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航空傭兵の異世界無双物語  作者: 弐式水戦
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第78話~"ジェノサイド"の大立ち回り~

 此処は、ルビーン長官宅の大広間。

 其所ではグースとマーカスと言ったルビーンのトップ2人や、神影から留守番をするよう指示を受けたエリスとエミリア。そして、先程の一件で気絶させられたブルームとゴルトの6人が居た。


「しっかし、あの勇者君も随分勝手な事言うよなぁ。ミカゲが元勇者パーティーのメンバーで、城を出てから力つけてたからって無理矢理連れ帰ろうとするなんて…………彼奴、その事がギルドにバレたらどうなるんか分からんのかねぇ?」


 後頭部で両手を組み、ソファーに仰向けで寝転がっているマーカスが呆れたように呟いた。


 神影を勇者パーティーに引き戻そうとしている勇人だが、その行動はつまり、ギルド所属の冒険者を自分達の陣営へ勝手に引き抜くと言う事を意味している。

 その事がギルドに知られるような事になれば、先ず王都へ抗議文が殺到するだろう。

 何せ冒険者ギルドは1種の独立機関であり、国家ですらおいそれと手を出す事は許されない。それはギルド自体は勿論だが、其所に所属する冒険者も言える事だ。

 にも関わらず、ただ"異世界からの勇者"と言う肩書きだけの少年が独立機関に首を突っ込み、あまつさえ冒険者の1人を引き抜こうとしていると言うのだから、越権行為も甚だしいと言うものだ。

 しかも、この事がギルドに知られ、更に冒険者にも広がろうものなら、事態は間違いなく悪化する。

 それは、独立機関であり中立であると吟っているギルドが、所詮は国家や騎士団の犬的存在で、自分達も力をつければ何時かは引き抜かれ、大して関わりたいとも思わない国家の事情に巻き込まれると考えた冒険者が活動を行わなくなったり、そもそも冒険者になろうとする者が減ってしまう可能性も出てくるからだ。

 自分達の陣営の要員を勝手に引き抜かれるばかりか、所属する冒険者達からの信用も下げられるなど、ギルド側からすれば堪ったものではないだろう。


「そもそも、散々ミカゲの事屑扱いして、ちょっと強くなってたら手のひら返して仲間面するなんて、虫が良いにも程があるやろ。先ずは今までの事を謝るのが筋ってモンやろうが」


 神影やエーリヒが城で生活していた頃の境遇を聞いていたマーカスは、吐き捨てるように言って皿に残っていた菓子へ手を伸ばした。

 神影を連れ戻そうとする勇人の言動が、彼を自分達にとって都合の良い道具のように扱おうとしているように見えた事が我慢ならないと言うマーカスの気持ちが、不快感に歪んだ表情に現れていた。


「まあ、確かにその通りじゃな」


 其処で初めて、グースが口を開く。

 仲間や協力と言った聞こえの良い単語をペラペラと喋る割りには、神影がいじめを受けていたのを勝手に終わった事として扱っている勇人の言動が、怒りを通り越して哀れに思えていた。

 

「あ、あの………よろしいですか?」

「ん?」


 おずおずと手を挙げるエリスに、2人の視線が向けられる。

 神影以外の人間と話す事に若干の怯えを見せながらも、エリスは言葉を続けた。


「先程から、勇者とか言う単語が聞こえているのですが…………あの方は、一体何者なのでしょう?」

「……?」

「何やアンタ、ミカゲから何も聞いてないんか?」


 てっきり神影から色々知らされていると思っていたマーカスが、目を丸くして聞き返す。


「は、はい。それに、お名前も聞いていませんでしたので………」


 エリスはそう返し、縮こまっていたエミリアも頷いた。


「やれやれ………肩書きは兎も角自分の名前を教え忘れるなんて、彼奴の抜けてるところは変わらんなぁ」


 苦笑を浮かべたマーカスは、『この事は秘密やで?』と前置きしながらソファーから起き上がり、2人のハーフエルフの少女達を真っ直ぐ見据えて神影の正体を教えるのだった。


「ミカゲ・コダイ。それが、今其所で転がされてるアホ2人からアンタ等を守った奴の名前であり…………元勇者パーティーのメンバーや」



──────────────



 場所は変わって、此処はルビーンの門の前に広がる平野。

 其所では、神影達"ジェノサイド"と調査隊メンバーによる模擬戦が行われていた。


「う、嘘だろ………そんな、事が……」


 地面に這いつくばった勇人が、視線の先に立っている黒髪金眼の少年を見て呟く。

 神影側のメンバーがたった2人なのに対して、勇人側は10人。つまり人数的には5倍の戦力を持っていると言う事になる。

 正義感の強い勇人なら、流石に卑怯だと言っていただろうが、今は魔王を倒して国王を助け、元の世界に帰るために1人でも多くの戦力が必要な状態。

 だと言うのに、今目の前に立つこの男は、その現状を知っていても尚、過去の境遇を持ち出して自分達に協力しようとしない。

 ならば、理不尽な組み合わせを受け入れてでも倒さなければ理解しないと思い、この人数配分には何も文句を言わなかった。

 幾ら城を出てから鍛えていたとは言っても自分達勇者には及ばないだろうし、先ず人数的に、どう見ても自分達が優勢。勝利は約束されたようなものだと思っていた。

 その結果が、今の状況だった。

 既に自分達は全員傷だらけになっており、後衛の魔術師が2人と前衛の騎士が1人、戦闘不能にされている。


「(一体どうなっているんだ………?城を出てからたったの数週間で、これだけ強くなれたと言うのか……?そんな馬鹿な、有り得ない!)」


 心の中で、そんな悲鳴に近い声を上げる勇人。

 因みに、現在の彼のステータスは以下の通りだ。




名前:聖川 勇人

種族:ヒューマン族

年齢:17歳

性別:男

称号:勇者

天職:聖剣士

レベル:57

体力:2750

筋力:2750

防御:2750

魔力:2750

魔耐:2750

敏捷性:2750

特殊能力:言語理解、剣術補正、詠唱破棄、全属性適性、全属性耐性、気配察知、魔力感知、高速回復、高速魔力回復、物理耐性、限界突破オーバードライブ




 勇者パーティーの中ではトップの座に君臨するステータスを持つ勇人だが、残念ながらどのステータスでも経験でも、神影には及ばない。

 何せ神影は、天職の補正が掛かっているとは言え飛躍的な成長を遂げ、今こうしている間にも各ステータス値が上昇している上に、勇人達とは違って既に殺し合いと言った死闘を経験しているのだから。

 特に命の危機に瀕する事も無く、いざとなれば騎士団や魔術師団からのサポートを受ける事が出来る、正に温室とも呼べる環境でぬくぬくと育ってきた者と、誰にも守ってもらえず、常に自己責任の中で死闘を経験してきた者との差は歴然としていた。


「(最初の攻撃も、古代にはあっさり避けられた……何故だ、何故こうなるんだ!?全く分からない!)」


 脳内処理が追い付かない勇人だが、戦況は彼を待ってはくれない。


《エーリヒ、4時方向の魔術師2人がお前を狙ってる!》

《4時方向の魔術師2人ね、了解!》


 勇人が地に這いつくばっている間にも、神影とエーリヒは調査隊メンバーを容赦無く薙ぎ倒していく。

 今も、"僚機念話"を通じて報告を受けたエーリヒが放った彼のオリジナル攻撃魔法の1つ、"三乱砲トライ・ガトリング"によって、火、水、雷と言った3つの属性の魔力弾が大量に2人組の魔術師へ降り注ぎ、彼等が立っていた所で爆発音と砂埃を発生させる。

 砂埃が晴れると、3つの属性の魔力弾を一気に受けた事でボロボロになって気絶している2人の姿が現れた。


《ミカゲ、後ろ!何かガタイの大きな奴が向かってきてる!》

《あいよ!》


 今度は、突っ立っている神影に不意打ちを仕掛けるつもりだったのか、殴り掛かった秋彦が振り向き様の右ストレートを喉元に喰らい、肺の中の空気と共に口の中の唾液を吐きながら吹っ飛ばされて結界に叩きつけられた。

 これによって、調査隊チームは戦闘不能が6人、傷を追っているのが勇人を含んだ残り4人と言った具合に追い込まれていた。


「(な、何故ですの………?これだけの人数で攻めているのに、何故彼等は平気で居られますの!?)」


 自分の武器であるレイピアを杖代わりにして立っているフィーナが、内心叫んだ。

 相手は2人揃って、"無能"、"落ちこぼれ"と蔑まれていた存在。

 そんな彼等に大して攻撃を当てる事が出来ず、逆に自分達が叩きのめされている。

 何故このような結果になっているのか、彼女には全く理解出来なかった。


「さて、お次はコレだ!」


 そう言って一気に結界の天井まで飛び上がったエーリヒは、足の裏からの魔力の噴射を利用し、まるで彼自身が戦闘機になったかのように結界の中を飛び回る。

 そして、地上で這いつくばっているフィーナ達に向けて、両手から機銃掃射の如く魔力弾の雨を降らせた。


「……ッ!か、風よ。此処に吹き荒れ、我が身を守れ!"風防"!」


 フィーナは咄嗟に風属性の防御魔法を発動し、エーリヒの魔力弾が自分や他の仲間に当たらないように逸らす。

 だが、今度は神影が肉薄して回し蹴りを放つ。正に安堵する暇すら与えない攻撃だった。


「くっ……!」


 だが、幸運にもそれを視界に捉えていたフィーナは、高く飛び上がっての後方宙返りで躱し、風属性攻撃魔法、"風球"を放つ。

 それは神影に命中し、大したダメージには至らなかったものの、吹き飛ばして距離を取る事には成功した。


「(流石は"戦場の舞姫"、ピンポイントでの攻撃も避けるか………ッ!)」


 その様子を空中から見ていたエーリヒは、自分に狙いを定めている黒縁眼鏡の少年に気づいた。

 神影の元オタク仲間であり、あの模擬戦で彼が功と組まざるを得ない状況を作った、桐村恭吾だった。


「闇よ、かの者の力を身に焼き付け、地の果てまで追え!"魔追弾"!」


 詠唱を終えた恭吾の手から禍々しい色の球体が放たれ、エーリヒ目掛けて飛んでいく。


「(コレは……………成る程ねぇ、神影の世界の武器で言う地対空ミサイル(SAM)ってヤツかい?悪いけど、そう簡単には当たらないよ!)」


 足の裏から放出される魔力量を一気に増やして逃げ回るエーリヒ。

 だが、その魔力弾はしつこく彼を追い回す。

 その際にチラリと恭吾へ目を向けると、彼は自分の事など気にせず神影に攻撃を仕掛けていた。


「(どうなってるんだ?普通の追尾式魔力弾は、あくまでも放った本人の誘導が必要な筈だけど………)」


 そんな疑問を覚えるエーリヒだが、考えている間にも魔力弾は近づいてくる。


「(まあ良い。それなら此方にも考えがあるからね!)」


 次の瞬間、エーリヒはヒューズでの航空ショーで魔力弾をフレア代わりに使った時のように、魔力の塊を撒き散らしながらロールを始める。

 すると恭吾が放った魔力弾は、まるで何れに向かっていくか悩んでいるかのようにフラフラと覚束ない挙動を見せ始め、エーリヒが急降下で離脱しても追わない。

 終いにはその内の1つへ向かい、爆発して消えた。


「成る程ね。あれは人の魔力を感知して、そちらに向かっていくタイプの魔力弾だったのか…………あまり聞かないヤツだから忘れてたよ」


 着地したエーリヒは、魔力弾の反応から恭吾がどんな魔法を放ったのかを悟って小さく呟いた。


「よお、エーリヒ。さっきのは凄かったな!」


 そんな彼に近づいてきた神影が、声を掛けてくる。

 先程は不覚を取ってフィーナの"風球"を受けた神影だが、まるでダメージを負っていない。


「あんなやり方で空飛べるなんて………お前、もう戦闘機要らなくね?」

「あはは、言われてみればそうかもしれないね…………おっと、敵が体制を整え始めた」


 苦笑を浮かべるエーリヒだが、勇人がゆっくり起き上がり、残りのメンバーが、体を引き摺るようにしながら彼の元へ集まり始めるのを見てそう言った。

 残っているのは、フィーナと勇人、恭吾、そして功の4人だった。


「あの女騎士は置いといて…………随分な奴等が残っちまったな」


 自分を睨む調査隊チームの残りメンバーを見据えた神影が、目付きを鋭いものに変える。


「………ねえ、ミカゲ。邪魔するようで悪いけど、1つだけ聞かせてくれる?」


 そんな神影に、エーリヒが話し掛けた。


「君は今、何を望んでいるの?彼等に復讐する事?それとも今までの仕返しに、逆に見下す事?」

「…………」

「お願い、ミカゲ。正直に答えて」

 

 そう言って、答えるまで逃がさないとばかりに真っ直ぐ見つめるエーリヒに、神影は首を横に振った。


「別に復讐とか仕返しとか、そんな事は望んでない。正直な話、もう彼奴等の事なんてどうでも良いんだ。眼鏡壊された恨みは、あるけどな」


 バツが悪そうに頬を掻きながら、神影はそのように言う。

 自分で言った事とは言え私怨を付け加えている事が、若干恥ずかしいようだ。


「俺が望んでいるのは、今の生活を守る事だ。誰にも差別されず、邪魔もされず、冒険者として、航空傭兵として実力をつける。そして行く行くは…………」


 其処で一旦言葉を区切って空を仰いだ神影は、数秒の間を空けてから再びエーリヒに視線を向けた。


「この勇者召喚の実態を掴んで、魔王を倒す事が、本当に元の世界への帰還に繋がるのか。それ以外に帰る方法が無いのかを突き止める。だからそのためには、あんな城に連れ戻される訳にはいかねぇんだ。それに、戦闘機の事もあるからな」

「…………」


 そう答えた神影に、エーリヒは一瞬ながら面食らった。

 決して神影を()()()()()人間だと思っている訳ではないが、眼鏡の恨み以外には何とも思っていない事に加え、其処まで今後の事を深く考えているとは流石に思っていなかったのだ。


「それよりエーリヒ。向こうも準備は出来たみたいだし、最終ラウンド始めようぜ。絶対勝つんだろ?」

「………うん!」


 そうして2人は、再び残りのメンバーへと向かっていくのだった。

書いてて思った。


もっと文章力や表現力が欲しい………

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