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航空傭兵の異世界無双物語  作者: 弐式水戦
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第56話~2人のTACネーム~

読み返して気づいたのですが、本作にフィオラが2人居る事に気づいた(1人はヴィステリア王国の王女で、もう1人は"黒尾"に捕まってた方)ため、勝手ながらどちらかの名前を変更する事にします。

「さて、ルージュを出てきたのは良いのだが…………何処に行こうかな?」


 F-1を纏ってルージュを飛び立った神影は、轟音を響かせながらヴィステリア王国上空を飛び回っていた。

 

 特に行く宛も無く出てきたため、彼はルージュを出てから1度も地上には降りておらず、上空を旋回しては適当な方向に進むと言う行動を、何度も繰り返していたのだ。

 それによってルージュから大きく遠ざかった訳だが、自分の現在地と方位さえ分かれば直ぐにルージュへ帰れるために然程問題にはしていなかった。


「それにしても、早く第4世代とか使いたいなぁ………」


 基本的に"航空兵器"として認識されているものなら何でも好きな神影だが、その中でも特に好きなものが戦闘機だ。

 そして、その戦闘機の中でのお気に入りは、揃いも揃って第4世代や第4.5(4+)世代、第4++世代や第5世代と言った高性能機であるため、今の彼のレベルでは先ず使えない。

 それに加えて、これまでの過程を頼りに、レベルや使用可能になる機体の世代の関係から単純に計算すると、第4世代を使うならレベル80、第5世代ならレベル100…………つまり、この世界の最高レベルにまでレベルを上げなければならないと言う事になるのだ。

 少なくとも不可能な話ではないだろうが、そのレベルに辿り着くまでの道のりが遠いと言う事だけは確かなのだ。


「………また魔物の群れの討伐依頼でも受けるか、それとも迷宮荒らしに行くか………おっ」


 そう呟いていた神影は、前方に山がある事に気づいた。

 シュニーツ山脈程ではないにせよ、パッと見はそこそこ険しそうである事に加え、何と無く見覚えがあるように感じられる山だった。


「ちょうど良い、彼処で少し休憩しようかな」


 そう呟いて高度を下げ、麓付近で着陸してF-1を解除した神影は、その山を改めて見上げる。


「(何つーか、此処には1回来た事があるような気がするな………)」


 何故かそのように感じられた神影は、麓の探索を始める。

 岩場が多かったが、高い身体能力を得た神影にとっては大したものでもなく、岩場を軽々と越えていく。

 そして急な斜面に差し掛かった時、彼の足は止まり、目は大きく見開かれた。


「こ……この平地って…………!」


 彼の目の前に広がるのは、周囲を岩場に囲まれた平地。

 それだけなら大して気にしないだろうが、彼を驚かせたのは、そんな単純なものではなかった。


「この幾つもある洞穴…………間違いねぇな」


 平地の真ん中に飛び降りた神影は、辺りをぐるりと見渡してそう呟いた。


 幾つもの洞穴や不自然に砕かれた岩場や其処ら中に散乱している大きな岩の破片が、彼の記憶の1つを呼び起こした。


 そう。此処は神影とエーリヒが、初めての人殺しを経験した場所──つまり、盗賊団"黒尾"のアジトの跡地だったのだ。


「適当に飛び回っていたら、また此処に来ちまうとはな………」


 これは単なる偶然なのか、それとも神にでも導かれたのかと適当な事を考えながら、神影はその場に腰を下ろした。 


 周囲を軽く見渡せば、"黒尾"との戦闘の痕が刻み込まれた岩場が見える。

 ロケット弾や爆弾を受けて粉微塵に砕かれたもの、30㎜機関砲の流れ弾が叩き込まれたもの……………

 それらを見た神影は、あの戦闘を思い出した。


 聳え立つ巨大な木の砦を破壊して突入し、空対地ミサイルやロケット弾、機銃や爆弾の雨を降らし、"黒尾"の男達を容赦無く殺し尽くす、自分とエーリヒの姿を。そして、"黒尾"の頭であるディオンを、機関砲の零距離射撃で肉片にし、返り血を浴びて全身を真っ赤に染める自分の姿を。


「…………あの時の戦闘は、正にこのパーティー名の由来として相応しいモンだな。そして、これからの戒めのためにも」


 神影とエーリヒの2人で構成された冒険者パーティー"ジェノサイド"。

 ただ名前を聞いただけなら、カッコいい名前だと思うだけだろう。

 だが、このパーティー名の意味は、非常に惨いものだ。

 何せこの名前は、"大量殺戮"を意味する英単語『genocide』の事なのだから。

 

 相手が盗賊で、尚且つそれが仕事だったとは言え、相手は人間。それを何十人も殺したのだから、"ジェノサイド"と言うパーティー名の由来に十分なり得るだろう。


 そして、このパーティー名は、今後の自分達への戒めの意味も込められている。


 仕事でやったとは言え、自分達は人殺しである。

 そして、この世界で生きていく以上、今後も人を殺す事もあるだろう。

 でも、だからと言って、人を殺しても何も感じない殺戮マシンには決してなってはならないと言う思いが、このパーティー名には込められていた。


「それに…………」


 城から支給された冒険者の服の裾を摘まみ上げた神影は、汚れ1つ見られない黒地の服を見下ろす。


「この服には…………いや、俺の身体中には、目に見えない血が染み込んでるんだからな」


 自分やエーリヒの攻撃を受けて惨たらしい死を遂げた"黒尾"の男達や、30㎜機関砲で肉片にしたリーダーのディオンの返り血を浴びた自分の姿を思い浮かべながら、神影はステータスを開いて称号の欄に目を通す。

 

「"血塗られた死神"か…………盗賊とは言え何十人も殺した上に、あの親玉を肉片ミンチにした俺には、ある意味ピッタリな称号だよな」


 そう呟きた神影は、落ちていた岩の破片で、地面を削るようにして字を書く。

 その作業が終わると、地面には日本語で"殺戮"や"虐殺者"を意味する英単語、『slaughter』と言う文字が刻み込まれていた。


「文字だけ見ればカッコいいが…………意味は最悪なんだよな、コレ」


 苦笑を浮かべながらそう呟いた神影は、立ち上がってハリアーを展開すると、"僚機念話"でエーリヒに連絡を入れ、ルージュへと戻っていくのだった。



──────────────



「お帰り、ミカゲ」


 ルージュに到着し、冒険者ギルドへ入ってきた神影を、食事スペースの1席に座っているエーリヒが出迎えた。


「おう、エーリヒ。今日の練習は終わったのか?」

「ああ、中々筋が良かったよ」


 向かい側の椅子に腰掛ける神影にそう答え、彼が出掛けている間に行っていた訓練の内容や、訓練中のリーネの様子を話すエーリヒ。

 どうやら、彼女が回復魔法の基礎は出来ているために、軽く復習した後に応用編に突入すると言う、訓練初日にしてはかなりハードな内容にしたらしく、その訓練が終わる頃には、リーネは服が汚れるのも構わず地面に大の字に寝転がっていたと言う。

 

「お前、それは流石にねぇわ………」

「そ、そんな目で見ないでよ。僕も悪かったって思ってるし、ちゃんと疲労回復の魔法掛けて、ベッドに寝かせておいたんだ。差し入れだって持っていったんだからね?」


 ジト目を向けられたエーリヒは、胸の前で手をわちゃわちゃ振りながらそう言うが、神影は相変わらずジト目を向けている。

 神影は一瞬、エーリヒの称号に"スパルタ王子"や"鬼畜魔術師"と言ったものが追加されるのではないかと考えていたのだ。


「と、ところでミカゲ。出掛けている間にTACネームを決めたんだよね?どんなものにしたんだい?」


 そんな中、ジト目を向けられる気まずさに耐えかねたエーリヒは、TACネームの話題を持ち出した。

 こうして別の事へと話題を変える事で、この話を有耶無耶にしてしまおうと言う魂胆のようだ。


「ああ、それはな………」


 それを知ってか知らずか、表情を元に戻した神影は、自分のTACネームと、その由来を説明した。


 その話に目を見開くエーリヒだったが、やはり神影は、仕事とは言え人を何十人も殺したと言う事実を重く受け止めているのだと察し、反対意見を述べるような事はしなかった。


「成る程ね…………そう言う事なら、君の好きにしたら良いと思うよ。そもそも君が色々考えた上で導き出したんだから、それにいちゃもんを付ける権利は無いからね」


 そう言ったエーリヒは、テーブルに頬杖をついて明後日の方向へと顔を向け、暫く沈黙する。

 そのまま1分程過ぎた辺りで、再び神影の方へと顔を向けた。


「因みに、僕の場合はどうなるかな?」

「お前か?そうだな………」


 神影は脳をフル回転させ、エーリヒに似合いそうなTACネームの候補を浮かべていく。


 エーリヒの元々の天職が"魔術師"である事から、"ウィザード"が合うのではないかと真っ先に考え付くが、それは流石に安易過ぎだと頭を振る。


「…………ねえ、ミカゲ」


 そんな神影を見ていたエーリヒは、こんな事を言い出した。


「ミカゲのTACネームみたいに、意味が物騒な単語って無いの?」

「え?あるけど………」


 神影はそう言って、カウンターに居るエスリアから羊皮紙と筆を借りて戻ってくる。

 そして椅子に腰を下ろすと、幾つもの英単語を書き込み、それが自分達の世界で使われている言語の1種である事を最初に話した上で、各単語の読み方や、その意味を説明していった。

 それらの単語に苦笑を浮かべるエーリヒだったが、ふと、羊皮紙の隅に小さく書かれている単語が目に留まった。


「ミカゲ、その隅っこに書かれてる単語はどう読むんだい?」

「?………ああ、コレか。"イェーガー"って読むんだ。ドイツ語って言う、また別の国の言葉で、"狩人"を意味する単語だよ」

「成る程……」


 そう短く返事を返したエーリヒは、羊皮紙の隅に書かれた単語を他の英単語と比べる。

 視線を行き来させて一通り見比べると、彼は小さく頷いて言った。


「ミカゲ、僕のTACネームはコレにするよ」


 そう言ってエーリヒが指差したのは、他の英単語ではなく、"イェーガー"だった。

 

「良いのか?別に無理して合わせなくても良いんだぜ?」


 そう言う神影だが、エーリヒは首を横に振った。


「コレは………僕なりのケジメだからね」


 恐らく、少し考えれば、カッコいい名前のTACネームは幾らでも出てくるだろう。

 だが、神影はパーティー名のみならず、TACネームを使ってでも、あの戦闘を心に刻もうとしている。

 ならば、自分もそれを見習うべきだと感じ、エーリヒはこのTACネームを選んだのだ。


「………そうか」


 そう言って立ち上がった神影は、筆をエスリアに返して席に戻ってくると、右手を差し出した。


「改めて、これからも頼むぜ。2番機…………いや、"イェーガー"」


 そう言われたエーリヒは、差し出された右手と神影の顔を交互に見た後、フッと笑みを浮かべ、その手を握り返して言うのだった。


「此方こそ、よろしく頼むよ。"スローター"」

"イェーガー"ってドイツ語で打ちたいのに、俺のスマホじゃaの部分で変換出来ねぇ……orz

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