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赤のケッツヒェン~邪神の思惑が絡む世界で~  作者: たきしむ
第一章 ユーバー・ヘ・ブリヒ王国編
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第十二話 ザウアー・シュ・トッフ

 





 その町は確かに栄えていた。



 大通りには人が満ち溢れ、活気づいた声がそこかしこに飛び交う。


 そんな中を私たちは歩いていた。



「まずは王道に武器屋でも行ってみますか?」


「賛成。私、武器見たいもの」


「私も別に武器屋で構わないが」


「俺もそれでいい」



 二郎の提案にみんな異論はない。


 というわけで、最初に武器屋に行くことにした。



 この町の地図も頭に入っているのか、二郎はすいすいと人の波に逆らって淀みなく歩いていく。


 その後をきょろきょろしながらついていく私は、迷子になりそうとのことで五郎に引き続き手を握られていた。



 完璧に子供扱いだが、見た目がこれなので仕方ないと諦めている。






 人ごみに揉まれること数分、ボロイ看板のかかった店の前に着いた。


 看板の文字は掠れていたが、かろうじでドワーフ・シュタールの店だと書いてあることが読み取れる。



 ドワーフと言えば、ファンタジーではお馴染みのひげもじゃな小人のおっさんという見た目をしており、性格は頑固というイメージだが、それはここでも同じなのだろうか?


 正解は店内にて、と下らない事を考えながら店内に入った。



 店内は外観と同じぐらいくたびれているが、掃除はちゃんとされているようで埃っぽさとかはなかった。


 所狭しとさまざまな種類の武器が陳列棚に置かれている。



 カウンターにはイメージ通りのおっさんが座っていた。


 私たち以外には客が居なくて静かだ。



 おっさんは私達を一瞥すると、鼻を鳴らす。



「ここはガキが来るところじゃねぇ。冷やかしなら帰りな」


「ガキでも冷やかしでもありませんよ。私と彼女たちの武器を売ってください」


「はっ、お前ら若造ごときじゃ俺様の武器は使えこなせねぇよ。

 分かったら木の棒でも拾ってチャンバラごっこでもしてな」



 こういうところまでイメージと一緒にしなくてもよかったんだけどなぁ。


 頑固なおっさんを説得するのは骨が折れる。



 と、ここで二郎がカウンターに何かを乗せた。



「これでいかがでしょうか」



 何を出したのか興味が湧いたので、ひょっこりと二郎の後ろからカウンターの上を除く。


 そこには大きな熊の首が鎮座していた。


 首を撥ねられたらしく、綺麗な断面が氷で凍らされていた。


 これでこのおっさんが納得するのか?と私は首を傾げたが、それは杞憂だったようだ。



 おっさんは目を見開いて、



「これは危険度Aランクのサンダー・グリズリーじゃねぇか!

 どうやって倒したんだ!?」



 彼の言っている危険度ランクというのは、魔物を総合的な能力で判定しているランクのことで、単純に攻撃力だけで判断しないのは生態によって攻撃力なんかよりも厄介な性質が備わっている場合が多いからだ。



 例えば、かの有名なオークという魔物は危険度ランクでいえばCだ。


 だが、他のCランクの魔物に比べると攻撃力は低く、他に特殊な技が使えるわけでもない。


 攻撃力だけならばランクはDが妥当だ。



 にもかかわらず、オークがCランクなのは人間の女を攫って孕ませるからだ。


 その性質こそオークのランクを一つ上げている要因になっている。


 他にも物理攻撃が全く効かないだとか、姿がほぼ見えないだとかいう性質を持っている魔物も確認されており、そういうのはどれも高ランクとなっている。



 で、二郎が出した熊の首・・・おっさん曰く、サンダー・グリズリーという魔物は危険度Aランクらしい。



 危険度Aランクになると、攻撃力がBランクまでの魔物と比べ物にならないぐらい跳ね上がり、一体のAランクの魔物がいれば国が半壊するとか。


 このレベルの魔物を倒せるのは世界に百人いないとも言われている。その百人未満もパーティーを組み、何人かで討伐にあたる。


 盾役とか魔法使いとか回復役とかポジションをわけ、時間もかなりかけてようやく勝てるらしい。



 だが、二郎の手にかかったら桐生の喧嘩の相手をしながら一人で短時間で狩れるレベルの弱さってことだ。


 なんか、熊がかわいそうになってきた・・・・・・。



「この鮮やかな切り口を見れば分かるでしょう?もちろん、剣でですよ。


 しかし、その熊との戦闘で剣が折れてしまいましてね。

 ここで調達したいと思った次第ですよ」


「なるほど、な。

 この熊を倒せるぐらいの実力を持つパーティーなら、俺様の武器も使いこなせる。


 お前たちを客として認めよう。どういう武器がいいか言ってくれ」



 いえ、その熊を倒したのは彼一人です。



 とは言わずに、黙って二郎の嘘に乗る。


 ここでそんなことを言い出したらややこしくなることが火を見るよりも明らかだからだ。



 それは桐生も五郎も承知しているようで、反論するようなことは言わずにそれぞれ武器を物色する。



 私は短剣のコーナーに行った。


 いきなりロングソードみたいなものを持っても腕力がなくて使いづらいし、そこを魔法で補ってもこの身長だと振り回しづらい。


 必然的に短剣程度の短さの武器しか選択肢がないわけだ。



 しかし、武器の良し悪しを気にしたことがないので見てもどれがいいのかさっぱりだ。


 武器などそれなりに使えて、次に仕入れるまで壊れなければいいという認識しかなかった。


 下手すると、使い捨てだ。



 そもそも、私が武器に求めるのは攻撃力よりも隠し持つのに最適であるかどうかだ。


 武骨なサバイバルナイフよりは、今持っている折り畳み式のナイフのほうがずっと持ち運びやすい。


 そういう観点からしか武器を見ていなかったのに、いざ攻撃力で選べと言われても迷う。



 むむむと腕を組みながら悩んでいると、二郎に声をかけられた。



「私と一緒に選びましょう?」


「すまん・・・・・・その、武器をちゃんと選んだことなくてな」


「分かってますよ。こういうのは私に任せてください」



 二郎はニコニコと短剣の棚を見回すと、手慣れた手つきで一本の短剣を私に渡す。


 それを受け取って手に持つ。



 重くなく、かといって軽すぎて振りづらそうでもなく、絶妙に手の感触にマッチしていた。


 鞘から抜いてブンブン振ってみるといい感じだ。



 短剣というよりはナイフに近く、細身ながらも厚みのある造りになっている。


 全長三十センチぐらいの短剣は小さい私の手にも収まりがよく、貨幣価値を未だに知らないが、他のものと比べて極端に高額な値札がついているわけでもない。



 二郎が選んだのなら一・二回使った程度で壊れるほどちゃちな代物でもないだろうし、この短剣にしようと決めた。



「どうですか?華雪さんの手に合わせて選んでみたのですが」


「振り回しやすいし、重くも軽くもなくて丁度いい。

 二郎に選んでもらって正解だった」


「杖はここでは買えませんが、他の武器ならそれなりにありますよ。他に欲しいものはありますか?」



 そう聞かれて首を横に振る。


 この短剣を買ってもらえるだけで十分だ。



「本当に無欲な方ですね。それに比べて・・・・・・」



 ちらりと二郎が視線を向けた先には桐生が色んな武器を積み上げていた。


 剣だけでも大小十本近く、他にも弓やハルバード、果てにはモーニングスターまで混ざっている。



 どうやら、あれを全部買う気らしい。


 隣に並んで剣を見ていた五郎は俺には関係ないとばかりに他人の距離感を貫いている。



「えっと、な。桐生も強欲だからあれだけ積み上げているわけではなくて、だな・・・・・・」


「分かってますよ。ちゃんと起こり得る事態を想定した上で、その時に適切に使用できる武器を選んでますから」



 しどろもどろながらも桐生を庇う私にため息をつきながらも理解を示してくれる二郎。



 私にはなんであんなに武器が必要なのか分からないが、一緒に仕事していた二郎には理解できるらしい。


 流石、その道のプロだ。



 五郎は見終わったのか、こちらに戻って来た。



「あの様子じゃまだまだ桐生の買い物は終わらなそうだぜ」


「女性の買い物は長いといいますし、長い軟禁生活でストレスも溜まっていたのでしょう。

 ここは一つ、私たちが我慢するべきではないかと・・・。


 暇になったのでしたら、華雪さんと一緒にちょっと市場をぶらついてきたら如何でしょうか?

 小遣い程度ですがお金も渡しますし」


「そうする。ついでに何か軽食も買っておくから、その分の金ももらえると助かる」



 二郎は小遣いというには多そうな額が入っている袋を五郎に渡し、簡単にこの世界の貨幣について説明してくれた。



 金貨・銀貨・銅貨・石貨の順で価値が高く、これらの硬貨をこの間までいた場所の価値に直すと、石貨の価値が大体十円ほどで銅貨が百円、銀貨が千円、金貨が一万円ぐらいの価値となっていく。


 その上に魔金貨という一枚で百万円ほどの価値があるものもあるらしいが、持っているのは極僅かな貴族または大商人と言われる奴ら、後は国の金庫ぐらいにしか存在してないので、その辺の店では手軽に使えない。



 ちなみに銀貨一枚が、贅沢しなければの成人した人間の一か月の生活費に相当する。


 更にいうならば、軽食は大体石貨一枚から高くても三枚で買えて、ちゃんとした食事をレストランで食べるなら石貨五枚から取られるらしい。



 そこを踏まえて五郎の持っている袋を見てみると、金色に輝く五百円玉ほどの大きさのコインが十何枚と入っている。


 私の見立てが間違ってなければ、これは銅貨でも銀貨でもなく金貨に属する硬貨ではないのだろか?



「あまりじゃらじゃらと持ち歩くと悪目立ちしたり盗難に遭いそうなのでちょっとだけにしました。

 まぁ、それだけあれば四人分のご飯とちょっとした買い物ぐらいはできるでしょう」


「馬鹿か。こんな大金持ち歩けるわけないだろ。

 銀貨を何枚か渡せ」



 やはり、二郎が五郎に渡したのは金貨だったらしい。



 二郎も変なところで常識がないからなと内心苦笑した。



 彼は金貨の代わりに銀貨を渡し、私だけに聞こえるようにしゃがんで耳元で囁いてきた。



「彼と楽しんできてくださいね。桐生さんは私が見ておきますので」


「えっ、でも・・・・・・」


「私一人いれば事足りますから。

 華雪さんは久しぶりに彼の隣を歩いてきてください」



 ね?と言われてしまえば、私も待ってるとは言えない。


 二郎の言葉に甘えて五郎と市場をぶらつくことにする。



「美味しそうなご飯を買ってくるから、期待して待っててくれ」


「はい。期待して待ってます。


 何かありましたら私の名前を呼んでくださいね。すぐに行きますので」


「五郎がいるからそんな事態にはならないと思うんだがな。

 まぁ、本当に困ったら呼ぶ」



 内緒話は終わったのか、私の手から会計してない短剣を抜き取ると、いってらっしゃいませと頭を下げられた。



「話が終わったなら行くぞ」


「ああ。待たせたな」



 律儀に待っててくれた五郎の手を再び握り、私たちは外に出た。






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