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赤のケッツヒェン~邪神の思惑が絡む世界で~  作者: たきしむ
第二章 自由都市リベルデ・ハイト編
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第二十七話 思惑と風呂

 




 あの日から五郎からのアプローチが激しくなり、事あるごとに顔を赤くしたりしていたが、再会したルークと話さなければならないことを思い出した。



 目を覚まして早数日。


 こんなに大切なことを忘れていた自分にちょっと呆れる。



 まぁ、綺麗さっぱり思い出せないよりはましかと思って今日中に話すと予定を決めた。






 私のベッドから起きた五郎が二郎と仲良く訓練場に向かうのを見送ってから、私は部屋に来ていたルークに話がしたいと言う。



 他に人がいないから、好都合だ。


 彼はやっとかと笑って、椅子ではなくベッドの端に座った。



「まずはお礼を言いたい。

 お前の力のおかげで私は生きているし、自我を保ったままだ。


 ありがとうな、ルーク」


「わざわざお礼なんて言わなくてもいいんだよ、ボクと華雪の仲じゃないか」



 するり、とルークは白磁のような美しい手で私の頬を撫でた。


 そんなに触り心地が良いものでは無さそうだが、まるで子猫を可愛がるかのように、そこを手の甲で撫で続ける。



「親しき仲にも礼儀あり、だ。


 ・・・・・・本題に入ろう。

 私に会いに来たと死神が言っていたが、何か私に頼みたいことでもあるのか?」



 単刀直入に彼の目的を聞いた。


 回りくどく聞いても良かったのだが、ここは直球のほうがいいと思ったのだ。



 ルークは分からないの?と首を傾げる。



「ボクは華雪に会いに来たんだよ。

 頼みたいことは特にないけど、傍にいさせてくれると嬉しいな」


「えっと、それだけか?」



 あまりにも拍子抜けなお願いに、思わず聞き返してしまった。


 彼はうんと頷き、



「それだけだよ。


 だって、ボクが興味を持ったのは後にも先にも華雪だけだから。

 キミがいなければ、面白くない。


 またあの時のような灰色の日々を過ごすのは嫌だからね」


「本当に、それだけ?

 なんか、こう神話生物が関わるような冒涜的なお願いとかじゃなくて?」


「ボクがキミの傍にいたらいけないかい?

 それとも、神であるボクは信じられない?」



 私の細い首がその大きな手に覆われた。


 その腕から伸びてきた鎖もスルスルと首に絡まる。



 少しでも力を込められればポッキリどころか、細い鎖がピアノ線のように威力を発揮し、頭が地を転がることになるが、私はその心配はしてない。



「いや、ルークのことは信じてる。


 が、それだけのためにわざわざ自分の城を放置してくるっていうのに驚いただけだ」



 私の記憶では、ルークはドリームランドに巨大な城を持っていた。


 人間の足では端から端に歩くまでに優に1時間はかかるような大きなものだ。



 中の調度品も一級品で、だからこそ彼はその素晴らしい城を大切にしていた。


 手入れが必要な広大な庭園もあったし、それら全てを放り出してまで私の傍にいたいということに驚いたのだ。



「城?ああ、あれか。

 もうないよ、あのお城」


「はぁあ!?ないって、あの城が!?」


「華雪がボクの所に来なくなってからだよ。いらなくなったら捨てたんた。


 今頃は誰か住んでるか、壊されているんじゃないのかな」



 あっさりした口調で言っているが、言っていることは重大だ。


 人間の価値では測れないほどの財産が詰まったものを捨てたとルークは言っている。



 しかも、あれはニャルラトテップが百年に一回発行している、~ドリームランド絶景ポイント百選~の上位にランクインしている場所の一つだ。


 流し読みしかしてなかったが、確かにどこも絶景で、同じぐらい命があっけなく散る危険ゾーンが載っていた。



 もっとも、ドリームランドに真に安全な場所なんてないが。



 そんなところを破棄したと聞かされた私が慌てるのも無理ないだろう。



「いやいや、え?何で?捨てる必要ないだろ!?」


「だって、華雪はボクが城持ったままなら、お城に帰った方がいいよっていうでしょ?」


「そりゃあ、帰る場所があるなら、そこに帰ったほうがいいだろ」


「だからだよ」



 意味が分からない。



 頭に疑問符を浮かべている私が可笑しいのか、クスクス笑いながら、今度は胸の間である心臓の上に手をおいてきた。


 性的な色を含まれてないそれを咎めることなく、ルークの言葉の意味を考え続ける。



「城に帰りたくなかったのか?」


「うん。華雪の来ない城に価値はなくなってしまったからね。


 ボクの眷族はお城を管理できるような器用な奴はいないし、本当に必要なものは持ってきたから、未練もないよ」


「本人がそういうなら、部外者の私は何も言えないが、勿体ないな」



 何回か彼の所に訪れたが、行く度に新しい発見があり、結構好きだったのだ。



「華雪がずっとボクと二人きりであそこにいてくれるなら、残しておいたんだけどね。

 そんなことしてくれないだろ?」


「ずっとあそこで二人きりってのはなぁ。

 ルークには悪いが無理だな」



 広くて立派だが、どこか冷たくて不気味な所にずっといられるかと言われれば無理と答えるしかない。


 それを抜きにしても飽き性の私が一つのところに居続けられるとは思えない。


 例え、ルークがいたとしても一週間で出ていってしまうだろう。



 そんな私の性格を理解している彼は分かっているよとため息をついた。



「最初からそうだろうと思ってたよ。

 無理やりあそこに閉じ込めても、華雪なら絶対に消えちゃうだろうからね。


 残念だ。実に残念だ。

 キミがただの人間だったら壊して傍に置いたのに」



 その細い手足をボクの鎖で飾り付けて、ボクしか見えないように首には首輪と、服はあの城に合うように白いドレスにしようか。



 詠うように告げられるそれに今度は私がため息をつく。



「ただの人間なら、そんな未来もあっただろうな。

 まぁ、普通の人間があんなところに迷い込んでお前と会うとは思えないが」


「そうだね。今はこれで満足しておいてあげるよ」



 乗せていた手と絡めていた鎖をどけて、そこに今度は顔を埋めた。


 いつもなら頭を叩いてどかしていたが、雰囲気が真剣だったため、ため息をついて好きにさせる。



「心臓、動いてはいるけど、とても遅いね」


「動いているだけマシだろ」



 ルークはうんと頷いて、私を確かめるように身体の至るところを撫でた。



 数分後、朱音たちが来るまでそれが続いた。











「入ったら、ルークが華雪ちゃんの胸に顔を埋めて身体をまさぐっていたから、襲われているのかと思ったよ」



 あははと笑う屍鏡の手には煙を上げている銃が握られている。



 その銃は今まさにルークに向かって発砲されたのだ。


 私がうっかりとルークを胸に置いたまま入室を許可したが故に起こった事故である。



 屍鏡も本気で彼を殺そうとしていた訳ではなく、ただの反射的な威嚇射撃だったらしい。


 そのため使った弾はただの金属製だったから、ルークに傷ひとつつけることはできずに、キンッと高い音を立てて地面に転がった。



 誤解がすぐに解けた上に屍鏡もちゃんと謝り、ルークも気にしてないと言っていたので、この事件は終わりだ。



「ボクが本気で華雪を襲うなら、最低限空間を隔離してからにするよ」


「今のは聞かなかったことにしてあげるよ」



 ルークと屍鏡の間にバチバチと火花が散っているような幻覚が見えたが、疲れている私の気のせいだろう。



「先生、体の具合はどう?何か欲しいものとかある?」



 屍鏡と一緒に来た朱音が空いている椅子に座り、脈と体温を測るためか私の手首に手を当てる。



「体はちょっとダルいだけで、もう熱っぽくもないし、欲しいものも特にはない」


「先生がそう言うならいいけど、遠慮しなくていいんだよ。


 あっ、そうだ。先生、お風呂入ろうよ、一緒に」



 突飛な提案に面食らいつつも、彼女らと付き合っていればいつものことなので、驚きもせずにいいよと返す。



 風呂に入るぐらいなら自分一人でもできる程度には回復しているし、魔法で身だしなみを必要最低限整えているとはいえ、やはりゆっくり湯に使って綺麗にしたい。


 忙しい時はシャワーすらも蔑ろにするが、こういうゆっくりとした時には友人達とお風呂を楽しむのが吉だ。



「わーい!私一人だけじゃ寂しいから、桐生さんと白さんも呼んでくるね」



 ぱたぱたと足音を立てながら、朱音は二人を呼びに部屋から出ていった。



「華雪、ボクも一緒にお風呂に」


「ボクの国では混浴は扱ってないから、入ったら犯罪者として地下牢にぶちこむからね」


「ははっ。これは手厳しい」



 そんなミニコントを隣で聞いている間に、朱音がぴょっこりと扉から顔を覗かせる。



「先生、準備できたよ」


「ありがとう、今行く」



 服とタオルを持って、朱音達と一緒にお風呂に向かった。











 朱音に案内されたお風呂は、国賓や気が向いたときに上位魔族が使うぐらいで、普段は閉鎖しているらしい。


 そこを朱音と白の権限で解放したとのことだ。



 権力ヤバイなと思いながら、ありがたくお風呂に入らせてもらうことにした。



「流石、世界一栄えている国の最上位のお風呂ね。

 とても綺麗で広いわ」



 桐生は鼻歌を歌いながら、上機嫌で身体を洗う。



 彼女の言う通り、大理石のような白い石で作られて、所々に細かな細工が入っている巨大なお風呂はとても素晴らしい。


 周りの壁は解放感を出すためかガラス製で、曇り一つなく城下町を見下ろせる。



 こちら側からは外が見えるが、外側からは何も見えないように色んな魔法がかかっていて、覗き対策はバッチリらしい。



「華雪さん、お背中を洗ってもいいですか?」


「ん。白がそうしたいなら」


「ありがとうございます。精一杯洗わせてもらいますね」



 自分の身体を手早く洗い終わった白は、その真っ白い裸体を堂々と晒したまま、私の背中にまわって、手で石鹸を泡立て始めた。



「え、ずるい。私も先生の背中洗いたい!」


「私も洗いたいわ。ねぇ、華雪ちゃんいい?」


「順番に洗ってくれるなら、文句はないが、私の背中を洗って楽しいのか?」



 世間一般的には美人さん二人である桐生と白、可愛らしい朱音の背中を洗いたい気持ちはよく分かるが、子どもとほぼ変わらない小さな私の背中を洗って面白いのだろうか?



「楽しいというより、尊いという感じね」


「そうですね。

 この小さな背中で重すぎるものを背負っているのを知っているので、それをこうやって無防備に預けてくれているのが嬉しいのですよ」



 何も言えずにただ三人に順番に背中を洗われた。






 全身を綺麗に洗い終えれば、次は本命である湯船である。


 足先からそろそろと入り、肩まで浸かれば、ほうと感嘆のため息が出た。



「うー。気持ちいい」



 隣でも朱音が入り、ほわほわと暖まっている。


 その姿は至福そのものだと言わんばかりで、私の頬も緩んだ。



「華雪さんの肌、とても綺麗ですね。

 昔に比べるとつるつるプルプルしてますし」



 同じように前に入っている白は私の身体を見てそう言ってくる。



「え?そうか?」


「そうよ。前はもう少し痩せていたし、肌に張りがなかったもの」



 お湯に浸かっている腕をもみもみと桐生が揉んでくる。



「二郎さんが健康的な食生活をサポートするって張り切っていただけあって、本当に健康的な肌つやになったね」



 朱音も確かめるように反対側の腕を触ってくる。



「肌つやがよくなってもなぁ。

 それも大切だが、もっと大事なことがあるし」


「もっと大事なことって何ですか?」



 私は周りの三人のお湯に浮かんでいる部分を見て、ぽつりと言う。



「胸が欲しい」



 二郎のおかげでかろうじで胸部がささやかな脹らみを持ったが、周りの三人から見れば本当に微々たるものだ。


 桐生が一番大きくEサイズあり、次にDある白が続く。


 朱音もCはあり、みんな平均の大きさを越しているのだ。



 そんなところに私がいれば、見劣りするのも無理はない。


 ただでさえ、顔面で負けているのに胸の大きさでも敵わないのだ。



 え?身長?何のことか分からないな。



「いや、五郎さんはそういうところ気にしないと思うよ」


「私がいつ五郎の話をしたんだ」


「華雪さんが気にする相手と言えば、五郎さんしかいませんよね」


「そのままでも山口には華雪ちゃんなんてもったいないわよ」



 何故か、私が五郎のためにバストアップをしたいと思われている。


 私と彼はそんな関係ではないのに、どうして彼女たちはそう考えるのだろうか?



「そうじゃなくて、もうこれ以上私の身体に変化がないと思ったら、もう少し大きくなってからが良かったなという話だ」


「胸なんてあっても邪魔なだけよ。

 肩凝るし、真下が見にくいし、重いし、男には邪な目で見られるし」



 桐生が言う通りに、戦闘は不利になるし、これ以上肩がバリバリになっても困る。


 が、一回ぐらいならバインバインになった自分の胸を触ってみたかったのも本音だ。



「胸が触りたいだけなら、いくらでも触っていいですが?」



 本音か口から零れてしまったのか、白がそんなことを言ってくる。



「なん、だと。白の胸を触ってもいいのか?」


「華雪さんになら構いませんし、女性同士ならこういう触れあいもあると聞いたことがありますから」


「華雪ちゃん、私の胸も触っていいわよ」


「先生が私のでよければ、私のも触っていいよ」



 全世界の男性が羨む台詞を三人に言われ、軽く私はパニックだ。



「え?嘘?本当に触っていいのか?」


「そんなに驚かれる方が驚きなんですが」


「こんな脂肪の塊なら、別にいつでも触らせてあげるのに」



 ほら、と手を導かれて乗せられたのは、桐生の立派な大きなメロンの上だ。


 それはふにゅんと私を包むように優しく低反発に手に感触を返してくる。



 こ、これは、マシュマロなんかでは比べものにならないぐらい柔らかく、そして言葉にできないほど素敵な何かが詰まっている感じがする!



 一瞬触れただけで、私は男性が何故あんなに女性の胸部に固執するのか分かった。



「胸ってヤバいんだな」


「私も桐生さんの胸触ってみたい!いいですか?」


「いいわよ」



 こうして、第一回胸揉み大会がここに開催された。











「―――――で、胸に夢中になって、華雪さんが体調が悪いのを忘れ、彼女がのぼせたと」



 呆れてると顔にデカデカと書かれている二郎は、こめかみを押さえて大きくため息をつく。


 その彼の前には正座をする桐生と白がおり、私はベッドの上で朱音と共に寝かされていた。



「申し訳ございません、二郎さん。私がもっと早くに気づいていたら・・・・・・」



 のぼせて気持ち悪くなった私と朱音を風呂場から救出した白が、後ろから見ても分かるほど申し訳なさそうにしている。



「二郎、私がいけないんだ。

 あんなに大きい胸が素敵なものだと知らなかったから、彼女たちは教えてくれただけで」


「お前、女だろ。

 なのに、なんで男子高校生みたいな主張をしてるんだ」



 同じく呆れた顔を五郎は私に向けてきた。


 その横ではルークが私に風を送るためにうちわを扇いでいる。



「五郎も分かるだろ?男子高校生なんだから」


「いや、全く」


「お前、まじで男子高校生か?」



 男子高校生なんて、暇さえあれば、いや暇なんてなくても発情期の動物みたいに四六時中発情している生物だというのに。


 これが今流行りの草食系男子というやつか?


 五郎はずっと元祖肉食系男子だと思っていたから、ちょっと裏切られた気分だ。



「とにかく、華雪さんも自分の体調が万全ではないのを理解して、はしゃぐのもほどほどにしてくださいね」



 あちらの説教が終わったのか、二郎はこちらに小言を言ってくる。


 今回の件は全面的に私がはしゃぎ過ぎたせいなので、大人しく反省の意を示した。



「悪かった」


「次から気をつけてくださいね」


「気を付けよう」



 そう何回も彼女たちとお風呂に入る機会などないだろうし、今回は体調が悪かっただけで、もっとルークの力が馴染めば、こんな失態もおかさないだろう。



 二郎は眉間にシワを寄せながらも、五郎と訓練に戻るって言って、部屋から出ていった。



「ごめんね、華雪ちゃん。私も気づかなかったわ」


「私が胸に夢中になっただけだ。

 というか、朱音は大丈夫か?」



 まだ赤い顔をしている朱音は、いつの間にかすーすーと寝息を立てて寝ていた。



「・・・・・・マイペースだな」


「朱音さんも色々と疲れているのでしょう。

 華雪さんさえよろしければ、そのまま寝かせてあげてもらってもよろしいですか?」


「ああ。私も少しゆっくりしてるか」



 もぞもぞと朱音の隣に入り直して、枕元にある本に手を伸ばす。



 桐生と白も仕事があると屍鏡のところに戻り、ルークも散歩と言って、部屋からいなくなった。



 私も疲れていたのか、そのうちページを捲るのが面倒になって、そのまま本を顔に乗せて寝てしまった。



 顔が本で圧迫されてたせいか、見た夢が胸に押し潰されるという、なんとも形容できない夢だったのは誰にも言えない秘密だ。






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