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航空傭兵の異世界無双物語  作者: 弐式水戦
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SS5~桜花の過去・第4部~

「そ、その……えっと………」


 古代さんの前に歩み出た私は、胸の前で指を絡めながら、目の前に立つ彼を見つめます。

 心臓が早鐘を打ち、顔が更に熱くなりますが、逃げる訳にもいきません。

 ずっと、会いたいと思っていた彼が目の前に居るのだから、このチャンスを無駄には出来ないのです。


「お、お久し振り………です、ね……」


 緊張して途切れ途切れになりながら、何とか言葉を絞り出します。


「…………」


 ですが、彼は何の反応も見せず、ただ不思議そうな表情を浮かべて、私をジッと見つめています。

 気まずい沈黙が流れ、段々その場に立っているのが怖くなってきた時、漸く彼の口が動きました。


「…………ああ、そうか」

「えっ………?」


 そんな彼の言葉に、私は間の抜けた声で聞き返します。


「何か見た事ある顔だと思ったら、あの時の迷子になってた奴か」

「………!は、はい!そうです!」


 覚えられ方がいまいちですが、それでも彼が私を覚えていた事に変わりはありません。

 嬉しくなった私は、周囲で見ていたクラスメイト達が驚くのも構わず声を張り上げて頷きます。


「え、何?もしかしてお前等、知り合いだったのか?」

「ああ。入学前に、ちょっとな」


 不思議そうな表情を浮かべて話に入ってきた瀬上さんに、古代さんが答えます。


「それにしても、世の中何が起こるか分からないものだな。偶然会った者同士が、こうして高校で再会するとは」


 胸の前で腕を組み、ウンウンと頷きながら言った篠塚さんの言葉には、私も同感でした。


 受験後のあの日、あの地下街で迷子になり、不安で泣きそうになっていた私に偶然話し掛けてくれた古代さん。

 それから今日まで、何度駅を訪れても会えなかった彼と、何と無く選んで合格したこの高校で再会出来たのですから………

 本当に、世の中とは何が起こるか分からないものです。


「あの時は、本当にありがとうございました………ずっと、お礼を言いたくて………何度もあの駅へ行ったのですが、会えなくて……」

「………え?」


 お礼を言いつつ、何度もあの駅に行った事を伝えると、何故か、古代さんは目を丸くします。


「えっと、雪倉………だったよな?お前まさか………あの駅に行ったのか?」

「はい。神社のお手伝いが無い時は、あの駅で貴方を探していたんです」

「……Jesus Christ.」


 私が答えると、彼は天井を仰ぎ、右手で顔を覆います。


 詳しく聞くと、彼があの町へ行くために電車を使っていたのは2年前までの事で、最近は、基本的に徒歩か自転車を使っていたらしいのです。

 因みに、あの日に電車を使っていた理由は、『何と無く、その日は電車で行きたい気分だったから』なのだそうです。


「あ、あの………そんなに気にしないでくださいね?あれは、私が勝手にやっていた事なのですから」


 蹲った彼の傍にしゃがみ、そう声を掛けます。


「あ、ああ………そう言ってもらえると助かるよ」


 そう言うと、彼は右手を退けて私に顔を向けます。


「そ、それで………是非、あの時のお礼をさせていただきたくて………」

「いやいや、んな事しなくて良いよ。別に大した事じゃねぇし」

「い、いえ!そう言う訳にはいきません!」


 右手をヒラヒラ振りながら言う古代さんですが、私も食い下がります。

 何せ彼が声を掛けてくれなければ、私は、あの地下街の広場でずっと立ち尽くしたままでしたから。


「それに、私の両親も貴方に会いたいらしくて………」

「うへぇ~、マジかよ。親御さん直々のご指名とか」


 信じられないと言わんばかりの表情を浮かべ、彼はそう言いました。


「そ、そう言う訳ですので、よろしかったら今日、私の家に………」

「いきなり家に招待ッスか!?それは流石に………」


 そう言って、彼は渋ります。


「雪倉さん………だったね?取り敢えず、今日のところは保留と言う事で手を打たないか?」


 其処で、ずっと黙って様子を見ていた篠塚さんが話に入ってきました。


「君の気持ちも分かるが、いきなり家に来るよう言われても、彼が混乱するだけだ。同じクラスになったから平日は毎日会うんだし、少し日を置いて、互いに心を落ち着けてからでも遅くはないと思うが……………どうだろう?」

「…………」


 そう言われた私は、自分が若干興奮状態になっていた事を自覚し、深呼吸して改めて考えます。


 確かに篠塚さんの言う通り、再会したその日に、『あの時のお礼がしたいから家に来てください』なんて言われても混乱するだけです。

 入学初日で未だお互いの事も大して知らず、落ち着いてもいない状態で家に招くと言うのは、流石に性急だったかもしれません。


「分かりました。それは、また後日にしましょう」


 一先ず、篠塚さんの提案を受け入れる事にしました。


 それから私は、3人と共に1階昇降口へと下り、其所で待っていたお母様に彼等を紹介します。

 最初に瀬上さん、次に篠塚さんと続き、最後に古代さんを紹介すると、お母様は飛び付く勢いで彼に近づき、両手を握ってブンブン振りながら、迷子になっていた私を助けてくれた事へのお礼の言葉を繰り返します。

 外の方々の視線が集中して恥ずかしい思いをしましたが、仕方無い事だと割り切る事にしました。


 それから3人と別れて自宅へ帰り、既に帰っていたお父様に、あの時の彼と再会した事を伝えたのですが、その瞬間、母のように詰め寄ってきて、やれ『ちゃんとお礼は言ったのか?』とか、『彼はどんな人物だった?』等の質問の嵐が叩きつけられたのは余談です。



──────────────



 あれから飛ぶように時間が過ぎていき、気づけば5月の末を迎えていました。


 その間にオリエンテーションが行われたり、昼食を一緒に食べたりして打ち解けてきたのもあり、ある土曜日、私は改めて両親に紹介するため、古代さんを家に招待する事にしました。


 自宅からの最寄り駅が同じだったのもあり、その駅で待ち合わせた私達は、軽い世間話をしながら私の家へと向かいます。

 家には10分程度で到着したのですが、両親は家に居なかったのです。

 どうなっているのかと思いながら連絡を入れようとスマホを取り出した私でしたが、既にお父様からメッセージが届いていました。

 内容から、どうやら2人は買い物に出掛けているらしく、もう暫く時間が掛かると言うのです。


 彼を招待するのは2人が言い出した事なのに、肝心の本人が買い物に出掛けて、帰ってくるまで時間が掛かると言うのですから、私はただ、呆れて溜め息をつく事しか出来ません。

 結局、私達は両親が帰ってくるまで待つ事になり、居間で寛いでいたのですが………


「(こ、この状況は………凄く、気まずいです………)」


 よく考えたら、我が家に居るのは私と古代さんの2人だけ。つまり、異性と2人きりと言う事なのです。


「(ど、どうしましょう………何か、話さないと………)」


 懸命に話題を絞り出そうとしますが、学校が無い時は神社の仕事に手一杯で、今時の人達の間で何が流行っているとかの情報が全く無い私には、何も思い付きません。

 どうしたものかと頭を悩ませていた、その時でした。


「そう言えば、俺等が高校生になってから、もう1ヶ月半が経つのか………早いモンだよな、雪倉」


 不意に、古代さんがそんな事を呟いて私の方に顔を向けます。

 彼は、プライベート時には眼鏡を外しているらしいのですが…………顔つきは結構整っているため、急に顔を向けられると、ドキッとしてしまいます。


「は、はい………そうですね」


 若干歯切れ悪く返事を返す私に、彼は続けました。


「お前、何時も俺や瀬上や篠塚と一緒に居るけど…………中学時代の友達って、あの学校には居ねぇのか?」

「……………」


 そう聞かれた私は、黙って首を横に振りました。


「まあ、此処から学校まで遠いもんな。そんな所に好き好んで通う奴なんて、そうそう居ねぇか」


 そう言う彼に、私は、また首を横に振ります。


「………?そう言う理由じゃ、ないのか?」


 その質問に頷いた私は、ポツリポツリと、自分の過去の事を話しました。


 そもそも、私には中学時代の友達なんて1人も居らず、小学生の頃も少し話す程度のものでしたから、それが中学になると、全く話さなくなりました。

 

 それに、何度も言いますが、私は自分から人に話し掛けるのが苦手でしたし、学校が無い時は、基本的に神社の仕事をするか、家で勉強するかのどちらかだったので、最近の流行りにも疎く、クラスメイト達の話に全くついていけなかったのです。

 そんな生活を送っている内に、クラスメイト達も、何と無く私を避けるようになり、虐めを受ける事こそありませんでしたが、班になって行動する時以外、私はずっと1人でした。

…………いいえ、たとえ班になったとしても、私は班のメンバー達の話を聞いているだけだったので、実質1人と変わり無かったかもしれません。


「………ですから、私はずっと独りぼっちなのです。友達なんて、1人も居ません」

「…………ゴメン、辛い事言わせちまったな」


 私が話を終えると、古代さんが気まずそうな表情を浮かべてそう言います。

 私も、何と無くその場に居づらくなり、お菓子を取りに行く事を口実に、一旦居間から出ます。


「私は、何を話しているのでしょう………?」


 襖を閉めて壁に背を預け、私は小さく呟きます。



──本来、両親に彼を紹介して昼食を共にし、お互いに色々と話して盛り上がる筈だったのに…………こんな気まずい雰囲気にはならず、もっと楽しい雰囲気になる筈だったのに…………



「………ッ」


 そう思うと、頭の中がゴミ箱を引っくり返して中身を散乱させたかのようにぐちゃぐちゃになります。

 自分は何をしているのか、何がしたいのかが分からなくなり、涙が溢れます。

 もう、彼を交えて昼食を摂るような気分ではありませんでした。


「何だ、お前そんな所に居たのか」

「え?」


 そんな声が聞こえ、溢れてきた涙を拭って振り向くと、開いている襖から、古代さんが顔を出していました。


「ちょっと話があるんだ、来てくれよ」


 手招きする彼に言われるがままに居間へと戻った私は、彼の前に座ります。


「お前の話を聞いてから、ちょっと考えた事があるんだけどさ………」


 唐突に、彼は話を切り出します。


「あの話で、訂正してほしい言葉があってな」

「訂正………?それは、どういう意味ですか?」


 そう訊ねる私に、彼は『簡単な事だ』と前置きしてから答えます。


「お前はさっき、『ずっと独りぼっちで友達なんて居ない』と言っていたが…………"居ない"じゃなくて、"居なかった"………と言うべきじゃねぇのか?でないと、お前は今でも友達が居ないように聞こえるじゃねぇか」

「えっ………?」


 一瞬意味が分からなくなり、何も答えられなくなる私ですが、それに構う事無く、彼は続けます。


「一応言っとくが、俺も瀬上も篠塚も、既に友達になったつもりでお前と接してたんだぜ?でないと、あんな感じで何時も一緒に居たりしねぇからな…………念のために言うが、コレ、マジで言ってるからな?」

「な、何を言って………」


 私の言葉は、私を見つめる彼の金色の瞳によって遮られます。

 その瞳は、まるで、『最後まで黙って聞け』と言っているように感じられ、私は、それ以上何も言えなくなります。

 そんな私に1つ頷いてから、彼は話を纏めます。


「要するに、お前は、もう独りぼっちじゃねぇんだ。俺や瀬上や篠塚と言う、立派なが居るんだよ」

「………ッ!」


 その言葉に、私は目を大きく見開きました。


 正直な話、私は不安だったのです。

 何時も明るく接してくれた3人ですが、本心では、私の事をどう思っているのかと……………気が合う男3人の中に、女が…………それも、流行に疎く、大して話についていけない私が1人混じっているなんて、邪魔に思われていないかと、ずっと気になっていました。


 私は、彼等を友達だと思いたい。でも、彼等がどう思っているのか分からない。

 それが、ずっと気掛かりで………胸が苦しくて………


「(でも………そうじゃなかった)」


 彼は、そんな私のモヤモヤを、一気に晴らしてくれました。

 私に気を使ったとか、そんなものは一切無く、彼の本心を、私に聞かせてくれました。


「……私は…………古代さん達の、友達で………良いのでしょうか?」


 再び溢れそうになる涙を何とか堪えながら、私はそう訊ねます。


「ああ、勿論だ…………何なら今、コイツを聞かせてやろう」


 そう言って、彼は1つ咳払いをした後、私に向き直って言いました。


「今は瀬上達は居ないが………俺等は、お前の、雪倉桜花の友達第1号だ」

「…………ッ!」


 それを聞いた瞬間、私の我慢は限界を迎え、崩壊したダムから一気に流れ出る水のように、涙が溢れました。

 それは悲しみから来るものではなく、彼が私を友達だと思ってくれていた事への嬉しさから来るものでした。


 私は激情に任せて彼の胸に飛び込むと、そのまま両親が帰ってくるまで泣き続けたのですが…………


「き、き………貴様ぁ!家の娘に何をしたぁ!?」

「ちょっ、誤解………ぐへっ!?」


 帰ってきたお父様が勘違いしてゴタゴタを起こし、話がややこしくなるのでした。



──────────────



「そ、その…………本当に、すまなかった……」

「ああ、いや。お気になさらず………それと頭上げてください。めっちゃ気まずいので」


 あれから暫く経ち、居間では両親と向かい合う形で私と古代さんが座っているのですが、お父様が土下座で謝罪しているため、何とも言えない光景になっていました。


「えっと…………つまり貴方達は喧嘩していた訳ではなく、彼が友達として見てくれていた事に喜んだ桜花が泣いていた………と言う認識で良いのよね?」


 確認するように言うお母様に、私と古代さんは揃って頷きます。


「まあ、それなら良かった………てっきり君達が喧嘩していたのではないかと思っていたよ」


 古代さんに言われて頭を上げたお父様が、安心した様子でそう言いました。


「俺、それで思いっきり締め上げられましたからね。しかもそれは理由全体の半分で、残りの半分は妬みだし」

「グハッ」


 ジト目を向けた古代さんにそう言われ、撃沈するお父様。

 それを見たお母様は、ただクスクス笑うだけです。


 そう。両親が帰ってきた時、私と古代さんが喧嘩して、彼の言葉で私が泣かされたと勘違いしたお父様が彼を締め上げたのですが、それは理由の全体で言えば半分です。

 残りの半分である"妬み"とは、『娘がぽっと出の男の子に抱きついているのが気に入らない』と言ったものです。

 因みにその後、誤解が解けると共に、お父様はお母様の()を受けたらしいです。


「そ、それもそうだが………えっと、古代君だったね?」

「はい、そうですが………?」


 今更な質問に頷く古代さんに、お父様は深々と頭を下げました。


「改めて、2月に娘を助けてくれた事について、お礼を言わせてほしい………本当に、ありがとう」

「…………」


 一瞬面食らったような表情を浮かべる古代さんでしたが、直ぐに笑みを浮かべて手をヒラヒラ振ります。


「その礼と言っては何だが、今日は昼食をご馳走させてもらいたい」

「ええっ!?流石にそれは………」


 学校で再会した時、『大した事ではない』と言ってお礼を断ろうとしただけあって、お父様の提案に、彼は中々乗ろうとしません。


「そう遠慮しないでくれ。君は雪倉家の恩人なんだ、これくらいの事はしないと罰が当たる」

「そうですよ、古代さん。遠慮なさらずに」


 私が続けて言うと、お母様も相槌を打ちます。


「………分かりました」


 一家総出で言われて、漸く彼は首を縦に振りました。


 それから直ぐに用意を終え、4人で昼食を摂っていたのですが、唐突に、お父様がこんな事を訊ねたのです。


「ところで古代君。君は、桜花の事をどう思っているのかな?」

「………?」


 膨らんだ頬をモグモグ動かしながら首を傾げる古代さんに、お父様は続けます。


「桜花には、昔から神社の事ばかり教え込んでいてね。流行りのゲームみたいな遊び道具には殆んど触れさせなかったし、ゲームセンターや遊園地みたいな娯楽施設に連れていった事だって、無かったんだ」


 申し訳なさそうな表情を浮かべて、お父様は言いました。


「それに桜花は、幼い頃から、親としての贔屓を抜きにしても美人だった。きっと成長したら、邪な考えを持つ男に言い寄られるかもしれない…………いや、当時から既に言い寄られているのかもしれないと思っていてね。そのあまり、友達との付き合いにも厳しくして、その結果、彼女には寂しい生活を強いる事になってしまった」


 確かにお父様の言う通り、私には娯楽に触れる機会が殆んどありませんでしたし、小学生になると、誰と仲良くなったとか、男の子との付き合いについて詳しく聞かれる事だってありました。

 そして中学年頃には、班活動以外の理由では、男の子とはあまり関わらないように言われていました。

 おまけに、昔から娯楽に触れる機会が無かったのもあり、次第にクラスメイト達の話についていけなくなり、男の子とは勿論ですが、女の子とも、話す回数が減っていきました。


「そんな桜花に親しくしてくれる人が居て、それが男であれば、親しくする理由は、ただ純粋に仲良くなろうとしているだけか、邪な考えを持っているかの2つだ。君は前者だろうと信じているが、念のために聞いておきたくてね…………どうだい?」

「…………」


 そう言われた古代さんは、1度、私の方へと顔を向けた後、再びお父様に向き直ります。


「普通の友達ですね」


 淡々とした口調で、彼は言いました。


「確かに雪倉…………失礼、娘さんは、今の流行の話には全くついてこられていませんが、そんなものは関係ありません。彼女と話している時は、本当に楽しいですからね。何時も学校で彼女に会って、色々と話をするのを楽しみにしているぐらいですよ」


 そう言われた私は、自分の顔が熱くなるのと共に、あの時のように、鼓動が早鐘を打つのを感じます。


「あの時、娘さんが話に入ろうとしなくても、俺は何時か話し掛けて、彼女の友達第1号になっていたと思いますよ」

「…………ッ!」


 こうして思えば、この時が決定的瞬間だったのかもしれません。


 顔の熱さが一層増し、ドクンッドクンッと高鳴っていた心臓が、一際強く脈を打ったのです。


「ほう…………」

「あらあら」


 両親は感心したような表情で古代さんを見た後、私へと視線を移します。

 きっと2人には、真っ赤になった私の顔が映っているでしょう。


「コレは………」

「ええ………完全に、落とされましたね」

「……………」


 両親のやり取りから、2人がニヤニヤと笑みを浮かべている事を察した私は、余計に恥ずかしくなります。


「あの………一体何の話ですか?」


 そんな中で、ただ1人だけ、その場の雰囲気など知った事ではないとばかりに平常運転な人が、不思議そうな表情を浮かべ、首を傾げていました。

 それが古代さんである事は、言うまでもありません。



──────────────



「……………」


 古代さんが帰った頃には、夕方になっていました。

 途中まで彼を送って家に戻った私は、夕飯の前にシャワーを浴びていました。


 彼のあの言葉を聞いてからと言うもの、胸の高鳴りは全く止まらず、彼と2人で歩いていた時は、止まるどころか、寧ろ強くなっていました。

 話し掛けられても普段通りに言葉を返せず、顔はずっと、熱いままでした。

 そして、家に帰ってシャワーを浴びても、それは収まる気配を見せません。


「古代さん………」


 大きく膨らんだ胸に両手を添えて、そっと彼の名を呟きます。

 すると、心臓がドクンッと、大きく脈を打つのを感じます。


 緊張して、普段通りに接する事が出来ないのに、彼に、早く会いたいと思ってしまいます。


 あの優しい眼差しが見たい。

 あの笑顔が見たい。

 あの声を、また聞きたい。


 そんな感情が以前より強くなって、心の中で渦を巻きます。

 スマホで連絡先を交換していますが、それでは収まりません。

 私は面と向かって、彼に会いたいのです。


 きっと、その感情の事をこう言うのでしょう。



 "恋"と……………






 そして、後に親友となる2人の女の子、天野沙那さんと白銀奏さんに出会ったのは、それから数日後の事です。

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