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赤のケッツヒェン~邪神の思惑が絡む世界で~  作者: たきしむ
第一章 ユーバー・ヘ・ブリヒ王国編
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第十三.五話 口には出さないけど

 





 俺の名前は山口五郎。


 剣道部主将という肩書がなければ一般の学生と変わらないただの男だ。



 そんな俺はとある女に恋している。



 彼女の名前は東雲華雪。


 そいつは普通からはかけ離れた存在だった。



 髪はペンキをぶっ掛けたような鮮やかな赤。


 瞳はグリーントルマリンが嵌っているように澄んでいる。


 体は同級生とは思えない程小さく、俺がちょっと力を入れたら折れてしまいそうなほど細い。



 俺は人によっては不良幼女にしか見えない彼女に、俗にいう一目ぼれというものをしたのだった。






 きっかけはごく普通の何気ないことだ。



 体育の授業の時に外でサッカーのゴールキーパーをやっていた時に、中々ボールが来なくて暇だったので、ふと校舎の方を見た。


 そうしたら、窓の向こうから空を見ている彼女がカーテンの隙間から見えたのだ。



 はっきりと顔を視認できるほど近くなかったが、その一瞬見えた横顔に見事胸を撃ち抜かれた。






 授業後にクラスメートに特徴を言ってどこの誰かと尋ねたら呆れた顔と共に様々な情報をくれた。



 彼ら曰く、彼女はこの学校で知らない人はいないと言われるほど有名な存在だったらしい。



 目立つ見た目に行動も不良そのもの。


 そのくせ成績優秀で教師からは怒りにくいとぶっちぎりで嫌われている。


 いつも一人で同じ学年の奴らにはハブられている。


 などなど基本的な個人情報と共にそういうことを教えてもらった。






 それからの行動は早かった。


 昼休みになるのと同時に俺は彼女の在籍している学年の階―――二年生の階に行き、彼女が在籍しているクラスに特攻したのだ。



 教室と廊下の境目を担っている引き戸を乱暴に開け、中に入る。



 本当なら無断で教室に入るのは誰かに咎められても仕方のないことだが、俺のつけているネクタイの色から三年生だと判断し、誰も注意することなく遠巻きで見守るだけだった。



 この学校では男はネクタイ、女はリボンをつけることを校則にしていて、今年度の三年生は青色のものを二年生は赤色を使用することになっているのだ。



 ざわざわとざわつく教室内だが、肝心の彼女は我関せずと鞄から出したカロリーメイトをもそもそと食べていた。


 見ている方向はあの時と同じ雲一つない青空だ。



 俺は彼女の席の前まで行くと、少し緊張しながら話しかけた。



「よう、さっきも空を見ていたが、そんなに今日の空は綺麗か?」



 彼女はそこで初めて俺の存在を認識したようで、目を見開きカロリーメイトをぽろりと落として空から俺に視線を向けた。


 自分を見るその瞳に歓喜と何故か懐かしさが湧き出て、言葉を失った。



「・・・・・・ここは三年生の教室ではないはずですが?」



 女にしては低いが、男の俺よりは高い耳障りのいいアルトの声が小さな彼女の口から紡ぎ出される。


 もっとその声を聴きたいという欲求に抗うことなく俺は言葉を続けた。



「お前に用があって来た」


「わざわざ学校でも疎まれているらしい私に何の御用でしょうか?

 先輩ならば私でなくとも手伝ってと言えばいくらでも人は捕まるでしょう」


「いや、お前じゃなきゃ駄目だ」



 こうやって話しているだけでも感じたことない感覚が体中を走り抜ける。


 それは不快なものではなくある種の麻薬にも似た快感で、彼女なしでは呼吸すらできないと悟らせるのには十分だった。



 シャーペンのように細く、一度も陽の光に当たったことのなさそうな白い指が机の上に落ちたカロリーメイトを拾い上げる。


 一口齧っただけのそれを箱に戻すと、体ごと俺の方を向いてきた。



「私はご存知の通り、この学校では有名な問題児です。

 貴方のような将来有望な方がこんな私に何のお願いでしょうか?」


「手始めに一緒に飯を食ってくれ」



 いきなり付き合ってくれとは言えなかった。


 彼女にしてみれば俺は会ったこともない先輩でしかない。



 まずは少しずつ距離を詰めてから告白しようと、普段は使わない脳みそをフル回転させて考えた。



 彼女は他にも人がいるでしょうとかもっともらしいことを言っていたが、腕を引っ張って強引に連れて行けば口を閉じた。






 そこから俺のアプローチは始まった。



 昼食の誘いに始まり、放課後遊びに連れ出し、授業の間の短い休み時間でも彼女の行動を把握して会いに行った。


 嫌がるそぶりは見せないが積極的に俺に絡みに来るわけでもないという微妙な距離を保ち続ける彼女に、俺はいつの間にか嫌われて表面上でしか対応されてないのかと思ったことも一度や二度ではない。


 だが、思い切って俺のことが嫌いなのか聞いた時に嫌いだったら昼飯も付き合わないと返されて、その日は嬉しすぎて寝れなかったほどだ。











 それだけ俺は彼女に惚れこんでいる。


 だからこそ、異世界に来て少々首を傾げたくなることがあっても、彼女の意思を尊重して聞きたいことも聞かなかった。


 気になるのは気になるが、それで彼女を傷つけるよりはマシだと自分に言い聞かせているのだ。



 しかし、これは流石に聞いてもいいだろう。



「おい、どうしてそいつが俺と瓜二つの姿をしているんだ」


「へっ!?あっ!!二郎!!お前、能力使ってないのか!?」



 華雪が焦ったような顔で彼を見た。


 彼女が呼んだ名前はあの気に食わない男のものだ。



「こういうのは早く話した方がいいでしょう?

 だからといって外で話せるものでもなかったので、今になってしまいましたが」



 現在、俺たちは宿に男女別で部屋をとって、今後について話そうとか言って男部屋に四人集まったところだ。


 俺と二郎がベッドに座り、華雪達は部屋に備え付けられていた椅子に座った。



 そして、さて話そうかという時になり、二郎が俺の方を向いてにっこり笑ったかと思うと、次の瞬間には俺と同じ姿をしていたのだ。


 ただ、彼は俺とは違い胡散臭い笑みをその顔に張り付けていた。



 同じ顔でその表情は勘弁してほしいものだ。



「いやいや、前振りも素振りも何もなかっただろ!!

 話すなら私にあらかじめ言っておいてくれないとどう説明するか迷うだろ!!


 ああああ!!どうしよう!!どう言い訳すれば・・・・・・」



 綺麗に整えられている赤い髪を両手でガシガシと乱しながら華雪は机に突っ伏す。



 やはり触れてはいけない話題だったかと、これ以上深く聞くことをすぐに諦める。


 自分の好奇心よりも大事なのは彼女を傷つけないことだ。この様子では、無理やり聞き出したりした日にはまた泣かれる。



 他の誰が泣いていても気にしたことはないが、華雪が泣くとどうしたらいいか分からない。


 何よりも心臓が締め付けられるように痛んで不快だ。



 朝の一件は不可抗力とはいえ泣かせていたので、せめて今日はこれ以上泣かせたくない。



「華雪」



 俺は彼女の名前を呼ぶ。



 できるだけ柔らかい声を出したつもりだが、それでも彼女の肩はビクッと跳ねる。


 そろそろと顔を上げて難しい顔をしながら俺を見つめる。



 まるで判決を待つ罪人のようだ。



「世の中には三人、同じ顔をした奴がいると聞く。

 ここは異世界だから同じ顔をした奴を見ただけで一々驚いたりはしないさ。


 俺を気遣って今まで何かの能力で姿を偽ってくれていたんだろ?」


「えっ・・・」


「今、本当の姿を見せてくれたってことは、二郎が俺をちゃんと旅の仲間として認めてくれたってことだ。


 だから、能力を解いたんだろ。なぁ、二郎?」



 話を合わせろと彼を睨みつけると、薄く開いた瞳に面白いという感情を乗せて俺を見返してきた。



「五郎さんの言う通りですよ。

 私は一緒に旅をする人にずっと偽りの姿を見せ続けたくないですからね。


 華雪さんに相談しなかったのは悪かったと思ってますが、彼も納得したことですし結果オーライじゃないですか」


「で、でも・・・・・・「山口が納得したならこの話は終わりね。明日からの予定について話すわよー」」



 何か言いたげな華雪を遮り、桐生が話を変えた。



 それでもなお話そうとする彼女を俺は膝の上に抱き上げる。


 乱れた髪を整えるように頭を撫でてやった。



「他に事情があるなら、お前が話してもいいと思えるタイミングで話せばいい。

 俺はそれまでちゃんと待っててやるから」


「・・・・・・一生話す気はないと言ったらどうするんだ?」


「それはそれで仕方ないだろ。

 誰にだって言えない秘密の一つや二つぐらい抱えているものだ。

 それを無理やり聞き出すような趣味は持ってない」



 華雪はしばらくあーだのうーだの唸っていたが、やがてごめんとだけ小さな声で謝ってくる。


 俺は気にするなと言って、彼女を椅子に戻した。






「じゃあ、これからのことについて本格的に話すわよ」



 空気が普通に戻ったところで、桐生を中心に話が進む。



 俺はこの国から出てその後適当に暮らせるような仕事を探せばいいというざっくりした予定しかなかったが、彼女はそれなりに今後について考えていたようだ。



 彼女が懐から出した地図によると、この国―――ユーバー・ヘ・ブリヒ王国に隣接している大国は二つ。


 一つはここと同じように国王が治めるフェアティー・フング王国。


 もう一つはイアー教とかいう宗教の教皇が治めているクトゥ・ボーテネ教国。



 距離的にはここからどちらも同じぐらいの距離らしいが、二郎も華雪もフェアティー・フング王国にすると即決していた。



 何がそんなにその国がいいのか分からないが、特に反論する理由もないのでそれでいいとだけ言った。






 そんな感じですぐに終わり、華雪と桐生の二人は自分たちの部屋に帰った。


 残っているのは、この数分で元々低かった好感度が更に急降下した二郎だけだ。



 俺と同じ顔でにっこりと笑いかけるそいつにイラつきを覚えた。



「聞かなくて良かったんですか?」


「あ?何をだ?」


「私に関することですよ」



 折角気にしないようにしていたことを掘り返すとは、なかなかいい性格をしていやがる。


 俺も人のことを言えるような性格ではないが、こいつの性格の悪さは遥かに上をいっている。



 ここでキレれば奴の思うつぼだし、予想通りの反応を見せたくなかった俺は素直に本音を口にすることにした。



「お前がどういう姿をしていようがどうでもいい。

 確かに、俺とまるっきり同じ姿なのは驚いた。が、それだけだ。


 何の理由があるかは知らねぇが、華雪を傷つけるぐらいなら聞かなくていい」


「・・・・・・本当に彼女のことが大切なようで」


「ああ。大切だ。何よりもな」



 二郎は薄目を開けてじっと俺を見つめていたが、やがて彼の中で何か納得したのか一つ頷くとベッドに入った。



「明日、朝四時」


「あ?」


「私が一対一で鍛錬に付き合います。

 だから、四時には起きて身支度を整えておいてください。


 今のままでは足手まといですから」



 それは俺も実感していたことだ。


 今の俺ではきっと華雪にすら勝てないだろう。



 守りたい女に守られるなんて本末転倒もいいところだ。


 だから、二郎の申し出はありがたかった。



 彼の実力の一端は決闘で見ているので、その辺に不安要素はない。


 性格の悪さは鍛錬には関係ないから、それなりにいい相手になりそうだ。



「手間を掛けさせるがよろしく頼む」


「ボロ雑巾になるまでしごきますからね」


「望むところだ」



 そんな宣言をされても俺は怯むことはなく、ただ次の日に備えて早く寝た。



 翌日、有言実行とばかりに本当にボロ雑巾のようになるまで痛めつけられて華雪に心配されたりするなんてこの時の俺は思いもしなかった。






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