第5話~晩餐会とハブられの少年~
今回、神影の相方が登場します。
勇人の演説もあって種族間戦争に参加する事が決まった神影達だが、カミングス曰く、直ぐ戦いに参加させたりはしないとの事だった。
幾ら勇者として呼び出され、このエーデルラントより高位の世界であるために高い能力を持っているとしても、先程不安げな表情を浮かべて勇人に質問した女子生徒が言った通り、彼等は数十分前まで普通の高校生としての生活を送っていたのだから、武器を持った経験など、ある訳が無い。
それをいきなり戦地に放り込んで戦わせるなど、先ず有り得ない話なのだ。
そのためカミングスは、翌日、各々の強さを示すステータスを調べた後、王国騎士団・魔術師団による訓練や、この世界に関する知識をつけておくための座学の授業を行う事を伝えた。
翌日からいきなり訓練を行う上に異世界に来てまで勉強しなければならないと言う事に悲鳴を上げる生徒達だったが、右も左も分からない異世界でやっていける訳が無い上に、1日でも早く力をつけておいた方が良いと言うカミングスの意見もあり、渋々了承していた。
それから行われたのは、階段の上に居る3人の王族の自己紹介だった。
先ず王妃は、名をクラウディア・フォン・クラルスと言い、ロングストレートの茶色い長髪と紫色の瞳が特徴の女だった。
それから、ポニーテールに纏めた長い茶色の髪と紫色の瞳と言った、何処と無くクラウディアに似た容姿を持つ第1王女のフィオラと、セミロングの金髪に碧眼を持った、第2王女のジーナが名乗った。
豪華なドレスに身を包み、スタイルも良い美女・美少女からの自己紹介に、殆んどの男子生徒が鼻の下を伸ばし、女子生徒も見惚れる者が多かった。
自己紹介が終わると、この謁見の間に何台ものテーブルが運び込まれ、その全てに純白のシーツが掛けられた。
さらに、様々な料理が乗った大皿や取り皿、飲み物の瓶やグラスなどが運び込まれ、テーブルの上に並べられた。
おまけに、何やら貴族らしき服に身を包んだ者や、鎧やローブに身を包み、見るからに騎士や魔術師の風貌をした自分達と同年代と思わしき男女も、ワラワラと謁見の間に入ってきた。
そんな光景に生徒達が何事かと戸惑う中、カミングスが口を開いた。
「これは細やかながら、皆様への歓迎の印です。今夜は存分にお楽しみください」
そう言われた生徒達は、互いに顔を見合わせた後、料理の方へと向かっていった。
それからは、各自で気に入った料理を取り皿に取り、楽しんでいる。
他にも、貴族や騎士、魔術師達との話を楽しむ者も居れば、王女達に話し掛ける者も居た。
彼等の話から、神影達と同年代に見えた騎士や魔術師達は、この国にある士官学校の卒業生で、年齢も神影達と同じである事が分かった。
勇人や一秋のようなイケメン男子は貴族の娘達に、沙那や桜花達のような美少女は騎士や魔術師の男達に囲まれ、しきりに話し掛けられている。
特に、何やら銀髪に長身の騎士が、しきりに沙那に話し掛けて男子生徒達から睨まれていた。
そんな彼等を呆然と見つつ、これからについて考えていた神影の元に、幸雄と太助が歩み寄ってきた。
「よお、古代。そんな所で突っ立ってないで、俺様達も行こうぜ!」
「早くしないと、料理が無くなってしまうぞ」
「…………ああ、今行くよ」
ずっと考え事をしても仕方無いと思った神影は、2人に続こうとした。
「…………っと、その前に」
そう言って立ち止まった幸雄は、神影の腰を指差した。
「お前、何時まで鞄提げてんだ?メイドさんに預けりゃ良かったのに………謁見の間に入った時にメイドさんが来て、鞄預かってくれたぜ?」
呆れたようにそう言う幸雄に太助も頷くが、神影は何を言っているんだとばかりに首を傾げた。
「俺、全然話し掛けられなかったんだけど………まさか、俺だけ無視されたって訳じゃねぇよな?」
異世界に来てまでこんな目に遭うなど冗談じゃないとばかりにそう言った神影だが、太助が手をヒラヒラ振って、即座にその意見を否定した。
「いやいや、メイドさんは何度も話し掛けていたぞ?君は気づいていなかったようだがな」
「……………」
太助にそう言われた神影が、何とも言えない気分を味わったのは言うまでもない。
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その後、扉の近くに居たメイドに鞄を預け、改めて太助達に合流した神影は、晩餐会を楽しんでいた。
高級ホテルで見るような料理の他にも、摩訶不思議な色や形をした異世界ならではの料理も多く、ずっと難しい顔をしていた神影も、何時の間にか笑顔を取り戻していた。
デザートのプディングを皿に取った神影達は、壁に背を預けて談笑していた。
「異世界の料理、中々美味かったな!」
「ああ。日本では先ず見られないようなものも多くて、私も驚いたよ」
そんな2人の会話を聞いていた神影は、ふと、まるで世界から切り離されたかのように、謁見の間の隅で所在無げにポツンと立っている金髪の少年を視界に捉えた。
「………………」
ローブ姿である事から魔術師だと見えるその少年は、金髪にエメラルドグリーンの瞳を持った美少年で、如何にも"貴公子"と言う単語が似合いそうな顔立ちをしていた。
「古代、彼処に居る彼が気になるのか?」
「まあな」
話し掛けてきた太助に、神影は頷いた。
「………何処の世界にも、ボッチってのは居るモンだな」
口に含んだプディングを飲み込んだ幸雄が、その少年に目を向けて言った。
「俺…………あの人に声掛けに行った方が良いか?何か、放っておけなくてさ」
そう言った神影だが、2人の反応はあまり良くなかった。
「君の気持ちは分かるが、いきなり話し掛けに行くと言うのは、得策とは言えないな」
「ああ。何と無くだが、そっとしといてほしそうな雰囲気出してるし………一先ず今回は止めといた方が良いと思うぜ」
「そっか………」
2人にそう言われた神影は、少し残念そうな表情を浮かべた。
「まあ、見たところ彼は魔術師のようだから、今後の訓練で、会う機会もあるだろう。それまで待ってみても、遅くはないんじゃないか?」
「………そうだな」
太助の提案を受けた神影は、一先ず少年への接触を取り止め、晩餐会へと戻った。
それから晩餐会が終わって以降も、その金髪の少年に話し掛ける者は、誰一人として居なかった。