第十六話 知らないうちに友人が国王になっていた
はっと気が付いた時には、朱音の膝の上に座っていて、かなり話が進んでいた。
一度に色々起こったせいで脳みそがオーバーヒートしていたのだろう。
私が正気に戻ったことに気づき、朱音が嬉しそうな声を上げた。
「屍鏡君、先生が元に戻ったよ!」
「やあ、華雪ちゃん。ようやく心の整理はついたかい?
朱音ちゃんのことで混乱していたけど、もう大丈夫かな?」
前と同じような仮面をつけた屍鏡が覗き込んでくる。
その隣には白もいて、夢じゃなかったんだなと今更ながらに実感させられる。
「ん。もう、大丈夫だ・・・・・・。話もそれなりに聞いてる。
魔王なんて随分出世したな、屍鏡。
それにグランドマスターなんてすごいじゃないか。
私と離れていた間に随分頑張っていたんだな」
「華雪ちゃん・・・・・・っ」
何がスイッチか分からないが、何らかのスイッチを押してしまったのだろう。
感極まった屍鏡が抱き着いてくる。
「うおっ!?重いっ!!屍鏡、ぎぶっ!!
私だけじゃなくて、朱音も潰れる!!!!」
ぐりぐりと私のお腹の部分に頭を擦りつけてくる屍鏡の体は、成人男性のためにそれなりに大きい。
それと比例するように重たい。
全力で体重を掛けてくる彼に私だけでなく、朱音も少々苦しそうだ。
しかし、屍鏡は更にぐりぐりと加速させる。
「やだっ!!やっと華雪ちゃんに会えたんだもん。
ちょっとぐらい抱き着いても罰は当たらないよ!!」
「分かった!!
お前の膝の上に行くから、まずは一旦落ち着いて離せって!!
白、助けてくれ!!」
「そうなった医院長を止めるのは無理です」
対屍鏡では一番頼りになる白にすげなく返される。
屍鏡にもみくちゃにされながら彼女を見ると、微妙に拗ねていた。
「白、お前、なんか拗ねてるだろ」
「いえ、別に。拗ねてなんかいませんし?
久しぶりに会って一ミリも私のことを気にしてないことを根に持ってなんかいませんし?」
めちゃくちゃ根にもってるじゃん。
というか、白ってこんなキャラだっけ?
久しぶりに会うせいか白のキャラがぶっ壊れているように感じる。
昔の彼女は頼れるお姉さんキャラだったのに、今は構ってもらえなくて拗ねている子供のようだ。
ここまで寂しがらせていたのかと思うと、急に罪悪感が湧いてきた。
「白、悪かった。
お前のことをないがしろにしていたんじゃなくって、ちょっと色々ショックが大きくてな。気が回らなった。
本当にごめんな」
「分かってますよ、華雪さん。
そんなに本気に捉えなくてもいいんです。
昔から、そういう生真面目なところはお変わりないようで。
私も意地が悪すぎました。申し訳ございません」
朱音と屍鏡に挟まれたままという締まらない格好で謝ると、白はそれが面白かったのかくすくす笑って私を許してくれた。
「ほら、医院長。いい加減に華雪さんに体重抱えるのをやめてあげてください。
その状態じゃ朱音さんも苦しいですよ」
頼れるお姉さんモードになった白はそう屍鏡を窘める。
すると屍鏡は素直に言うことを聞いて一回離れてソファーに座りなおすと、ひょいっと私を抱き上げて自分の膝の上に乗せた。
前から言っているが、私はテディベアでもなければ愛玩動物でもない。
もう少し膝の上に乗せるのを自重してほしい。
しかし、とてつもなく嬉しそうな雰囲気を全身から出しているため、今回もその言葉を飲み込んで置物に徹した。
「・・・・・・ずっとずっと会いたかったのは僕も一緒だよ、華雪ちゃん。
そのために冒険者ギルドを創立して、下らない権力争いにも参加して、いつでも華雪ちゃんを受けいれることができる準備をしたんだ」
「おい、凄い台詞を言ったぞ、今」
冒険者ギルドを創ったのがまさかの屍鏡であったということに驚きを隠せない。
人を纏める能力も上に立つ能力も、その他諸々の能力も高いが、一から自分でこんな大掛かりな組織を立ち上げるとは思ってなかったからだ。
働いたら負けというのが口癖だった屍鏡が立派な社会人をしていることにまた泣きそうだ。
「魔王でも良かったんだけど、人間が一方的に言いかがりをつけて喧嘩を売ってくるから、人間社会で高い地位が欲しかったんだ。
だから、冒険者ギルドを創った。
創立者にして現総グランドマスターで自由帝国都市リベルデ・ハイトの国王に表立って逆らう奴はいないからね」
更に衝撃の新事実をぶっこんでくる屍鏡。
私の友人は少し見ない間に国王にまで出世していたらしい。
自由帝国都市リベルデ・ハイト。
その国の名前は私でも知っている。
ここ数十年という短い間でできた国だが、最先端の学問と魔術を教える魔術院エレフセリアという世界最大級の学校があり、さらに革新的な事業に取り組んでいるため国力は世界トップレベルだ。
空飛ぶドラゴンさえ撃ち落とす勢いだと噂されている。
グランドマスターに国王という肩書まで揃った相手に喧嘩を表立って売るような馬鹿は確かにいないだろう。
「そりゃあ、いないだろうな。
お前を怒らせたら国が滅びても文句言えないし」
冒険者ギルドというのはどこの国にも存在していて、その力を必要としない所はまずない。
魔物はどこにでも湧き、倒しても倒してもきりがないからだ。
その分の国防費を年間予算の組み込むと馬鹿にならない金がかかる。
そこを解消してくれたのが、屍鏡が立ち上げた組織だ。
必要な時に必要なだけ専門家を雇えるようになった上、雑用もこなしてくれる。
しかも雇用の幅が広いので失業者や身寄りのないものへの救済の意味もあるという、ある意味万能すぎる組織なのだ。
そこのトップに睨まれるということは、その辺の利点が無くなるということで、まともな奴ならそんなアホみたいなことはしない。
まぁ、世の中にはまともじゃない奴も多いが。
「流石に滅びるまではいかないよ。ただ、少し国力が下がるだけで」
「それでも大問題だろ。
というか、こんなところで遊んでいていいのか?仕事山積みだろ?」
「僕は今華雪ちゃんと一緒にいるっていう大事な使命の最中だし、仕事の方は問題ないよ。
白と朱音ちゃんが支えてくれてるし、他の子たちも優秀だからね。
後は僕のスキルがあれば本体がいなくていいのさ」
「そうか。なら、本題にそろそろ入ろうか」
近況を聞いたところで本題に入ることにした。
真面目な話なので屍鏡の膝の上からソファーに座らせてもらう。
「始めに聞いておくが、私に関わらないという選択肢はお前ら三人にはあるのか?」
話を一応聞いていたので、彼らの決心の固さも聞いてはいたが、聞いておかない訳にはいかない。
特に朱音は私の最大の犠牲者と言っても過言ではないのだ。
会うだけ会ってさよならしてもおかしくない。
しかし、三人は首を横に降って否定の意を表す。
それを見てため息をつきながらも、やはり嬉しいようでまたポロリと涙が流れた。
ぐしぐしと涙を拭い、分かったと返す。
「じゃあ、話を続けよう。
今の私達には特に大きな目標はないが、やらなければならないことはある。
お金稼ぎと安定した住居の確保だ。」
お金を稼ぐためにギルドに加入し、さっき依頼をこなしてきたわけだが、それ以外にまともな職があるなら就職活動なども検討してみるべきだ。
時給換算すると効率が悪いことがこの上ないので、ギルドランクが上がるまでは何かバイトの掛け持ちでもしないと生活していけない。
ずっと二郎に頼ってばっかりいるのも申し訳ないからだ。
住居もいつまでもホテル暮らしといかないから、欲してはいる。
ただ、その他に必要なものが出てくると思うので、優先順位的には低かった。
「お金は二郎が持っているお金が全員が遊んで一生暮らせるぐらいはあるわ」
「家が欲しいなら、僕が所有している家をあげるよ」
ほぼ同時に桐生と屍鏡から問題しかない発言が入る。
「そーゆーことじゃない。私が自立してお金を稼がないといけないんだ。
いつまでもお前らにおんぶに抱っこは流石にプライドが・・・・・・」
生きるためにはプライドなんてポイ捨てしてきた私だが、かつての友人の脛をかじって自堕落に生きたいと思うほどプライドがないわけじゃない。
そもそも、今の実年齢はともかく私の中では五郎と白以外はみんな年下なのだ。
できないことなら頼るが、今までできていたことまで頼るなんて流石に情けない。
「私は気にしないんですが・・・・・・」
「私は気にするんだ、二郎。
後はこの世界の知識がもっと欲しいな。
屍鏡のところならいい図書館ぐらいあるだろ?」
「仮にも学問都市とも言われているからね。
古代語で書かれた魔導書からその存在が知られたら戦争に発展する歴史書まであるよ」
「なら、当分の目標は決まったな。
屍鏡の国でお金を稼ぎつつ、住む場所を確保。落ち着いたら知識を得るために図書館に通うと」
現状、それ以外にできることはない。
二郎から聞いて、元クラスメート達がどういう行動をしているか全て伝わってきているが、まだまだニャルラトテップを楽しませるには足りないレベルだ。
あいつらが大きく動くまではこちらも細々と生きたい。
どうせ、事態が動いたらどれだけ回避しても巻き込まれるのだから。
「私は華雪さんの案でいいと思います。
現状、このままでは彼のレベルが低すぎて足手まといですからね。
どこか落ち着いた場所で鍛錬に打ち込まないと使い物になりません」
「二郎、言い方。足手まといは私も一緒だろ」
「魔法が最低でも上級レベルで使える華雪さんとは違って、この男は魔法はほぼ使えない上に剣術もお粗末なものです。
あの時精霊王に勝ったのは、相手が油断していた上に私の教えた技が上手くいったからにすぎません。
その程度で困るのは彼です。
勇者達と仲間ごっこをするのでしたら今の実力でも困らないでしょう。
ですが、彼は華雪さんの傍に居ることを望みました。
それ相応の力がなければ傷つくのは本人です」
厳しい言い方だが、言っていること自体に間違いはないため口を挟めない。
ここで私と別れて元クラスメートと合流するという手もあるが、一回決めたことを五郎が曲げる訳がない。
それでももっとソフトに言ってあげてほしいが、五郎があまり好きでない二郎には無理な話だろう。
どうでもいい奴にはそれなりに優しい二郎だが、少しでも嫌っている相手には容赦がない。
しかも、どうでもいい奴に優しいのはいつか使えるかもという打算と下心があっての行動なので、純粋に優しく接する相手というのは限られてくる。
五郎のことは嫌っているが、その実力は認めているという微妙な関係なので、彼にとっては助言をしているようなものなのだろう。
「二郎の言う通りだ、華雪。
どれだけ遠まわしに言っても俺が劣っているという事実は変わらない。
現実を見つめられないほど俺は馬鹿じゃないさ。
せいぜい金策をしつつ、鍛錬に励むつもりだ。
指導を頼む、二郎」
「最初からそのつもりです。
これからも手を抜かずに鍛えるので、そのつもりで」
「ああ。頼んだ」
「二郎が山口につくなら、私は情報収集でもしようかしら。
世界情勢にはまだまだ疎いからね」
ずっと軟禁生活だった桐生は私達と同じぐらい世の中のことについて知らない。
本で得た知識と、あの小さな部屋で考察したものしかないからだ。
この辺りであやふやだった情報とかについて整理したいのだろう。
「なら、僕の手伝いをしてよ。仕事が多いから人手が足りないんだ。
機密書類とか極秘資料とかあるから変な人員も入れられないしさ」
「それは私が目を通していいものかしら?」
「桐生なら問題ないよ。
その情報を使って世界を混乱に陥れることはできるけど、そんな面倒なことはしないでしょ?
それに僕は桐生という一個人を信用しているから」
「私にしてみれば渡りに船だから、喜んで受けさせてもらうわ」
とんとん拍子にこれからの個人の目標が決まっていく。
朱音と白は特に何も言わないが、この二人は屍鏡の手伝いで忙しそうだから除外だ。
「それで、華雪さんのお金稼ぎの方法は決まってますか?
言うまでもないですが、危なくない方法にしてくださいよ」
「安全にお金を稼ぐ方法はもう決まっている。
ここはテンプレがあふれたファンタジー世界。ならば、方法は一つだけだ。
目指せ、全員薬漬け!!製薬チートで私は成り上がる!!」
ファンタジー小説でのお金稼ぎの方法など二通りしかない。
そのうち片方は冒険者として荒稼ぎをすることだが、これは危険を伴うので過保護な友人たちに却下されるのが目に見えている。
この時点で取れる方法など一つしかない。
すなわち、生産系で儲けるしかないのだ。
生産系といっても、ノウハウのない私がいきなり武器など作れるわけがない。
ファンタジーなあれで作れないこともないだろうが、その道の先人たちにすぐに追いつくのは無理だし、微妙な品質の需要は少ない。
考えた結果、私の知識を生かせる生産系がポーション生成という訳だ。
手先は器用な方だし、そういう薬学に関する知識もある。
後はここでの作り方を学ぶだけだ。
材料は採取して来れば実質ただに近いし、モンスターと真っ向勝負するよりは危険度が低いから彼らも黙認してくれるだろう。
「先生ならお薬作るの上手そうだし、危険もそんなにないしいいね」
「交代で一人か二人ぐらいついていれば問題もなさそうですね。
華雪さんにしては無難で安全な案を出してくれました」
「二郎は私を何だと思ってるんだよ」
「言っていいんですか?」
「いや、大体分かっているからいい」
どうせ危ないことをする馬鹿だとかそんな類のことを言われるのだ。
何回も言われて耳タコなので、わざわざ聞く意味は無い。
みんなのこれからの目標が決まったところで、二郎が軽食類を出してくれる。
時間的に小腹が空くタイミングなのだろう。
屍鏡も朱音も食いつきが良かった。
「いやぁ、久しぶりにまともな甘味を食べたよ。
地道に職人を育ててはいるんだけどね、食糧が乏しいから中々上手くいかなくて・・・・・・。
甘いもの不足で餓死するところだったよ」
「ものすごく美味しいです、二郎さん。
今度作り方を教えてください!!」
「ええ、いいですよ。今度一緒に作りましょうね」
キラキラと顔を輝かせている朱音にいい返事を返す二郎。
ほのぼのとした光景にまた鼻の奥がツンとしてくるが、深呼吸をしてそれを抑える。
とてつもなく幸せな雰囲気でお茶会は終わった。
これにて第一章は終わりです。
次は屍鏡が治めている自由帝国都市リベルデ・ハイト編に移ります。
更にクトゥルフ神話要素を追加し、物語を進めていきたいと思ってますので、よろしくお願いします。
第二章は五日後を予定しています。




