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航空傭兵の異世界無双物語  作者: 弐式水戦
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SS5~桜花の過去・第3部~

 さて、親戚の家にお使いに行った時の一件から1ヶ月少しが経過し、私は高校入学の春を迎えていました。


 この間、高校の合格者説明会への参加や中学校の卒業式があったり、今後あのような事が起こっても対処出来るようにスマホを買ってもらったりした事以外は、説明会後、高校側から出された宿題を片付けつつ何時も通りの生活を送っていた私でしたが、暇を見つけては、あの黒髪に金色の瞳を持つ男の子に送り届けてもらい、家族と再会したあの駅へと赴き、彼の姿を探していました。

 あの時、家族と再会出来た事への嬉しさで彼が帰ってしまった事に気づかず、お礼を言えなかった事が気掛かりだったのです。



──もう一度、彼に会いたい。会って、ちゃんとお礼を言いたい…………



 そんな気持ちを胸に抱き、何度も駅へ赴いた私でしたが、何度訪れても、何れだけ待っても、結局、彼に会う事は出来ませんでした。


 両親も、私を助けてくれた彼には恩を感じており、もし会う事があれば、ちゃんとお礼をする事に決めていただけあって、彼に会えないのは残念でした。


 

 そうしている内に、1ヶ月少しの日は飛ぶように過ぎていき、遂に迎えた高校の入学式。

 私は、校門を潜る私達新入生を出迎えるかのように吹いてくる桜吹雪を見上げながら、小さく溜め息をつきます。

 

「桜花、入学初日から溜め息なんかつくんじゃありません」


 隣に立つお母様が、私にそう言います。


「彼の事は確かに気掛かりだけど、その事は一先ず脇に置いて、今は、これから始まる高校生活の事を考えましょう?」


 そんなお母様の言葉に頷き、私は入学式の事へと考えを変えます。


 保護者は先に体育館に行って待つ事になっているため、一旦お母様と別れた私は、昇降口付近に貼られているクラス分けの紙へと近づいていきます。


 各クラスの出席番号は名前順となっているため、私の名前は、紙の下の方に書かれている事になります。


「えっと………雪倉、雪倉………あっ」


 1組から7組までの各々の欄を、上から下へと目を通しながら探していくと、6組の37番に私の名前がありました。


「………やはり、私の知っている人は1人も居ませんね」


 中学時代から友人は居なかったものの、クラスメイトの名前はある程度覚えていた私ですが、私の記憶にある名前は、何処にも見当たりませんでした。

 ですが、無理もありません。何せこの学校は、私が通っていた中学の生徒からすれば非常に遠く、私の場合は片道で1時間近く掛かるのです。

 恐らく、他の生徒でも逸れに近い時間が掛かるでしょう。

 合格者説明会では、部活動に力を入れていると言う事が担当した先生から伝えられていましたが、それはどの学校でも同じでしょう。

 つまり、この学校は私達からすれば、ただ遠いだけの学校です。

 友人が居ないために何処へ行っても同じである私なら未だしも、他の生徒の中に、こんな学校に通いたがる人は居ないでしょう。

 因みに私がこの学校を選んだ理由は、其所が母の母校であり、母からある程度の情報を得ていた際、この学校の校風を気に入ったからです。

 些か決め方が安易すぎかもしれませんが、何れは神社を継ぐ私からすれば、どの学校へ進もうが同じ。

 なら、そんなに深く考える必要は無いと思ったのです。

 

 

 それはさておき、自分のクラスを確認したら、後は教室に向かい、担任となる先生からの指示を待つだけです。

 そう思うと、これからの生活への期待や不安が、一気に膨れ上がってきます。



──どんな生活が待ち受けているのか?

──中学時代は1人だったが、友達は出来るだろうか?



 そんな事を考えつつ、私は教室へと向かいます。

 校舎は4階建てとなっており、1年生が4階です。

 息を切らしながら階段を上り、漸く教室に辿り着いた私は、先程確認した席に座ります。

 既に何人かの生徒が来ており、談笑していますが、私はただ、自分の席に座っているだけです。

 それから生徒が続々と入ってきた事により、教室が賑やかになっていきます。


「あ~、疲れた………荷物が少ないとは言え、やっぱ徹夜明けで4階までの階段はキツいぜ…………」


 不意に、そんな言葉が私の背後から聞こえてきます。

 

「(……?この声は………)」


 何と無く聞き覚えのある声に、私は振り向きます。

 そして、その声の主を視界に捉えた瞬間………


「…………ッ!?」


 私は目を見開き、その人物を凝視しました。


 両耳が覆われ、両肩に掛かる程に長い黒髪に加え、金色の瞳と、黒縁の眼鏡…………

 

「(間違いない………あの人です………ッ!)」


 内心でそう呟くと、心臓が大きく脈打つのを感じます。

 一先ず脇に置いておこうとしていた彼の事が、再び脳裏に浮かび上がってきます。


「………?」


 そんな時、私からの視線を感じ取ったのか、彼が目線を此方へ向けてきます。


「…………ッ」


 凝視していた事に気づかれて恥ずかしくなった私は、大急ぎで顔を前に向け、彼を視界から外します。

 すると、彼は何事も無かったかのように私の後ろを通過し、自分の席へと歩いていきます。

 それから直ぐ、私は視線を彼に向け直します。


 顔が熱くなっていき、ドクンッドクンッと高鳴る心臓が五月蝿く感じられ、私は反射的に、両手を胸に添えます。


 この1ヶ月と少しの間、何れだけ会いたいと願っても会えなかった、あの男の子が今、私の数メートル先に居ます。

 目線をそちらへ向ければ、彼の後ろ姿が見えます。

 それが信じられなくて………でも、嬉しくて………

 私はただ、胸に手を添えて彼を見つめる事しか出来ませんでした。


 そうしている内に担任の先生がやって来て、体育館へと移動します。

 そして、既に席に着いていた保護者や何かの役員の方々からの拍手に迎えられながら体育館に入り、生徒用に並べられた椅子へ腰を下ろします。

 それからは、新入生代表の挨拶や校長先生達からの祝辞があったのですが、私の耳に、それらは全く入ってきませんでした。

 ただ、彼の事が気になって仕方ありませんでした。



──────────────



「いやぁ、本当に助かったぜ」

「いやいや、そんなに気にしないでくれ。シャーペン1本貸す程度、大した事ではないからな」


 短く感じられた入学式を終えて教室に戻り、自己紹介や明日の連絡も終わって、気づけば放課後になっていました。


 クラスメイト達が談笑したり帰ったりする中、私は、1人の生徒と話している、あの黒髪に金色の瞳を持つ男子生徒、古代神影さんを見ていました。


「いや、お前がシャーペン貸してくれなかったら俺、筆記具丸々忘れた事がバレて入学早々大恥掻いてたところなんだ。スゲー感謝してるよ」


 古代さんがそう言いながら、赤茶色の髪を後頭部で三つ編みにした男子生徒、篠塚太助さんと手を握ってブンブン振っています。


 何やら筆記具を忘れてしまい、それを知られたくないために篠塚さんから借りたらしいですが、こうして話している時点で、少なくとも教室に居る面々にはバレているのではないかと思いますが、何も言わない事にします。


「本当にサンキューな。今度、何か奢るよ」

「い、いやいや。別に其処までしてもらう程の事では………」


 篠塚さんが苦笑混じりに言うと、今度は短く切り揃えられた灰色の髪を持つ男子生徒が話に入ります。

 彼は瀬上幸雄さんで、篠塚さんの親友だそうです。


 かなり陽気な人なのか、悪乗りして自分に奢るように古代さんに頼み始め、呆れ顔を浮かべた篠塚さんに小突かれています。


 そんな光景を見て微笑ましい気分になる私でしたが、直ぐに頭を振ります。


「(せっかく会えたんだから………あの時のお礼、言わないと………!)」


 内心で自分にそう言い聞かせるものの、元から他人に話し掛けるのが苦手である事や、『彼が覚えていなかったらどうしよう』と言う恐怖心が邪魔をして最初の1歩が中々踏み出せず、ただその場で足踏みする事しか出来ません。

 

「(ああ、もう………私と言う人間は、何時もこう言う肝心な時に………!)」


 そんな自分に苛立ちを感じ、髪を掻き毟りたくなりますが、其処で、思わぬ救いの手が差し伸べられたのです。


「ところで古代。彼処に、先程からずっと此方を見つめている女子生徒が居るのだが………」

「ん?」


 篠塚さんが、私の方を向きながら古代さんにそう言います。


「あっ………えっと、その……」


 急に話題に出され、私はどうすれば良いのか分からずオロオロしながら視線をさ迷わせます。


「ああ。それに彼奴、朝から古代の事スッゲー見てたし………なあ、其所のお前。確か雪倉とか言ったよな?」

「ひゃいっ!?」


 急に瀬上さんに声を掛けられた私は、体を強張らせ、上擦った声で返事を返しました。


「此方来いよ。古代に用があるんだろ?」


 そう言って手招きしながら、彼は古代さんを前に押し出します。

 戸惑いながらも前に出てきた古代さんは、私を見て小さく頭を下げます。


「………ッ」


 それを見た時、私の頭の中でこんな声が響いてきました。



──今がチャンスだ。



 私は大きく深呼吸して、古代さんを見据えます。


「(い、言わなきゃ………あの時、助けてくれたお礼を、ちゃんと………!)」


 もう、後戻りは出来ません。

 私は覚悟を決めて、古代さんの方へと歩き出すのでした。

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