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航空傭兵の異世界無双物語  作者: 弐式水戦
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第4話~勇者の演説~

 突如として、この謁見の間に響き渡った声は、カミングスや王妃達に向けてブーイングの嵐を浴びせていた生徒達を一瞬にして黙らせた。

 カミングスに詰め寄っていたシロナやブーイングの嵐を浴びせていた生徒達は、目を丸くしてその声の主に視線を向けており、表情をしかめていたカミングスや、顔を伏せていた王妃達。そして他の文官達も、何事かとばかりに目を丸くしている。

 そんな彼等の視線の先に居たのは、最前列に立っている勇人だった。


 そのまま暫くの沈黙の後に、勇人は口を開いた。


「皆、此処でカミングスさんや王妃様達に文句を言っても意味は無いよ。俺だって完全に納得出来ている訳じゃないし、出来るなら、直ぐにでも帰りたいよ。だけど…………」


 其処で言葉を一旦区切った勇人は、カミングスや王妃、王女や他の文官達を見渡してから言葉を続けた。


「彼等だって、苦肉の策で俺達を召喚したんだ。こうする以外に方法は無かったのかもしれない。だったら………」


 そう言って、勇人は生徒達の方へと振り向いた。


「俺は、戦おうと思うんだ。カミングスさんの話を聞く限り、もしこの世界の人達と魔人族で戦争したら…………きっと、彼等は全滅してしまう」


 勇人の演説を、全員が黙って聞いていた。


「彼等から話を聞いた以上、自分達には関係無い事だからって無視する事は、俺には出来ない。それに使命を果たせば、俺達は元の世界に戻れる…………そうですよね?」


 そう言って、確認するかのように振り向いた勇人に、カミングスは何も言わず、だが確信を持った様子で頷いた。

 それを見た勇人の表情に、自信の色が見えるようになる。


「で、でも聖川君。私達って、今まで戦争とは無縁な生活してたんだよ?そんなので戦えるの………?」


 そんな勇人に、女子生徒の1人が不安げな表情を浮かべて質問した。

 彼女の質問は尤もだった。

 銃も剣も持った事が無く、戦場に立った事も勿論無い、数十分前まで普通の学生をしていた自分達が、いきなり魔人族と戦えるとは到底思えない。

 それに、そもそも自分達に戦う力があるのかも疑わしいのだ。

 異世界の勇者だの何だの言われても、肝心の戦う力が無ければ、何の意味も無いのだ。


「その事でしたら、心配には及びませぬ」


 其処で、漸くカミングスが口を開いた。


「先程申しましたように、皆様が住んでおられた世界は、此方からすれば遥かに高位に位置しておりますので、当然ながら皆様は、この世界の者よりも高い能力を有しています。それに"勇者"の称号もあるでしょうから、その辺りは期待して良いかと思われます」


 カミングスの言葉に、不安げな表情を浮かべていた女子生徒の顔色が幾分か良くなった。

 彼女と同じ心境だった生徒は他にも居たらしく、何人かが安堵の溜め息をついている。


「うん、それなら大丈夫だ………」


 そう言って、勇人は自信に満ちた笑みを浮かべてクラスメイト達へと振り向いた。


「それなら、俺は戦うよ。その力で人々を救い、皆で日本に帰ろう!俺が、この世界も、皆も、必ず救ってみせる!」


 ぎゅっと握った拳を高らかに掲げた勇人の声が、謁見の間に響き渡った。

 王妃や王女達は、彼に希望を見出だしたのか花が咲いたような笑みを浮かべ、文官達も拍手喝采している。


「そう言う事なら、俺だってやるぜ!お前だけ背負わせる訳にはいかねぇからな!」

「ええ!聖川君が居れば百人力………ううん、千人力よ!」

「ちょっと怖いけど……………私もやれそう!」


 一秋が真っ先に、勇人の意見に賛同したのを皮切りに、クラスメイト達は希望が見えてきたとばかりに活気を取り戻した。

 別のクラスの生徒達も、勇人の演説を受けて乗り気になっている。

 女子生徒に至っては、所属するクラスを問わず殆んどがキラキラと目を輝かせ、勇人に熱っぽい視線を送っている。


 そんな様子を見ながら、太助は横に居る神影を突っついて小声で話し掛けた。


「なあ、古代。コレもファンタジー系の創作物では、よくある展開なのか?」


 そう問われた神影は何も言わず頷き、先程までの重苦しい雰囲気から一転して、まるで自分達の勝利が約束されたかのような明るい雰囲気になっている謁見の間を見渡した。


「(ネット小説でこう言う展開見ている時に毎回思うんだが、やっぱりこんな雰囲気に持っていける奴って凄いよな………それに、それを無条件で信じられる他の奴等も…………ん?)」


 ふと、神影の目がカミングスの姿を捉えた。


「…………」


 彼も笑みを浮かべているのだが、その笑みは、王族や他の文官達の純粋な喜びとは違った、別の意味を持ったものに見えていた。

 まるで、自分の思い通りに事が進んでほくそ笑んでいるような、そんな感じの黒さを含んだものに感じられたのだ。


「(…………取り敢えず、あの宰相は警戒しといた方が良さそうだな。何か良からぬ事企んでそうな表情してやがるし)」


 ずっとファンタジー系の創作物を読み漁ってきたためか、その笑顔からただならぬ雰囲気を敏感に感じ取った神影は、安易に彼の話を信じたりはしないようにする事を決めるのだった。

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