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航空傭兵の異世界無双物語  作者: 弐式水戦
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第54話~初めての空中戦~

 シュニーツ山脈───


 それは、ヴィステリア王国南端に存在し、東西に向かって伸びている山岳地帯だ。

 盗賊団"黒尾"が根城にしていた山岳地帯とは比べ物にならない険しさを持ち、魔物が多く出没する他、繁殖期を迎えたワイバーンの群れが巣作りのためにやって来る事で有名な場所だ。


《…………それで、そのワイバーンの群れがやって来る時期って言うのが、ちょうど今頃なのさ》

《成る程な》


 アフターバーナーを全開にして飛んできた事もあってか、神影とエーリヒは既にシュニーツ山脈上空に到達しており、今はエーリヒが、その山脈とワイバーンの関係について説明していた。


《それに、昔チラッと聞いた話によれば、過去には最高で20匹ものワイバーンの群れが確認されたらしいからね。戦闘機の力を持っていても油断は出来ないよ》

《うへぇ~、そりゃキツいな………》


 下手をすれば、自分達の10倍の数のワイバーンの群れに喧嘩を売らなければならないかもしれないと言う事に、神影は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。


 数匹程度なら余裕で対処出来るだろうが、20匹となれば、戦闘機で言えば飛行中隊(Squadron)並みの規模になる。

 数だけで考えると、圧倒的に神影達は不利になる。

 今更ながらとんでもない依頼を受けたものだと、神影は内心呟いた。


「(それはそれとして、何時見ても凄いよな。コレは………)」


 エーリヒは、自分の視界に映っているものに内心そんな感想を溢していた。


 実は、機体を展開した2人の視界には、その種類を問わず、ヘッドアップディスプレイ──略称をHUD──のような表示が常に映し出されるようになっており、実際の戦闘機のように様々なモードに切り替えられる事に加え、レーダーでの索敵も可能な上に、速度や高度等の情報も見られるようになっているのだ。


「(本当、このレーダーって便利だよね。コレさえあれば"気配察知"とか"魔力感知"なんてお払い箱になっちゃうんじゃ…………ん?)」


 レーダーの有能さに感心すると共に、元々の能力の必要性が無くなってしまうのではないかと感じるエーリヒだったが、その思考は中断させられる事になった。

 レーダーを起動させた瞬間、反応が出たのだ。


「(北から反応が6つ、此方に向かってくる………)」


 それを知ったエーリヒは、すかさず神影に通信を入れる。


《ミカゲ、北方から接近反応。数は6》

《ワイバーンか?》

《恐らく》


 聞き返してきた神影に、エーリヒはそう返す。

 その際、戦闘機のみならず、魔物の反応すら感知出来る事に軽く驚いていたのは此処だけの話だ。


《さっきの話もあってかなり警戒してたんだが…………思いの外少なくて安心したぜ》


 神影はそう言いながら、一般的にサイドワインダーと呼ばれる短距離空対空ミサイル、AIM-9を主翼下パイロンに、左右2発ずつ展開する。


《おお、ヤル気満々だね》

《当然だ。そのために依頼受けたんだからな…………行くぞ!》


 そう返すや否や、神影はアフターバーナーに火を入れ、速度を上げていく。


「ミカゲってば、余程楽しみだったんだね…………まあ、それは僕も同じだけどッ!」


 エーリヒも武装を展開すると、置き去りにされないように速度を上げて神影に追随するのだった。



──────────────



 その頃、6匹のワイバーンが群れになって南下し、シュニーツ山脈地帯を目指していた。

 繁殖期になり、巣作りを行うためだ。


 この険しい山脈地帯で生まれ育って巣立ち、成熟して、パートナーと共に戻ってきて子孫を残す。

 それは、彼等の先祖が繰り返してきた事であり、何れ生まれてくる自分達の子孫もそれを受け継ぎ、自分達と同じサイクルを繰り返していくだろう。


 そんな彼等に必要なのは、巣作りの材料や場所は勿論だが、それらと並ぶ程に重要なものがある。

 それは言うまでもなく、食料だ。

 自分達が生きていくためと言うのもあるが、何れ生まれてくる新たな子孫を育てるためには、やはり栄養分が必要だ。

 そのため巣作りを終えれば、彼等の内の雄は狩りに出掛け、獲物を捕らえてくるだろう。

 この山脈地帯に住まう魔物の肉は勿論だが、時折やって来る人間の肉も、彼等にとっては良い栄養分になるのだ。


「………目標(Target)補足(acquired)


 だが、彼等は知らない。

 普段は()()だった自分達が………


「Fox2!」


……………今回は、()()()()()()になるとは。


「ッ!?」


 不意打ちとばかりに飛んできたミサイルが命中し、1匹のワイバーンが悲鳴を上げる事すら出来ずに爆発。それにもう1匹が巻き込まれ、バラバラになって落ちていった。


「ギィィ!」

「ギュヤァァッ!?」


 仲間の2匹が何の前触れも無く殺された事でパニックを起こしたかのように、残された4匹は悲鳴を上げながら、散り散りになって逃げようとする。

 今の彼等は、シュニーツ山脈で巣作りをするとか、そんなものには構っていられない。

 ただ、得体の知れない存在から逃げようと必死だった。


 だが……………


《エーリヒ、1人2匹ずつだ!1匹残さず叩き落とせ!》

《了解!》


 彼等に攻撃を仕掛けた2人は、それを許さなかった。

 

 轟音を響かせ、ワイバーン達からすれば有り得ないような速さで肉薄し、そのまま通り過ぎていったかと思えば、2人は散開して反転し、彼等に襲い掛かってくる。


「ギィィヤァアアアッ!!」


 仲間を殺された怒りか、それとも邪魔をされた事への怒りなのか、1匹のワイバーンが甲高い雄叫びを響かせ、向かってくる神影に突撃していった。


「Fox3!」


 神影は瞬時に狙いを定め、右腕に装着されているM61バルカン砲を作動させた。

 高速回転する銃口から激しいマズルフラッシュを弾けさせ、耳をつんざくような音と共に飛び出す20㎜弾がワイバーンに叩き込まれ、その体を食い破ってバラバラにする。

 大きな翼や細い脚が体から離れ、その断面から血飛沫を撒き散らしながら、そのワイバーンは落ちていった。


1匹(Splash)撃墜(1)!」


 そんなワイバーンを見ながらそう言った神影は、直ぐ様体を捻ってもう1匹のワイバーンへと突撃していく。

 撃墜された1匹を囮にして逃げるつもりだったらしく、既にある程度の距離が出来ていた。


「逃がすかよ…………Fox2!」


 瞬時にAIM-9を起動させてロックオンを済ませ、発射する。

 パイロンから切り離された次の瞬間には、ロケットエンジンに火がついてワイバーンを追い掛けていく。


 持てる力を振り絞って逃げようとするワイバーンだったが、マッハ2を超える速度で追ってくるミサイルを振り切る事など出来る訳が無く、呆気なく追い付かれて爆散し、子孫を残す事はおろか、目的地に辿り着く事すら出来ずにその命を終えた。


目標(Target)殲滅(eliminated)!」


 自分が担当する獲物全ての撃墜を確認した神影は、相方へと通信を入れた。


《ジェノサイド2、そっちはどんな感じだ?》

《えっと、今2匹目を撃墜したばかりだけど………もしかして、そのジェノサイド2って言うのは僕の事かい?》

 

 だが、返されたのは戸惑いを含んだ返事だった。


《………あっ、悪い。未だコールサインの事とか教えてなかったな》


 エーリヒが戸惑っている理由を悟った神影は、コールサインについての説明を始めた。


 空軍におけるコールサインとは、航空機につけられた公式な名前の事で、航空管制のような公式な無線で通信する際、パイロットに対して使われるのがそれだ。

 神影達"ジェノサイド"のように複数のメンバーが居る場合、彼等を例に挙げると、1番機である神影がジェノサイド1、2番機であるエーリヒがジェノサイド2と言う事になるのだ。

 余談だが、僚機同士でのやり取りで使われる、パイロット個人のあだ名のようなものとしてTACネームと言うものがあり、此方はコールサインとは違い、非公式なものとして扱われている。


《…………まあ、こんな感じだな》

《へぇ~………てか、僕等って何時の間に軍隊になったのさ?》


 そんな言葉が、苦笑するような声と共に聞こえてくる。

 

《さあな。気分であのように呼んだだけなんだが……………嫌だったか?》

《あ、いやいや!そう言う訳じゃないんだ。と言うより、寧ろ………》

《………寧ろ、何だ?》


 途中で言葉を途切れさせてしまったエーリヒに、神影は続きを促す。

 それからエーリヒは、暫くの沈黙の後に口を開いた。


《気に入ったよ!コードネームなんて、何か響きからしてカッコいいじゃないか!》

《お、おう…………?》


 いきなり興奮したように言うエーリヒに一瞬怯む神影だが、エーリヒはそれに構わず続ける。


《それに、確かTACネームとか言ったっけ?それも何か良さそうだし!》


 その言葉には、神影も同感だった。


 戦闘機が登場する映画やゲームでも、コールサインやTACネームは度々耳にしており、何度もカッコいいと思っていたのだ。

 それに、もし自分が戦闘機のパイロットになり、自分のコールサインやTACネームを自由に決められるとしたら何にしようかと想像した事もある程だ。


 そう思っている間にも、エーリヒの話は続いた。


《ねえ、ミカゲ。ルージュに戻ったらお互いのTACネーム決めない?それで、機体を纏っている時はその名前で呼び合おうよ!》


 "航空傭兵"の天職を得たためか、コールサイン等の専門用語に思いの外早く順応したエーリヒが、そんな提案を持ち掛ける。


《おお…………そりゃ良い考えだな!》


 元々コールサインやTACネームに強い憧れを抱いていた神影は、エーリヒからの提案を即座に受け入れた。


《まあ、それはそれとして早く戻ってこい。討伐部位を回収して、さっさとルージュに戻るぞ》

《了解!》


 その返事が返されると、一旦通信が切れる。

 そして5分も経たない内にエーリヒが戻ってきて、神影の真横についた。


 それから高度を下げた2人は、着陸に掛かる時間を省くため、主にイギリス海軍や空軍、そしてアメリカ海兵隊で使われた世界初の短距離離陸垂直着陸(STOVL)機、"ホーカー・シドレー ハリアー"を展開して垂直着陸を決めると、音に気づいて襲い掛かってくる魔物を蹴散らし、その魔石もついでに回収しながら、バラバラになったワイバーンを探し、翼の一部や腕や頭部等を討伐部位として回収し、機銃が直脱式であるために両腕が空く、ソ連で開発された垂直離着陸(VTOL)機、Yak-38を展開し、討伐部位を抱えてルージュへ戻るのだった。









 そして、ルージュのギルドに戻って依頼達成の報告をした2人だが、平然とした様子でワイバーンの討伐部位を差し出された受付嬢のエスリアが卒倒し、軽くパニックになったのは余談である。

戦闘描写って、やはり難しいな。


次はもっと迫力ある戦闘を描きたいなぁ………(遠い目)

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