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航空傭兵の異世界無双物語  作者: 弐式水戦
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第48話~理由の説明~

「…………知らない天井だ」


 翌朝、イーリスに案内された職員用仮眠室のベッドで目を覚ました神影は、視界全体に広がる2段目のベッドの裏を見ながらそう呟いた。

 ゆっくりベッドから起き上がって大きく体を伸ばし、未だに反対側のベッドで寝息を立てているエーリヒへと目を向ける。


「んっ……んへへぇ………」


 幸せな夢でも見ているのか、寝ながら笑っているエーリヒ。

 そんな寝顔を見た神影は、一瞬ながらエーリヒが本当に男なのかを疑った。


 エーリヒは、寝る際には長い金髪を1束に纏めるゴムを外しており、今回もそのようにしているのだが、はっきり言うと、髪を下ろして寝ているエーリヒの姿は、ただの金髪ロングヘアの美少女にしか見えない。

 それもその筈。元々エーリヒは神影達と同じ17歳の男にしては声が高かった上に、中性的な顔つきをしているのだから、その事が拍車を掛けていたのだ。


「まあ、それはそれとして」


 そう呟き、神影は部屋の壁に掛けられている時計へと目を向けた。

 針は午前7時を指しており、起きるにはちょうど良い時間だった。

 部屋のカーテンを一気に開き、エーリヒが眠るベッドの傍へと寄って声を掛けた。


「エーリヒ、起きろ。もう朝だぞ」

「………んみゅ?」


 17歳の男子にしては可愛らしい声を小さく漏らし、エーリヒの目がゆっくり開かれた。

 ボヤけていた視界が徐々に鮮明になっていき、最終的には、神影の姿をはっきり映し出した。


「……ああ、ミカゲか………おはよぉ……」

「おう。おはようさん」


 上体を起こし、眠そうに目を擦りながら言うエーリヒに、神影はそう返した。


「…………」

「おいコラ、二度寝するんじゃない」

「みぎゃっ!?」


 暫く体を左右に揺らしてボーッとした後、そのまま再び寝ようとしたエーリヒの頭に、神影がチョップを喰らわせる。

 その痛みで跳ね起きたエーリヒは、チョップを受けた頭を両手で押さえながら神影の方を向いた。


「イテテ………チョップするなんて酷いじゃないか」

「二度寝しようとするからだ。此処は借りてる部屋なんだし、報告やら報酬の受け取りやらで忙しくなるんだから、そう言うのは家でやれ」

「うぅ………ミカゲの態度が矢鱈デカい件について」


 ジト目を向けての抗議もあっさり一蹴されたエーリヒは、不満げに頬を膨らませながらそう呟いた。

 そうして目が覚めてしまったエーリヒは渋々ベッドから這い出ると、先程神影がやったのと同じように、大きく体を伸ばす。

 それから、机の上に置いているゴムで、何時ものように髪を1束に纏め始めた。


「(コイツと俺、時々やる事や被るよな………)」


 内心そう呟いていると、ドアがノックされた。

 それに返事を返すとドアが開き、イーリスが部屋に入ってきた。


「おっ、2人共起きたみたいだね」

「はい、おはようございます。イーリスさん」

「おはようございます………まあ、僕の場合は『起きた』と言うより、『起こされた』と言った方が正しいんですけどね」


 髪を纏め終えたエーリヒが、若干不満げな眼差しを神影に向けながら言い、それを聞いたイーリスは苦笑を浮かべた。


「それより、アメリア達4人はどうしてますか?」

「未だ寝ているよ。助けられたとは言え、やはり精神的ダメージも結構受けているだろうから、もう暫く寝かせてあげようと思ってね」


 その台詞から、彼女等も自分達と同じように、仮眠室に通されているのだろうと神影は予想した。


「まあ、それもそうだけど、取り敢えず朝食にしよう。君達、依頼を受けてから何も食べてないだろう?」

「「…………あっ」」


 イーリスにそう言われた2人は、今思い出したとばかりの表情を浮かべ、その次の瞬間には、2人の腹の虫がギュルギュルと鳴き声を上げた。


「そ、そう言えば………」

「凄く、お腹空いた………」


 2人は腹に手を当ててそう言った。

 そう。彼女の言う通り、2人はリーネからの依頼を受け、ルージュを出発してから何も口にしていなかったのだ。


 "黒尾"が他の村から奪ってきた食力は、戦闘で彼等共々焼き払っており、洞穴にも食料は何1つ残されていなかった。

 女性達を村に送り届ける際、その礼として何かご馳走すると言う申し出はあったものの、他の女性も送り届けなければならないために、全て断っていたのだ。

 それによって2人の空腹は、彼等が気づかぬ間に進行し、今では燃料切れ寸前の状態になっていたのだ。


「おやおや………」


 そんな2人を微笑ましそうに見た後、イーリスは2人を連れて1階下り、食事スペースに連れていこうとするのだが、当然ながら、1階には他の冒険者も居る。

 そして、先に下りてきたイーリスに続いて神影とエーリヒが姿を現すと、彼等は騒ぎ出した。


 神影とエーリヒがリーネからの依頼を受け、"黒尾"討伐に乗り出した事を知っている彼等は、正体不明のアーティファクトを持っていても、Fランクの駆け出しでは討伐はおろか、帰還すら絶望的だと思っていたのだ。

 だが今、その2人が1階に姿を現したのだから、彼等からすれば一大事なのだ。

 

 それからは言うまでもなく、神影とエーリヒは冒険者達に取り囲まれ、質問攻めにされた。

 やれ『"黒尾"との戦闘はどうなったのか?』、『どうやって生還したのか?』、『リーネからの依頼は達成したのか?』と言った内容の質問が次から次へと投げ掛けられ、2人は対応しきれなくなる。


「はいはい!其処まで!!」


 すると、パンパンと手を叩く音がギルド内に響き渡り、神影とエーリヒへの質問の雨がピタリと止んだ。


「皆が気になるのは分かるけど、彼等は此処を出てから何も食べてないんだ。質問するなら、後にしてもらえるかな?」


 イーリスがそう言うと、冒険者達は引き下がった。

 そしてイーリスは2人を食事スペースへと引っ張り、席に座らせると適当に注文していった。

 それから料理が運ばれてくると、2人は争うように食べ始め、瞬く間に積み上がっていく空になった皿の山に、イーリスは自分の懐から一気に金が消えていく事を悟って真っ白になり、それを見た冒険者達は、そんな彼女に心の中で合掌するのだった。



──────────────



 朝食後、冒険者達から次々に投げ掛けられる質問に答え終えた神影とエーリヒは、支部長室に通されていた。王都へ"黒尾"壊滅の報告をする際、2人が名前を出す事を拒んだ理由をイーリスに話すためである。

 縦長のテーブルを挟み、一方のソファーに2人を座らせ、反対側のソファーにイーリスが座った。


「さて…………それでは聞かせてもらえるかな?君達の名前を出してはいけない理由を」


 率直に、イーリスはそう言った。


「まあ、名前を出そうが出すまいが、それは君達が決める事なんだけど…………正直に言って、名前を出す事を拒んだ君達は、変わっていると思うんだ」

「………まあ、イーリスさんの言う事も分かりますよ。国の悩みの種を、俺等が摘み取った訳ですからね」


 神影は、苦笑混じりに言葉を返した。


 深夜、帰ってきた神影達にイーリスが言ったように、"黒尾"は国家規模での悩みの種であり、それは、隣国であり、このヴィステリア王国からすれば敵であるクルゼレイ皇国でも同じだ。

 この2つの国を長きに渡って悩ませた盗賊団を2人が壊滅させた事を知れば、2人が王都へ呼び出される事は確実で、それは、一般人からは非常に名誉な事として認識されている。

 "黒尾"に挑んで返り討ちにされた過去の冒険者達も、その殆んどが名誉目当てだった。

 なのに2人は、その名誉を手に入れるチャンスを態々手放そうとしていると言うのだから、イーリスにとっては、2人の考えは理解出来ないものだったのだ。


「それなら、どうして名前を出す事を拒むんだい?私に言わせれば、コレは名誉を手に入れるまたとないチャンスだと思うんだけど」

「それは…………」


 そう言いかけた神影は、エーリヒに視線を向ける。

 視線を感じ取ったエーリヒは神影の方を向き、無言で頷いた。

 それは、『自分達の事を話して良い』と言う合図だった。

 その無言のメッセージを受けたった神影は、再びイーリスに向き直った。


「俺達が、少々特殊な存在だからです」

「………何だって?」


 そう聞き返したイーリスに、神影は自分達の身の上を話した。


 その話は、神影は、魔王討伐のために異世界から召喚された勇者の1人である事から始まり、エーリヒは元々、城の魔術師団に所属していた事。

 そして、神影は勇者として召喚された身でありながら"勇者"の称号を持たなかった上に、ステータスも最弱だった事。エーリヒは、"終わりの町"と呼ばれたルビーン出身であり、学生時代は成績が振るわなかった事から邪魔者扱いされ、それに耐えかねて城を出てきた事で終わった。


「……………」


 2人の話を聞き終えたイーリスは、信じられないと言わんばかりに目を丸くし、口をあんぐり開けていた。


 彼女は勿論、一般市民にとって、王都は憧れの場所であり、騎士団や魔術師団、そして勇者もまた、憧れの的だった。

 だが、2人の話を聞いた事により、そのイメージはガラガラと音を立てて崩れ落ちてしまった。


「………まあ、こう言う訳で、俺等は城から出てきたんですよ」


 神影はそう言い、エーリヒも相槌を打った。


「それに、皆さんが未知のアーティファクトだと思っているであろう、この………」


 そう言って立ち上がった神影は、ドアの近くへと移動し、周囲に何も無く、機体を展開するのに十分なスペースがある事を確認すると、第二次世界大戦中のアメリカ海軍の戦闘機、F4Uこと、コルセアを展開した。

 脛の部分にプロペラがついた装甲が脚部を覆い、臀部からは、機体後部に当たる部分と尾翼が一体となったパーツが尻尾のように生え、背中からは、待機状態にしているためなのか、主翼が折り畳まれた状態で展開された。


「戦闘機ってのは、実は俺が元々住んでいた世界で使われている兵器なんです。その気になれば、単独でも町1つを平気で焼き払える程の………言ってみれば、超強力な殺戮兵器です」


 その言葉に、イーリスは息を飲んだ。

 

「そして…………その力を使って、俺達は"黒尾"を叩き潰したんです」

「……………」

「それが知られたら、俺等は間違いなく王都に連れ戻され、連中の言いように利用されるか、危険視されて殺される………だから、王都に連絡する際は、俺等の名前を出さないように言っているんです」

「……………」


 神影がそう言う中、イーリスは言葉を失っていた。


 神影が異世界人である事や、エーリヒが元魔術師団員だった事。そして、異世界の兵器である戦闘機。その力の異常さ…………

 そのような、信じられない情報のオンパレードに、彼女の脳内処理は追い付けなくなっていた。


「………あ、あれ?イーリスさん?おーい?」


 何時まで経ってもイーリスからの返答が返されない事に戸惑いを見せた神影は、機体を解除して彼女の傍に歩み寄り、目の前で軽く手を振った。


「………ハッ!?」


 其処で漸く、イーリスは我に返った。


「ああ、すまないね。君達の話が、あまりにも規格外だったもので」


 そう言って、咳払いを1つしてから、イーリスは続けた。


「取り敢えず君達は、自分達の持つ能力の異常さや身の上から、王都に呼び戻されたら不都合だと感じ、匿名を希望する…………と言う事で良いかな?」

「簡単に言えばそうですね………まあ、何時かはバレると思いますが」


 神影が苦笑混じりに言うと、イーリスは彼を見つめる。

 その沈黙が1秒、また1秒と延びる事に比例して、その場の空気も重くなっていく。


「………成る程、分かったよ」


 そうして、小さく笑みを浮かべたイーリスがその沈黙を破った。


「昨日約束したからね、君達の名前は伏せておくよ」

「ありがとうございます」

 

 神影が礼を言い、それに続くように、エーリヒも頭を下げた。


「別に良いよ………さて、私は眠り姫達を起こしてくるから、君達は其所で待っててね」


 そう言って部屋を出ていくイーリスを見送った後、2人は肩の力が抜けたように、ソファーにドスンと腰を下ろした。


「良かったね、秘密にしてもらえて」

「ああ」


 安堵した表情を浮かべるエーリヒに、神影は頷いた。


「だが、さっきも言ったが、俺等の力は何時かバレる。そうなった際、覚悟は出来てるんだよな?」

「ああ、勿論だよ………僕は、その事も考えた上で、君の天職をコピーしてもらう事に決めたんだから」


 そう言って、エーリヒは苦笑を浮かべて天井を仰ぎ、こう呟くのだった。


「ルビーンに帰ったら、彼女等への説明が面倒になるな、こりゃあ」

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