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航空傭兵の異世界無双物語  作者: 弐式水戦
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第68話~調査隊との一悶着~

「まさか、僕が調査隊の連中のお出迎えをする事になるとはねぇ………」


 昼過ぎ、雲1つ見られない晴天の下、ルビーンの門の前にはエーリヒの姿があった。

 

「ははっ、お前も災難だな。本来なら出迎え役だった長官の奥さんが急用で戻れなくなったから代理として出るなんて」


 門番の男が、ドンマイとばかりに肩をバシバシ叩く。


 こうなるに至ったのは、今から30分前。自宅で昼食を終えて神影とステータスの確認をしていたところ、訪ねてきたグースから調査隊の出迎え役を頼まれたのだ。

 調査隊には騎士団や魔術師団が居るために断りたかったエーリヒだが、調査隊メンバーに勇者が同行している事から、神影に行かせて話が拗れるより良いと思ってグースの頼みを引き受けたのだ。

 因みに神影は、存在を隠すのと保護した少女の様子を見るのを兼ねて一足先にグースの家に居る。


「まあ、ミカゲの友達にも会っておきたいからね………」


 門番の男にも聞き取れない小さな声で、エーリヒは呟いた。

 未だ城に居た頃、神影に聞いた話から勇者に対して懐疑的な視線を向けていたエーリヒだが、幸雄や太助、沙那達と言った神影の味方をしていた人物の話は聞いていた。

 そのため、もし彼等が調査隊に同行していたら………と、僅かに期待もしていたのだ。


「おっと、噂をしたら何とやらだ。来なすったぜ」


 そう言う門番が指差した先には、列になって近づいてくる数台の馬車の姿があった。


「さてさて………一体、どんな奴が来たのかな?」


 そんな期待混じりに呟くエーリヒの前で、場所の列は動きを止める。

 そして扉が開き、鎧やローブに身を包んだ、かつてのエーリヒの同僚達に続く形で、勇者達がゾロゾロと降りてきた。


「(何だ、彼奴も居るのか………)」


 内心そう呟くエーリヒの視線の先には、長い銀髪に整った顔立ちをした、10人中10人が『イケメン』と答えるような男性騎士が立っていた。

 ブルーム・ド・デシール。エーリヒの同期にして、王立騎士・魔術師士官学校騎士科の首席卒業生だ。

 彼以外にも見知った顔をちらほらと見掛けたエーリヒは憂鬱になった。絶対に何かしらの面倒事が起こると悟ったからだ。


「ん?君は………」


 そんな中、先頭の馬車から降りてきたプラチナブロンドの長髪に紫色の瞳を持った女性騎士がエーリヒに気づき、深緑のロングヘアに碧眼を持つ女性騎士と共に近づいてきた。


「(確か、イリーナ・レクサスにソフィア・フォアラン………彼女等も調査隊メンバーなのか………)」


 そう呟いたエーリヒが思い出したのは、あの今でも忌々しい模擬戦の日、見られる場所が無いからと彼の隣にやって来た2人組の女性騎士だった。


「君はもしかして、出迎えに来てくれた方かな?」

「………ええ、そうです。お待ちしておりました」


 話し掛けてきたイリーナに、やや無愛想ながらも挨拶の言葉を口にするエーリヒ。

 普段の彼らしくもない敬語に後ろの門番が笑いを堪えているが、気にしない。


「そ、そうか。態々すまないな」


 彼の無愛想な話し方に戸惑っているのか、困ったような笑みを浮かべながらそう言ったイリーナは、軽く一礼した。


「私は、此度の調査に同行しているイリーナ・レクサス。そして此方が、ソフィア・フォアランだ」


 イリーナからの紹介を受けたソフィアが、軽く頭を下げて会釈する。


「驚いたよ。まさか、君と再び会うなんてね」

「(覚えてたのか………)」


 ただ少しの間横に居ただけな上に大して言葉も交わしていない自分を覚えている事に、エーリヒは内心驚く。


「あの、イリーナ様。先程から何をなさって………!?き、貴様は………」

「(あ~あ………)」


 面倒な奴がやって来たと言わんばかりに内心溜め息をつくエーリヒ。


「何て事だ。よりにもよって出迎え役が貴様とは……不吉な………!」

「こら、止めないかブルーム………!」


 エーリヒの姿を見つけるや否や、あからさまに嫌そうな表情を浮かべて彼を疫病神扱いするブルームを諌めようとするイリーナ。

 だが、多くの騎士・魔術師団員が、ブルーム程ではないにせよ、あまり良い顔はしていなかった。


「それにしても、本当に戻ってたんだねぇ。ププッ。やっぱり君は、この"終わりの町"と共に朽ち果てるのがお似合いみたいだ」


 そんな時、ブルームの後ろから心底馬鹿にしたようなウザったい声が飛ぶ。

 

「へぇ………君も来てたのか、ゴルト」


 エーリヒが言うと、やや小柄で丸々と太ったローブ姿の男が姿を現した。

 彼はゴルト・ガルビンと言い、エーリヒの同期にして、彼と同じ魔術科の卒業生だ。

 彼の成績はお世辞にも良いものとは言えないが、エーリヒが彼を疎む者達の情報操作によって自分より下に位置付けられていると分かるや強気に出る、小物感溢れる男だった。


「まあね…………それにしても、相変わらず高貴さの無い顔だねぇ。それに何だい、その服は?カッコつけてるつもり?」


 『プププッ』と態々口にして、エーリヒが着ている服を指差すゴルト。


「君には関係無い………と言うか、人の服装に一々口出ししないでくれる?はっきり言ってウザい」


 素っ気ないエーリヒの態度に眉を一瞬引き攣らせたゴルトだったが、何とか持ち直した。


「ま、まあ良いよ。君のような奴と僕とでは、人としての価値が違うからねぇ。片や貴族家の息子で、片や"終わりの町"出身の下層民。どちらが選ばれた者で、どちらがハーレムを作れるのか…………そんなの言うまでもないか」

「(オークの子供みたいなお前がモテるなら、ある意味狂ってるよ。この世界は)」


 背は低い上に太っちょで、当然ながらエーリヒよりも運動は出来ない。

 卑しい奴と言う単語をそのまま表したような嫌味ったらしい顔に、大きい鼻の穴。

 こんな男なら、幾ら貴族家出身でも近寄る女は居ないだろう。


「はぁ~…………まあ無駄話はこの辺にして、取り敢えず長官の所に案内しますので、どうぞ此方に」


 面倒臭そうに頭をガリガリ掻きながら溜め息をついたエーリヒは、町に入った所でイリーナ達の方へと振り返り、『早く来い』と言わんばかりに手招きする。


「学生時代から思っていたが、こんな"終わりの町"出身の下層民の分際で図が高いぞ貴様!其処は『ご案内いたします』と言え!我等王国騎士・魔術師団や勇者御一行に向かって、その態度は何だ!」


 そんなエーリヒの態度が気に入らなかったのか、ブルームが声を張り上げる。


「そもそも、此度の我々は王都の使いとして来たのだぞ!貴様のような未来の無い落ちこぼれとは、格が違うのだ!」

「止めないかブルームッ!!」

 

 そのままズカズカとエーリヒに詰め寄ろうとするブルームだったが、イリーナに怒鳴られて動きを止めた。

 そしてブルームの進路上にソフィアが躍り出て、これ以上は行かせないとばかりに立ち塞がった。


「い、イリーナ様にソフィア様!?しかし、コイツは………!」


 そう言って引き下がろうとしないブルームだが、今度はソフィアが声を張り上げた。


「しかしも何もありません!ゴルトもゴルトです。貴殿方は王国騎士・魔術師団の顔に泥を塗るつもりなのですか!?」

「い、いや。そう言う訳じゃないんですけどぉ………」


 相手がエーリヒだったために強気に出ていた2人もイリーナ達には頭が上がらないらしく、先程のような余裕さは無い。

 そんな2人を見たイリーナは、失望したとばかりに溜め息をついてから口を開いた。


「もう良い。私やソフィアは元々同行するだけだから、挨拶以外に口を出すつもりは無かったが………ブルーム、お前に調査隊隊長は任せておけないな」

「そ、そんな!」


 酷く狼狽するブルームを見ながら、『じゃあ、なんで同行するだけの人間が先頭の馬車に乗ってたんだよ?』と、エーリヒは内心ツッコミを入れていた。


「ゴルト、お前もだ。今回の調査において、お前は何1つ喋るな」

「………」


 その言葉に返事こそ返さなかったゴルトだが、エーリヒを睨んだ後にすごすごと下がっていった。


「後輩達がすまなかった」

「………良いですよ、こんなの昔は日常茶飯事だったので」


 深々と頭を下げるイリーナにそう返したエーリヒは、仕切り直しの意味を込めて両手を打ち鳴らし、広野にその音を響かせた。

 それにより、先程のやり取りで置いてきぼりを喰らっていた他の騎士や勇者達がハッと我に返る。


「さあ、変に時間食ったので、早く行きましょう………あっ、勇者の皆さんも、どうぞ此方へ」

「え、ええ………」


 まるでおまけのような扱いだが、一先ず自分達勇者の存在も認識されている事に安堵したシロナが、生徒達を促して歩き出す。

 ずっと彼を凝視していた太助も、奏に促されて歩き出すのだった。



──────────────



「ねえ、篠塚君。あの男の子の事だけど……」


 グース達の家への道中、太助と共に最後尾を歩いている奏は、誰にも聞こえないような声で話し掛けた。


「ああ、間違いない………彼があの日、古代を救ってくれた人だ」

「………どうする?今から前の方に行って、彼に古代君の事を聞いてみる?」


 その問いに、太助は首を横に振って否定した。


 神影が勇者の男性陣のみならず騎士達からも疎まれているのは、幸雄は勿論、太助もよく知っている。

 加えて、あの模擬戦で起きた事件から神影の専属講師がエーリヒだったと確信した太助は、同時に、神影がこれまでの境遇をエーリヒに打ち明けているだろうと考えていた。

 その事から彼は、今神影の事を訊ねたとしても、騎士達や他の男子生徒達が余計な事を言ってエーリヒの怒りを買い、神影に関する話に答えてくれなくなると予想していたのだ。


「古代の事を聞くなら、私達と彼だけである事が望ましいな…………取り敢えず今は、タイミングを見計らうしかない」


 それだけ言って、太助は遥か前方を歩くエーリヒの後ろ姿へと目を向ける。


「(古代の情報もそうだが………それより先ずは、あの時古代を助けてくれた事に礼を言うべきだろうな。あの場で真っ先に動くべきだったのは、私達なのだから)」


 太助が思い浮かべたのは、倒れた神影の元へ真っ先に向かうエーリヒの姿。

 ずっと神影の親友だったのに、突然の事で頭の中での処理が追い付かなかった結果、出遅れる事になってしまった。

 その時自分自身に感じていた情けなさや怒りは、今でも消えていない。


「(古代…………君は今、何処で何をしているんだ……?)」


 ぐちゃぐちゃになった自分の心の中とは正反対に、雲1つ見られない清々しい晴天を見上げた太助は、その青空の中に、居なくなってしまった親友の顔を思い浮かべるのだった。



 自分達が向かっている先に、親友が居るとは夢にも思わず。

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