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赤のケッツヒェン~邪神の思惑が絡む世界で~  作者: たきしむ
第二章 自由都市リベルデ・ハイト編
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第十九話 大事なことは早く言ってくれ

 





 気が付くと、私は何回か来ている所にいた。


 目の前には酒盛りをしている藤堂が座っている。



 遠くから何か不気味な音楽が流れてくるが、ここではそれが常なので気にしていない。



「よう、華雪。随分早く再会したな」



 杯を置き、手をあげて挨拶してくる藤堂に、私も軽く手をあげて挨拶を返す。


 数か月前に会ったばかりから、あまり久しぶりと言う感じがしない。



「私だって予想外だ。あっ、私にも酒くれ」



 藤堂の真向いの席について、酒を要求する。



 すると、呆れたような顔をされた。



「まず言うことがそれかよ」


「他にすることがないだろ。

 お前の飲んでる酒は基本的に美味いからな」



 人間が飲むと寿命が延びたり、魔術が使いやすくなったりするという副産物がついているが、藤堂が飲む酒は美味いし、毒なんか私に盛るはずもないので安心して飲める。



 彼はまだ何か言いたそうだったが、ため息をつくと銀の杯を渡してきた。


 その中にいつの間にか傍に立っていた人間の形をした何かが酒を注いでくれる。


 色は金色で、匂いからして蜂蜜酒だろうとあたりをつけた。



 ごくりと一口飲んで、その美味しさに感嘆のため息をつく。


 やっぱり、普通の人間が作った酒よりもこういうアーティファクトの酒の方が美味い。


 黄金の蜂蜜酒は材料さえ揃えば私でも作れるが、材料がこういう神が生息しているような所にしか存在してないため、そう作る機会が存在しなかったりする。



「お前は変わらないな」


「変わらないさ。

 私が私だと認識している限り、体が人間以外の何物になろうが、骨の髄まで悍ましい知識に毒されようが、私は何一つ変わらない。

 それは一回死んだ後でも変わることはないさ」


「自分が死んだことに気が付いていたのか」


「あの薬を飲んだら死ぬことぐらいは予想してた。

 あれはそういう薬だし、そのために沢山飲んだからな」



 朱音の目を盗んでパクった薬は二つあった。



 一つは強い衝撃を加えると爆発して発火する性質を持つ薬品だ。


 もう一つは一時的に筋力向上や異常回復をする代わりに、数十分後には体に毒が回り、耐えきれない奴はもがき苦しんだ後死ぬ。



 さっきはあの薬で確実に自分が死ねるように大量に摂取したために、元々生きるとは考えてなかった。



 ちなみにその薬は錠剤の形をしていて、一錠で効果が出るところを今回は四錠飲み込んでいる。


 私の体の大きさから考えると、どう頑張っても致死量だ。



「計算通りってわけかよ」


「まぁな。お前の加護のおかげで死んだとしてもあの場所に戻れるんだろ。

 だったら、薬の副作用を抱えながら生きているより一回死んだ方がましだ」



 あの薬を摂取して生き残ったとしても、一時的に無理やり体のリミッターを外したせいで、その後は碌に動けなくなる。


 ベッドで寝たきり生活なんてする気はさらさらない。



 藤堂があの世界でつけた加護により、生き返る場合はあの場所で蘇生することが確定していた。



 死んで再び生き返った時に前の状態はリセットされているのは、今までの経験から分かっているので、遠慮なく死ぬことにしたのだ。



「それであっさり死ぬことを選んだのか。

 また一歩人外に近づいたんだが、そこはいいのか?」


「私は朱音を守ることができた。

 それだけで人外に近づく価値はあるだろ?」


「お前は正しく狂っているな」



 私は無言で杯を傾ける。



 自分でもそう思っているから何も言えないのだ。



 藤堂は愉快そうに笑って顔を近づけてくる。



「こんな格言を知っているか?華雪。

 自分が狂っていることに気づいている狂人は救いがあるが、狂っていることに気づけない狂人に救いはない。

 お前はどちら側だろうな」


「は?私は自分が狂っている事をちゃんと自覚しているが?」



 さっきまでの普通の人間の行いとは大きくかけ離れていることぐらいは分かっていた。


 それが私の狂気だし、きちんとそれを自覚している。



 だというのに、藤堂は口が裂けそうなほどニィイと笑い、一つ頷いた。



「そうか。お前がそう思っているならそれでいい」


「え?ちょっと気になるんだが。どういう意味か分かりやすく説明してくれ」


「そろそろ目を覚ますぞ。帰ってからの言い訳を考えたらどうだ?」



 指先から徐々に透明になってくる。


 これは元の世界に帰る前兆だ。



 まだ聞きたいことがあるのに、もう私の口から言葉を発しても空気を震わして藤堂に伝えることはできない。



「ああ、そうだ。言い忘れていたが、ルークがお前を探しにあの世界に行ったぞ」



 だから、そういう大事なことはもっと早く言え!!


 声にならないツッコミを入れながら、私は現実世界に帰還した。











 目を開けるとそこはどこかの部屋の一室だった。


 ふかふかのベッドに寝かされているらしい。



 眩しい太陽の光に顔を顰める。



「ああ、起きましたか。華雪さん。お体の調子はどうですか?」



 傍には二郎が居て、テキパキとお茶と軽食の準備をしている。



「ん。身体は特に問題ない。朱音の調子はどうだ?」


「朱音さんは帰ってからすぐに目を覚ましていましたよ。

 三日も寝ていた華雪さんとは違ってね」



 三日も寝ていたのか。


 通りで痛みはなくても体が怠いはずだ。



 体を起こすと、頭痛がしてくらっと目眩もした。



「今、三日も寝ていたと説明したばかりですよね?いきなり動かないでください」


「うっ、ごめん・・・・・・その、怒っている、よな」



 いつもよりも二郎が纏っている空気が重くどろどろしている。


 人間型を維持しているのが不思議なぐらいに雰囲気が怖い。


 そして、無表情だ。



「ええ。助けに行くことができなかった自分にこれ以上なく怒ってます」


「今回のは仕方ないだろ。あの空間はすごく不安定だった。

 それこそ放って置けばそのまま消滅してしまうぐらいに。


 お前が来ていたら、間違いなく三人とも次元の狭間で仲良く彷徨っていた。

 だから、二郎が自分を責めることは何もないぞ」


「それでも、私は貴女が戦うことはしてほしくなかった・・・・・・」



 ポンポンと私は自分の膝を叩いて二郎を呼ぶ。


 手を止めた二郎が傍に寄って来たので、その頭を抱きかかえてやる。


 そして、整えられた髪の毛をぐしゃぐしゃになるぐらい頭を撫でた。



「戦う術を手に入れたのに、守られてばかりは嫌なんだ。これだけは譲れない」


「はぁ・・・・・・。これ以上貴女から譲歩を引き出すことはできないのでしょうね。


 ですが、これだけは言っておきます。

 華雪さんが傷つけばみんながそれ以上に傷つきます。そのことをお忘れなきよう」


「はいはい。あー、三日も寝ていたら体がバキバキだ」


「でしょうね。さっきみたいにいきなり動かないで下さいよ。

 少しリハビリをしてからでなければ激しい動きはできませんからね」



 二郎は私から離れると髪を整えて、紅茶を添えてパン粥を渡してきた。



 食べないと心配するのでゆっくりとパン粥を紅茶で胃に運ぶ。


 いつも通り私好みの美味しい食事だった。



「そう言えば、ここはどこなんだ?」



 落ち着いて周りを見回すと豪華すぎる家具に囲まれている。


 こんなグレードの高い宿をいつのまに取ったのだろうか?



「ここは屍鏡さんのお城の一室です。

 客室らしいのでゆっくり休んでほしいとおっしゃってました」


「そうか。後でお礼を言いにいかないとな。

 ちょっとリハビリをしないと・・・・・・」



 薬の副作用か、それともまだ死後硬直が解けてないのか、はたまたずっと寝たきりだったせいか、動きにくい。


 上半身はともかく下半身はろくに動ける気がしない。



「私に手伝えることがありましたら、お手伝いしますよ」



 リハビリぐらい自分でできると言おうとして、死神の最後の言葉を思い出した。ルークがこの世界に来ている。


 今まで思い出せなかったのは、記憶が混乱しているからだろう。



 彼の言葉が本当なら、早く探さないと大変なことになるかもしれない。



「あっ、ああ、どうしよう・・・・・・。

 二郎、あのだな、えっと・・・・・・言わない方がいいのか?えー。どうしよう」


「どうかしたんですか?」



 言うのは構わないし、一人でも知っている奴がいたほうがいいのも事実。


 だが、二郎に何でもかんでも言うのも良くない気がする。



 これ以上彼の心労を増やしたくないという気持ちもある。


 私からのストレスでそのうちハゲそうで怖いのだ。



「・・・・・・白を呼んできてくれないか?彼女に話したいことがあるんだ」



 考えた末に、白に相談するという案に落ち着いた。



 彼と白が親しくしている所はあまり見かけなかったが、顔ぐらいはお互いに知っていると考えた上での判断だ。


 彼女自体は忙しいが、何かそういう探し人を生業としている人にコネがあるかもしれない。



 そういうあらゆる要素を考えてそう言ったのだが、二郎は物凄く不満そうな顔を向けてきた。



「白さんには話せて私に話せない内容なんですか?」


「いや、そういうわけじゃないんだが、お前にばっかり話して負担をかけたくない。

 本当は私一人で解決したい事案だが、事が事だからな。人手が欲しい」


「話してもらえない方が嫌です。

 人手が欲しいと言うのでしたら、私が一番適任でしょう?私の特性をお忘れですか?」



 二郎の特性の一つに多数の蝙蝠に姿を変えるというものがある。



 その蝙蝠達それぞれ独立して行動し、思考する。


 彼らが見たこと聞いたことは全て二郎に返還されて、自分のものにできる。



 探し物をするなら、これ以上なくうってつけの人材なのだ。



 それは知っているが、ただでさえ多忙な二郎にお願いするのは気が引ける。


 しかし、彼は話して欲しいらしいので、とりあえず話すだけでもと口を開いた。



「うー。あのな、藤堂にちょっと会ったんだ」


「それはあの空間から帰ってきて、今目を覚ますまでの間にですか?」


「そうだ。そこで軽く酒を酌み交わしつつ雑談をしたんだ。

 で、帰る間際にルークがこの世界に来ているって聞いたんだ」



 藤堂が意味のない嘘をつくはずがないので、この情報は信憑性が高い。


 それは二郎も知っているので、顔を顰めた。



「藤堂さんが・・・・・・。

 なら、ルークさんも来ているんでしょうね」


「彼を探さなきゃいけない。協力、してくれるか?」



 ルークが私に会いに来ているなら、私は会わなければならない。


 彼の目的は不明だが、何か私に用があるのならば会って直接目的を聞いておいた方が安心だ。


 協力できることなら協力したいし、それ以外の用だとしても早めに確かめて不確定要素は排除しておきたい。



 そういう意図を込めて話して彼の反応を窺う。


 少しの間考える素振りはあったが、それでも考えていたよりも簡単に快諾してくれた。



「いいですよ。彼がいれば華雪さんが無茶をする確率が減りますから。

 変態なのが困りものですけど」


「あいつのは、ほら、性癖は人それぞれだからな」



 フォローできない程度には性癖があれなので、何とも言えずに苦笑いする。



 彼は悪い奴じゃないし、見た目も人当たりもいい奴なんだが、長い間生きているせいか人をからかうのが好きなようで、ちょいちょい私にちょっかいを出してくる。


 そのちょっかいの出し方が世の中で言う変態の人たちと一緒なだけで、彼自身にはそういう意図は含んでない。



 私は一種のコミュニケーションだと捉えているし、他の人にはやらないので今のところ問題ない。



「性癖で片づけられる問題ではないですけどね。


 まぁ、いいです。そろそろ扉を開けてもよろしいでしょうか?」


「?別に構わないが?」



 二郎がパチンっと指を鳴らすと、雪崩のようにずざざっと何かが部屋に転がり込んできた。


 それらは五郎達だった。



『華雪(ちゃん)!!!!』


「ふぁっ!?!?」



 立ち上がってからベッドまで瞬時に移動する五郎達の身体能力の高さにビビる。


 そのせいでバランスを崩して、またベッドに倒れ込んだ。



「みなさん、華雪さんは目覚めたばかりです。あまり驚かせないでください」


「先生、起きて良かった!!」


「朱音が元気そうでなによりだ。具合は悪くないか?」



 一番近くにいる朱音の頭を撫でる。



 手触りのいい髪が指の間から通り抜けて、彼女が生きててよかったと心底思った。



「大丈夫だよ!でも、ずっと先生が起きなくて心配だったの!!」


「ちょっと戻ってくるのに手間取っただけだ。朱音が心配することじゃない」


「でも、とても心配したの。

 私はすぐに起きたけど、中々先生が起きなかったから」



 逆の立場なら私も心配するだろう。



 朱音はぺたぺたと私の体を触って、どこにも怪我がないことを確かめてくる。



「怪我はしてないぞ。

 ああ、そうだ。二郎、さっきの話を白にしておいてくれ。


 後、五郎、話をしたいことがあるから、後で二人きりで話をしたい」


「分かった」



 ここで空気を読んで、みんな何かしら理由をつけて部屋を出て行ってくれた。


 察しが良く過ぎるのも考えものだが、今回は助かる。






 広すぎる部屋に私と五郎の二人になった。


 彼はベッド傍の椅子に座って、足を組む。



「で、話というのは?」


「・・・・・・少しだけ、私のことを話そうと思ってな。

 じゃないとフェアじゃないだろ」


「どれについて教えてくれるんだ?」


「今回、私と朱音が体験してきたことだ。

 きっと誰もお前には言ってないだろ?」



 私の意思を汲んでくれる彼女らが勝手にそういう話をするとは思えない。


 その前に朱音があの出来事を誰かに詳しく話さないだろう。



「ほう・・・・・・それは興味あるな」


「かなりファンタジーで気持ち悪い話になる。聞きたくなくなったら、止めてくれ」



 そう前置きをしてから、私は話し始めた。



 冒涜的な魔術師によって別空間にてかの者の成れの果てと戦闘したこと。


 簡略するとそういう内容だ。



 どうやって殺したかもきちんと話した。


 人間が使うべきでない魔術を使って殺した、と。


 薬を飲んだことは関係ないので、そのことについては黙ってた。






 全てを話し終えた。すると、五郎はため息をつく。



「だから?」


「え?」


「だから何だって言うんだ?

 別の空間に行って、ちょっと不思議な術を使って帰って来た。それだけだろ」


「いや、まぁ、そうだが・・・・・・。

 いいのか?普通の人間が使わない魔術を使うんだぞ?怖くないのか?

 私は口先一つで手も触れずに五郎を殺せるんだぞ?」


「お前はそんなことしないだろ。

 それに、こうすれば俺を殺せない」



 すっと目の前に影が落ちて、唇に何かが触れた。



 それはよく知った感触で―――――。



「え?」


「他に話したいことはなさそうだな。ゆっくり寝てろ」



 五郎はそう言うと、足早に部屋から出て行く。



「・・・・・・え?」



 一人になった部屋の中で私は自分の口元に手を当てる。


 さっきの感触は間違いなく、あれだ、キスだ。



「はっ、ははっ、ないない。疲れすぎたせいで自分の都合のいい夢でも見たんだろ」



 はははっ、としばらく乾いた笑い声が一人になった部屋に響き渡った。






チャコタ:下級の奉仕種族


 魔術によって創造され、人を食べる。

 チャコタの体についている顔は食べられた犠牲者のもので、その顔についている歯で新しい犠牲者に食らいつく。

 チャコタの体は食べること二より成長し、成長限度はない。

 物理攻撃は基本的に効かないが、火・電気は効果があり、また窒息死はする。



魔術:《萎縮》

 魔術の中で最強クラスの威力を誇る。

 相手の精神力に勝てば、黒焦げになり破壊される。



※本当はこの魔術はSAN値を消費して発動しますが、独自解釈により、魔術による現象を見る恐ろしさでSANが減っている=発動コストだと考えているので、SANが0の華雪でも発動できるとみなします。



何か間違いなどがありましたら、お手数ですが感想で送ってください。


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