。


 疲れない方がおかしいだろう。



 あぁ、保険医になった桐生と二郎を慕う女教師とのエンカウントもあったな。



 今日の出来事を思い出して、改めて頑張った自分を褒める。


 屍鏡に用意してもらった寮の部屋に行ったら、美味しいお酒でも開けて、煙草もぷかぷか吸おう。


 おつまみはサラミとチーズとさきいかで。


 二郎が見たらいい顔をしないラインナップで月見酒を楽しもう。



「というわけで、さっさと寮に行くぞ。

 具体的にはフラグをこれ以上回収しないうちに!」


「その言葉自体がフラグな気がするがな」


「この間、神話現象に遭ったばかりだし、しばらくは平和に暮らせるはずだ」


「着実にフラグを積み立てているな。

 まぁ、寮に行くという意見には賛成だ。

 周りが煩いし、あいつらに出された宿題もやらないといけないしな」



 授業中に彼らから、次回の授業までに、という定型文を何回か聞いた。


 宿題の量はそこまではないが、これからも増え続けるという点と、世の中は何があるか分からないという教訓から、出来るときにするようにしている。


 五郎もこの後、二郎との特訓が入っているとのことで、寮に行くのに積極的だ。



「ルーク先生、二郎先生、そういうことだから、また明日」


「うん。何かあったら呼んでね」


「念のためにツヴァイを華雪さんの寮においておきましたので、どのような用事でも言いつけてください。

 この間よりは使い物になりますし、すぐに私も向かえますので」



 二郎は私が暴走した時のことをまだ少し引きずっているようだ。


 あの時のあれは私が全て悪いし、二郎はルークを探すために力を分散していたので、駆けつけるのに遅れたと謝られた。


 勿論、気にしてないし、何があっても呼ぶ気はないが、それを言うと捨てられた子犬のような眼差しを向けてくるので、無言で頷いておく。



「俺はまた後で職員室に行く。だから、そこで待ってろ」


「はいはい。お待ちしてますよ。早く来て下さいね」



 五郎は私の手を握り、寄ってくる元クラスメートを退け、教室から出た。











 屍鏡に貰った地図を頼りに、バスなどを乗ってようやく寮の敷地までたどり着いた。


 無駄に学校内が広く、時間がかかったのだ。



 移動授業などはもっとも近い訓練場や教室を使用しているので、徒歩で移動が可能だが、寮は私達がいた教室とはほぼ正反対の位置にあり、使用していた校舎の前から出ていたバスに素直に乗った。


 貴族レベルになると自分用の馬車などを使用するらしいが、根が庶民の私にはバスぐらいがちょうどいい。



「寮が多すぎて、どれが自分の寮か分からないな」


「屍鏡が言うには、一番グレードの高い寮で、見れば分かると言ってたな」


「じゃあ、あれだろ」



 いくつか寮が建っているが、一番大きく綺麗な寮がバス停留所の前にドンッと建っていた。


 ・・・・・・本当に分かりやすい。



「迷う心配はなさそうだな」


「そうだな。

 男と女の寮は別れているから、今までみたいに気楽に華雪の所にいけないのが欠点だが」



 年頃の男女を一緒の建物に生活させるわけにはいかないので、当たり前だが男女別で寮は作られていた。



 屍鏡の城に居たときには五郎が私の部屋に事あるごとに入っていたから、彼が来ないのは少し寂しい。


 いや、ここで彼がちょっとぐらいいない時間に慣れておかないと、私がダメな生物になってしまう。


 ただでさえ、彼らに流されまくって最終的に一緒にいることを許容してしまったのだ。


 既に手遅れな気がするが、ここで自立心を取り戻しておかなければならない。



「華雪、今、何か変なことを考えているだろ」


「え?いや、別に」


「そう言うならいい。

 俺は寮に行くが、何かあったら連絡してくれ」



 この世界には通話ができる魔法具もあるが、私と五郎は持ってきていた携帯を魔改造し、二人の間だけ電話とメールのやりとりをできるようにしてある。


 使用するのは魔力だけという、大変環境に優しい一品となった。



「五郎も何かあったら連絡してくれ」


「ああ。じゃあ、また明日な」



 頭をポンポンと撫でてから、五郎は自分の寮に入っていく。


 私もいつまでも寮の前にいるわけにはいかないので、あまり気乗りしないながらも中に入った。






 寮母だという女に案内され、東雲華雪とプレートがかかっている部屋に足を踏み入れる。


 中は住み心地が良さそうな2LDKだ。



 玄関のすぐ横に荷物が運び込まれていて、その上にはツヴァイが乗っている。



「ベッドの上で寝ていても良かったのに」



 そんなことはできないとばかりに、くぅんと鳴かれた。


 おいでと言えば、彼は器用に私の腕を伝い、頭の上に乗った。



 すっかり忘れていた寮母から部屋の鍵を受けとると、彼女は用があるなら部屋に備え付けられている魔道具を使って呼んでくれと、すぐにいなくなる。


 彼女の瞳には確かに私への恐怖が映っていた。


 慣れているその視線に咎めることもなく、そのまま部屋を探索する。



 リビングにあたる部屋の中央には一人で使うには大きなテーブルがあり、そこに紙が置かれていた。


 それは屍鏡からの手紙のようで、内容は慣れない環境で体調を崩さないようにとのこと。


 追記で何かあったら僕に相談してほしいと書かれていた。



 読み終えた私は繊細な子供か何かかと、過保護すぎる屍鏡の手紙にツッコミを入れる。


 心配してくれるのは嬉しいが、そろそろあいつらは私のことを見た目に騙されないで大人のように扱うべきだと思う。


 しかし、色々迷惑をかけているのも分かっているし、心配されるのが照れくさくて嬉しいので心の中だけで言っている。



「荷ほどきをしないとな。と言っても、あまり荷物はないが」



 運んでもらったのは学園で使う教材と制服ぐらいで、後のものはアイテムボックスに入れているので荷物は少なかった。


 その気になれば自分で運べる程度の量だ。



 丈夫な布袋に入れられた教科書を取り出し、科目ごとに分けて足りないものがないかチェックしながら本棚にしまう。


 備え付けの家具が一式あるので特に買い入れたりしなくて便利だ。


 大きい本棚だから一番上まで手が届かなくても、一番下の段なら余裕で届くのでそこに入れる。



 今のところ本を買い足す予定はないから、下の段が埋まっても問題はない。



 どこに何があるか把握するために部屋を見て回り、冷蔵庫の中に充実した食材と好きに使ってくださいと二郎の字で書かれたメモを見たところで、部屋が暗くなっていることに気づいた。


 夢中になって見ていたせいか、暗くなっていることに気が付かなかったようだ。



 入口近くにあるスイッチを押せば、蛍光灯のような光が部屋いっぱいに広がり、昼間のように明るくしてくれる。


 屍鏡の国は便利だとしみじみ思っていると、部屋にピンポンパンポーンという音が響き渡る。



  「夜ご飯の支度ができました。食べる方は食堂まで来てください」



 寮内放送というのものがあるのだろう。


 聞こえてきたのはさっきの寮母の声だ。



 今日は好きなものを飲み食いすると決めているので、食堂に行く気はない。



 二郎が用意してくれた食材を使い、明日の弁当の用意をしつつ、適当に食材を摘まめば、腹はそれなりに満たされた。


 ついでにツヴァイにもご飯を食べさせてあげる。


 本体である二郎が栄養補給していれば食べなくてもいいのだが、こういうのは気持ちだ。



 アイテムボックスに出来上がった弁当を入れ、テーブルの上に酒とつまみを並べた。



「やっぱり、酒と煙草は大切だよな」



 煙草に火をつけて紫煙を肺に満たせば、くそったれな今日一日をリセットできる。


 グラスに氷とウィスキー(あまり飲みすぎないようにという張り紙がしてあった)をいれて、マドラーで混ぜて飲んだ。



「んぅ~~~。疲れた身体に効く」



 ちびちびとつまみと酒を交互に楽しみながら、出された宿題を同時に終わらせていく。


 ツヴァイは毛繕いをしながら、私の膝の上で一緒につまみを食べている。


 その姿に癒されながら宿題を進めていくが、問題を解く度に苦笑せざるをえなかった。



 あの二人が出しただけあって、量はそう多くないが、その分難易度が高い問題が出題されている。


 一般教養はともかく、他の特殊科目はあのクラスメート達では苦戦するだろう。


 五郎でも難しく感じるかもしれない。



「次からの宿題はもう少しお手柔らかにな」



 そうツヴァイに言うが、彼は私は知らないとあざとく首を傾げただけだ。


 まぁ、私には解けないほど難しい問題ではないし、五郎には空き時間に教えればいい。



 酒と煙草を楽しみつつ、宿題を終わらせた。


 時間はかかったが、元よりあまり寝たくないのだ。


 深夜まで時間がかかっても不都合はない。



 ツヴァイに服の端をクイクイとやられて、ようやくベッドに入る。



「おやすみ、ツヴァイ」



 枕元で丸くなる彼に声をかけてから、私は目を閉じた。






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