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赤のケッツヒェン~邪神の思惑が絡む世界で~  作者: たきしむ
第二章 自由都市リベルデ・ハイト編
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第二十四.五話 真偽確認

 





「おい、華雪が言ってたことは全部本当か」



 彼女の部屋から出た俺は、そのまま二郎に連れられて訓練場に戻っていた。


 これから午後の訓練が始まるのが通常であるが、その前に聞きたいことが山ほどある。



「嘘はついてませんよ。

 貴方は警察官で華雪さんとは友人でした。そこに虚偽はありません」



 動揺もなく、いつも通りの笑みを浮かべている二郎に、俺は舌打ちする。


 記憶はないが、昔の自分もこいつのことはいけ好かなかったんだろうなとは思った。



「嘘はなくても隠していることはあるだろ。


 華雪はさっき、一瞬言葉に詰まっていた。それは俺が夫婦じゃなかったのかと聞いた時だ。

 ただの友人ならあんなに動揺しなくていいはずだ」



 華雪は確かに目に見えて動揺していた。


 あの綺麗な深緑の瞳が戸惑いに揺れたのを俺は見逃さなかった。



 しかも、斜め後ろに立っていた二郎の気配が揺らいだことも感知している。


 普段のこいつからは考えられないことだ。



「・・・・・・それで?

 仮に貴方と華雪さんが夫婦だったとしましょう。貴方はどうするんですか?」


「決まっている。もう一度俺を見てもらえるように努力するだけだ」



 夫婦じゃなくても構わない。


 もし、そうであればこれから華雪を振り向かせるのに都合がいいと考えただけだ。


 そうでないならそれでも構わない。


 俺が華雪を愛することは初対面から決めてたんだから。



「華雪さんには心底同情しますよ。

 今も昔も粘着質なストーカーの男が纏わりついてるんですから」


「おい、それはひょっとして俺のことか?」



 お前にだけは言われたくないって、魂とも呼べるものが叫んでいる。


 今までの行動を見ていると、こいつのほうがよっぽどストーカーぽい。



 昔からこいつはストーカーだったのかと少し戦慄してしまった。



「貴方以外に誰がいるんですか。

 ルークさんは変態ですけど、昔の貴方みたいに心配だからと言って夜道を背後から護衛と言ってストーカーしたりしませんから」


「それ、お前だろ」


「貴方もやってましたよ。あとは盗撮のアルバムを作ったりだとか、GPSを付けたりもしてましたし」



 記憶がないから何とも言えないが、嘘ではなさそうだ。


 今の俺は昔の自分に完璧に引いている。



 夜道の護衛はまだ百歩譲って、華雪のためだと言えても、盗撮のアルバムはアウトだ。誰からどう見ても完璧にヤバい。


 童貞を拗らせて犯罪道を突っ走っている。



 しかも、それで優秀な警察官だったというのが救いがない。


「お巡りさん、こいつです」とか言っても、「俺がお巡りさんだ」とかいってもみ消してそうだ。



「ちなみに童貞ではなかったですよ。不特定多数の女性と性交渉を行っていましたから」


「おい、何でお前が把握してるんだ」


「さっき、華雪さんがおっしゃっていたでしょう。私の基は貴方だと。

 貴方の外見だけでなく記憶も継いでいるんですよ。それによると一夜限りのお相手が多かったようで」



 同じ顔をした息子(?)に性事情まで知られているのは流石に恥ずかしい。


 というか、このムカつく奴に何でも把握されているのがいただけない。



「お前が産まれた時には既に俺と華雪は既に友人以上の間柄だったのか?」


「いえ。ヘタレた仏頂面男がそんなに早く華雪さんに手を出せる訳がないでしょう。

 私が産まれる前から成就するまで十年ほどは片想いしてましたよ」


「・・・・・・そのヘタレた仏頂面男って俺のことか?」



 こめかみがひきつるのを感じた。


 仏頂面は自覚しているが、ヘタレたつもりは毛頭ない。



「貴方以外に誰がいるんですか。

 顔の造詣が一緒でも、私はいつも笑顔を心がけてますので」


「その張り付けた表情が笑顔って言うなら、俺は仏頂面のままでいい」



 何度見ても嫌悪感しか与えてこない表情よりは、不愛想な方がはるかにマシだ。


 自分の顔のパーツがあんな薄っぺらい笑顔を作れるなんて知らなかったし、一生知りたくなかった。



「華雪さんが稀に見る鈍感というのもありましたが、貴方の行動が遠まわし過ぎるのも問題でしたよ」


「確かに、あいつは鈍感だよな」



 今時、学生の男と女が二人きりでご飯とか食べに行ってたら、その時点で周りからは恋人認定されるというのに。


 華雪はちっとも頓着しない。



 それどころか危機感無く、俺の部屋(両親とも他界しているため寮暮らし)に誘えばホイホイと着いてくる始末だ。


 遅くなったから泊まっていけと言えば、一つしかないベッドに二人して潜り込んで、朝まで共にする。


 勿論、手は出してないが。



 どこからどう考えても倫理感が歪んでいるのだ。


 そのくせ、頭を撫でただけで嬉しそうに赤面するのだから、全部彼女の手のひらの上で踊っているような錯覚さえ起こす。



「自分がそういう目で見られているとは微塵も考えない人ですから。直球で好きだと言っても、私も好きだと返されますし」


「どこの少女漫画のヒロインだよ。鈍感系ヒロインなんざ流行らないぜ」


「ええ。本当に困ったお方です。ですが、そんなところも好きなんですよね」



 微かに頬を赤く染める二郎に、こいつも本気で華雪を狙っていることに気づく。


 前々から薄々勘づいていたが、自分と同じ顔をした男が同じ女を好きになるなんて悪夢以外の何物でもないので、無意識のうちからその選択肢を除外していたのだ。



「お前、マザコンかよ」


「失敬な。この感情については随分悩みましたよ。

 私の基となったのが華雪さんに恋している山口五郎でしたから、その感情も引き継がれているのではないかと思ってましたし。


 ですが、今の私は私として恋していると自信を持って言えます。

 これは他の誰にも否定させません」



 鋭い瞳で俺を見てくる。


 人外とか息子とか関係なく、目の前にいるのは同じ女を愛するただの男だった。



「華雪には告白したのか?」


「しませんよ。彼女を苦しませてしまうだけだと分かってますし、何より気持ちが彼にしか向いていない。


 本当に一途なんですよ、華雪さんは。

 恋人生活と夫婦生活を合わせても一年ぐらいしか共にいることができなかった男に今でも恋している。


 心底、その男が大嫌いですよ。私は」


「だから、真実を素直に話さないと?」



 俺と華雪が夫婦であったというのはほぼ確信している。



 二郎の今の反応を見ていたら、よほどの馬鹿でもない限り気づけるだろう。


 それぐらい嫉妬に狂った男の顔を向けてきている。



「それもありますが、華雪さんは昔の山口五郎に惚れているのであって、今の貴方に恋しているわけではないんですよ。

 魂が一緒ならば行動もそれなりに似てきますが、一緒ではありません。

 そこの差異に華雪さんが悩んでいるのも事実です」


「つまり、記憶がないから別人認定されているというわけか」



 告白してもすぐにオッケーがもらえる訳ではなさそうだ。


 変なところで深く悩む奴だな。



「他の方にどうして前世の記憶があるのか分かりませんが、貴方にないのは事実です。

 私は人ではないのでずっと生きていただけですが、他の方達は幾度も死んでいます。

 それでも記憶を保ち続けることができたのには何か理由があるかもしれません。皆さんに聞いてきてはいかがですか?」


「午後の訓練は?」


「他のことに気を取られている状態で訓練しても効率が悪いですし、思わぬ怪我を招きます。

 間違って貴方を殺したりしたら華雪さんが悲しみますから。


 基本練習は終わってますので、午後はなしにします。ただし、今日だけですからね」



 お前はツンデレかと喉元まで出かかった言葉を飲み込み、ありがとうとだけ言う。


 この言葉を出していたら、きっと絶対零度の瞳で睨み付けられていたからだ。


 怖くはないが、気持ちの良いものでもないので回避できるなら回避したい。



 俺は訓練場を後にして、他の奴らが集まっているであろう部屋に行くことにした。


 目指すは国王の執務室だ。











 ノックをして返事が聞こえたら扉を開ける。


 そこには予想通り桐生と屍鏡と朱音がいた。



 人ではない白までいるが、今は必要ない。



「あら、珍しいじゃない。山口。何の用よ?」



 一番最初に反応したのは書類に目を通していた桐生だ。


 この中では一番付き合いが長いので、反応してくれたのだろう。



「華雪に昔の話を聞いた。その上で聞きたいことがある。

 どうしてお前らは昔の記憶があるんだ」



 遠まわしに聞くなんて面倒なので、直球で聞いた。



 桐生だけでなく、屍鏡たちも驚きの表情で固まる。



「え?華雪ちゃん話したの?」


「ああ。掻い摘んでだが、重要な所は話してくれた。

 その上で聞きたい。どうしてお前らは記憶がある?俺とお前たちで何が違うんだ?」



 知らず知らずのうちに焦っているのか、早口で語尾が少し強くなってしまう。



「・・・・・・屍鏡君、朱音ちゃん、白さん、しばらく私は席を外すわ。仕事置いておいてくれていいから」


「気にせずに行ってきなよ。

 桐生が手伝ってくれているおかげで楽だからね。後は僕が頑張れば今日の分は終わりだし。


 僕たちの分の話も桐生の口から話しといていいよ。

 まぁ、そんなに情報はないだろうけどね」


「じゃあ、お言葉に甘えて。行くわよ、山口」


「あ、ああ」






 ここで話すのは相応しくないと判断されたのか、連れてこられたのは桐生の部屋だった。


 入るのはこれで三回目だが、つくづく豪華な部屋に溶け込めている彼女を見ると、どこぞのお偉いさんの娘というのがしっくりとくる。



「で、さっきの質問の答えだけど、断定はできないわ。

 あくまで私の推測よ。それでもいいなら聞かせてあげるけど」


「それで構わない」



 最初から断言できるような理由があれば、二郎がその口から語っている。


 それにもかかわらず、他の人に聞いて来いと言うぐらいには謎なのだろう。



「じゃあ、言うけど。

 私は山口が一番普通の人間だったからだと思っているわ」


「どういうことだ?」


「言葉のままよ。


 私は悍ましい技を使う魔術師だし、屍鏡君は神話生物と手を組んで医療を発展させたりしてた。

 朱音ちゃんは、亡くなった後幽霊として存在していたわ。


 山口は人ではないものと接触している回数は多かったけど、それは普通の人間に比べてのことよ。


 私達よりは遥かに普通であった。これが答えだと思っているわ」



 普通の人間だから、記憶が無い。



 そりゃあ、そうだろう。


 普通の人間が前世の記憶なんかあったら、おかしいを通り越して精神病院に入院させられる。


 この推論はきっと限りなく正解に近いのだろう。



 だからこそ、俺は絶望した。


 普通だから愛する女に振り向いてもらえないのだと。



「華雪ちゃんは、いつまでも普通の人間であった貴方を好ましく思っていたわ。

 だから、自分を否定するのだけはやめなさい」


「だが、俺は・・・・・・」


「いい?山口。貴方の普通の感性はかけがいのないものよ。

 それこそ、私達にはないもの。


 華雪ちゃんが昔言っていたわ。五郎がいるからこそ私はまだ人間でいられるってね!


 もう華雪ちゃんは完璧に人間は辞めたけど、心までは変わってないわ。けど、彼女が身体に引っ張られて大量虐殺をする日が来るかもしれない。

 その時に、貴方が当たり前のように傍に居てあげなさい!


 昔の自分ばかり追い求めるんじゃなくて、今の自分にできることをしなさい。


 貴方なら華雪ちゃんが少々人間を殺したところで離れたりしないでしょう?」


「当たり前だ。俺は華雪以外の奴がどうなろうと知ったこっちゃない。

 あの殺し方には少し驚いたが、次からは心構えができているから動じるつもりはない」



 あんな殺し方は想像すらできなかったので、それなりに驚いてしまったが、次からはそう心が動かされることもないはずだ。


 華雪が人を殺したことについては特に思うことはなかった。



 もし、華雪が俺を殺す日が来るとしても俺は彼女を恨むことないし、華雪本人が満足しているならそれでいいと思っている。



 俺の気持ちを正直に吐露すれば、桐生はいかにも引きましたという顔を向けてきた。



「精神のイカレ具合は昔よりも加速しているような気がするわ」


「そりゃあ、どうも。

 記憶を取り戻す方法について心当たりは?」



 自分が記憶がない理由は推測できたが、納得したわけではない。取り戻せるなら取り戻した方がいいに決まっている。


 しかし、桐生を横に振った。



「私からは何とも。

 ショック療法の一つとして神に接触するというのもあるけど、おすすめできないわね。死ぬ可能性が高いし、生き残ったとしても廃人になっているわ。


 後は地道に華雪ちゃんから昔のことでも聞いたらどうかしら?何かがきっかけで戻るかもしれないわ」


「よくある記憶喪失の対処の仕方と一緒だな」


「他に方法がないわ。医者だった屍鏡君に聞いても同じような答えしか返ってこないわよ」


「千里の道も一歩から、か。参考になった。ありがとうな」



 当面の目標は自分にできることをしつつ、華雪に俺のことを意識してもらうことだ。


 それと並行して力をつけ、昔の自分の記憶を取り戻す方法を探す。



 今までとほぼ変わりないが、明確な目的を持つとすっきりする。



「礼はいいから、華雪ちゃんに負担を掛けないようにね。

 後、さっき言ったことは嘘じゃないから、自分を追いつめ過ぎないこと」


「ああ。分かった」



 普通の人間だから前世の記憶がなく、また普通の人間だったからこそ華雪の救いでいられた。


 逆に記憶を取り戻せば普通でいられる可能性は低くなり、華雪の傍に普通の人間としていられなくなる。


 なんとも矛盾している問題だ。


 だが、それでも俺は自分のために記憶を取り戻す。



 問題は山積みだが、確実に一歩一歩進んでいるので、そこまで焦ってはいない。


 今日は過去の話も聞いて謎が一つ解けたのだ。中々の収穫だろう。



 俺は満足しながら、自主練をすべく訓練場に戻ったのだった。






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