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赤のケッツヒェン~邪神の思惑が絡む世界で~  作者: たきしむ
第一章 ユーバー・ヘ・ブリヒ王国編
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第九.五話 深夜の宝物庫

 





「はぁー。あそこでチョキを出していなかったら、きっと今頃は華雪ちゃんとフカフカベッドでゆっくり寝れていたのに。

 二人っきりで!」


「うるさいぞ、桐生。さっさと終わらせて帰ればいいだろ」


「しかも、こいつと二人でコンビを組まされるとか・・・不運だわ」



 草木も寝静まる丑三つ時。


 見回りの警備兵以外はいないであろう廊下を歩いているのは、この国の災厄の魔女と名高い桐生と、クラスまるごとトリップだった予定なのに運悪く(意図的に)巻き込まれてしまった五郎の二人だった。



 何故、この二人が真っ暗な廊下を歩いているかと言えば、話は少し前に遡る。











 決闘が終わった後華雪たちは桐生の部屋に帰り、有言実行とばかりに二郎が腕によりをかけて四人分の夜ご飯を作り、みんなで楽しく美味しく食べた。



 その後、順番に風呂に入る流れとなり、華雪が一人で入浴した時のことである。



「明日の早朝にはここを出て行きましょう」



 特に前触れもなく、二郎は食後の片付けをしながらそう言った。


 桐生は分かったわとだけ頷いたが、寝耳に水状態の五郎は、はぁ?と間抜けな声が口からもれた。



「どうしてこの国から出て行くんだよ」


「今日の件で少々私が注目を浴びてしまいましたし、それに何よりも華雪さんを地下牢にぶち込むような所には一分一秒たりとも居たくありません」


「それは同感だが、ここから出て行ってあてはあるのか?」



 今日の一部始終を見て、華雪の扱いが悪いことぐらい五郎にも理解できた。


 だから、二郎がグリーを殺したことも気にしてなかった。


 そもそも五郎自体がこの国を嫌悪している。



 やたらとくっついてくる香水臭い女《姫》に、何かとうっとしい視線を送ってくる奴らもいるし、国王達の品定めをするような態度も気に食わない。


 それこそ、五郎だってあてがあれば、華雪を連れて国外逃亡をしていただろう。


 魔王なんかこの世界の人間で片をつけてくれというのが彼の本音だ。



 ここで勇者モドキをやっていれば、そのうちほかの国とつながる機会もあるだろうと五郎にしては長期的なプランを頭の中で立てていた。


 流石に、今までの常識が通用しなさそうな見知らぬ世界に飛び込んでいかないぐらいの脳みそはあったようだ。



「あてはありませんが、先立つものなら用意できますよ。

 この国の宝物庫からちょっとお金になりそうなものを拝借して、近隣の町で売り捌くんです」



 それ、犯罪じゃね?と欠片でも思えるただ一人の人物であった華雪は入浴中であった。



 普通の学生生活を送っているはずである五郎は犯罪と思うどころか、その手があったかと言わんばかりの食いつきである。


 桐生は元々このプランを聞かされているから動じることはない。


 世の中は綺麗事では生きていけないと身をもって知っていることも関係しているが。



 華雪は人間の生死にかかわる部分がイカレてしまっているだけで、その他は常識的な部分も多い。


 しかし、神話生物である二郎はそんな倫理観はないし、桐生も前世の時に色々と悪事と言われるようなことに手を染めていたせいで、今更泥棒ごときでは罪悪感が湧くはずもない。


 一番まともであるはずの五郎は、人を世界を超えて拉致した奴らを自分と同じ人間と見做みなせる程、博愛精神に満ち溢れてなかった。



 それに、人を意味わからない魔王退治と称してこき使うなら、対価としてそれなりの金銭は渡すべきだろうと思っていた。


 ちなみに今現在、衣食住をまかなってもらっているが、拉致した側としては保障するのは当たり前だと彼の頭の中ではなっている。



 結果として、全員が宝物庫からお宝をパクっていいじゃね?という結論に達していた。






 そこからは早かった。


 誰もが華雪に見られたくなかったので、迅速に役割分担を決める。


 五郎も協力するので、本来だったら一人留守番で一人が宝物庫に行くところを、二人で宝物庫に行くことになった。



 と、そこで問題になったのは誰と誰が宝物庫に行くかだ。



 この部屋から二人がいなくなるということは、短い時間だが華雪と二人っきりになれるということ。


 三者三様に愛の名前や形こそ異なるものの、それぞれ華雪のことを愛している者としては、こんなビックチャンスを見逃すわけにはいかない。



 話し合いでは永遠に決まらないし、華雪が戻ってくるまで時間がないのもあって、じゃんけんで決着をつけることになった。


 これならばイカサマもまずできないし、早く結論が出る。


 三人はこれ以上ないぐらい闘気を高め、じゃんけんに全力を注いだ。



 結果から言うと勝ったのは二郎だった。


 の動体視力をもってすれば勝利することはまず間違いなかったが、それでも桐生も二郎も粘った。あいこが約三十回ほど続いて、ようやく二郎は勝利したのだ。


 束の間勝利の余韻に浸っていたが、華雪が出てくる前に二人には出て行ってもらわないと困るので、とっとと二郎は桐生達を追い出した。



 ここまでが少し前に起こったことである。











「あー。本当にやる気が出ないわー」



 桐生は緊張感なんて部屋に置いて来たようで、顔に分かりやすくめんどいとデカデカ書かれているまま、宝物庫の扉に手を翳す。


 魔法式が見える桐生にとって、宝物庫を守っている結界の術式を書き換えるなんて朝飯前である。


 自分と五郎が通っても問題ないように書き換えると、ゴゴゴォと重たい扉が自動で開いた。



 ここまで大きい音を出したら、見回りの兵がやってくるのではないかと心配している人もいるだろうが、そこは大丈夫だ。


 消音の結界を桐生が周りに張っているため、どんな大きい音を立てても外にもれない。


 だから、さっきも廊下で言い合いができたのだ。



 中に入ると、自動で扉が閉まり、壁につけられていた照明がついた。


 蝋燭の明かりよりも明るいそれはマジックアイテムの一つだ。



 蛍光灯に近い光に照らされた部屋は、金銀財宝でぎっしりだった。



「随分、私腹を肥やしているみたいね。

 魔王関係でどこもお金がないっていうのに」



 桐生は呆れながらも、補助魔法系・初級アイテムボックスで金目の物をポイポイ入れていく。



 この魔法は初級だから使いやすい部類だが、入る量や時間の流れの設定などが魔力量によって決められるので、普通の人間の魔力量ではせいぜい華雪が持っていたカバンぐらいの性能しか発揮できない。


 しかし、桐生は魔力量はけた外れに多いので、容量を気にすることなくモノを入れることができる。



「見た目だけではなくて財布も肥え太っているってわけか。

 それなら、尚更遠慮はいらないな」



 五郎は鑑定の能力を使い、良さそうなものをこれまたアイテムボックスに詰めた。



 桐生は昔培った審美眼と持ち前の勘で、五郎は鑑定の能力で貰って行っても良さそうなものを見分ける。



 黙々と無言で作業していると、桐生が手を止めないまま、五郎に話しかけた。



「ねぇ、本当に私たちと一緒にここから出て行っていいの?」


「なんだ?ここまでやらせといて、やっぱり一緒に連れていくわけにはいかないとかいう気か?」


「そうじゃないわ。でも、ここから出て私たちと一緒に来るっていうのは、きっと貴方が予想している以上に大変な目に合うわ。

 だから、引き返すならここが最後よ」


「阿呆か。俺は東雲の傍に死ぬまでいる。

 あいつと初めて会った時にそう決めたんだ。


 たとえ、何があったとしてもな」



 二人はいつのまにか手を止めて、見つめあっていた。



 五郎の瞳に嘘偽りはなく、それどころか強い意志を感じ取れる。


 記憶がなくともそんな目ができるのかと密かに桐生は驚いていた。



 今は()()()ほど武術に秀でているわけでも、人の汚い欲望とか思惑とかを見てないだろうに、それでも華雪の傍にいた時と同じ目をしていて、同じセリフを言っていた。



 それがなんだか面白くて、桐生は笑ってしまった。



「・・・・・・っ、あははっ!本当に人って面白いわね。

 どれだけ月日が流れても、記憶がなくとも、魂が一緒ならば同じような選択をし、同じように生きるのだから」


「それって、どういうことだ?」


「ほら、手が止まっているわよ!

 ちゃっちゃと金目を物をパクって華雪ちゃんの所に戻るんだから。


 山口・・も一緒にね」



 雑に会話を切り上げて、その上さりげなくあの時と同じ呼び方をする桐生。


 はぐらかされたことには気づいたものの、これ以上聞いてはいけないと野生の勘が告げていたため、五郎は深く追及しなかった。



 とりあえず、自分も一緒に行っていいという許可をもらえたことに安堵しながら、再び宝の山に向き直った。






 そこから一時間ぐらい経過した。



 時折世間話のように華雪のことを話しながら、二人はあらかた宝物を自分のマジックボックスに入れ終える。


 後に残るのは一点もので売ったら足が付きそうなものと、呪わている美術品とかだ。



 ほぼ空となった部屋の中央で、二人は腕組をしながら一本の刀を見ていた。



 この世界では刀というのはマイナーな武器だが、なくはない。


 実用性よりも観賞用に比重を置いているせいで、武器として使えるのはほぼないが。



 宝の山の下から出たきたその刀は一見して普通の刀だ。


 華美な装飾がほどこされているわけでもなければ、鞘が金銀で作られているわけでもない。


 しかし、五郎の鑑定により、その刀はただの刀ではないことが判明した。






 名称:???の刀   所有者:山口五郎   製作者:藤堂


[説明]藤堂が作った刀。製作者の藤堂が仕方なく、そう仕方なく山口五郎のために作った。


 使用できるのは東雲華雪が大切に思っている者と作った本人だけ。

 所有者が山口五郎なのは、どう考えてもメンバーの中で一番弱いから。


 魔力が付与されているため、神話生物相手でもダメージを与えられる。


 残念なことに呪いとかはかかってない。






 五郎から説明を聞いた桐生はため息を一つついた。



「危険なものじゃないからもらっておきなさい。

 役には立つと思うわ」


「俺のためにつくられたとか色々ツッコミたい所はあるが、聞いても教えてくれないんだろ」


「また今度機会があったら教えてあげるわ。今日は疲れているから駄目」



 また空気を読んだ五郎は口を噤んで刀を腰に差した。


 初めてぶら下げるはずなのにしっくりくる。



 試しに刀を抜いてみると、まるで長年使っているみたいに手によく馴染んだ。


 二・三回素振りをしてからまた鞘に戻す。



「使い勝手のいい武器が手に入ったと今は納得しといてやるよ」


「そうしてちょうだい。


 あーあ。これは二郎にも言わないといけないわね。

 面倒事ばかり増やしてくれるわ、全く」



 最後の最後に藤堂によるドッキリがあったものの、おおむね予定通りに欲しいものは手に入れた二人は宝物庫から出る。



 そのまま帰ろうとしたところ、何を思いついたのか桐生が宝物庫の扉にあくどい笑顔を浮かべながら魔法陣を弄った。



 五郎が何をしてるんだと聞いても首を横に振って答えない。


 しかし、その表情から、さぞこの国に迷惑がかかるようなことをしているんだろうなと考えた五郎は、黙って作業が終わるのを待った。


 やがて魔方陣を弄り終わった桐生はほくそ笑んだ。



「せいぜい、慌てるがいいわ」



 おーほっほっほっほっ、と高笑いする魔女がいたと五郎は後に語る。






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