表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
航空傭兵の異世界無双物語  作者: 弐式水戦
62/124

SS4~沙那の過去・第3部~

「…………成る程、そんな事があったのね」


 教室に戻ってから時間は流れ、今は昼休み。私は、奏に今回の出来事について相談していた。

 奏は昔からの良き相談相手だったので、今回も彼女の力を借りようと思ったのだ。


 因みに今、私達は教室ではなく、誰も居ない校舎裏で話している。

 その理由は奏曰く、『勇人が居たら間違いなく首を突っ込んできて話がややこしくなる』だそうだ。


「それにしても、顔にラケットをぶつけられた上に眼鏡を踏み潰されるなんて、その男子生徒も可哀想ね…………でも、まあ、少し清々するわ。日頃、私や沙那に邪な目を向けているから、天罰が下ったのよ」


 私以上に男が嫌い……………いや、それどころか極端に見下している奏が、嘲笑混じりにそんな事を言う。

 以前までの私なら、そんな彼女の言葉に相槌を打って悪口を言っていたのだろうが、今回は、そうする気になれなかった。

 

「(あの人の目…………他の男子と全く違ってたよね………それに、態度も違ってた………)」


 私が思い浮かべたのは、あの時向けられた彼の金色の瞳や、彼の振る舞いだった。

 

 自惚れる気は無いが、私や奏は、この学校ではかなりの有名人になっており、同級生は勿論、2、3年生にも私達の話は伝わっている。

 それ故か、時々彼等にも声を掛けられる。勿論、他の男子同様に、下心と言うオプション付きで。

 だが、あの男子生徒の目からは、そんな邪な感情は全く感じられず、それからの振る舞いも、特に気取っているような感じは無く、自然体に見えた。

 他の男子なら、何とか仲を進展させようとして色々な話題を振ってくるのだが、彼は逆に、さっさと話を切り上げて去ってしまった。

 そんな彼の事が、何故か頭から離れない。


「…………ところで、沙那」


 不意に、奏が話し掛けてきた。


「貴女はこれから、どうするつもりなの?」

「…………?」


 唐突な質問に、私は首を傾げる。


「例の男子生徒の事よ。さっきはあんな言い方をしたけど、貴女は彼に怪我をさせた上に、眼鏡を壊したんでしょう?」

「うぐっ………」

「まあ、彼が許してくれていると言うなら、今後の事を考えて、これ以上関わらない方が良いと、私は思うけどね」


 奏はそう言った。

 確かに、あの時こそ邪な感情は感じられなかったが、その後がどうなのかは分からない。

 あの時は、自分の怪我や眼鏡の事で精一杯で私の事を考える余裕が無かっただけで、今は、私に会った事で変な妄想をしている可能性も否めない。


「(………でも)」


 でも、駄目だ。それは、ただ逃げているだけだ。

 相手が私の嫌いなタイプの男子かもしれないし、そもそも許してくれているんだから放っておいても良いだろうと勝手に考え、自分がした事から目を背けているだけに過ぎないのだ。


「(やっぱり、ちゃんと話をしないと駄目だよね)」


 事故とは言え、私は彼の顔にラケットをぶつけて怪我をさせた上に、彼の眼鏡を踏み潰したのだ。

 普通なら、彼が激怒しても仕方無い事だ。なのに私は、パニックを起こして泣いてしまい、逆に、彼に気を使わせてしまった。


 泣き止んでから改めて謝った際、特に気にした様子も無く許してくれたが、だからと言って、すんなり忘れて良いような話ではないのだ。


「………ねえ、奏」

「ん?」

「私が……………『もう1度彼と会って、ちゃんと話をしたい』と言ったら、どうする?」

「……………」


 そう訊ねると、奏は皿のように目を丸くして私を見つめた。


「………本気、なの?」


 そう聞き返してきた奏に頷き、私は自分の心情を全て語った。

 それを黙って聞いていた奏は、私が話を終えてからも、暫く黙り続けていた。

 そして、そんな気まずい雰囲気が流れてから数分後、奏は小さく溜め息をついた。


「やれやれ…………昔から貴女は、変な所で真面目だったわよね」


 そう言って、奏は苦笑を浮かべた。


「まあ、良いわ。貴女が決める事なのだから、私に口出しする権利は無いし………何なら、協力くらいしてあげるわ」

「本当?ありがとう、奏!」


 私は奏に抱きつき、頬を擦り付けた。

 こうして、見知らぬ男子生徒への謝罪計画が始まった。



 一先ず放課後、家に帰った私は、今回の事を全て親に話した。

 自分の境遇は、親もある程度知っているとは言え、不注意で他人に怪我をさせた事に加え、その人の持ち物を壊したのだから、当然叱られた。

 それから明日、学校に行ったら、その男子生徒を必ず見つけ、今回の事を改めて謝ると共に、眼鏡の弁償について話をつけてくるように言われた。


 そうして迎えた翌日、お詫びとして買ったお菓子を幾つか入れた袋を持って登校した私は、奏と共に他のクラスの教室を廻り、あの男子生徒を探していた。


「…………中々見つからないわね」


 隣を歩く奏がそう呟くが、無理もない事だ。

 何せ、この学校は1学年につき、1クラスに生徒が40人、それが7クラスと言う仕組みになっている。

 つまり、1年生だけで280人も居るのだ。

 そんな中で、たった1人の………それも、昨日会っただけの見知らぬ男子生徒を探していると言うのだから、そう簡単に見つかる訳が無いのだ。 

 因みに奏が同行している理由は、他の男子が私に寄り付かないようにするためと、その男子生徒の人となりを見るためらしい。

 その男子生徒が自分達に邪な眼差しを向けてくるなら、彼が今回の一件において被害者である事を問わず、それ相応の扱いをすると言うのが彼女の言い分だ。

 理不尽と言えば理不尽だが、今の奏が考えそうな事だと苦笑したのは余談である。


「良い?相手は一応被害者だけど、だからってペコペコしたら駄目だからね?男子なんて、下手に出れば直ぐ調子に乗る生き物なんだから」

「分かってるよ、奏」


 幼い頃、"男は全員狼説"を聞かせてきたお父さんのように、何度も"男は直ぐ調子に乗る生き物説"を説く奏に、私はそう言った。


 私が言える立場ではないかもしれないけど、奏の男嫌いはかなり極端だ。

 何せ、勇人君や一秋君以外の男子は誰彼構わず睨むし、話し掛けられた時も威圧的な態度で接しているのだ、流石にやり過ぎなのではないかと思わなくもない。


 そんな事を考えつつ探し続けたものの、遂に彼に会う事は出来ず、そのままズルズル時間を過ごしている内に、放課後になってしまった。


「結局、会えなかったわね………」

「うん………」


 名前を知らないために誰かに聞く事も出来ず、ただ時間と体力を無駄に消費しただけと言う状況に、私と奏は揃って溜め息をついた。


 それから、今日は部活が無いために一緒に帰る事となり、2人で廊下を歩く。

 そして、ある教室の前を通り過ぎようとした、その時だった。


「すまねぇな、篠塚。今日もノート見せてもらっちまって」

「気にするな。君の場合は理由が理由だから、仕方無い事だ」


 男子生徒達の話し声が聞こえてくる。

 開いている所から教室内をチラリと見ると、3人の男子生徒が話をしているのが見えた。

 私に背を向けている、首や合服の襟までもが隠れる程に長い黒髪の男子生徒は、机の上に2冊のノートを広げており、それを別の机の上に座った残りの2人が見ている。

 

「しっかし、古代も災難だよな。テニス部の人にラケット投げつけられて顔には切り傷。おまけに落ちた眼鏡踏み潰されるとか…………正に踏んだり蹴ったりじゃねぇか。不運すぎてマジパネェわ」

「………!」


 短めに切り揃えられた灰色の髪を持つ男子生徒が口にした言葉に、私はハッとして足を止めた。

 奏もその言葉が引っ掛かったのか、足を止めて教室内を見ている。


 テニス部の人にラケットを投げつけられ、おまけに眼鏡を踏み潰されるなんて人は、私の記憶には、たった1人しか居ない。

 金色の瞳を持つ、あの男子生徒だ。


「か、奏。どうしよう?」


 私は、奏に助けを求めた。

 まさか、こんな形であの男子生徒を見つける事になるとは思わなかったのだ。


「どうもこうも、せっかく見つけたんだから、この機会を逃す訳にはいかないでしょう」

「そ、そうだけど………」


 いざ話し掛けようとすると、どうしても尻込みしてしまう。

 これまで話してきた男子は、勇人君と一秋君と言った、昔から仲良くしていた2人だけだ。

 そんな状態で、殆んど話した事の無い男子生徒に話し掛けなければならないと言うのだから、どうしても1歩が踏み出せない。


「仕方無いわね…………私が呼んであげるから、後は自分で何とかしなさいよ?」


 溜め息混じりにそう言って、奏はその教室に1歩踏み入れた。


「ねえ、其所の男子」

「「ん?」」


 出だしから高圧的な奏の呼び掛けに反応したのは、灰色の髪を持つ男子と、赤茶色の長い髪を後ろで三つ編みにした男子の2人だけだった。


「ああ、貴方達ではないわ。もう1人………ノートを広げている黒髪の男子よ」

「…………あ、俺の事か?」


 その言葉で漸く気づいたらしく、その男子が自身を指差しながら振り向いた。

 やはり、ラケットがぶつかった所には、大きめの絆創膏が貼られている。


「ええ………と言うか、其所の2人じゃなければ誰だと言うの?」

「ちょっと、奏………!」


 男を嫌っているとは言え、あまりにも上から目線な言い方をする奏を諌めようとする私だが、其処で彼が、私に気づいた。


「ん?………ああ、何か見た事がある顔だと思ったら、昨日のラケットランチャーか」

「………へ?」


 私は思わず口をあんぐりと開け、間の抜けた声を漏らしてしまう。


「こらこら、古代。戦闘機が好きだからと言って、人に戦闘機の兵装のような呼び方をするんじゃない………と言うか、それを言うならロケットランチャーだろ?」

「いやいや、そう言う問題でもねぇだろ太助」


 その黒髪の生徒に注意する赤茶色の髪の男子生徒だが、今度は彼が、灰色の髪の生徒にツッコミを入れられている。


「まあ、それはそれとして…………お前等誰だっけ?」

「「は?」」


 この発言には、私は勿論、奏も目を丸くした。

 不本意ながら校内では有名になっているのに、こんな事を言う男子が居るとは思わなかったのだ。


「あ、貴方………私達を知らないの?」

「はあ?んなモン知ってる訳ねぇだろ。1回も話した事ねぇんだし」


 そう言う彼の目は、『何言ってんだコイツ?』と語っていた。

………何だか、私や奏が変な人のように思えて、恥ずかしくなってくる。


「古代。黒髪の女子生徒は天野沙那で、銀髪の方は白銀奏。雪倉との3人で、"学園三大美少女"と呼ばれている存在だ。この前、他の男子が噂しているのを聞いただろう?」

「………ああ、この2人がそれか」


 赤茶色の髪の男子が言うと、彼は暫く私達を見た後、今思い出したと言わんばかりの表情を浮かべて頷いた。


「まあ、お前、戦闘機以外の事には全く興味ねぇもんな」

「興味が無い訳じゃない。戦闘機を最優先にしてるだけだ」


 灰色の髪の男子にそう言い返し、彼は私達の方へと向き直った。


「それで…………天野と白銀だったな。俺に何か用か?」

「え、ええ…………ホラ、沙那」


 奏に促されておずおず前に出た私は、鞄からお菓子を入れた袋を取り出し、彼に差し出す。


「こ、コレ………」

「ん?………お菓子?」


 袋を受け取って中身を見た彼は、不思議そうに首を傾げた。


「え、えっと………昨日は、ごめんなさい………怪我させた上に、眼鏡壊しちゃって………」

「えっ…………まさかコレ、そのために態々買ったのか?」


 袋と私を交互に見ながらそんな事を訊ねてくる彼に、私は頷く。


「うわ、マジか………ありがたいが、何か悪いな。別に其処までしなくても良かったのに………」


 ばつが悪そうに言いながら、彼は頬を掻いた。

 どうやら、本当に気にしていなかったようだ。


 それから怪我の事について聞いたが、見た目より酷いものではなかったようで、下手に触ったりしないようにすれば、数日で治るらしい。

 そして肝心の眼鏡については、彼も今回の事を親に話したらしく、明日、眼鏡を買い直しに行くようだ。

 彼曰く、破損具合や、そもそも眼鏡の種類等の都合から修理が出来ないと言われたらしい。

 弁償代については、彼が電話して親御さんに聞いたところ、特に請求するつもりは無いとの事だった。

 昨日泣きながら謝った事や、今回お詫びに買ったお菓子を渡したとかの話をすると、『其処までしてくれるなら、もう弁償はさせなくても良い』と言われたそうだ。

 それから彼のお母さんと話をする事になり、『息子はもう気にしていないから、あまり気に病まなくて良い』とフォローされた後、次からは気を付けるように言われ、通話は終わった。


「まあ、そう言う訳だから、今回の一件は、これにて一件落着………それで良いよな?」

「う、うん………ありがとう」


 ずっと苦しめられていた今回の一件から解放された事に安堵の笑みを浮かべ、私はお礼を言った。


 それと、お世辞にも良いとは言えない出会い方だったとは言え、せっかく知り合えたのだからと、互いに名前や連絡先を交換し、解散となった。



──────────────



 それから帰り道。奏に、あの黒髪の男子生徒、古代神影君への態度があまりにも酷かった事について注意してから別れた私は、あの1時間弱と言う間の彼の態度について考えていた。


「何と言うか………不思議な、人だったなぁ………」


 赤く染まった空を見上げ、私はそう呟いた。


 今まで私や奏に接してくる男子達は、下心に満ちた表情を浮かべていたり、変に気取っているのが丸分かりで不快感しか感じなかったが、彼は違った。

 そんな気配は、全く感じられなかった。

 それは他の2人の男子生徒、瀬上幸雄君と篠塚太助君も同じなのだが、彼の場合は…………何と言うか、話していると、楽になれるような、そんな雰囲気が出ていた。


「それにしても、私と奏って戦闘機に負けたんだね………」


 目の前に居る2人の女子生徒より戦闘機の事を気にしていた彼を思い浮かべると、自然と苦笑してしまう。  

 "学園三大美少女"と呼ばれている事など気にも留めずに接してくれるのはありがたいが、戦闘機と比べられた上に負けたのだから、女としては複雑だ。


「本当に…………不思議な人だったなぁ………」


 妙に温かく感じられる自分の心に違和感を感じながら歩いている内に、私は自宅の前に来ていた。


 そうして私は、ドアを開けて中に入り、母に今回の事を報告するのだった。

前編、中編、後編で上手く纏められなかったので、第○部みたいな感じに書き換えました。


次回こそは、本当に最後&沙那が本気で神影に恋心を抱きます。

今回ではっきりさせる予定だったのですが、残念ながら出来ませんでした。

楽しみにしてくださっていた方、申し訳ありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ