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赤のケッツヒェン~邪神の思惑が絡む世界で~  作者: たきしむ
第三章 エレフセリア魔術院編
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第三十四話 序列第一位と第五位

 





 世界史の授業が恙無(つつがな)く終わった。


 次の授業は彼らが待ちに待った実技の授業で、ルーク達を睨み付けるようにして、足早に教室から出ていく。






 時間に遅れることのないように、私と五郎も指定された演習場に向かう。


 二郎とルークは職員室でちょっと仕事をしてから行くと言っていたから、二人とは別行動だ。



「実技と書いてあったが、どこまでちゃんとするんだろうな」


「少なくとも、二郎の訓練よりは楽だと思うぞ」



 一回、五郎が二郎と訓練しているところを見たが、あれは訓練ではなく実戦だ。


 五郎が少しでも気を抜いたり、二郎が手の抜き加減を間違えれば、死ぬようなやり方だった。


 だから、毎回あんなに服がボロボロなのかと納得してしまうほどだ。



 どちらかがミスをすれば死ぬような訓練は、流石に学園ではしないだろう。



「だろうな。

 だが、下手に生徒同士とかで打ち合いをさせるなら、俺は相手を怪我させない自信はないぜ」


「そうなったら、五郎の相手は私がする。

 二郎には敵わないが、勇者一行よりはましな戦闘力はしてるからな」



 魔法込みで戦えば、今の五郎相手なら勝てないこともない。



「もし、俺とお前が模擬戦になったら、華雪に刀を向けた瞬間に俺は死ぬがな」


「え?間違えても殺すつもりはないが?」


「お前じゃなくて、あの二人だ」



 二郎とルークが、どうして模擬戦で私に刀を向けただけで、五郎を殺そうとするんだ?



 頭の中を疑問符で一杯にしてると、お前は本当にそういうところは馬鹿だよな、と五郎に言われた。


 馬鹿じゃない、と不満な顔で言い返せば、はいはいと頭を撫でられて誤魔化してくる。






 そうやってじゃれあいながら歩いていれば、演習場にはすぐついた。


 のんびりと歩いていたせいか、既に結構な人数がストレッチして待っている。



 職員室に行って仕事をしているはずのルークや二郎までいたのだがら、相当ゆっくり来てしまったのだろう。


 授業開始のチャイムが鳴っていないから、授業に遅れてはない。



 しかし、クラスの奴らから離れている、美人な女性二人に何故か睨まれている。



「おい、華雪。あれは知り合いか?」


「いや、全く」



 あの美人さからすると、屍鏡の部下だろうから、それ関係じゃないかと推察する。


 五郎が心配するから、口には出さないが、あながち的外れでもないだろう。



 ひそひそとそういうやりとりをしていれば、彼女達が近付いてきた。



「お前らが国王様が推薦して編入してきた東雲華雪と山口五郎か?」



 見事に割れている腹筋と身体中に刻まれた大小の古傷をさらけ出すように、下着みたいな最低限の布地しか纏っていない金髪褐色の女性が話しかけてきた。


 その腰には実用的なロングソードが左右二本差している。



「そうだが」


「そして、そっちの小さいのが、国王様の言っていた"先生"だな」



 やっぱり屍鏡関係じゃないか、とうんざりしながら肯定する。


 彼を責めるつもりはないが、面倒なのは面倒だ。



「で、そこの男二人がお前の番犬で間違いないな」



 彼女が指差す先には、二郎とルークがいた。



「番犬?二人とも犬じゃないのは見て分かると思うが」


「華雪、あの女が言いたいのは比喩的な意味で、二人が本当に犬だと思っているわけじゃない」



 五郎は耳元で小さい声でそう言ってくる。



「比喩的な表現だとしても、私は二人を番犬扱いしたことないが」


「お前がどう思っていようが、俺もあいつらは番犬だと思ってたぜ」


「それで、どうなんだ?」



 褐色の女は短気なのか、イライラしながら聞いてきた。



「間違ってはないですね。私は華雪さんの忠実な下僕です。

 主の華雪さんが鳴けと言えば鳴きますし、死ねと言うなら死にます」


「ボクの全ては華雪のものだ。

 だからこそ、彼女を傷つける奴は誰一人として許すつもりはない」



 今日から担任として赴任した、見るからに美形の男二人かそんなことを堂々と宣言したせいで、こちらを見る元クラスメイト達の視線が痛い。


 ついでに、隣の五郎からの視線も痛かった。



「お前ら、誤解を生むような表現するなよ・・・・・・」


「誤解じゃないですから。

 ちゃんと契約もしたじゃないですか」



 ねぇ?、と二郎こちらに来て、今は浮かんでない契約印のあるところを指先でなぞる。


 ルークもこちらに来て胸元を触ろうとするが、人前でそれは恥ずかしいと避ければ、五郎が肘鉄を頭に落としていた。



「いったぁ。酷いじゃないか、五郎。

 ボクはただ、華雪の胸元を触ろうと思っただけなのに」


「馬鹿か。

 それを聞いてどうぞって言えるほど、俺の心は広くはない」


「二郎が良くて、何でボクがダメなのかな。

 こいつなんて、華雪に自分の印をつけてるんだよ。そっちの方がどうかと思うよ」


「そっちはそっちでアウトだ。華雪から手を離せ」



 二郎の手まで払い除けると、私をぎゅっと抱き締めてきた。



「俺がいない間に勝手に印つけられたり、胸を揉ませようとするんじゃない」


「私も好きでされてるんじゃないんだけどな。

 まぁ、いい。それで、二郎とルークが私の番犬なら、何なんだ?」



 逸れていた話を元に戻す。


 周りの視線がいたたまれないというのもあるが、私達が原因で授業に支障が出るのは、屍鏡に申し訳ない。



「同胞の仇とシャルに担任を返してもらおうために、アタイ達と戦え」


「仇?担任?」



 話が見えてこない。



 私だけが分かってないのかと他の三人の顔を見るが、彼らも分からないという顔をしていた。



「身に覚えはないのか?二郎、ルーク」


「担任の方には心当たりあるよ。

 屍鏡が話していた前任の人でしょ?」


「ですが、仇の方には心当たりはありませんね。

 私もルークさんも、人を殺すことは多いですから」



 二郎は食事目的で、ルークは何となくや侮辱されたりしたら、結構簡単に人を殺す。



 普通の人間からすれば不快だろうが、彼らにとって人間とはミジンコのようなものなのだ。


 放っておけば勝手に増え、ちょっと手を出せば砂のお城のように脆く消え去ってしまう。



 だから、相手の言う仇に心当たりがないのだろう。



「クリスティーナのことだよ!最近、綺麗な女を殺しただろ?

 長い金髪で、赤い目で、スタイルもいい女!」


「うーん。悪いけど、覚えはないなぁ」


「私もないですね。殺した相手のことをいつまでも覚えている訳ではないですし」



 二人の声音に嘘は含まれてなかった。



 あり得る線としては、人違いか、殺したとしていても忘れてしまったか。



 疑う訳ではないが、こういうことは良くあるので慎重に考える。



「嘘つくなよ!国王様がそう言ってたんだぞ!?」


「屍鏡が?なら、そうなのかな」


「彼が私達に無実の罪を着せるメリットはあまり無いですからねぇ。

 分かりました。お相手いたしましょう」



 屍鏡が言ったということで、あっさりと二人は罪を認めた。


 その潔さに相手が逆にびっくりする。



「えっ!?そんなことで認めるのか!?」


「もうちょっと考えてから肯定はしたほうがよろしいと思いますよ!?」



 ずっと口を開かなかった、団子頭の女性も同じように焦っている。 


 彼女は緊張しているのか、声音は硬く、よく観察すると震えているように見えた。



「どちらにしても、ボク達は覚えてないし、屍鏡がそう言ったなら、そうである可能性は高い」


「私達が担任なのは間違いありせんからね。

 後で絡まれるよりは、今闘って、どちらが上なのかはっきりさせておくほうが楽かと」



 勇者達の相手もしなきゃいけないのに、他のことまで構っている暇はない、と暗に言っている。



 それを軽んじられていると思ったのか、金髪がロングソードを抜いて、二人に切っ先を向ける。



「確かに、ぐちゃぐちゃと考えるのは面倒だな。

 アタイ達が勝ったら、シャルに担任を返して、クリスティーナの墓の前で懺悔しながら死んでもらおうか」


「なら、ボクが勝ったら、キミ達はそれらの件で後から絡まないことと、学園での雑用をしてもらおうかな」



 ルークは笑っている。


 それはそれはとても楽しそうに。



 彼からしてみれば、目の前に突きつけられた鉄の板など、自分の薄皮一枚傷つけられないのだ。


 それなのに挑んでくる相手が滑稽過ぎて面白いのだろう。



「言いましたね。では、早速模擬戦をやりましょうか」



 彼女達はやる気満々のようだ。



 二郎はため息をつきながらも、一歩前に進む。


 が、ルークが手で止めた。



「彼女達の相手はボク一人でするよ」


「何を企んでいるんですか?」



 二郎は瞳を閉じながらも鋭い目をしてルークを見る。


 ルークはその視線を受け流し、カラカラと笑いながら、



「企むなんて、人聞きか悪い。

 ボクが親切心で彼女達の相手をするとは考えられないの?」


「有り得ないですね。屍鏡さんが甘いものを食べることを止めるのと同じぐらいに。

 どうせ、魔法の使い方の練習台にでもするつもりでしょう?」



 二郎もルークも屍鏡の甘いものへの依存度は承知しているので、絶対に有り得ないことだと分かっている。



「それもあるけど、一番は華雪にいいところを見せたいからだよ。

 ここでかっこよく彼女達を倒せば、ルークはかっこよくて頼りになるなって言ってもらえるでしょ」



 うっとりと恍惚した表情を浮かべるルーク。


 誰もが見惚れるであろう表情に、しかし二郎は眉間に皺を寄せただけだった。



「負けて地面に這いつくばればいいのに」


「それは無理でしょ。

 彼女達じゃボクには、どう頑張っても勝てないからね」



 彼の言葉を挑発と取ったのか、女性二人は凄く怒った。


 それはもう、髪が逆立ち、何かのオーラが背後から立ち上がるのが幻視できるほどに。



「随分舐められたもんだな。

 国王様の部下で一番強いアタイと、五番目とはいえ魔法の使い方ではトップ争いをできるシャルを目の前にして」


「これ以上ない侮辱ですね。後悔しますよ」


「しないよ。ボクが後悔したのは、華雪と離れてしまったことだけだ。

 これまでもこれからもね」



 二郎が審判役を引き受けて、模擬戦が始まろうとしている。



 私と五郎は二郎の傍で見学することになった。


 勇者一行は向かい側に、団子のように固まっている。



「あいつが負ける所は想像できないが、相手を殺すのはヤバイんじゃないか?」


「殺しはしないと思う。多分。

 手足の二・三本はなくなるかもしれないが、それは覚悟の上だろ」



 模擬戦には様々な危険が伴うため、始める前に必ず同意書にサインする。


 内容は模擬戦で後遺症が残ったり死んだりしても文句を言わないというやつだ。



 三人ともサインして、二郎に渡していた。



「それでは始めてください」



 二郎の合図とともに、彼女達は地面にのめり込んだ。



 何てことはない。


 合図とともにルークが上級黒魔法・重力操作を使ったのだ。



 通常なら、相手の体に重力による負荷をかけ、動きを遅くする程度しか使えないが、ルークの膨大な魔力は地面にのめり込ませるほどの重力を詠唱無しで生み出した。


 流石、神と言ったところだろう。



 死にかけのゴキブリのように、手足をピクピクとさせていたが、二郎がテンカウントしている間に、ぴくりとも動かなくなった。



「勝者、ルークさん」


「華雪!ボク、勝ったよ!」



 ルークはすぐに駆け寄ってきて、抱き締めてくる。



「ああ。見てたぞ。とても、かっこよかった」


「本当?嬉しいな」


「ルークさん、魔法を解いてもらっていいですか。

 彼女達がこのままでは動けないので」



 弱いなぁ、と言いながらも、手を振って魔法を解除した。


 そして、彼女達は身を起こすと、金髪のほうが視界から消える。



「潔く負けを認めていればいいのに」



 ガンッという重いものが殴られるような音が近くでした。


 ルークは私に見せないようにか、胸に顔を抱え込んだ。



「折角手加減して、あまり傷を作らないように負けさせてあげたのに。

 屍鏡の部下だからさ、それなりに気は使ったんだよ?」



 何かがひび割れるような音が聞こえた。



「ひっ!!」


「でも、いらなかったみたいだね」


「ルークさん、その辺で終わりにしてください。

 彼女達が使い物にならないと私達も後々困るので」


「はいはい。もう終わりにするよ」



 そろそろ呼吸か苦しくなってきたところで、体を離される。


 目の前にはルークの綺麗な顔があった。



 いつもと変わらず、優しげに微笑んでいるようで、瞳がガラスのように感情を持ってないが、少しだけ残念そうな表情をしている。



 だが、それも見間違いだったのか、雰囲気はいつもの飄々としたもので、私をの頭を撫でてから立ち上がる。



「ボクとキミ達の力の差は理解できたでしょ?

 これに懲りたら、ボク達にちょっかい出さないでね」



 キンコンカンコーン、と授業の終わりのチャイムが鳴る。



 模擬戦は一分もかからずに終わったが、その前の会話が長かったのだろう。


 ほぼどうでも良いことで授業を潰してしまった感じがするが、次回からは彼女達が手を出してこないことを考えると、後の労力を大幅に節約できたに違いない。



「はい、それでは授業を終わりにします。

 今回の模擬戦で実力の分からない相手に軽率に挑んではいけないことが理解できたなら、有意義な授業になったと思います。

 見極め、敵わないと思ったら逃げることも大切だと覚えておいて下さい」



 二郎が綺麗に締めくくり、解散と言えば、勇者一行はノロノロと動き出して、次の授業に向かうための後片付けと準備をする。



「華雪、俺達も行くぞ」


「ルーク、二郎、次の授業に行っても大丈夫か?」



 五郎に手を引かれながらも、彼らが心配になって、そう聞いてしまった。


 二郎はにっこりと笑って、ご心配なくと返してくる。



「後始末はこちらできちんといたします。

 華雪さんは彼と一緒に次の授業に行ってください」


「そうか。

 彼女達は一応屍鏡の部下だから、あまり苛めてやるなよ」


「分かってます。では、お気をつけて」



 二郎が分かっているなら大丈夫だ。



 安心して、私は五郎と共に次の授業が行われる場所に歩いて行った。






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