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航空傭兵の異世界無双物語  作者: 弐式水戦
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第51話~エーリヒの幼馴染み~

 時刻は昼の12時。ルージュ・ルビーン間の街道上空を、第二次世界大戦中、ノースアメリカン社によって開発されたレシプロ戦闘機、P-51こと"マスタング"を纏った神影とエーリヒが飛んでいた。


「…………それにしても、ルビーンに幼馴染みねぇ」

「そう。士官学校に入るまでは、よく一緒に遊んだものさ。2人共、元気にしてるかな………?」


 染々とした表情で、エーリヒが答えた。

 

「それもそうだけど…………ミカゲ、良かったのかい?アメリア達の服を見ずに出てきて」


 何処と無く悪戯っぽく笑みを浮かべて、エーリヒがそんな事を訊ねる。


「…………?別に良いんじゃねぇのか?この荷物を置いて、お前が言う幼馴染みとやらに挨拶したら、またルージュに戻るんだし」

「いや、そう言う問題じゃないんだけどなぁ………」


 機銃が全て翼内に搭載されている事によって空いている両手で、"黒尾"のアジトから持ってきた宝箱を抱えた神影が、何を言っているんだとばかりの表情でそう答えると、エーリヒはそう呟いた。


 そもそも、何故2人がルビーンへ向かっているのか…………それを説明するには、今から数分前にまで遡る。



──────────────



「さて、エーリヒ。晴れて俺等はパーティーを組んだ訳だが…………どうする?何か適当に依頼でも受けるか?それとも、何処かで組手でもやるか?」


 パーティー登録用紙をエスリアに提出し、晴れて冒険者パーティー"ジェノサイド"を結成を認められた神影とエーリヒ。

 服を買いに出掛けているアメリア達が戻るまで暇になる事を悟った神影は、エーリヒに案を2つ出した。

 普段なら彼の誘いに乗るエーリヒなのだが、今回は首を横に振った。


「いや。僕としては、1度ルビーンに帰りたいな」


 その言葉に、神影は意外だとばかりに目を丸くした。


 幾ら故郷だとは言っても、あの町には何も無い。

 あの町で出来る事と言えば、彼の家でのんびり過ごすか、組手ぐらいしか無いのだ。

 だが、彼がやりたがっているのは組手ではなかった。

 それに組手なら、別に場所をルビーンに限定する必要は無い。

 この町でも、何処か適当に場所を探せば好きなだけ出来るし、仮に町中では出来なくても、町の外でやれば良いのだ。

 その事から組手の案をボツにした神影は、実はエーリヒは"黒尾"との戦闘の疲れが抜けきっておらず、自宅で休みたがっているのではないかと予想するが、其処で彼は、意外な事を口にした。


「実は、ルビーンに幼馴染みが居てね。久々に会っておきたいのさ」

「………え?」 


 その言葉に、またもや神影が目を丸くする。

 未だ城に居た頃、勇者パーティーから切り離され、エーリヒが専属講師をする事になってから随分経っているのだが、彼に幼馴染みが居ると言う情報は聞いた事が無かった。


 それから話を続けるエーリヒ曰く、せっかく魔術師団を辞めて冒険者となった事で自由な立場を手に入れ、ある程度落ち着いているため、近況報告も兼ねて、顔を見ておきたいとの事だ。


「成る程ね………」


 そう呟き、神影は暫く考えた。


 本音を言えば、早くレベルを上げて使える機体のレパートリーを増やすと共に、依頼をこなすなり迷宮を攻略するなりして知名度を上げ、目的達成に近づきたいところだが、だからと言ってエーリヒのやりたい事を無視して自分に付き合わせる訳にはいかない。

 城に居た頃から色々と世話になっていた以上、彼の希望にも耳を傾けるべきだと分かっていたのだ。

 それに神影は、エーリヒの幼馴染みにも、少なからず興味が沸いていた。


「それで、どうだろう?ルビーンに戻っても良いかな?君にも紹介したいし」

「………まあ、良いんじゃね?どんな人なのか気になるし」


 断る理由も無いため、神影はあっさり頷いた。

 こんなやり取りもあって、2人は1度、ルビーンへ戻る事になったのだ。



──────────────



「………まあ、僕の希望で連れ出したとは言え、『ちょっとルビーンに行ってくる』とだけ書いた置き手紙残して行くのは………」

「大丈夫だって、心配し過ぎだよ」


 余裕さを見せるつもりなのか、軽くエルロンロールしながら楽観的に言う神影だが、エーリヒはエレインが神影に修道服姿を褒められた際、アメリア達3人が対抗意識を燃やしていた事を知っている。

 恐らく彼女等は今頃、冒険者としての服を買うと共に、神影に褒められるような服も買おうと躍起になっているだろう。

 それが、戻ったら原稿用紙1行分程度の文章を書いた置き手紙を残して神影が居なくなっていると言うのだから、彼女等が出鼻を盛大に挫かれたような気分になるのは間違いないだろう。


「………ミカゲはもう少し、女心ってヤツを学ばないとね。そんなんだと女の子にモテないよ?」


 自分が知る限り、既にアメリア達4人から好意を寄せられているのに今更だと内心呟きながら、エーリヒはそう言った。


「うっせ、モテねぇのは昔からだ」

「…………」


 そう言い返し、プイッと顔を背けた神影に、エーリヒは苦笑を浮かべつつ、そんな事を自分で言って悲しくならないのかと疑問に感じるのだが、それ以上聞くと彼の傷を抉る事になるだろうと察し、言及は避ける事にした。


 因みに、神影はアメリア達4人以外にも、沙那や桜花から好意を寄せられているのだが、それをエーリヒが知るのは暫く後の話だ。


「おっ、そうこうしてる内に見えてきたよ」


 エーリヒはそう言って、神影が纏うマスタングの左主翼を、自分の右主翼で軽く叩いて注意を引く。

 神影が前方に目を向けると、数日ぶりのルビーンの町並みが見えてきた。

 真っ昼間でも相変わらず人気は無く、精々、門番が立っているのが見える程度だった。


 それから町の前で着陸した2人は、門番に一言掛けて町に入り、エーリヒの家の左斜め前にある2階建ての家の前に立った。


「………この家か?」

「ああ、間違いないよ」


 そう答えたエーリヒは、ドアをノックした。


「アイシス、リーア!ただいま!」


 ドアに向かって呼び掛けたエーリヒは、数歩下がった。


「………留守か?」


 だが、何の反応も返されず、今度は荷物を置いた神影が、ノックしてみようと近づいていく。


「あっ、駄目だよ近づいちゃ!」


 だが、其処でエーリヒが大声で制止を呼び掛けた。

 ノックしようとした手を止めて振り向き、その理由を訊ねようとする神影だったが、家の中から小さく、ドタドタと音が聞こえてきた。

 その音は段々大きさを増していき、此方へ迫ってくるのが感じられた。


「ん?何だこのおt………ぶっ!?」


 突如聞こえてきた足音に疑問を口にする神影だったが、それを遮るかのようにドアが勢い良く開け放たれる。

 何の警戒も無くドアの前に立っていた神影は、何が起こったのか確認する事も叶わずドアに殴り飛ばされ、向かい側まで錐揉み回転しながら吹っ飛び、地面に背中から叩きつけられ、気絶した。

 一撃ノックアウトである。


「あ~あ、だから言ったのに………」


 右手で顔を覆い、ヤレヤレと首を振ったエーリヒは、目の前に現れた小柄な少女に目を向けた。

 その少女はロングヘアの白髪を振り回しながら辺りを見回し、今度は後ろへと目を向け、初めてエーリヒと顔を合わせる。

 そして、その澄んだ海のように青い瞳に涙を浮かべて駆け出す。


「お兄ちゃん!」

「おっと………はいはい、お兄ちゃんですよ」


 飛び込んできた少女を受け止めたエーリヒは優しげな笑みを浮かべ、自分の胸に顔を擦り付ける少女の頭を優しく撫でた。


「エーリヒ!」


 すると、今度は別の少女から声が掛けられた。


 エーリヒが頭を上げると、ライトブラウンの長い髪をストレートに下ろし、紫色の瞳を持つ少女が目の前に立っていた。


「やあ、アイシス。久し振りだね」

「………ッ!久し振り、じゃ………ないわよ………この、馬鹿ッ!」


 アイシスと呼ばれた少女は、両目から涙を溢しながら言った。


「帰ってたなら………一番に……会いに、来なさいよぉ………!」


 一体誰から聞いたのか、アイシスはエーリヒが1度、ルビーンに帰ってきた事を知っていたらしく、泣きながらそう言う。


「ああ、ゴメンゴメン。ちょっと色々あって、会いに行けなかったんだ…………ホラ、泣かないで」


 そう言って、空いている手でアイシスの頭を撫でるエーリヒ。


 それから暫くの間、ルビーンの町には2人の少女の泣く声が響いていた。





「………コレ、どういう状況?」


 その際、ほったらかしにされていた神影が目を覚まし、目の前で広がる光景に戸惑っていたのは言うまでもない。

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