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赤のケッツヒェン~邪神の思惑が絡む世界で~  作者: たきしむ
第一章 ユーバー・ヘ・ブリヒ王国編
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第九話 烈火の剛腕の実力

 





 いちいち小競り合いを挟まないと会話ができない病にかかっている三人がようやく落ち着いたのは、もう決闘が始まる十分前のことだった。



 決闘に遅れると失格になると桐生が言ったので、急いで指定された訓練場に向かう。






 訓練場に着くと、そこにはもうグリーが待っていた。


 邪魔にならない位置にクラスメート達も座っている。あとは担任とグラハムがその横に立っていた。


 どうやら、見学をするようだ。



 彼らは一様に私たちを見るとこそこそ話をする。内容は詳しく聞こえないが、どうせろくでもないことだろう。



 視界に収めていても不愉快でしかないので、彼らの方はちらりと見ただけでグリーを見ることにした。



 彼の格好はさっき見たものと違っていた。


 量産品だった鎧は彼の私物だと思われるプレートアーマーに変更されているし、何よりも目を引いたのは両手に着けられてるガントレットだった。


 それは真っ赤なドラゴンが腕に巻き着くような装飾が施されており、いかにも自分のためにつくりましたという雰囲気が出ている。



 桐生から聞いた二つ名通りだとすれば、このガントレットが何かしらの魔法の媒体になっているのだろう。



「逃げずに来たようだな」


「ええ。貴方との決闘で勝利し、あの愚かな男に一時の地獄を見せないと気が済みませんので。


 あの男を渡していただければ、決闘なんてしなくていいのですよ?

 私はあくまで合法的にあの男を心も体も抹殺できればいいのですから。


 戦闘狂でも拷問狂でもありませんし」


「あんなのでも一応俺の部下だ。俺が負けたら好きにすればいいが、俺が勝ったら大人しく手を引いてもらおう」


「おや?私が負けても命までは奪わないとか甘いことを言うのですか?」


「グラハムは騎士団じゃ五本の指に入るほど強者でな。

 そんな男の腕をへし折るような奴を殺すのはもったいないだろ。


 お前が負けたら、この国の騎士として俺の下で働いてもらう。命まではとらないなら安いもんだろ?」



 彼がグラハムの代役を引き受けたのには、二郎をこの国の騎士として勧誘するという裏があったようだ。


 見た目はただの戦闘狂脳筋バカにしか見えなかったが、案外色々考えているらしい。



「命の代わりに忠誠ですか・・・・・・。


 私が仕えるのは今も昔も、そして未来も華雪さんただ一人だけです。

 他のものに忠誠を誓うだなんて、想像しただけで吐きそうですよ」



 冗談でも何でもなく、本当に吐きそうな顔色をする。



 そんなに私以外は嫌なのか?


 そこまで大切にされていることが、もったいないと思いつつも嬉しい。



「その餓鬼はそんなに慕われてるんだな。

 何がいいんだ?そんなチビで何も特殊能力を持ってない餓鬼が」



 グリーは私の偽りのステータスまで見ていたらしい。


 だからこそ、心底不思議そうな表情を私に向けてくる。



 彼の言っていることは私も同感なので、何も言わずに肩だけ竦めた。



「・・・・・・訂正するチャンスを与えてあげますよ。華雪さんも一回目だけは許してやれって言ってますしね。


 今、地面に額を擦りつけて華雪さんに謝れば楽に死なせてあげますよ?」



 二郎の声が一オクターブ低くなる。


 それにつられるように体感気温も下がる。



 これは、彼が怒る前兆のようなものだ。


 ガチ切れすると人間の姿を保たなくなるので、まだ許容範囲なのだろう。



「いえ、二郎。許してあげなくていいわ。


 だって、彼。貴方を挑発するためにわざわざ華雪ちゃんを使ったのだもの。そんな奴にチャンスなんてもったいないわ」


「ああ、なるほどなるほど。

 そんなに酷い死に方を希望していたとは・・・・・・。


 言っていただければ最高の絶望をお送りするために色々と下準備もしましたのに。

 今からじゃあまりたいしたオモテナシができませんよ」



 おもてなしという言葉がこれほど怖く聞こえたことが未だかつてあっただろうか?



 二郎も桐生もいつもと表情こそ変わらないものの、纏う雰囲気は重くドロついたものだ。



 いつでも相手を殺せる状態の二人に、グリーは気づかないのか、いや気づいているからこそ楽しそうに笑った。



「折角、決闘なんてやるんだから、本気をだしてもらわなくちゃな。

 そろそろ、お前のモチベーションも最高潮になったっぽいし始めようぜ」


「ええ。おかげさまで。

 華雪さんの夜ご飯の支度もありますから、三十分間だけしか時間がないのが残念ですが、地獄の一端を見せてあげますよ。


 華雪さんはここで私がどれだけ強くなったか見ていてくださいね」



 これまた律儀にテーブルセットをどこからか取り出し、新しい軽食と飲み物を用意してくれる。


 そして、一番見やすい席に私を座らせると、二郎は私の頭を一撫でして訓練場の中央に歩いて行った。



「いよいよ始まるわね」


「そうだな。怪我をしなければいいが・・・・・・」


「グリーごときに怪我を負わされるほどあいつが弱かったら、とっくの昔に死んでるわ。

 彼は普段こそああだけど、戦闘面に関してはそれこそ人間じゃ敵わないレベルよ。


 だから、安心して見てあげて華雪ちゃん」



 私の不安や心配を吹き飛ばすように桐生がきっぱりと言う。


 彼女たちの仕事はあんな男一人を相手するよりも過酷だということを見ていた私は、ここでようやく肩の力を抜いた。



「ああ。ちゃんと見てるさ。ここであいつが作ったお菓子を食べながらな」


「そうそう。それぐらいがちょうどいいわよ。私も食べよっと」



 自分の取り皿にクッキーとケーキとマカロンをケーキスタンドから取った桐生は美味しそうにそれを咀嚼する。


 私もそれに倣って、クッキーを齧った。



 うん。美味い。


 私好みの甘さと食感に作られたそれは、一度食べたら病みつきになる。



「あの男はそんなに強いのか?」



 ちゃっかりと一緒の席に着いて、軽食にも手を出している彼が訝し気な目で二郎を見る。



 今も私が継続して二郎には幻術の能力を発動しているから、彼には仕事ができても戦闘能力がなさそうなイケメン執事としか映ってないのだろう。


 しかし、さっきの出来事を間近で見ているため、強さがよく分からないというのが本音らしい。



 だから、手っ取り早く私たちに聞いてきたようだ。



「二郎がその気になったら、魔王なんて夕食を作っている片手間で嬲り殺しにできるわ」


「つまり、あの騎士団長ぐらいなら問題はない程度には強いってわけか」


「そういうこと。ほら、始まったわよ」



 突然、ガリィィンっ!!!!という硬いものに硬いものをぶつけたような音が耳をつんざく。


 砂埃が舞って、視界を塞いできた。



 先手必勝とばかりにかなりの大技を相手が繰り出したようだ。



 砂埃が晴れると、そこには右こぶしを振り上げたままのグリーと、リラックスした体勢のままいつものように笑って立っている二郎がいた。



「今の、かなり本気で殴ったんだけどな」


「ご冗談を。この程度では数ある結界のうちの一枚にヒビを入れることもできませんよ?

 私に勝つのなら、全ての結界を壊して直接体にダメージを与えないと」



 遠目で見ても動揺しているのが分かるグリーに、あくまで二郎はにこやかに笑う。



 二郎が使っている魔法は多分、結界魔法の一種だろう。


 断定できないのは、その威力がけた違いに高いからだ。



 通常の結界魔法なんてさっきの威力の攻撃を受け止めたら、術者の体ごと訓練場の端まで吹っ飛ばされてる。


 それなのに一歩も後退させることもなく、二郎は試合開始した場所から動いてない。


 これは、衝撃を完全に結界で相殺できている証拠だ。



「お前は結界魔法の使い手ってわけか。

 その結界で攻撃を防ぎつつ、他の属性魔法あたりで相手を倒すっていうスタイルなんだろうが、そんな簡単にはいかないぜ」



 グリーはそう言うと、二郎から距離をとって、何やら長ったらしい詠唱を始める。手ぶり身振りつきのそれは殲滅級の技なのだろう。



 ちなみに、魔法というのは階級が決まっており、攻撃魔法は初級・中級・上級・殲滅級・破王級・滅帝級・終焉級の七つの段階に分かれている。


 その他の魔法は初級・中級・上級までは一緒だが、その次は超級・絶級と五つの段階しかない。



 どちらの魔法も上級までは呪文のみで魔法が発動するのだが、その上の級からは難易度がぐんっと上がり、手ぶり身振りなどの動きも必要となってくる。


 その分威力も上がっており、殲滅級の魔法を使えばこの広めな闘技場はもちろん、すぐそばにある森の半分は綺麗さっぱり更地になる。


 威力だけでなく範囲も馬鹿みたいに広いから殲滅級と名付けられているのだ。



 この魔法の使い手は各国に一人もしくは二人程度しかいないし、その上の階級の魔法の使い手に至っては今現在確認されてないともいわれている。



 こんなところでぶっ放すような魔法ではないが、これはフェイントみたいなものだろうと、グリーを見ていればすぐに分かった。



 彼はあえて殲滅級の魔法の準備をすることで、二郎から攻撃をさせようと目論んでいるのだ。


 魔法というのは同時発動できないのが通説なため、二郎が魔法を使って攻撃すれば、張られていた結界も解かれることになる。グリーの狙いはそれだろう。



 だが、二郎は彼が思っている通りに動くような奴じゃない。


 魔法を使うそぶりもみせなければ、近接戦に持ち込むために間合いを詰めるわけでもなく、ただその場に立っている。



「おい、あの男が何を狙っているか分かるか?」



 軽食を食べていた彼が手を止めて、私に聞いてくる。


 誰から見ても自殺行為にしか見えないそれに、少々不安を覚えたようだ。



 私もクッキーを齧る手を止め、彼の問いに自分の予想で答えた。



「多分、ですけど。結界で受け止めるつもりですよ、二郎は」


「馬鹿か、あいつは。

 殲滅級の魔法なんて、いくら結界魔法が得意でも受け止められるものじゃないだろ」


「ところが、そうじゃないのよねー。二郎なら、そのぐらいできちゃうわよ」



 もし仮に結界が破れても傷一つつかないだろうし、と私にしか聞こえない音量で呟く桐生。



 この世界の魔法というものは原理は分からないが、神話生物の体を一切傷つけることができないと二郎が言っていた。


 その辺に転がっていた石つぶてを魔法の風で操ってぶつけるみたいな攻撃方法はダメージを受けることになるみたいだが、純粋に魔法そのものをくらった場合、何ともないらしく、それは桐生との実戦で証明されている。



 グリーがわざわざ後ろに下がったということは、特にそういう物理攻撃を交えてくる可能性は低い。


 それならば、二郎はたとえ殲滅級の魔法だとしても服の袖一つ汚れないだろう。



 ただ、それを対戦相手であるグリーは当然その事を知らないので、呪文を唱え終わると微妙な顔をした。



「おい、何かしら対抗策を立てないと死ぬぞ」


「ご心配なく。そのまま放ってもらって構いませんよ。ちゃんと策はありますから」


「なら、その策っていうのを見せてもらおうか!地獄の業火インフェルノ・フレイド!!]



 グリーの両腕のドラゴンが真紅に輝き、炎を纏う。


 そして、それを両方とも地面に突き立てると、地面が割れて間からはマグマが覗き、間欠泉のように吹き上がる。


 地割れはグリーの正面側全体に広がり、凄まじいスピードで二郎に迫る。



 ここで、二郎は初めて試合が開始されてから動きを見せた。


 とんっと軽くつま先で地面を叩いたのだ。


 たったそれだけの動作だが、しかし効果は劇的に現れた。



 つま先から現れた透明な氷が全てを凍り付かせる。


 それはグリーの攻撃なんかよりも早く、表現するなら一瞬としか言いようがない。吹き上がっていたマグマも綺麗に凍り付き、氷のオブジェとなった。



 辺り一面が銀世界になるのと比例し、一気に気温も下がり、吹き抜ける風が冷たい。



 ぷるりっと体を震わせると、隣に座っている彼が上着をかけてくれた。



「着とけ。体調崩すから」


「先輩こそ風邪ひきますよ?」


「お前とは違って丈夫にできている。それに女が体を冷やすのは良くないだろ」



 口調こそぶっきらぼうだが、それでも十分に優しさがこもっている。



 私はそんな些細なことでも嬉しくなり、礼を言って上着は借りることにした。


 私には大きすぎるが、頭からずっぽり被っていると、まるで彼に包まれているみたいに、残っている体温と匂いが錯覚させてくれる。


 思わずうるりときたが、目元を乱暴にこすって二郎の決闘に集中する。



 とは言ったものの、もうそろそろフィナーレのようだ。


 氷はグリーの首の下まで侵食し、全ての行動権を奪っていた。



 凍った地面の上をカツンカツンとゆっくり革靴の音を鳴らしながら歩く二郎は、彼の前まで行くと笑みを深くした。



「今の殲滅級の魔法が貴方の切り札ですよね。グリー・モンテスキューさん。


 貴方のことは一通り何でも知ってますよ。出身地から家族構成。果ては今日の朝ごはんのメニューまで。

 私には全て筒抜けですよ」


「それ、ストーカーじゃないの」


「いや、違うだろ。

 あいつの能力でその辺の情報が分かっているだけで、ストーキングをしていたわけじゃないはずだ」



 嫌そうな顔をする桐生に私はフォローを入れる。



 二郎の能力はちょっと、その、犯罪チックに聞こえたかもしれないが、彼とて好きでそういう能力を有しているわけではないのだ。


 自分が優位に立つためにその能力を使っただけで、決してやましい気持ちがあって使っているわけではないと断言できる。



「いや、ストーカーだろ」


「先輩まで・・・・・・」



 私のフォロー力では、二郎をストーカー以外にすることはできなさそうだ。無念。



 こっちで茶番をしている間も二郎はそれはそれは愉しそうに笑っている。



「さて、これで貴方お得意のガントレットの仕掛けを使った魔法は使えなくなりました。これからどうします?

 まぁ、貴方に選択権はないんですけどね」



 二郎はおもむろに呪文を唱え始める。



 詠唱破棄を持っている彼がわざわざ唱えるなんて面倒な真似をしているのは、これからどういう魔法を使うのかという恐怖を相手に与えるためだろう。


 魔法書に載っている一般的な文言で唱えているそれは、闇魔法系・上級の一つとして有名な幻想イリュージョンだった。



 私の能力である幻惑と名前からして被っている感じがするが、幻想でできることは視覚からの情報を弄ることだけで、他の器官などには干渉できない。逆に私が能力として持っている幻惑の方は全ての器官に干渉できる。


 具体的に言えば、目の前に美味しそうなステーキを出すことができるまでしかできないのが幻想で、その後香りや食べた時の食感や温度、果ては満腹感まで操れるのが私が死神に貰った能力の幻惑ではできる。



 これは使い方によっては相手を手を触れないまま殺せるので、良い子は乱用してはいけない。


 そもそも良い子はそんな発想すらないか。



「それでは、極上の悪夢を楽しんでください・・・・・・幻想イリュージョン



 二郎が魔法の言葉を言うと、グリーに背を向けてこちらに歩いてくる。


 ずっと彼を戒めていた氷も空気中に溶けてなくなり、自由の身なのにどこかぼんやりとしているグリーはまるで痴呆の老人のようだ。



 だが、そんな状態は長く続かなかった。


 すぐに金切り声を上げ、その場に膝をつき、狂ったように鎧を投げ捨てて自分の爪で顔面を引っ掻く。



 いや、もう狂っているのか。


 手加減せずにガリガリと自分の顔を削っている彼はどう見ても正気ではなかった。



 そんな光景を見て平気な顔をできるほどクラスメート達はグリーに無関心ではなかったらしく、すぐにグリーに駆け寄って、回復魔法をかけたり、顔を引っ掻くことをやめさせようとする。



 が、しかし、傍に多くの人間が来たことで更に狂気が加速したようだ。



 自分の懐に入れていた短剣を取り出すと、誰かが止める暇もなく、それで自分の喉を貫いた。


 ずぷりっと生々しい音とともに血の塊を吐いたグリーは絶命した。



「いやぁぁああああぁぁあああ!!!!!」



 近くにいた女子生徒の全身に血が降りかかり、その女は金切り声を上げると気絶する。



 被害が拡大してるなとマカロンを口に入れながらのんびりとした感想を抱く。


 ちらりと隣の彼に目を向けてみるが、平然とした顔でケーキを食べてる。


 そして、彼の口元にクリームがついているのを発見した。



「あっ、先輩。口の端にクリームがついてますよ」


「本当か?悪いがとってくれ」



 彼の願い通りに白い生クリームと指先で取る。そして、そのまま自分の口に運んだ。


 ベストな甘さが口に広がり、幸せ気分になる。



「東雲・・・お前・・・・・・」


「え?何かしましたか?」


「いや、何でもない・・・・・・」



 微妙な顔をする彼に私は首を傾げる。



 何か無意識に変なことをやってしまったのだろうか?


 でも、何でもないって言っているし。



 頭にクエスチョンマークを浮かべていると、またあっちの方が騒がしくなる。



「おい、待てよ!!そこの執事!!」


「何の御用でしょうか、勇者さん。

 私はこれから華雪さんの夜ご飯を作らないといけませんので、暇ではないんですが」



 二郎に突っかかったのは生徒会長である立花たちばな啓也けいやだった。



 私でも顔と名前を知っているぐらい有名な男だ。


 理由は熱血漢正義馬鹿で私も幾度となく被害を被っているからにすぎないが。


 顔を合わせるごとに髪を黒く染めろだとか、授業をサボるなとか、お前は私の親かと言いたくなるほど口うるさい。


 誰よりも正しくあろうとするその姿は素晴らしいが、それを他人に押し付けていいとは法律でもなってない。



 そんな清く正しいという言葉を擬人化したような彼は、異世界に来て勇者の称号を見事ゲットしたのだ。



 当然彼の血も吸っている二郎は彼が勇者であることも性格が面倒なことも知っている。


 だから、いったん足を止めて手間だが振り返って彼に視線を合わせたのだ。



「どうしてグリーさんにこんなことをしたんだ!!」


「決闘で幻想の魔法を使ってはいけないと記載されてませんが?ねぇ、審判さん」



 それまで空気扱いだった審判は赤べこ人形のように首を上下に激しく振る。


 余計なことを言ったら殺されると生存本能が叫んでいるのだろう。それは非常に正しい判断である。



「ほら、審判さんも頷いているでしょう。これで話は終わりですね」


「待てっ!!」



 二郎が再び歩き出したところを生徒会長が袖を引いて止める。


 が、ものすごい勢いで訓練場の端までふっ飛ばされた。



 二郎は触られた辺りを手で払う。



「私に気軽に触れていいのは華雪さんだけです。

 そこいらの人間が無造作に触らないでください」


『うっわ、キモイ』


「お前らなぁ・・・・・・」



 打ち合わせもなくハモって二郎を罵倒する二人に苦笑する私。



 少し潔癖症みたいなところがあるから、二郎はいきなり他人に触れられたりするのが嫌なんだろう。


 私だけが触っていいとか言っているのは、きっと彼なりのジョークだ。



 女の子だったら誰でも自分が特別なんだと勘違いするようなジョークを飛ばしてから、ようやく二郎は私たちの所に帰って来た。



「ただいま戻ってきました」


「お疲れさま、二郎。部屋に帰ろうか」


「はい。一緒に帰りましょう」



 騒いでいるクラスメート達はまるっと無視して、私たちは一仕事を終えましたみたいな感じで部屋に帰った。






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