第二十三話 人間を完璧に辞めます
前回の粗筋
華雪に手を出したクリスティーナという魔族の女性がルークという新キャラに酷い拷問の末に殺された
目を覚ますと、そこにはもはや様式美のように五郎と二郎が居て、心配そうに私を見ていた。
ただ、いつもと違う点が一つ。
「しれっとルークが紛れ込んでいるんだが、私が寝ている間に探し出したのか?」
二人の間に何食わぬ顔をしてルークが立っている。
ルークは片眼鏡が知的な雰囲気をプラスしている美人さんで、オッドアイがチャームポイントの三十代に見える男性だ。
服装も神父服のままだし、ストラの赤色まで前と寸分も変わらず同じだ。
彼は私を見ると久しぶりと笑顔で手を振ってきた。
私もそれに久しぶりと返す。
「ええ、まぁ、そんなところです。それよりも、華雪さん。
申し訳ございませんでした」
「え?何が?」
謝られるようなことは何もされてない。
しかし、二郎は悲痛そうにその顔を歪めたまま頭を下げる。
「あの時、私が華雪さんの傍を離れなければ、貴女が傷つくことはありませんでした・・・・・・」
「それは違う。私が離れていて欲しいと言ったんだ。
二郎が責任を感じることはない。
というか、何かあったのか?」
一人になって落ち着きたかった私は裏路地に入った。そこまでは覚えているが、それからの記憶は残念ながらない。
かろうじで覚えているのは、なんかやたらと赤色が瞼の裏にこびり付いていた気がするぐらいだ。
だが、ベッドに寝かされていたということは何かあったのだろう。
それを証拠に、私がした返答に二郎はやっぱりかと言う顔をし、五郎ははぁ?という顔をしてくる。
「全く覚えてないが、私に何かあったのか?」
「いえ、全然。
心に負担が掛かりすぎたせいか、気絶するように眠ってましたよ」
嘘だと思った。
五郎が驚いた顔をして二郎を見ているのも、そう思った理由だが、何より体が軽い。
やりたいことをやってストレス発散したあとのような体の軽さだ。
これは何かやらかしたなと頭を抱えながら、五郎に謝った。
「私が何かされたというより、何かしたしただろ、五郎。
慣れない嘘までつかせたようで悪いな」
「ほら、五郎のせいでやっぱり気がつかれた」
「実技的な訓練の他に話術なども仕込まないと駄目ですね。
こんなに素直に顔に感情を出しているようでは、交渉事を任せられませんし」
なんか分からないが、五郎がディスられている。
二郎とルークはやれやれと肩を竦めた。
私の知っている五郎はそんなに顔に感情が出ないので、こうやって素直に驚いている彼を見ると新鮮で面白い。
これが若さというやつなのかもしれない。
そんな風に少しばかり楽しんでいると、二郎がいつもの笑みを消し、それとなく真剣な表情で、
「起こったことを簡潔にお話ししますと、華雪さんが人間ではない姿になり、私と彼を攻撃してきた。たったそれだけですよ」
と告げてきた。
口調こそ軽いが、表情はどこまでも真剣なままで固定されている。
「は・・・・・・?」
思わず思考が停止した。
その間にも二郎は詳しく説明してくる。
「貴女が門にして鍵の鍵の力の一部を体に宿しているのは知っています。それが使いこなせていないことも。
そして、このままではそれに乗っ取られて、貴女という存在がなくなってしまう危険性も。
ですが、まさかここまで侵食されているとは思ってませんでした。気づかなかった私の落ち度です」
「・・・・・・・・・・・・私は、五郎と二郎に攻撃して、しまったんだな」
一番恐れていたことが起こってしまっていた。
記憶がないなんて言い訳にならない。それだけは絶対に嫌だったのに、私はまたこの手で大切な者達を傷つけてしまうのだ。
もう、私は私という生物が信じることができない。
「完全に飲み込まれてはなかったです。
私達を攻撃する時に紙一重で当たらないようにしてはいましたから」
「もういい。
二郎、私は・・・・・・やっぱり、もうどうしようもなく化け物になっている。まだ大丈夫かと思っていた私が馬鹿だった。
五郎、お前に心からの謝罪を。
謝罪しても足りないことは分かっているが、他にどうすることもできないんでな。顔も見たくないだろうし。
ルーク、再開したばかりだが、もうお別れだ。
何かお願いことをしたかったら、二郎達に頼んでくれ。狂ってる私よりは頼りになるだろう」
ベッドから体を起こして、床に足をつける。
裸足の足に床は冷たかったが、今はそんなことはどうでもいい。
早く、こいつらから離れなければいけない。
「おい、待てよ。どこに行く気だ?」
「お前らが居ない所に決まっているだろ。
私はお前たちを殺したくない。あんなのはもうごめんだ。
分かったら、手を離してくれ」
すぐに出て行こうとしたが、一番近くにいた五郎に素早く腕を捕まれたせいで動けない。
「嫌だ。どこにも行くな、華雪」
「どうして殺されかかった化け物をそこまで引き留める?
二郎に言われたからか?それとも危機感がないのか?
見たんだろ、五郎。私が人じゃない姿を」
「見たし、実際殺されかかった。
あれは二郎との訓練よりもヒヤヒヤしたな」
「なら、何で、その手を離さないんだ・・・・・・っ」
彼はそれでも手を離さない。
掴んでいる力は痛みを感じるほどではないが、振りほどけるほど弱いわけでもない。
素の筋力では私は逆立ちしても五郎には敵わないし、だからと言って強引に力を使えば彼が傷つく。
最善策が五郎から手を離してもらうことだが、どういう訳か離してくれない。
「お前が泣いていた」
「は?」
「あの時、とても苦しそうに耐えられないと泣いていた。
好きで攻撃してるんじゃないのはすぐ分かったし、あれは防衛本能からきてるんだろ?なら問題ないじゃないか。
俺は絶対にお前を傷つけないし、それはこいつらもそうだろ。
もうあんなことにならなければ傍に居たって問題ないじゃないか」
子供でも分かるだろ、と言わんばかりに道理を説いてるような顔をしている五郎に、私はあっけにとられる。
「お前、本当に状況が分かってるのか?
お前の目の前にいるのは、人の形をしただけの化け物だと説明したはずだが?」
「それで何か問題があるのか?お前だけじゃないだろ。
俺の予想だと二郎とそこの男、後は白って呼ばれてた女もそうか?そいつらもまともな人間じゃない。
少なくとも、そこの二人は華雪よりもドロドロしている感じがするな。
それなのに、自分はまともな人間じゃないから傍に居ることはできないなんて言われてもなぁ」
説得力がないと言ってくる。
二郎達が人間でないことをどうやって突き止めたのかは知らないが、間違ってないので否定はしない。
どこで知ったのか非常に気になったが、今はそんなことは後回しだ。
「あ・の・な!二郎達はいいんだよ、自分の力をちゃんと使いこなせているからな。
だが、私は自分の身に宿った力すらまともに使えやしない。あまつさえ体を乗っ取られそうなほど不安定なんだよ!
私は覚えてないが、また乗っ取られたりしたら、本当に殺されるぞ!!」
「構わない。お前と離れるぐらいなら殺してくれ」
本気で彼は言っている。
そう気づいた私は言葉に詰まり、困惑してしまった。
「あっはっはっはっは。五郎の方が華雪よりも一枚上手だな。
流石、神に喧嘩を売っただけのことはある」
ルークは面白いとばかりに笑い、五郎の肩を叩く。
愉快なことが大好きな彼にまたしても気に入られたのだろう。
五郎は昔と変わらずに人外ホイホイであるらしい。
彼は死神やその他の人外にも気に入られていたという、謎のタラシ遍歴があるのだ。
「華雪さん、ようするに自分の力が使いこなせて、その力に飲み込まれないなら傍に居てもよろしいのですよね?」
「いや、・・・・・・まぁ、そうだが」
今、問題にしているのは私が正気を失って、周りの大切な者達を攻撃してしまうことだ。
そこさえ片付けることができたら、まだここにいることを許せるかもしれない。
「だったら、方法が一つだけある。
力に飲まれる前に完璧に人間を辞めて、自分という個を確立させればいいんだ」
「簡単に言うなよ、ルーク。
私がそのまま人間を辞めても、門にして鍵の力に飲まれて化身モドキになるのか精々だろう。私という存在は消える。
だから前提として、他から門にして鍵の力を相殺できるぐらいの力を取り入れないといけないんだぞ?
それこそ這いよる混沌と生きている炎ような互いを嫌いあって同等並みの力を持っているような奴を入れなければいけないんだ。
そんなもん体に入れたら、よくて私が死んで終わりになるが、惑星をいくつもふっ飛ばして新たな神が誕生してもおかしくない。危険すぎる賭けだ」
私だって、自分が狂っていくのを黙って見過ごしているわけではない。
殺されたりしながらも神に接触し、話の分かる奴にはそれなりに協力を求めてみたり、魔導書を読んでどうにかできないかと足掻いてみたり、柄にもなく必死に行動した。
だが、駄目だったのだ。
リスクが高い上に成功率が低すぎる。
ハイリスクな賭けに私は乗ることはできなかった。
「条件を満たしているものがあるんだよ、華雪。
門にして鍵には力は及ばないものの、華雪のことが好きで好きでたまらない神の一部を取り入れればいい。
取り入れる量を門にして鍵を打ち負かせるぐらいに多めに摂取すれば問題ないだろ?」
「そんな奇特な神が・・・・・・まさかっ」
いるはずがないと口に出そうとしたところで、それなりに優秀な脳みそが答えを出してしまう。
ルークは微笑みながら頷いた。
「うん、そうだよ。華雪。ボクの力を取り入れればいい。
落ちぶれたとはいえ、ボクは神の末席に座るものだ。
そして、ボクは華雪のことが好きで好きで好きで好きでたまらない。まさに適役だろう?」
「駄目だ!お前を取り込んで生き永らえるぐらいなら、私は死んだほうがマシだ!!」
ルークが神なのは知っている。
だが、彼はとある大戦で消滅一歩手前までいっていた奴なのだ。
私が仮の名を与えて存在を強化しているから、彼は彼として現存できているのであって、私に力を譲渡したりなんかしたら存在が保てなくなる。
「華雪が知っているボクは確かに今にも消えそうなほど弱っていたけど、あれからどれぐらい経っていると思っているの?
力はほぼ全部回復して、華雪のために個別で力を蓄えてたんだよ」
ほら、とルークはどこからか紫色に光るオーブを取り出した。
それは世界をいくつも滅ぼすことができる程の力が込められており、彼が言っていることが偽りではない証明だった。
それを見て、今度はそんな凄い力を持っているアーティファクトを私なんかが使っていいかの判断に困った。
「だが、私なんかにそんな・・・・・・」
「もらえるもんはもらっとけ、華雪。ほら」
五郎はルークの手からオーブを掻っ攫うと、私の手に乗せてくる。
いきなりのことで落とさないように両手で受け止めると、じわぁとオーブが融け、私の体に吸い込まれてしまった。
「心の準備!!」
「待っていたらいつまでも迷ってるじゃないですか。
横になっていた方がいいですよ。少しばかり体に負担がかかると思いますので」
二郎にベッドに転がされる。
されるがままなのは、体がなんだか熱くなってきたからだ。
まるで打ち合わせでもしたのかと疑いたくなる程、三人が連携してツッコミを入れる前に流れるように全てが終わった。
普段はあまり仲良くないのに、こういう時だけ協力するなんて卑怯だ。
しかし、何だか嬉しそうな顔をしていると何も言えなくなってしまう。
「体に馴染むのに少しかかるかもしれない。
その間は体が辛いだろうけど、ボクが全面的に面倒を見るから心配はいらないよ」
「あなたがいては邪魔です。私が華雪さんの面倒を見るので貴方はどこかに行っててください」
「お前ら二人に任せると非常に不安だから、俺が華雪を見る。
お前らはどっかに行ってろ」
三人とも競うように私の傍に居る。
それが何だかおかしくて笑ってしまった。
こんな光景は昔にも見たことがなかった。
この三人だけでまとまって揃っている時なんてなかったからだ。
大抵、他に誰かが居て、行き過ぎる彼らを引き止めてくれたものだ。
今は誰も止められるものがいないので、子供のような喧嘩をしている。
長い間生きていればこういう珍しいものも見れるらしい。
「ははっ。私、まだここに居てもいいんだな」
安心したのか、急激に熱が増した。それに伴い睡魔もくる。
半分夢うつつ状態だ。
「当たり前ですよ。私達の居場所は貴女の傍以外にありえませんから。
だから、安心してお休みください。目が覚めても私達は変わらず華雪さんの傍におります」
「ん。五郎、目が覚めたら昔話をするよ。もう隠しておけないだろうしな」
ぼんやりとした頭で、大切なことを五郎に伝える。
もう意地を張っていても仕方がないなと、私も白旗を振ったのだ。
「待ってる。だから、ちゃんと体調を整えろよ」
ああ、と返事した声は彼に届いただろうか。
どうしようもなく睡魔に引き込まれて、私は眠りに身を委ねた。
最後に温かい体温を手に感じながら―――――。
ルーク:唯一の存在
STR42 CON53 SIZ35 INT30 POW30 DEX34 移動10 耐久力44 ダメージボーナス+4D6
武器:鎖 100% ダメージ 1D6(拘束状態)。
装甲:なし。物理的攻撃は受け付けない。
ただし、魔力が付与された武器や魔術によるダメージは受ける。
呪文:《魅惑》・《召喚/従属》および《接触》呪文をいくつかと《夢》に関する魔術が使える。
正気度喪失:基本的に人間型だが、彼が元の姿に戻った場合、1D8/1D20。




