第三十二話 屍鏡のお願い
学園編始動です。
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五郎に指輪を嵌められてから約一か月後、私はようやく自分の体を思い通りに動かせるようになっていた。
ベッドの上での療養生活など暫くごめんだと思いながら、休日の桐生と暇らしいルークと一緒に城の中庭で昼ご飯を食べていた。
二郎が五郎の訓練相手で忙しくしていたので、たまにはと私が作ったご飯を二人は喜んで食べている。
「やっぱり華雪ちゃんが作ったご飯が一番よね」
「そうか?二郎が作ったほうが何倍も美味しいし、見た目も綺麗だが」
私が作れるのは家庭料理だ。二郎のように高級レストランのような料理は出てこない。
見た目もそこそこ整えているが、二郎のような芸術品には程遠い。
しかし、ルークは分かってないな、華雪は。と照り焼きチキンのサンドイッチを頬張る。
ちなみに材料は全て二郎から貰っていて、訓練中の二人の分もお弁当という形で作成して渡しておいた。
その際、五郎がニイヅマイイとか変なことを言って、二郎に無言で殴られていたりしたことがあったが、本人達に気にするなと言われたので、些細なことだと流しておく。
「料理っていうのは味も見た目も大事だけど、それよりも大事なのは作り手の愛情だよ。
好きな人が自分のためを思って作ってくれる料理以上に美味しいものはない」
「そうね。やっぱり料理は愛情よ。
華雪ちゃんが私達のために作ってくれたっていうのが最高のスパイスなんだから」
二人の言っていることはもっともだと思う。
私も一番の好物はと言われれば五郎が作ったナポリタンなのだから。
「なるほどな。
だが、最近は二郎に料理を任せっきりにしていたから昔に比べて腕が落ちたことは自覚している。
二郎も五郎の相手で大変だろうし、せめて昼ご飯ぐらいは私が作るように交渉してみるかな」
朝と夜というのも大変だが、二郎のスケジュールを考えると一番作るのが大変なのが昼ご飯だ。
五郎の訓練の隙間時間に作っているので、二郎自身休憩時間がないようなものだろう。
いきなり三食作らせてくれと言ってもやんわりと断られるだろうが、昼ご飯ぐらいなら条件次第だが作らせてくれるかもしれない。
何故なら、彼自身も忙しいからだ。
「華雪がご飯を作るなら、ボクが手伝うよ」
「そうね。そうしてもらったほうがいいわ。
ルークは暇だし、華雪ちゃん一人で作るには量が多すぎるもの。
本当は私がお手伝いできればいいのだけど、ちょっと料理を作るのは苦手だから華雪ちゃんの足を引っ張っちゃうわ」
ご飯を作る相手はここにいる桐生、ルーク、訓練で頑張っている二郎と五郎、そしてお城で大量の書類を捌いている屍鏡、朱音、白と自分を合わせて八人だ。
しかし、五郎だけでも三~四人前は食べて、他の奴らも普通の一人前では済まないので作る量は実質二十人前ぐらいになる。
準備にそれなりに時間が取られ、悪戦苦闘しているように見られると、二郎がやっぱり自分がやりますと言うだろう。
ルークには悪いが手伝ってもらうことにより、二郎がゆっくりできる時間を作ってもらいたい。
ささやかだが、今の私にできることはそれぐらいしかないだろう。
「ルークが良ければ手伝ってもらいたい。
勿論、暇な時だけでいいから」
「華雪が言うならいつでも手伝うよ、ボクは。
他の奴らみたいに何か仕事をしているわけじゃないからね」
「ニートと言っても間違いないんだから、こき使うぐらいで丁度いいわよ、華雪ちゃん」
和気藹々とご飯を食べながらそんなことを話していると、白が渡り廊下の方からやってきた。
この時間は集中力が切れて書類仕事から逃亡する屍鏡を確保する時間だから、こんなところまでやってくるのは珍しい。
彼女は競歩のような足取りでつかつかと歩いてくるとルークに話しかけてきた。
「ルークさん、少しよろしいでしょうか?国王が貴方にお話があるようです」
「えー?今?しかも、ボクに何の用だろう。
何か聞いてる、白?」
「いえ、特に。ですが、緊急性はそれなりにあるらしいので、すぐに来ていただけると助かります」
屍鏡がルークを頼って、なおかつ緊急性がそれなりに高い用事とかいい予感がしない。
それはルークも同じだったようで顔を顰める。
「仕方がない、行くよ。屍鏡は執務室か?」
「ええ。執務室にいらっしゃいます」
ルークはそうかと言うと、片手にサンドイッチが盛りつけられている皿を、もう片手で私を抱き上げるとひょいっと跳んだ。
急な浮遊感に恐怖を覚え彼の胸元に縋りつき、顔を埋める。
ガシャンと音が鳴り、次に着地した時は屍鏡の執務室だった。
「随分、派手な登場の仕方だったね。ルーク」
机の上で書類と格闘していた屍鏡は呆れた顔をしている。
仮面があるから直接は見えないが、付き合いが長いので雰囲気や口調で大体わかる。
彼が言った通りにルークは派手に窓ガラスを割って中に入ったのだ。
ちなみに魔法を使ったらしく、窓ガラスは周りに飛び散ったりせずに、元の姿を形成して何事もなかったかのように外からの空気を遮断している。
「だって君が急いでるって言うからさ。
こっちは華雪といる時間と華雪が作った昼ご飯を堪能している最中だったのに。それを邪魔するほどには緊急性のある話なんだろ?」
「まぁね。とりあえずそこのソファーに座りなよ。
まだ人が揃ってないから話せないんだ。数分もしたら来ると思うけど」
「ふぅん。じゃあ、待ってるよ。
華雪も居ていいよね?というか、華雪がいないと話聞かないから」
「構わないよ。華雪ちゃんにも少しは関係ある話だし」
内容が気になってきた。だが、他の奴が来ないと話は進まない。
ルークはソファーに座り、その上に私を乗せてサンドイッチをもしゃもしゃと食べて時間を過ごす。
屍鏡が言った通りにそのまま数分経つと、扉がノックされ中に人が入ってきた。二郎と五郎だ。
訓練途中に連れ出されたらしく、二郎はいつものように隙のない格好だが、五郎はボロボロの状態だった。
これで全員が揃ったのか、屍鏡は書類を机に置いて、肘をつきながら顔の前で手を組む。
かの有名なゲンド○ポーズというやつだ。
「忙しい所来てくれてありがとう。
早速、本題に入るね。ルークと二郎に魔術院で教員として働いて欲しい」
屍鏡が言っている魔術院というのは、この世界ではとある学校のことを指している。
どこの国でも学校というのはあるが、それでも魔術院と名乗れるのは屍鏡の国にある、最上級に高度な学問を教える学校、リベルデ・ハイト私立エレフセリア魔術院だけだ。
詳しいことは知らないが、世界中の優秀な奴が集まっているとは聞いている。
しかし、そこで何故ルーク達がそこで教員の真似事をしなければならないのか繋がりが見えない。
ルークも二郎も優秀すぎるほど優秀だが、人間相手に何か教えると言うのは不向きだ。
今、二郎は五郎に訓練をつけているが、それだって私の友人兼元夫だから教えているのであって、何も関係ない人間に何かを教えるような奴ではない。
ルークに関しては誰かに何かを教えるという経験をしたことはないだろう。
どう考えても二人に任せる案件じゃない。
「二人が人間にモノを教えるのは得意じゃないことは分かっているし、僕だって本職の子達に任せたい。
でも、そうも言ってられないんだ」
「それは勇者達が学園に入学したことと何か関係はありますか?」
「関係ありまくりだよ。勇者ご一行が思ったよりも困った奴らでね。
ボクの部下だけじゃどうしようもないから、君たちに泣きついてるってわけ。困った時の神頼みって言うでしょ?
給料は普通の教員の三倍プラス危険手当としてさらに二人分追加して出すよ。その他できる限り色んな便宜も図る。
だから、頼まれてくれないかな」
屍鏡の部下というと、魔人族だ。
人間よりも優れているはずの彼女らに手に負えないような問題児がいて、その対処をルークと二郎に任せたいと屍鏡は言っている。
確かに魔法が効かない二人ならどのような奴らでも対処できるだろう。
物理攻撃にしたってルークには全く効かないし、二郎だってそこまで効くわけではない。
そもそも武器を握って数か月の奴らにどうこうされるほど弱くはないから、適任と言えば適任だろう。
しかし、この二人がかなりの人数の人間に囲まれて生活できるかと言われると返答に困る。
二郎は人間を餌ぐらいにしか見做してないし、ルークからしたら路傍の石ころと変わらない存在だ。
誰かがうかつに私でも良く分からない逆鱗に触れれば間違いなく魔術院は灰燼と化す。
だからと言って、断るのも屍鏡が可哀想だ。
彼にしたって、悩みに悩んで頼んできているのだから。
何か言い方法はないかと考えていたら、画期的なアイディアを閃いた。
「私が教員として働けばいいんじゃないのか?ほら、魔法はもう効かないからさ」
「「「「駄目(です)!!!!」」」」
素晴らしい考えを思いついたというのに、みんなは口をそろえて反対する。
むぅと頬を膨らませると、ルークに指先でそこを突かれる。
「あのねぇ、華雪。魔法が効かないからといって、物理攻撃は効くだろ?
その玉のような綺麗な肌に傷を作るのはボクだけにしてくれないか」
「ルークさんの戯言は聞かなくていいですよ、華雪さん。
しかし、彼が言っているのも事実です。
貴女は物理攻撃が普通に効きます。
武器を握って日の浅い馬鹿共―――勇者達に早々後れを取るとは思いませんが、何事にも万が一というのはあります。
ここは私達に任せて、華雪さんはもっと違うところでお手伝いいただけますか?」
二郎らしからぬ暴言が混じったような気がするが、きっと気のせいだろう。
「ということは、二人が教員を引き受けてくれるってことでいいんだよね?」
「そろそろニート生活も飽きたからね。勇者達を合理的に虐められてお金まで稼げるなんて最高じゃないか!
ねぇ、華雪。ボクが教員になったら、毎日お弁当作ってくれない?
ボク、頑張って仕事してくるからさ」
「え?別にいいが?」
学食とかもありそうだが、時間の関係で行けないかもしれない。
そうなるとご飯抜きになるので、それは阻止してあげたい。
そもそも二人が教員として仕事してくるなら、拙い私の弁当を毎日デリバリーする予定だったのだ。
私が弁当を作ると言うと、五郎も二郎も、そして屍鏡まで目の色を変えた。
「華雪さん、私も頑張ってくるのでお弁当作って頂けますか?」
「一個から二個に増えてもそんなに手間はかからないからな。
というか、これから昼ご飯は私が作る。二郎への負担が大きくなりすぎるからな」
「ああ、流石お優しい華雪さんですね。
貴女の負担にならない程度でいいので、作って頂けると嬉しいです。
後、屍鏡さん。山口五郎を魔術院へ編入させて下さい。
隙間時間に指導したいですし、他の人を力を見るのも立派な勉強になるので」
「僕はいいけど、山口はいいの?
学院は全寮制だからそうそう帰ってこれないよ。あっ、これ職員も共通だからね。
まぁ、二郎とルークなら空間移動でいつでも帰ってこれるけど」
五郎は難しい顔をして考え込む。
寮生活ともなれば他人との付き合いが必須で、彼はそれがあまり得意ではないのだ。
しかし、二郎の中では連れて行くことが確定しているようで、編入手続きをお願いしますと言っている。
「屍鏡、私も編入させてくれないか」
ぽろっとそんな言葉が口から零れ落ちる。
深く何かを考えて発した言葉ではないが、よく考えてみるといい案だ。
教員が大変なのであって、同級生として接する分にはそこまで危険はないだろう。
今のところ定職についている訳でもないし、ルークも二郎も比較的私のお願いを聞いてくれるので、いきなり魔術院が無くなるという事態は防げる。
屍鏡は少しの間考えて大きくため息をつくと、仮面を外す。
その下の顔は複雑な表情をしている。
「反対する理由が感情論しかないからねぇ。
元クラスメートの華雪ちゃんがいれば暴走がストップするかもしれないし、何かと融通も利く。
生徒という立ち位置が教員ほど危なくもなければ、勉強についていけないということもない。
二郎とルークが暴走してもどうにかなる。下手したらこの城にいるよりもあっちの方が安全だ。
でも、勇者達と一緒にいることで嫌な思いをするかもしれない。ニャルラトテップが関わってくるかもしれないよ?」
「ニャルラトテップはこの間会ったから、しばらく会わないだろ。
勇者達の幼稚な虐めに今更何か思わないし、そもそも顔と名前を忘れた」
約半年ほど会ってないので、自動的に脳内フォルダから彼らの顔や名前が消去されてしまっている。
最近、歳のせいか人間の顔と名前がすぐに記憶から消えていく。
意識して覚えようとしなければ三日もせずに無くなるのだ。
五郎達のことは覚えているから不便に感じたことはないが、これから会う勇者達の記憶がないのは流石に不味いだろうか?
「勇者達の顔と名前なら私が知っているので問題はないですが、あまり好きではない学校生活をまた送って華雪さんの負担になりませんか?」
「ならない。それに、こう言うと不謹慎かもしれないが、二郎とルークが先生で五郎と同級生とか楽しそうじゃないか?」
ある時期偶然が重なってみんなで一つの学校で過ごしていたことがあるが、それだってわずかな時間だった。
あの時の続きという訳ではないが、ここの所大変な思いばかりしていたので、少しばかり楽しんでも罰は当たらないだろう。
「華雪さんがそうおっしゃるなら、私は構いません」
「ボクも華雪とは極力離れたくないからね。いいんじゃない?
何かあったら相手を塵すら残さずに存在を消滅させればいいだけでしょ?」
「できるだけ勇者達は生かしておいてよ。後、見えるところで殺すのは禁止だから。
それだけ守れば後は何やってもらってもいいよ。少々手荒なぐらいがちょうど良さそうだから」
屍鏡の言葉に二郎が笑みを深くする。
後ろのルークも似たような顔をしているのだろう。
ただ一人、五郎だけが顔を少し青くしている。
訓練で扱かれているらしいから、そのトラウマのようなものが蘇ったのだろう。
「屍鏡さんの許しがあればそれなりに虐められそうですね」
「そうだね。早速、勇者達を虐める計画を立てないと」
二人ともピクニックの計画を立てる子供のようにルンルンとしている。
語尾に音符がついているように言葉が弾んでいた。
「屍鏡、学生寮は個別の部屋を用意できるか?」
「できるよ。華雪ちゃんと山口にそれぞれ広めの部屋を一部屋ずつ貸してあげる。
でも、ここよりは狭いから覚悟しといてね。
それと、当たり前だけど男性寮と女性寮は互いに入れないから。
後の詳しいことはパンフレットを渡すからそれに目を通しといて」
私と五郎に一部ずつパンフレットが渡される。
完成度が高く、まるで大学の入学案内書みたいだ。
「ルークと二郎は教員の仕事について話があるから残ってもらうけど、華雪ちゃんと山口はもういいよ。
入学は一週間後を予定しているから、それまでに荷造りとか色々しといてね」
分かったと返して五郎と部屋から出る。
「華雪、パンフレットで分からない所があるかもしれないから、一緒に読んでくれないか?」
「いいぞ。私の部屋で読むか。あそこならお茶も出せるし」
この後、素晴らしく教育水準が高い魔術院に感動しまくったり、貴族が多いということに顔を顰めたりしながら時間を過ごした。
学園編は多くの先人様達が書かれてますので、自分なりのテンプレ・クトゥルフ要素を盛り込んだ話を書いていきたいと思います。




