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赤のケッツヒェン~邪神の思惑が絡む世界で~  作者: たきしむ
第一章 ユーバー・ヘ・ブリヒ王国編
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第十五話 冒険者始めました

 





 途中で休憩を挟みつつ飛び続けること約五時間。


 空には障害物もなく、途中から速度をアップした私達は国境を越えて、フェアティー・フング王国にようやく入ることができた。



 そろそろ町が見えるということで、空から降りて地面に久方ぶりに足をつけて歩く。


 飛んだまま不法侵入とか緊急時以外やる意味はないからだ。



 五時間飛んでいる内にすっかり暗くなっていた。


 今日はもう疲れたし暗いから本格的に行動するのは明日にしようと意見が珍しく一致し、正面から町に入って宿をとってゆっくり休んだ。






 次の日、私達は前日までの疲れなんか残さずに、とある場所に来ていた。



 その場所とはかの有名な冒険者ギルドだ。


 ファンタジー系の小説内では主人公がほぼ絶対的に冒険者になるというテンプレが存在するのだが、まさか私がそんなものになる日が来るとは夢にも思わなかった。



 世の中は何でも起こると身も持って体験していたが、これは予想外過ぎる。



「長生きはするもんじゃないな」


「ん?なんか言ったか?」


「いや、何でもない。書類、書き終わったか?」



 冒険者登録に必要な書類を書いている途中でポロリと本音が零れてしまった。


 それを隣の五郎に聞かれてしまったが、適当に誤魔化しておいた。



「大体書き終わったさ。ユキは?」


「私もだ。書類提出してこないとな」



 ここに来るまでに決めておいた偽名で呼ばれる。


 私たちは脱走兵みたいなものだから、本名で呼び合うのは不味い。


 というより、記録に残るところに本名を残すのは見つけてくださいと言っているようなものだ。



 そういうわけで、それぞれ偽名を決めている。


 私がユキで五郎がジョン、桐生がリュウで二郎がフレーダーとなっている。


 簡単かもしれないが、それぐらいの方が覚えやすくて使いやすい。



 ギルドに入った時から視線を感じていたが、周りからの視線が受付嬢のところまで行くと一段と強くなった。



 私が紙を受付嬢に渡すと、彼女は登録しますねとスムーズに仕事をしてくれた。


 両手に抱えられるぐらいの黒い箱にその書類を入れると、下からカランと金属製のタグが出てくる。


 それを私と五郎にそれぞれ渡された。


 タグには偽名と何か複雑な模様が刻まれている。



「では、冒険者ギルドについて簡単に説明させていただきますね。質問がございましたら最後にお願い致します。


 まず、そちらのタグが冒険者の証ですので失くさないようにしてください。

 失くした場合はギルドに言っていただければ、発行手数料が銀貨二枚かかりますが再発行が可能です。


 次にランクと依頼について説明させていただきます。


 ランクはEランクからSランクまであります。

 お二人はまだ登録したてなので一番低いEランクです。受けられる依頼は現在ランクのものかそれより一つ上のものまでです。


 つまり、まだEランクまたはDランクの依頼しか受けられません。

 あそこにある掲示板に適正ランク別に依頼が張られているので、そこから自分の力量に合った依頼を受けてください。


 ランクを上げるには、一定数の依頼をこなして昇格試験というものを受けていただく必要があります。

 そちらの説明はまたその時期になりましたら改めて説明させていただきます。


 後、ギルドでは初心者の方へ様々な講習を無料で開催しています。冒険に躓いたりしたら受けに来てください。


 以上で説明は終了ですが、何かご不明な点や詳しく知りたい点はございますか?」



 ギルドの説明を聞いていて特に分からない所はなかったが、タグに関して気になったことがあったのでそれを聞く。



「このタグに刻まれている模様は何だ?」


「そちらは個人を識別するためのものとなっております。

 ギルドにある魔法具にその模様を翳すと、ランクや名前、どのような魔物を倒したかまで分かるようになっています」



 QRコードみたいなものかと納得する。


 この世界は不便なところ多いが、逆に元の世界よりも便利なところがあったりして驚かされることも多い。



「ユキ、あいつらの手続きが終わったようだ」


「質問することはもうないし、合流して依頼を決めよう」



 桐生達は掲示板の前で何の依頼がいいかもう吟味しているようだった。


 受付嬢にお礼を言って、私達もそこへ向かう。



 今は丁度依頼をこなしている時間なのか、掲示板の前は空いていた。


 大きな板に手のひらサイズの紙がびっしりと無秩序に張られている。



 二郎と桐生はそれを真剣に見ていた。



「何かいい依頼はありそうか?」


「ランクが低いから仕方ないけど、ろくな依頼がないわね。これ」


「Eランクは雑用ですし、Dランクはほぼ野草採取。子供のお使いレベルですね」


「下っ端の新人の仕事なんてそんなものだろ。

 ランクが上がれば魔物討伐させてくれるんだから」



 紙の内容を読まずに、ぴっと目の前にある一枚を掲示板から外す。



「どれも似たようなものなら、適当に選んでいいだろ。

 記念すべき第一回目の依頼はこれだ」



 紙に書かれていたのはマジックフラワーを五本納品する、という内容だった。


 マジックフラワーの外見は分からないが、五郎の鑑定があればいけるだろう。



「マジックフラワーですか。難易度としてはそこそこ高いですよ」


「じゃあ、やめといた方がいいか?」


「いえ、彼の能力使えばいけます。

 ついでに他にも依頼に使えそうな薬草をいくつか採ってきましょう」



 依頼は原則として一パーティにつき一つしか受けられない。



 私が五郎と一緒に冒険者登録をしている時に、二郎がパーティ登録もしてくれていたので、私たちは今後四人のパーティとして活動することになる。


 何故か私をリーダーとして登録したらしいが、どうせ飾りみたいなものだから気にしてない。



 リーダーとして紙を受付嬢に渡して、受注した証としての判子をもらう。


 その紙はきちんと四つ折りにして、ポケットにいれると見せかけて空間収納にしまった。



 そして、ギルドを出ようと出口を目指して足を進めると、目の前にぬっと太くて毛むくじゃらな足が通行を妨げてきた。



「おっと、ここは通行止めだぜ。通りたかったら通行料払えよ!」


「金がないって言うなら、そっちのねぇちゃんが俺たちの相手をしてくれてもいいけどな!」



 ゲラゲラとそう笑う男たちに私はこっそりとため息をつく。



 これまたテンプレな小悪党達だ。


 歩くたびにこういうのに絡まれないといけないのかと思うとうんざりした。



「華雪さん、始末しますか?」



 耳元で二郎が小さな声でそう聞いて来た。


 小声で確認してきたのは、私に対する配慮と一応人間社会の考え方に沿った結果なのだろう。



「人目がありすぎる。殺すのは流石に不味いだろ」


「では、いかがしますか?」


「穏便に気絶してもらおう」



 私がそう決めた途端、二人は揃って気絶した。


 やったのは桐生と山口だ。



 素早く流れるような動作で顎先に一発食らわせて、脳震盪を起こさせたようだ。


 桐生はともかく、つい数日前までただの高校生だった五郎まで何故できるのかと少し不思議に思ったが、多分二郎が教えたのだろうと納得した。



 うるさい男たちが黙ったのはいいが、さっきまで騒いでいた周りの奴らも静かになって、辺りはしーんとしている。



「・・・・・・・・・・・・行こうか」



 無言の空気とちくちくした視線に耐えられなくなり、そそくさとギルドを後にした。






 発行されたタグを門番に見せて一時外出の手続きをし、マジックフラワーが生えているといわれる森の中までやって来た。



 桐生の所の森みたいに暗くもなければ変な鳴き声が聞こえてくることもない、ごく普通の森だ。


 まぁ、魔物類が生息しているから厳密には普通とは言えないかもしれないが・・・・・・。



 二郎のどこが出所か分からない謎知識からマジックフラワーの特徴を詳しく聞き、互いに視界に入る範囲でばらけて探し始めた。



「青色の百合みたいな花か・・・・・・この辺にそれらしきものがないな」



 ガサゴソと草をかき分けて小さなものすらも見逃さないように探しているが、簡単には見つからない。


 五郎のように鑑定でもあれば苦労しなくてもすむのだろうが、生憎私にはそんな技能はない。



 死神もあんな無駄な能力つけるぐらいなら、有名な技能である鑑定ぐらいつければ良かったものを。



 ここにはいない死神に向かって少しだけ心の中で愚痴る。



「華雪ちゃん、見つかった?」



 ひょっこりと木の陰から桐生が顔を出す。



「いや、全然。桐生は?」


「私は一本だけ。山口に鑑定してもらったから、間違いないわ」



 そう言って、桐生はマジックフラワーを見せてくれた。


 その花の色は私の予想よりも青色が濃かった。



 自然な色合いではなく、人工的に色づけされたような色だ。


 しかし、大きさは普通の百合と同じだった。



「これがマジックフラワーか。綺麗だな」


「本当に綺麗よね。薬草として使うより花束として使いたいぐらい」


「少し多めに採っていって、後でフラワーアレンジメントしてみたらどうだ?そういうの得意だっただろ」



 桐生はその出生のゆえか、芸術方面の才能は高い。


 演奏できる楽器も多岐に渡るし、華道や茶道なども完璧にこなせる。



 本人曰く金持ちの道楽などと言っていたが、彼女の作品や音楽は密かに私のお気に入りだったりする。



「私が花束作ったら、加工して華雪ちゃんに渡すね。

 そのままだと置き場所がないから」


「楽しみに待ってる。

 が、あまり根をつめすぎて徹夜とかするなよ」


「分かってるわ。

 夜は華雪ちゃんを抱きしめて寝ないといけないから、徹夜とかはしないわ」



 私を抱きしめて寝るという部分が引っかかるが、桐生がちゃんと寝てくれるならよしとする。






 そんな調子でクエストにあった薬草を順調に集めていく。



 一番手際よく集めていたのはやっぱり二郎だった。



 森の中での任務から何かしらのノウハウを得ていたのか、人が通りにくい所を見つけては、手つかずの群生地から的確に薬草を採取していた。


 次に鑑定があった五郎が続き、桐生と私は同じぐらいの採取量だった。



 そろそろお昼ご飯の時間になりそうな上にそれなりのクエストを消化できそうだったので、きりのいい所で切り上げてギルドに戻る。



 そこまでの道中で大きい男達の波に流されてまた迷子になりそうになったのは秘密だ。



 五郎が手を繋いでいてくれてなかったら危なかった。






 ギルドカードを作ってくれた受付嬢の隣にある採集系クエストの鑑定を担当している窓口に並び、いくつかの依頼を並行して薬草を持ってきたことを説明する。


 そして、アイテムボックスからクエストが発行されている薬草類が入った布袋を取り出して机の上に置いた。



 すると量が多いのか、確認のため少々お待ちくださいと番号札を渡された。


 やけに近代的なシステムだと思いながら、札を受け取っておかれている椅子に座る。



 使い込まれているのかギィィと、あまり重くないはずの私が腰かけただけで悲鳴を上げた。



「・・・・・・見られてるな」



 傍に居る三人にだけ聞こえるような音量で唇を動かさずにそう呟く。



 今呟いた通りに、私達は見られていた。


 それは冒険者たちにもだが、より巧妙に見てきているのはギルド職員だ。



「そうですね。あからさまではないですが確かに見られてますね」


「さっきの件か?いまさら掘り返されても困るんだが」



 面倒とばかりにため息をつく五郎。


 私も同じ心境だ。



「それは違うんじゃないかしら。

 文句があるなら、その場で言えば良かったはずよ。


 見られているのは別件ね」


「あの豚達が何か仕掛けてきたと?」



 五郎の中々鋭い推理に二郎は首を微かに横に振る。



「それはありえません。

 対応が早すぎる上にこの私が小細工をしてきたのです。間違いなく私達を探そうとはしないはずです」



 どんな小細工をしたのか聞きたくなったが、今重要なのはそこではない。



 ギルド職員が作業の合間にちらちらとこちらを見ているのが問題なのだ。


 視線に敵意や殺意が混じっていないから緊急性はないが、見られていて気持ちのいいものではない。



「なら・・・・・・あっち関係か?」



 人外関係とは口にできず、言葉を濁す。


 それこそありえないと二郎は先ほどよりも分かりやすく首を横に振る。



「あっち関係でしたら、こうやって遠巻きに見ている必要はないでしょう。

 もっと即物的に拉致か殺しに来ているでしょうし」


「なら、何だろうな」


「断定はできませんが、危険ではないと思います。

 ですが、念のため私の傍を離れないでください」



 そこまで会話が終わると番号札に書かれていた数字を呼ばれた。


 二郎は私を片手で抱き上げると、受付に札を渡す。



「はい、番号札284番の方ですね。

 鑑定が終わりましたので、お呼びしました。


 今回は複数の採集クエストを同時進行とのことでしたので、遂行できたクエストの数だけ報酬金をお渡ししますね」



 受付の人は丁寧にどういうクエストでどれだけの報酬金が出たのか説明して、最後に合計の金額を二郎に渡した。


 それを後ろまで来ていた桐生も数えて問題ないことを確認すると、一つ頷く。



「あと、あるお方達が貴方達に会いたいそうで・・・・・・。

 二階の会議室で待っていらっしゃいますので、お会いしていただけますか?」



 見られていたのはこれが原因か?


 受付の口ぶりからすると偉い人・・・・・・貴族か何かが私たちに会いたいと言っていたから安全かどうか観察していたのか?


 道理は通っているし、嘘を言っている様子もない。



 じっと受付を見てから私を抱きかかえている二郎に視線を送る。



「分かりました。会いに行きます。二階の会議室ですね」


「はい、よろしくお願いします」



 少し意外だが、二郎は行くことに決めたようだ。



 どういう風の吹き回しだろうか。



「メリットとデメリットを考えただけですよ。

 会った方がメリットがあると判断しただけです」



 表情から私の考えを読んだ二郎はそう言った。






 私という荷物を抱えていても、欠片もその足取りは重くなることはなく彼は軽やかに階段を上る。



 二階はギルド職員の休憩ルームやら更衣室やらになっていた。


 そのうちの一つに会議室と書かれたプレートがぶら下がっている部屋を二郎がノックする。



 どうぞ、とどこかで聞いたことがあるような男の声が返ってきて、二郎は私を床に降ろして扉を開けた。


 押し扉のそれはゆっくりと開き、中の内装がわずかに見えたかどうかで――――――。



「えっ・・・・・・」



 とんっと後ろから軽く押されて私だけ先に部屋に入れられる。


 どういうことだと後ろを振り返るよりも先に私に勢いよく何かがぶつかってきた。






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