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航空傭兵の異世界無双物語  作者: 弐式水戦
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第66話~ルビーンにて~

 迷宮を無事に攻略し、大きくレベルアップした神影とエーリヒは、ルビーン上空に差し掛かっていた。


《スローター、見えたよ》


 隣を飛ぶエーリヒが、目下に広がる人気の無い町を指差した。

 

《何と言うか、この町を見るのも久し振りな気がするな》

《まあ、さっきまでずっと迷宮に居たからね》


 そんなやり取りを交わしていると、彼等に気づいた門番が空を見上げ、手を振っているのが見えた。

 こうして戦闘機を展開して町の上空を飛ぶのは何度かあったため、今では町の住人や門番達も慣れっこになっていた。


《さて、降りよう。少し家で休憩したら、直ぐ朝食だ》

《あいよ》


 そう言って大きく旋回しつつ速度を落とした2人は、着陸体勢に入った。

 飛行モードによって地面に対して水平になっていた体が自動的に起き上がるが、主翼やエンジン、尾翼部分は水平を保っている。

 

「はい、着陸~!」


 足の裏から競り出てきた車輪が地面を叩くと、神影は大きく体を伸ばしながら言う。

 彼に続くようにして着陸したエーリヒも、長旅で固まった体を解すように伸びをしていた。

 そして車輪を転がしながら町の門へと近づくと、先程2人に向かって手を振っていた門番が話し掛けた。


「よう、お帰り。迷宮では楽しんできたか?」

「まあね、命懸けの超スリリングな冒険でしたよ」


 機体を解除した神影は笑いながら答え、当時の事を報告する。

 彼等の話に驚いた表情を浮かべる門番だったが、最後には『まっ、お疲れさん』と労いの言葉を掛けて2人を通した。


「腹減ったなぁ、早く飯食おうぜ」

「はいはい、そう慌てな………?」


 家へ向けて歩きながら腹を擦り、飯だ飯だとボヤく神影を宥めるエーリヒだったが、家の前にやって来ると、突然歩みを止めた。


「………どうした?」

「いや、ちょっと………ね」


 そんな曖昧な返事を返して歩き出したエーリヒは、そのまま家を素通りして町の奥へと進んでいく。


「ちょっ、エーリヒ?朝飯食わねぇのかよ?」


 そう呼び掛ける神影だったが、エーリヒは歩みを止めない。


「………?何なんだ?」


 町の奥に行ったところで、あるのはこの町の長官夫妻や家令が住む大きな建物と、町の裏に広がる森だけ。

 だが、先程のエーリヒの反応からするに、長官達へ挨拶しに行くと言う訳でもなさそうだ。

 ならば何があるのかと、神影は首を傾げながらもエーリヒの後を追う。


 エーリヒに追い付き、横に並んで歩いていくと、森の入り口付近で座っている、如何にもおっさんな雰囲気を醸し出している男が目に留まった。

 その男は何かを揺さぶるような動きを見せ、しきりに呼び掛けているように見えていた。


「………何だありゃ?」

「さあ………?」


 その光景に、揃って首を傾げる神影とエーリヒ。

 そのまま近づいていくと、彼等に気づいた男が立ち上がった。


「おお、エーリヒ君にミカゲ君。お帰り」

「「ただいまです、グーさん」」


 神影とエーリヒは、揃って挨拶を返した。

 この"グーさん"と呼ばれた中年の男こそが、このルビーンの長官、グース・コルソンである。


「何してるんですか?こんな所で」

「ああ、それがな………」


 グースが答えようとした時、彼の家からドタドタと音を立て、丸眼鏡を掛けた小柄な男が、両腕に担架を抱えて飛び出してきた。


「長官!担架持ってきた…………って、何や、坊っちゃんにミカゲも居るやないか。何時帰ってきたんや?」


 この異世界では先ず聞く筈が無い関西弁を話す男は、神影とエーリヒを見て目を丸くした。


「おはよう、マー。ついさっきだよ」


 この男と親しいのか、グースの時とは違ってタメ口で話すエーリヒ。

 この"マー"と呼ばれた丸眼鏡の男はマーカス・ヴァイパーと言い、このルビーンの家令である。


「おお、そっかそっか。お帰り…………っと、今は呑気に話してる場合じゃないんや、ちょっと通るで!」


 そう言って2人の間をすり抜けたマーカスは、地面に叩きつけるような勢いで担架を下ろした。


 一体何を運ぼうとしているのかと茂みへ視線を向けると、神影とエーリヒは凍りついた。

 其所に、如何にも奴隷服と言う単語が似合うボロボロの服に身を包んだ2人の少女が倒れていたからだ。


「長官がさっき見つけたんや。2人も運ぶの手伝ってぇな!」

「「お、おう!」」


 マーカスの剣幕に追い立てられるかのように、神影とエーリヒは白髪ロングストレートの少女を担架に乗せ、もう1人の濃い桃色の髪の少女を担架に乗せて先に歩き出したグース達に続き、建物の中へと入っていった。



──────────────



「ふう……………一先ず安静にさせておけば、その内起きるだろ」


 神影達によって担架で運び込まれた2人の少女は、エーリヒの洗浄魔法によって汚れを落とされた後、用事で出掛けているグースの妻の部屋にあるベッドに寝かされた。

 そして今、担架を片付けた4人は大広間で朝食を摂っていた。


「それにしても、あの2人は何処から来たんやろうな?少なくともこの辺の奴じゃなさそうやし」


 椅子に深々と腰掛けて前の脚を浮かせたマーキスが、そのまま前後に揺れながら呟いた。


「あの服装からすると、どっかの盗賊か奴隷商人に捕まって輸送中だったか、それとも前の主さんに嫌気が差して逃げてきたんだろうな。あんなボロボロになって、可哀想になぁ…………」


 表情を歪めたグースが、コーヒーを口に含む。

 神影とエーリヒも、何とも言えない複雑な気分で、あの2人の少女達が眠っている部屋のドアへ目をやった。


「しっかし、困ったなぁ。今日は王都から調査隊の連中が来る日やってのに、まさかこんな事態になるとは………」

「「調査隊?」」


 突拍子も無くマーカスが放ったその単語に、神影とエーリヒは何の話だとばかりに首を傾げる。


「ああ、そう言えば2人には、未だ話してなかったな。実は………」


 そうしてグースは、2人に調査隊の事を説明した。


 国家の悩みの種だった"黒尾"を壊滅させた名の知れない冒険者や、数日前に王都上空で響き渡った、謎の轟音。

 この2つの話題は、神影とエーリヒの表情を青ざめさせるのに十分な威力を持っていた。

 その理由は言うまでもなく、神影とエーリヒが、これ等2つの正体なのだから。


「まあ、安心しな。ワシ等も、お前さん等の事をバラすつもりは無い」


 グースの言葉に、マーカスも力強く頷いた。

 実は、エーリヒが神影の紹介を兼ねて彼等の元を訪れた際、彼等に今までの生活を全て打ち明けていたのだ。

 2人の城での境遇を知ったグース達は当然ながら怒りを覚え、また、神影とエーリヒが異常な力を手に入れている事や、それが国に知られると間違いなく利用されると聞いたため、秘密にする事を約束していたのだ。


「それにしても、今更ながら良いんですか?俺等のために、城の連中に嘘の情報を言うなんて」


 神影が不安そうに訊ねた。


 幾ら辺境である上に、城の者達からは"終わりの町"などと呼ばれて蔑まれている町とは言え、彼等にも彼等なりの立場と言うものがある。

 それを無視して自分達のような何の後ろ楯も無い、ましてや身分も高くない子供に肩入れしてしているのは流石にマズいのではないかと、神影は考えていたのだ。


「まあ、良い事とは言えんが………」

「俺等とて、自分の身の可愛さに身内同然の人間を売る程薄情な人間に成り下がった覚えは無いわな。それが、ずっとアンタ等を傷つけてきたアホンダラ共なら尚更や」


 そう言って、ニィッと歯を見せて笑みを浮かべるマーカス。

 この場に居る4人の中では一番小柄な彼だが、今の彼の姿は、とても大きく見えた。

 頼れる兄貴分のオーラが、彼を包んでいるようだった。


「そっか…………それじゃあ、よろしく頼むよ。マー」

「おうよ!マー兄ちゃんに、任せときぃ!」

「このグースおじちゃんの事も忘れるなよ?」


 マーカスに取られ気味だった出番を取り戻すかのように、グースも話に入ってくる。


「2人共………ありがとう」

「何言うんや坊っちゃん。アンタがチビッ子の頃からの付き合いやないか」


 身を乗り出したマーカスが、笑いながらエーリヒの肩をバシバシと叩く。

 どうやらエーリヒは、城での評価こそ最悪だったものの、彼の故郷ではそれなりに人気があったようだ。


「んじゃ、あの2人が起きたら伝えるから、お前さん等は好きなように過ごしてきなさい」

「「はーい」」


 まるで幼い子供のように返事を返した2人は、空になった食器を片付けると、何時もの組手をするために建物を出るのだった。

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