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航空傭兵の異世界無双物語  作者: 弐式水戦
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第47話~冒険者ギルドにて~

「………成る程、そんな事があったんだね」


 神影とエーリヒがギルドに到着し、イーリスの抱擁を受けてから数十分が過ぎた。


 今、神影とエーリヒはイーリスと共に支部長室に居り、出撃してからの出来事を報告していた。


 因みに、馬車に乗せてきたアメリア達4人は、エスリアに連れられてギルド職員用の部屋に通されている。

 彼女等の服装は少なくとも外でやって良いようなものではないため、一先ず職員用の制服を貸し、明日、ちゃんとした服を用意させる事になったのだ。


「何にせよ、全員無事に保護出来たとは………お手柄だったね、2人共」


 イーリスはそう言って、2人の頭を撫でた。

 

「依頼を無事に達成したんだ、報酬は期待して良いよ。それから、2人の冒険者ランクを、FからCに昇格させようと思っている」

「「…………はい?」」


 報酬の話を聞いて目を輝かせていた2人だが、ランクの話を聞くと、その表情は間の抜けたものに変わった。


「え、えっと…………イーリスさん?それって所謂、飛び級昇格………と言うヤツでは?」

「ああ、その通りだよ?」


 『分かりきった事を』と言わんばかりの表情を浮かべ、イーリスは答えた。


「いやいやいや、そんな事して良いんですか!?EとDすっ飛ばして、一気にCランクに上がるなんて………!」

「ああ、勿論だよ」


 一気に飛び級昇格する事に驚きを隠せない神影が詰め寄り、冒険者業界についてはあまり知識が無いエーリヒも同感とばかりにコクコクと頷くが、イーリスはあっさりした様子で頷いた。


「寧ろ、コレは当然の事だと思うよ?何たって君達は、王国騎士団でも手を焼いた、あの"黒尾"を壊滅させ、依頼にあったエレインを無事に救出。更に、他の女性達も全員救出したんだからね」

「「……………」」


 そう言われた2人は、驚きのあまりに言葉を失っていた。


 冒険者ランクの最高はSSSだが、Cランクも、ある程度の実力を持っていると言う証になる上に、そもそも冒険者ランクを上げると言うのは、1つや2つの依頼をこなした程度で出来る程簡単なものではない。

 FからDまで上げるなら未だしも、Cまで上げるとなれば、相当な数の依頼をこなさなければならないのだ。

 そんなランクに、先日冒険者になったばかりと自分達が、本来経るべきEランクとDランクの過程をすっ飛ばして上がれると言うのだから、2人が言葉を失うのは無理もないだろう。


「それにしても、あの"黒尾"が壊滅したとなれば…………コレは、王都に報告しないとね。何せ、国家規模での悩みの種を摘み取ってくれたんだから」


 それなりに膨らんだ胸の前で腕を組み、ウンウンと頷きながらそう呟いたイーリスは、2人に視線を向けた。


「まあ取り敢えず、今回は本当にお疲れ様。もう夜遅いから、今日はギルドに泊まると良いよ。部屋を用意してあげるから、ちょっと待っててね」


 そう言うと、イーリスは支部長室から出ていった。


「……………何か、凄い事になっちまったな」

「うん…………"黒尾"の事は学生時代から聞いていたけど、流石にこうなるとは予想してなかったよ」


 神影の言葉に、エーリヒは苦笑混じりに答える。


「それにしてもコレ、王都に報告されるのか…………嫌な予感がするなぁ」


 神影はそう呟いた。


 知っての通り、神影とエーリヒは元々王都に居たのだが、神影は勇者として召喚された身でありながら、"勇者"の称号を持っていなかった上に、ステータスも敏捷性を除いて非常に低い事から。エーリヒは、"終わりの町"と呼ばれるルビーン出身である事や、強力な特殊能力を持ちながら成績が伴わなかった事から、城の関係者達からは理不尽な扱いを受けていた。

 だが今の彼等は、この世界のパワーバランスを余裕で引っくり返してしまう兵器、戦闘機を扱う能力を有している上に、ステータスも非常に高いものになっているため、十分、国の戦力になり得る。

 "黒尾"壊滅の情報が王都に伝わり、自分達の事まで知らされた場合、国の上層部や騎士団、勇者がどう動くかは簡単に予想出来る。

 戦力として王都に連れ戻して利用するか、今まで神影とエーリヒに対して理不尽な扱いをしてきた事から、2人が報復とばかりに自分達に牙を剥く事を恐れて排除しようとするか、このどちらかだろう。

 

「………依頼を達成したのは良いけど、また新しい問題が出来ちゃったね」

「ああ、そうだな………」


 エーリヒの言葉にそう返し、神影は深く溜め息をついた。


 冒険者ランクを上げれば、その分知名度も上がる。それを利用して、魔人族や魔人族側に寝返った国のトップとの繋がりを持ち、この世界に関する正しい情報を手に入れると共に、元の世界に帰る方法が無いかを聞いてみる事は出来ないかと思っていた神影は、こうなる事も視野に入れていた。

 だが、知名度が上がるとなれば、面倒な連中に目をつけられる可能性が高まるのだ。

 

「…………やっぱり、そう上手くは進まねぇんだよな」

「………?ミカゲ、それはどういう意味なの?」


 神影の呟きを聞いたエーリヒが、キョトンと首を傾げて聞き返す。


「ああ、コレは未だ話してなかった事なんだけどな………」


 そんなエーリヒに、神影はエーリヒが持ち掛けてきた、冒険者になろうとの提案を受けた理由を話した。


「………ミカゲ、そんな事まで考えていたんだね」


 感心した様子でそう言い、それに協力する事を伝えるエーリヒだが、神影から聞いた話から、彼は目的を達成すれば、神影が元の世界に帰る……………つまり、神影との別れの時が来るのだと悟り、複雑そうな表情を浮かべる。


「まあ、な………」


 それは神影も同じなのか、その表情は曇りを見せていた。

 神影としては、エーリヒやアメリア達と別れるのは嫌だ。

 だが、彼等には彼等の帰る場所がある。

 城を出る時のような状況とは、また違うのだ。


「…………まあ、この世界と元の世界を自由に行き来出来るようになる魔法があれば、お別れしなくて済むんだけどな」

「!そうか………それがあったか………ねえ、ミカゲ」


 神影の呟きを聞いたエーリヒは、何かを思いついたような表情を浮かべ、神影に話し掛けた。


「もし、魔人族側に寝返った国のトップとか、魔王と繋がりが出来たら、此処と君の世界を自由に行き来出来る魔法が無いかを聞いてみるのはどうかな?」

「……!そりゃ良いな。もし存在するなら、元の世界に帰っても定期的に此処に来れる」


 エーリヒの提案を、神影はあっさり受け入れた。


「(それに、もしそんな魔法が存在しないとしたら……僕の"破滅の煉獄(ルイン・フレア)"や"死砲デッド・ブラスト"のように作ってみると言うのも、ありかもしれないな………)」


 そんな、ある意味とんでもない事を考え、エーリヒは小さく笑みを浮かべた。


「まあ、一先ず話を戻すが………おい、エーリヒ」

「ん?」


 神影に声を掛けられたエーリヒは、表情を戻して向き直った。


「俺等の目的を達成するためには、王都に連れ戻されたりするのは絶対に避けなきゃならん。でなけりゃ城を出てきた意味が無くなるし、目的なんて達成出来ねぇ。それに、連れ戻されてから逃げ出そうものなら、更に面倒な事になる」


 そう言われ、エーリヒは表情を真面目なものに変えた。


 自分と神影が使える戦闘機は、この世界からすれば、間違いなく最強の兵器だ。

 そんなものを自分達が使えると言う事が知られようものなら、国の上層部は、自分達を連れ戻そうと行動を始めるだろう。

 そして連れ戻されたら最後、この種族間戦争への参加を強制され、彼等の気が済むまでとことん利用されるか、2人の反乱を恐れ、危険因子と見なされて殺されるのは火を見るより明らかな事だ。


「だから取り敢えず、"黒尾"を壊滅させたのは俺等だって事を伏せてもらえるように頼もう」


 その提案に、エーリヒは迷う事無く頷いた。


「いやぁ、ゴメンね。ちょっと鍵探すのに手間取っちゃって」


 すると、絶妙なタイミングでドアが開き、イーリスがチャラチャラと鍵の音を鳴らしながら入ってきた。


「さあ、取り敢えず今日の寝床に案内…………って、どうしたの?そんな怖い顔しちゃって」


 ケラケラ笑いながら話し掛けたイーリスだったが、神妙な表情で見つめる神影とエーリヒに、思わず後退りする。


「実は、1つ頼みがありまして………」


 そうして神影は、王都に"黒尾"壊滅の報告をする際、自分とエーリヒの名前を出さないように頼んだ。


「………どうして、そんな事を頼むんだい?君達は、あの"黒尾"を壊滅させたんだ。名前を隠す必要なんて、無いんじゃないかな?」

「それはそうですけど………俺等としても、知られたくない理由があるんです」


 尤もな事を言うイーリスに、エーリヒがそう言い返した。

 神影も真剣な眼差しで、イーリスを見つめる。


「………………」


 イーリスは、そんな2人を暫く見つめた後、小さく頷いた。


「………分かった。君達がそう言うなら、その通りにしよう。通りすがりの腕利き冒険者に潰されたのを聞いたって事にすれば、まあ大丈夫だろうからね」


 『出世出来るかもしれないのに自分達の功績を国の上層部に知られたくないなんて、中々の変わり者だ』と内心呟きつつ、イーリスは2人の要求を受け入れる事にした。


「その代わり、夜が明けたら理由をしっかり説明する事………良いかい?」


 その要求に答える事は、自分達の正体をイーリスに知られると言う事だ。

 エーリヒなら未だしも、神影は異世界人。それを知られた時、騒ぎになるのは免れないだろう。

 だが、自分達の要求を受けてもらった手前、彼女の要求を突っぱねる訳にはいかない。

 2人は顔を見合わせて頷き合うと、イーリスに向き直った。


「………了解しました」


 その返事に、イーリスは満足そうに頷いた。

 実はイーリスは、神影とエーリヒがリーネの依頼の遂行に名乗りを上げた時から、2人は一体何者なのかと考えていたのだ。

 "黒尾"がどのような存在なのかはエーリヒが話しているのに、彼等は全く、怯えた様子を見せなかった。

 おまけにルージュから出発する際、戦闘機を展開して飛び立つ2人を見て、その疑問は加速する。

 イーリス含む他の住人達は、彼等が展開した戦闘機は、未発見のアーティファクトだと思っているのだ。

 登録したばかりの駆け出し冒険者でありながら、どうして飛行能力を持った、見た事も無いアーティファクトを所有しているのかと、そんな疑問が湧き上がるのは、当然の事と言えるだろう。

 それらを突き止めるべく、イーリスは神影達からの要求を受け入れる代わりに、自分もあのような要求をしたのだ。


「(取り敢えず、明日が楽しみだな………)」


 内心そう呟いてから、イーリスは笑みを浮かべて口を開いた。


「さあ、ずっと此処で突っ立ってても始まらない。今日はゆっくり休んで、詳しい話は、夜が明けてからにしよう」


 そう言って、イーリスは2人を連れて支部長室から出て1階に下りると、受付カウンターの奥にある一室の部屋の鍵を開ける。

 彼女曰く、その部屋はギルド職員の休憩室で、椅子やテーブルの他に、仮眠用の2段ベッドが2つ置かれていた。


「それじゃあ、お休み」


 それだけ言って、彼女は2人を残して部屋を出ていった。


 神影とエーリヒは、昨晩は女性達の世話や見張りであまり眠れていないのもあり、言葉を交わす事無く、吸い込まれるようにベッドへ近づいていくと、そのまま倒れ込み、死んだように眠るのだった。

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