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赤のケッツヒェン~邪神の思惑が絡む世界で~  作者: たきしむ
第二章 自由都市リベルデ・ハイト編
37/88

第二十八話 杜撰な暗殺者《前編》

クトゥルフでいう所の導入&聞き込み会です

 





「その命貰ったあぁぁぁ!!」


「はぁ!?」



 扉をバンッと勢いよく開けて入ってきたのは、ナイフ片手にこちらに向かってくるメイドだった。


 今まで人を襲ったことがないのか、勢いに任せただけで、他にはなにも隠し手がなさそうな感じの女だ。



 ベッドの脇でさっきまで一緒にのんびりしていた五郎が、振り向いて刀を抜き、女の手首に峰打ちをする。


 ナイフを床に落とした女のがら空きの腹を真上に蹴り上げ、地面に落下した所を背中を踏みつけて、首筋に刀を添えた。



 瞬きする間に終わるような短い時間で、五郎は見事に襲撃者を無力化したのだ。



 流れるようなその動作は、腕を上げたことを示すのに充分で、私は思わず拍手をしてしまった。



「五郎、すごいな。とても強くなった」


「お前は呑気だな。

 今、この女に殺されそうになったんだぞ?」


「弱っていても、こんな素人一人ぐらいなら相手にできたさ」



 実際、五郎が動くのがもう少し遅ければ、私の魔法で地面に叩きつけていた。


 魔法が使えなかったとしても、素人の女が相手ならどうとでもなっただろう。



「それで、お前はなんで華雪の命なんて狙ったんだ」



 五郎が爪先で背中をぐりぐりしつつ、首筋をちょっと切れば、女はポロポロと涙をこぼして泣きはじめた。



「うぅ~。痛いよお、冷たいよお、怖いよお」


「感想はいいから、答えろ。

 俺の気は長くないし、華雪との時間を邪魔した罪は重い。

 首と胴体が永遠のお別れをしたくなければ、さっさと言え」



 五郎は口元に指先を当て、そのあと何か物足りなさそうな顔をしながら、手を体の脇に戻した。



「だって、だってぇ、その人が悪いんですぅ~。

 私の主が変わってしまったのは、彼女が原因だってぇ」


「華雪が原因で主が変わった?」


「親切な方がそう教えてくれたんですぅ。

 私の主はみんなに優しくて、こんな私を救ってくれたいい人なんですぅ。

 それが、その人に会ってから、人が変わったように怖くなってしまってぇ・・・・・・」



 心当たりはありすぎるほどあるが、その内の誰かというよりは、都合のいいように誰かに誘導されている感じだ。



「それ、誰が言ってたんだ?」


「フードを目深に被っていたので、顔は見えませんでしたぁ。

 でも、声は若い女性でしたよぉ」


「そんな怪しい奴を逆によく信じられたな」


「ご飯を奢ってくれる人に悪い人はいないんですぅ」



 三才児か、こいつは。


 ご飯を無条件で奢ってくれる奴ほど、怪しんでしかるべきだというのに。



 五郎は呆れすぎて、脱力している。


 それでも、最低限警戒はしているので、問題はない。



「分かった、分かった。

 お前が馬鹿で阿呆なのはよく分かったから、もう死んでくれて構わないぜ」



 ここで殺すと華雪に悪いし、絨毯を汚すと屍鏡に怒られるから、他のところでやるか。



 と言って、五郎はズルズルと女を引きずる。



「いやぁあぁぁぁぁあ!!殺されるぅ!!」


「よく分かってるじゃないか」


「誰かお助けおおぉぉおぉおぉ!!」


「何やってるんだ?」



 どこかに出掛けていたルークが帰ってきて、入り口で五郎たちとかち合う。


 コントをしているように見える彼らに興味をそそられたのだろう。



 綺麗な顔に愉悦の笑みを浮かべる。



「こいつが華雪を殺そうとしてきたから、今から殺してこようと思ってるんだ」


「へぇ、華雪に危害を加えようとしてたとはね。

 あれぐらいじゃ、全然牽制にならないのかな」



 すっ、と瞳を細めてルークが女を見下ろせば、彼女から小さな悲鳴が聞こえた。



 美人であるルークが凄む顔は怖いよな。


 何回かやられている私には、彼女の気持ちがよく分かる。



「裏に誰か誘導している奴がいるらしいんだが、こいつが馬鹿過ぎるせいで、全く手かがりがない。

 手伝ってくれないか?」


「そういうことなら、手伝うよ。

 華雪に手を出した奴は許せないし、何よりキミのやり方を見るのも面白そうだしね」


「ちょっと待て。お前ら二人で行くのは非常に心配だ。

 私も連れて行ってくれ」



 神であるルークとごく普通の人間である五郎の二人だけで外に出すのは危険だ。


 混ぜるな危険という言葉がこれ以上なく合う二人をそ、のまま出させるわけにはいかない。



「華雪はまだ体が万全じゃないだろ」


「いや、もう元気だ。

 超元気すぎて、寝てられない」


「ついこの間、のぼせて運ばれた奴が言う台詞じゃないよな」


「この間はこの間、今日は今日。行くなら、私も行く」



 私が折れないことを理解した五郎は、具合が悪くなったらすぐに言うんだぞとだけ言って、同行することを許してくれた。











「それで、飯を奢ってくれた場所っていうのはどこの飯屋だ?」



 五郎が縄をくいくいと引っ張れば、ぐすぐすという泣き声と共に、女がこっちですぅと案内してくれる。



 彼女が飯を奢ってくれた飯屋に行くために、私達は城下町に来ていた。


 この国に来た時も見たが、本当に栄えている。



 そのため、大通りには人が多く、そのおかげで私たちがめちゃくちゃ目立っていたが、縄でグルグル巻きにされた女を連れていれば、それも仕方のないことだ。



「いやぁ、目立ってるね」



 目立っている理由の一つでもあるルークが、他人事のように視線を受け流している。



「しくしくしくしく。

 私がこんな晒し者みたいになる日が来るとは、夢にも思ってなかったですぅ」


「泣くな。辛気くさい。

 飯屋はここであってるか?」



 五郎が足を止めたのは、表通りで賑わっている、ごく普通の飯屋だ。


 何か特徴があるわけではないが、流れてくる香りはいい。



「あってますぅ。

 私は元気を出したい時はここでいつもご飯を食べるんですぅ」


「おや、エリーちゃんじゃないの。

 どうしたんだい?そんな罪人みたいな格好して」



 中から恰幅のよいおばちゃんが出てくると、女に親しげに話しかけてくる。



「おばさぁあぁぁん!!」


「あらあらあら。お兄さん、エリーちゃんを離してもらってもいいかしら?

 ちょっとおっちょこちょいだけど、いい子なのよ。

 こんな扱いをされるような子じゃないのよ」


「いい子、ねぇ」


「いい子が白昼堂々、ナイフ片手に部屋に押し入ってこねぇよ」



 私がため息をつけば、五郎が吐き捨てるように彼女の所業を述べる。


 おばさんは驚いたようで、えぇっ!?と驚き、目玉が飛び出してもおかしくないぐらい目を見開く。



「エリーちゃんが!?ナイフ片手に押し入ってきた!?

 他の人と間違えたりしてるんじゃないの!?」


「こいつがそのエリーちゃんとやらなら、間違いないぜ。

 襲ってきたところを返り討ちにしたからな」


「エリーちゃん、本当にこのお兄さんが言ったことをしたの?」



 おばさんはまだ信じられないのか、女に再確認をしてくる。



「だって、だってぇ・・・・・・その女の人が悪いんだもん。

 私のご主人様が変わってしまったのは、彼女のせいだってぇ。

 彼女が死んだら、また前のご主人様が帰ってくるってぇ」


「という事実無根の悪意のある話を吹き込んだ馬鹿がいるらしいんだが、お前はそれが誰だか知っているか?」


 手慣れたように聞き込みする彼に、ルークがこちらを意味深な視線を投げてくる。



「なんだ?」


「懐かしいんじゃないかと思ってね」


「別に」


「その割には、涙を流しているけど」



 とっさに目元に手を伸ばせば、そこには乾いた皮膚の感触があるだけで、水分が流れた形跡はなかった。


 嘘をつかれたのだと理解した私は、抗議のためぺしぺしとルークの腰を叩く。



「ははっ。痛いじゃないか、華雪」


「うるさい。趣味の悪い嘘をつくな」


「ごめん、ごめん。

 あまりにもからかいやすい顔をしていたから」


「俺が真剣に話を聞いている間に、随分と仲が良さそうだな、お前らは」



 おばさんから、女に嘘を吹き込んだ相手の話を聞き終えたのか、五郎はジト目でこちらを見てくる。



「そりゃあ、ボクと華雪は昔からの付き合いだから、仲がいいに決まってるさ」


「悪かった、五郎。

 お前を放っておいて遊んでいた訳じゃないんだ。


 ただ、ルークがブラックジョークを飛ばしてきたからな。

 その相手をしていたら、ちょっと気が逸れていた」



 謝る気のないルークの分も私が謝っておく。



 私が最初から彼の嘘に気づいていれば、五郎の聞き込み姿をじっくりと見れていたのに。



 最近は緊迫したやり取りをしてなかったせいか、その辺の勘が鈍っているようだ。



「謝るほどのことじゃない。

 それよりも、この女のご主人様の家に行くぞ」


「何を聞いて、その結論になったんだ?」


「フードの奴の正体が分からない上に目撃情報もない。

 なら、現時点でできるのは、おかしくなったこいつのご主人の様子を見るぐらいだ」



 ルークが私をからかっている間に目撃者がいるかどうかまで聞いていたらしい。


 初めての聞き込みでそこまでできれば有能だ。



「なるほどね。

 じゃあ、その人の所に行ってみようか」



 ルークにも異論はないらしく、私たちは彼女が雇われている家に向かった。











 立派な屋敷の前に着くと、そこには見知った顔がいた。


 彼女の方も私に気がついたようで、笑顔でかけてくる。



「華雪さんじゃない。お久しぶりね」


「久しぶりだな、ピンキー」



 ふわふわとした髪を揺らしながら私の前に来たのは、商業組合の組合長である、ピンキーだった。



「最近は具合が悪くてベッドに寝たきりだと聞いたけれど、お身体の具合はどう?」


「見ての通り、ピンピンしている」


「良かった。

 お見舞いに行こうと思ったのだけど、面会は国王様に止められてしまって、行けなかったのよ」


「気持ちだけで十分だ」



 簡単にそんなやり取りをすると、ピンキーは私の傍にいる彼らを見て、首をかしげる。



「そちらの方々は?」


「私の友人のルークと五郎だ。

 縄で縛られているのは、ついさっき私を襲ってきた暗殺者だ」


「えぇっ!?大事じゃないの!?」


「五郎がかっこよく返り討ちにしてくれたから、問題ない」



 なっ?と振り返れば、五郎は頷く。



「俺がいる限り、華雪には指一本触れさせる気はない」


「なるほど、ね。

 私はピンティ・キール。よろしくね、五郎さん、ルークさん」



 彼女は五郎たちを見ると、何か考えるそぶりを見せたが、それも一瞬のことで、すぐに笑顔で手を差し出していた。



 五郎とルークはその手を取り、握手をしながらあいさつをする。



 ピンキーは握手している時に二人にそれぞれ耳打ちすると、五郎が握っている縄の先の女をまじまじと見た。



「うーん?貴女、このお屋敷でメイドをしていた子よね?」


「はい、そうですぅ」


「ちょうど良かったわ。貴女の主であるワレリーさんについて、お話が聞きたかったの」



 ピンキーの話によると、彼女の主であるワレリー・アイヒホルンは、ここ最近怪しい宗教にはまっているとのこと。


 宗教自体はこの国では自由なので口を挟まなかったが、どんどん様子がおかしくなっていき、ついには家に引きこもって商売を辞めてしまった。


 何も言わずにある日突然商売を辞めてしまったので、事情を聞くために派遣したギルド職員が帰ってきてない。



 なのでピンキーが来たと説明された。



「それで、何か知ってることはあるかしら?」


「いえ・・・・・・訪ねて来たこと自体知りませんでした」


「そう。なら、仕方ないわね。

 直接、彼に会って話してみましょう」



 彼女が嘘をついている様子はなかった。


 それはピンキーも分かっているようで、それ以上追及しない。



「ピンキー、私たちも一緒についていっていいか?」


「華雪さんたちも?」


「また、私のせいで素人丸出しな暗殺者が来ても困るからな。

 そいつの目の前で私とおかしくなった理由が全く別だと理解させないと、二度手間になる」


「私としては構わないわ。

 むしろ、華雪さんと一緒にいられるなんて光栄よ」



 彼女はそう言って、にっこりと笑った。



「じゃあ、お邪魔させてもらおうか。


 五郎、メイドさんの拘束は解いておいたほうがいい。

 なに、心配はしなくていいよ。いざとなったら、相手ごと殺せるから」


「そういう場面になったら、真っ先に俺がそいつらの首を刎ねるけどな」



 物騒なことを二人して言いながらも、女の拘束は解かれた。



 彼女は体が自由になると、プルプル震えながら、ピンキーの後ろに隠れる。



「ううっ、怖かったですぅ」


「私としては、未だに貴女が生きてることの方が驚きだけど。

 あの人に手を出しておいて、無事だとは思わないほうがいいわ」



 ピンキーまでなにやら怖いことを言っている。


 そのため、小動物のようにいっそう彼女は体を震わせた。



「そろそろ中に入っていいか?夕飯までには決着を着けたいんだ」


「ボクが先頭で行くね。

 その次はメイドさんとピンキーで入ってきて」



 ルークはノックもせずに扉を開けて、そのまま入ってしまった。


 慌ててピンキーとメイドが続いて入る。



 最後に俺から離れるなよと釘を刺してきた五郎と一緒に中に入った。






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