SS4~沙那の過去・第1部~
今回は三人称ではなく、神影ヒロインの1人、沙那の視点でお送りします。
因みに桜花編では桜花の視点となりますので、予めご了承下さい。
クラスメイトの1人、古代神影君が城を出てから数日の間、私こと天野沙那は、幼馴染みにして親友の白銀奏や、高校入学後、神影君の計らいで友人になった雪倉桜花ちゃんと一緒に、城下町で聞き込み調査をしていた。
今日まで何十人もの人々に声を掛けてきたが、未だに有力な情報は掴めていない。
私達勇者パーティーから外されて以来、神影君にはエーリヒと言う人が専属講師としてつけられているのだが、その人も、神影君が居なくなった日に魔術師団を辞めたと言われている。
だから、2人が一緒に王都を出ていったと見て彼の事も訊ねてみるものの、人々の返答は同じだった。
「神影君…………何処に行ったの………?」
絵の上手い奏に描いてもらった、神影君の似顔絵が描かれた羊皮紙を抱き締め、私はそう呟いた。
神影君に会えない日が、1日、また1日流れていくのに比例して、締め付けるような胸の苦しさが、増していく。
そんな気分になる理由は単純明快。
私が、彼に恋をしているからだ。
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私と彼との出会いは、高校1年の6月頃にまで遡るのだが、当時、私は勇人君や一秋君以外の男子と話すのが嫌だった。
そうなったきっかけは、更に遡った中3の10月のある日、私はクラスの男子生徒から校舎裏に呼び出され、告白された。
残念ながら、私はその人の事をただのクラスメイト程度にしか思っていなかったので、それをお断りさせてもらった。
だが、それだけでは終わらなかった。今度は、別の男子生徒から告白されたのだ。
それを断った数日後には、また別の男子生徒から告白される。
そんな謎の告白の連鎖に、私の頭の中は疑問符だらけだった。
それに話によれば、奏も同じように、男子達からの告白を受けていたらしい。
何故、この時になってこんなに告白されるようになるのか、当時の私には理解出来なかった。
でも12月のある日、忘れ物に気づいて学校に戻ってきた私は、階段を駆け上がって3階にある教室に向かい、ドアに手を伸ばしたのだが、其所で、今まで男子から立て続けに告白されてきた理由を知る事になる。
「おい、聞いたか?2組の高坂の話」
「ああ。確か彼奴って、白銀に告白してフラれたんだろ?聞いた話じゃ、彼奴で10人目を超えるらしいぜ。命知らずな奴が多いよな」
未だ教室に残っていた数人の男子が、そんな事を話していたのだ。
その中には、私に告白してきた男子も交じっており、気になった私は、彼等から見えない位置に移動して話に耳を傾けた。
「そうは言うが、お前もこの間、天野に告ってフラれただろうが。人の事言えねぇだろ」
「まあ、そうなんだけどさ」
ドア越しに、私が振った男子生徒の苦笑が聞こえてくる。
何と無く申し訳無い気分になってくるが、私には誰ともお付き合いする気は無いのだから、其処は諦めてもらうしかない。
「それにしても………なんでお前や他の連中は、あんなにも2人に告るんだろうな?」
其処で、今までずっと黙っていたもう1人の男子生徒が口を開いた。
それは私も気になっていた事なので、その訳を知るきっかけを作ってくれたのは素直にありがたく思う。
「そりゃ、決まってんじゃねぇか」
私が振った男子生徒が、呆れたような声音で話を切り出した。
「だって天野も白銀も、あんな美少女なんだぜ?おまけにスタイル抜群ときたモンだ、手に入れたいと思うのは当然だろ。自慢も出来るからな」
「………え?」
一瞬、その男子生徒が言った事の意味が分からなかった。
何かしらのきっかけがあって、あのように告白してきたのかと思いきや、そんなくだらないものだったのかと思うと、頭の中がぐちゃぐちゃになってくる。
そんな私を他所に、彼等の話は続く。
「それに話によると、あの2人は結構遠い高校に行くらしいんだよ。今のところ、その高校に行くのは、あの2人と聖川、それと北条以外には聞いてない」
「なら、どっちにしろ勝ち目は無いだろ。聖川と北条がトンでもねぇイケメン男子だってのはお前も知ってるだろうが」
そんな言葉も出てくるが、私が振った男子は、チッチッチッと指を左右に振った。
「それが、どうやら連中は付き合ってないらしいんだよ。だから俺含む他の連中は、別々の高校に進んで会う機会が無くなっちまう前に、天野や白銀を手に入れようと必死なんだよ」
「まあ確かに。天野も大概だが、白銀も凄くエロい体してるもんな」
「そうだな………って、お前何ニヤけてんだよ?キモいぞ」
それを聞いた私は、吐き気すら覚えた。
お付き合いするつもりが無いとは言っても、告白は告白だ。私が大好きな恋愛系のアニメやドラマで、主人公である女の子と、その女の子が好意を寄せる男の子が結ばれる、最もドキドキするイベントだ。
私が初めて呼び出されて告白された時なんて、最初から断るつもりだったと言うのにドキドキしていたぐらいだ。
こんなに考えて、振った後に罪悪感すら感じていたのに、私や奏に告白した男子達は、私達の体目当てだったなんて…………
「(そんなの………酷いよ……ッ!)」
私は、溢れてくる涙を止められなかった。
私も奏も、一言で言えば"発育の良い女の子"だった。
何せ、私は中学入学直後に。私より発育の良かった奏は、小学校卒業前にはブラを着けるようになっていたから。
でも私は、まさか体目当てで告白されるなんて夢にも思っていなかった。
ちゃんとした恋愛が出来ると、信じ込んでいた。
そう信じていただけに、それが裏切られた時のショックは凄まじいものだった。
私は、忘れ物を取ると言う本来の目的を忘れて、逃げるようにその場を去った。
学校を飛び出してからは、止まる事無く家に走って帰り、部屋に閉じ籠って泣いた。
自分や奏が、他の男子からは性欲の捌け口として、はたまたアクセサリーとして見られた事への怒りや悲しみを、抑えられなかった。
そうして私は、古い付き合いである勇人君や一秋君以外の男子とは、絶対に関わらないと誓った。
それから何だかんだで中学を卒業し、私は高校へと進学した。
其所は偏差値が結構高い進学校だったが、私や奏や勇人君、そして一秋君も、それなりに勉強が出来るタイプだった事もあって、4人全員が無事に合格出来た。
小学校からずっと一緒だった奏達とまた一緒に学校に通えると言う事が、本当に嬉しかった。
でも、嬉しさが全てではなかった。
私が知らなかっただけで、実は私達と同じ中学出身の子が、何人もその学校に進んできていたのだ。
それに当たり前の事だが、別の中学出身の男子も多く居る。
どっちにしろ、男子から下心に満ちた眼差しを向けられる生活は避けられそうにない。
現に、学校の敷地内に入ってからと言うもの、他の男子から視線を集めている。
「やっぱり、男なんてこの程度の連中なのね………本当、ろくでなしばかりだわ」
私が例の件を相談してからと言うもの、勇人君や一秋君以外の男子を軽蔑するようになった奏の呟きに相槌を打ち、私は溜め息をつくのだった。
そんな私達と神影君が出会うのは、それから約2ヶ月後の事である。
25日に投稿出来なかった。ちくせう。