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航空傭兵の異世界無双物語  作者: 弐式水戦
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第55話~依頼後の日常~

 時刻は午後1時。ルージュ冒険者ギルドの食事スペースには、美味そうに料理を口に運んでいる神影とエーリヒの姿があった。

 時折、幸せそうな表情を浮かべて『美味い美味い』と呟く彼等のテーブルには、空になった皿が幾つも積まれて塔を築いており、それを見た他の冒険者達は、まるで怪物を見るような眼差しを2人に向けている。

 だが、こうなるのは無理もない話なのだ。

 何せ彼等は、このルージュからシュニーツ山脈地帯まで………つまり、ほぼ北端から南端までと言う長距離を戦闘機で移動してワイバーンの群れを掃討し、更に地上で魔物を討伐しながら、バラバラになって落下したワイバーンの体を探し回って回収し、それから再びルージュまで戻ってきたのだから、これで空腹にならない方が逆におかしいと言うものだろう。


「美味い………やっぱ一仕事して稼いだ金で食う飯は格別だな!」

「ああ、全くだよ!お腹空いてるから尚更さ!」


 そんなやり取りを交わしながら、次から次へと皿を空にしていく神影とエーリヒ。

 今の彼等なら、日本で有名某な大食いタレントと食べ比べをしても余裕で勝てるだろう。


「しっかし、たった6匹のワイバーン潰しただけでも結構稼げるんだな」

「んくっ………まあ飛行系の魔物だし、ゴブリンやオークと比べたら遥かに強いからね。それが群れになってるんだから当然だよ。それに………」


 そう言いかけて、エーリヒは懐から袋を取り出した。


「山脈地帯に住んでる魔物を討伐してゲットした魔石も、ある程度の値段がついたからね」


 そう言われた神影は、コクコクと相槌を打った。

 一般的に、討伐した魔物が落とす魔石は、その魔物のレベルが高い程高く売れる。

 それを何匹も討伐し、その魔石を残らず回収してきたのだから、依頼の報酬に上乗せされ、結果的にかなりの高収入となったのだ。


「称号とか出自で差別されない自由な生活………やっぱり俺等、城を出てきて正解だったな」


 神影の言葉に、料理を詰め込んだ事によってハムスターのように頬を膨らませたエーリヒが、口の中にあるものを一気に飲み込んでから相槌を打った。


 城での衣食住には何1つとして不満は無かったものの、やはり称号やステータスや出自と言った上辺だけの情報で勝手に価値を決められ、理不尽な扱いを受ける事には不快感を覚えていた神影やエーリヒは、今の生活がすっかり気に入っていた。


 城での生活のように誰かが守ってくれる訳でもなく、レイヴィアのような使用人も居ない。生活費も食費も新しい衣類も、何から何まで自分達で稼ぎ、用意しなければならないと言う、正に自給自足の生活だ。

 そして何より、今後の行動全ての責任を自分達自身で負わなければならなくなるのだが、その分自由な生活を送る事が出来る事に加えて、上辺だけの情報で理不尽な扱いを受けるような事は無いのだから、2人が此処での生活を気に入るのは当然の事だった。


「こんなにも楽しい生活が遅れるなんて、瀬上や篠塚達にも教えて………」

「………?ミカゲ、どうしたの?」


 楽しそうに言うものの、途中から一気に勢いを失い、終いには口を閉ざしてしまった神影に、エーリヒは訊ねた。


「……………」


 だが、神影は何も答えず、ただ空になった皿を眺めるだけだった。


「…………成る程」


 エーリヒは、神影が何を考えているのかを瞬時に悟った。


「気にしてるんだね…………城に残してきた友達の事を」

「………まあな」


 先程までの元気は何処へやら、すっかり勢いを失った様子で、神影は頷いた。


 城を飛び出してから1週間以上が経過しているが、神影はその間、1度も幸雄達の事を忘れなかった。

 時折ボーッと明後日の方向を眺めては、未だ日本で生活していた頃、彼等と悪ふざけをしていた時を思い出していたのだ。


「彼奴等………元気でやってるかな?」

「…………」


 それを見ていたエーリヒは、神影に気づかれないように小さく笑った。

 友人を思う姿を微笑ましく思うと共に、羨ましく感じていたのだ。


 勿論、ルビーンに行けばアイシスやユリシアが居るし、それ以外では、"アルディア"の3人やエレイン、リーネ、イーリスのように、友人が一気に増えている。だが、"学友"と言う条件をつければ、神影には幸雄や太助、それに沙那達が居るのに対して、エーリヒには1人も居ない。

 そのため、城に残してきた友人を心配している神影が、羨ましくて仕方無かったのだ。


「………ん?」


 すると、神影がエーリヒからの視線に気づき、彼に視線を向けた。


「どうした?そんなニヤけた顔して」

「何でもないよ」


 微笑を浮かべて言うエーリヒに、神影はただ首を傾げるだけだった。



──────────────



「さて、どうすっかなぁ………?」


 あれから時間は流れ、今は午後3時。

 ルージュの大通りには、1人で町を散策している神影の姿があった。

 今までは特に行く宛も無く、あっちへフラフラ此方へフラフラ歩いていた神影だが、其処で1軒の店が目に留まり、吸い寄せられるように近づいていく。


「コレは………眼鏡屋か」


 店の外に展示されている眼鏡を手に取り、神影はそう呟いた。

 お忘れの方も居るかもしれないが、神影も、功との模擬戦で失うまでは眼鏡を掛けていたのだ。


「どうすっか………新しいヤツ、買い直そうかな………?」


 そう呟く神影だが、あの時は功達に壊されたようなものだ。

 沙那にやられた時は、事情が事情であるために請求はしなかったが、功達の場合は違う。

 つまり、彼等に壊されたものを自費で買い直さなければならないのだ。


「ソイツは…………ちょっと癪だな。コレに関しちゃ彼奴等に弁償させなきゃ気が済まねぇや」


 一瞬不快げに表情を歪めて呟いた神影は、その眼鏡を展示棚に戻して散歩を再開した。


「それにしても、午後からは迷宮荒らしたりTACネーム決めたりしたかったんだが…………まあ、あれじゃ仕方ねぇわな」


 そう独りごちた神影は、小さく笑みを浮かべた。


 そもそも、普段は一緒に行動している神影とエーリヒが何故、今になって別行動を取っているのか、それを説明するには、今から約1時間前にまで遡る。



──────────────



「いやぁ、美味かったな!」

「うん、大満足だよ!特に唐揚げなんて最高だったね!」


 昼食を終えて食器を全て返却し、代金を支払った神影とエーリヒは、満足そうに昼食の感想を言い合っていた。

 他の冒険者達から怪物を見るような眼差しを向けられていた事など、2人は気にも留めていない。


「さて、これからどうする?運動がてらに迷宮でも攻略しに行ってみるか?」

「それも良いけど、僕としては先にTACネームを決めたいね」


 あの時の神影の話が余程興味深かったのか、互いのTACネームを決める事を希望するエーリヒ。

 どちらを先にするかと話しながら出口に向かった2人だが、神影がドアノブに手を伸ばすより先にドアが開いた。


「あっ、ミカゲさん!」


 開いたドアの先から現れたのは、深いスリットの入った紫色の修道服に身を包んだ2人の少女、エレインとリーネだった。


「よう。お前等も昼飯か?」


 そう訊ねる神影だが、エレインは首を横に振った。

 どうやら彼女等は、神影達がルージュに戻るより前に昼食を済ませていたらしいのだ。


「実は………エーリヒさんに用があって」

「………?僕に?」


 自分に一体何の用があるのかと首を傾げるエーリヒだが、そんな彼の前にリーネが押し出された。


「そ、その……実は………」


 言いにくそうに、胸の前で絡めた指をモジモジさせるリーネ。

 よく似た髪型に加え、髪や瞳の色が同じである事から、まるで兄におねだりしようとしている妹を見ているような気分になり、神影や他の冒険者達は頬を緩める。

 そして暫く視線をさ迷わせた後、漸くリーネは口を開いた。


「え、エーリヒさんの魔法を………私にも教えていただきたいのです!」

「…………は?」


 呆けた表情を浮かべて聞き返すエーリヒに、リーネは事情を説明し始めた。


 曰くリーネは、"黒尾"のアジトにて、エーリヒが広範囲回復魔法を使い、捕まっていた女性達の身体中にあった縄の後や、長時間縛られていた事での痛みを一気に癒した事を聞いたらしいのだ。

 仕事上、リーネも回復魔法は使えるのだが、それは対象とする相手1人にしか効果が無い。

 そのため、エーリヒから広範囲回復魔法を学び、今後に役立てたいと言うのだ。


「成る程ね………」


 話を聞き終えたエーリヒは、近くの椅子に腰を下ろした。


「…………?」


 自分には色々と教えてくれたのに、何故かリーネの場合は直ぐに返答を出さないエーリヒを疑問に思う神影だが、特に急かす事はせず、ただ黙って彼を見ていた。


「……………」


 エーリヒは直ぐには答えを出さず、ただリーネを見つめていた。

 それに一瞬戸惑うリーネだが、エーリヒから魔法を教わりたいのは本当であるため、真っ直ぐ彼を見つめ返した。


「コレは…………成る程、面白い」


 そう呟いたエーリヒは、ゆっくり立ち上がった。


「練習場所は、君達が仕事してる所で良いかい?」

「は、はい!ありがとうございます!」


 リーネは満面の笑みを浮かべた。


 そうして2人は、エレインと共にギルドを出ていき、神影は1人で適当に行動する事にしたのだ。



──────────────



「さて、彼奴等はどうしてるのかな………?」


 散歩を再開した神影は、エレイン達が仕事場にしているプレハブ小屋へと近づいていた。

 建物の前に3人の姿が見えたため、物陰に隠れて様子を見る。

 彼の視線の先では、エーリヒの指導の下、リーネが回復魔法の訓練に励んでいた。


「彼奴等、頑張ってるな………邪魔しちゃ悪いし、行くか」


 微笑ましそうに様子を見ていた神影は、邪魔にならないようにコッソリその場を後にすると、町を出て航空自衛隊の支援戦闘機、F-1を展開する。


「暇潰しにコイツで飛び回って、夕方辺りにでも戻ってくるか」


 そう呟いてエンジンに火を入れた神影は、アフターバーナーの轟音を響かせながら飛び立ち、1人フライトへ出掛けるのだった。





「(俺とエーリヒのTACネーム、何にしようかな………?)」


………自分達のTACネームを考えながら。

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