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航空傭兵の異世界無双物語  作者: 弐式水戦
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第45話~ルージュへ帰還~

 翌朝、"黒尾"が根城としていた山岳地帯の平地には、高速で動き回る2人の少年が居た。その正体は言うまでもなく、神影とエーリヒである。


 女性達が寝ている間の見張り役を買って出た神影は、あれから一睡もせず、"黒尾"を討伐した事によって自分達のものになった戦利品の確認をしたり、1人で鍛練をしていたのだ。

 そして夜が明ける頃、穴から出てきたエーリヒは退屈そうにしている神影を見つけ、城に居た頃のように組手をしていたのだ。


「やっぱり、前と比べて威力が一気に上がってるよな………シッ!」

「そりゃ、レベルが一気に上がったからね。それぐらいは当然だよ………はぁっ!」


 神影の回し蹴りを避けたエーリヒが、右ストレートを繰り出す。


「………ッ!」


 腕を交差させて顔面への直撃を防いだ神影は、思いの外大きかった腕へのダメージに表情を歪めるものの、直ぐに持ち直して反撃に移る。

 そんな攻防戦を、何処ぞのアニメのように平地内を動き回りながら行っているのだから、2人の組手も、城に居た頃と比べてハードになっているのが分かる。

 そして、一旦距離を取った2人は同時に飛び出すと、構えていた右手を勢い良く突き出した。

 結果は引き分けで、2人はまるで拳を突き合わせているかのようなポーズで動きを止めていた。


「…………引き分けか」

「………そうみたいだね」


 そう言った2人は、フッと笑みを浮かべて拳を離す。


「あ~あ、今日こそは勝てると思ったんだがなぁ………」

「まあ、これでも君に体術を教えた身だからね。そう簡単に、教え子に負ける訳にはいかないよ」


 仰向けに倒れて四肢を投げ出した神影に、エーリヒが微笑を浮かべて言った。


 彼の言う通り、神影が繰り出した技は、その殆んどがエーリヒから教わったものだ。

 当然、エーリヒも回避方法は知っているし、それからの技の切り返しだってお手の物だ。

 "攻撃"や"防御"と言った肉弾戦向けのステータス値では、神影はエーリヒを上回っている。

 だが、それでも勝利に辿り着けないのは、やはり経験の差と言うものなのだろう。


「くっそぉ~、次はぜってぇ勝つからな!」

「はいはい、楽しみにしているよ………さて」


 寝転んだ状態でエーリヒを指差す神影にそう言って、エーリヒは穴の方へと視線を向けた。


「もう用は済んだから、出てきて良いですよ」

「……………?」


 急にそんな事を言い出したエーリヒに疑問を覚えた神影が起き上がると、それと同じタイミングで、穴からアメリア達がワラワラと出てきた。


「エーリヒと言い、アメリア達と言い………この世界の人って、皆揃って盗み見するのが趣味なのか?」


 気まずそうに笑いながら出てくるアメリア達を見ながら、神影は小さく呟くのだった。



──────────────



 それから2人は、女性達を村に送り届けるべく、早速行動を開始した。

 見張りの最中、他の穴の中を探索した神影は、女性達を連れ去る際に使ったのであろう大きな馬車を発見していたのだ。

 それがちょうど2台あったため、神影とエーリヒで分担して、女性達を各々の村に送り届けようと言う寸法だ。

 肝心の馬が居ないため、神影とエーリヒが馬の代わりに馬車を引っ張る事になるだろうが。


「(こう言う時、ヘリが無い事の不便さを感じさせられるよな………)」


 目の前にある2台の馬車を眺め、神影は深く溜め息をついた。


 そう。様々な航空兵器を使える"航空傭兵"の天職を持つ神影とエーリヒだが、現段階で使えるのは、あくまでも戦闘機だけであるため、それ以外の航空兵器───つまり、爆撃機やガンシップ、そしてヘリが使えないのだ。


「(この際ブラックホークだけでも良いから、ヘリが使えたらなぁ………)」


 再び溜め息をつく神影だが、それでヘリが手に入る訳ではない。一先ず、馬車があるだけありがたいと思うしかないだろう。

 何せ馬車が無ければ、全員を各々の村まで歩かせなければならなくなるのだから。


「………ミカゲ?」


 ふと名前を呼ばれて意識を現実世界に戻すと、目の前には不思議そうな表情を浮かべたエーリヒの顔があった。


「どうしたの?そんな憂鬱そうな顔しちゃって」

「い、いや。何でもない」


 そう返事を返した神影を不思議そうに見たエーリヒだが、気にしない事にしたのか、『ま、良いか』と呟いて顔を離した。


「それよりミカゲ、コレ見てよ!」


 神影の肩を掴んだエーリヒが、ある一点を指差す。

 彼が指差した先には、3つの箱があった。

 "黒尾"が村や冒険者達から奪い取った金品が詰め込まれている、あの箱だった。

 何れも蓋が開かれており、武器や魔石、ポーションと思わしき小瓶、赤や青に輝く宝石らしきものが用いられたアクセサリー、そして金貨や銀貨が入っていると思わしき茶色の袋が見えた。


「す、凄いな………コレ、本当に俺とエーリヒで貰っちまって良いのか?」

「うん!」


 信じられないと言わんばかりの表情で訊ねる神影に満面の笑みを浮かべて頷いたエーリヒは、箱の方へと神影を引っ張り、彼の琴線に触れたものを次々に見せていった。

 

 古代ギリシア、ローマの文献にも登場し、ファンタジー系創作物でも非常に固い鉱物として有名なオリハルコン製の剣や、魔術師のアーティファクトと思わしき杖、紐付きのナイフ、中国刀のような形の短剣等を、生き生きした様子で出し入れする。


 やはり年頃の男子だからか、本来ならどういうものなのかも分からない筈である戦闘機に興味を示したように、武器にもロマンのような何かを感じ取っているのかもしれない。


「………ん?」


 子供のように目を輝かせ、次に何を見せようかと呟きながら箱を漁るエーリヒを見ていた神影は、此方を見ているアメリア達を視界に捉えた。


「それで、このチェーンメイスなんて………?」


 神影が反応を示さなくなった事に気づいたエーリヒが、箱を漁る手を止めた。


「ミカゲ、どうしたの?」

「ああ………ちょっとな」


 それだけ言うと、神影は立ち上がってアメリア達に近寄った。

 箱の中身の確認で出発を送らせてしまったために苛立っているのかと思い、一先ず謝ろうとした神影だが、彼女等は怒っておらず、何故か複雑そうな表情を浮かべて箱を見ている事に首を傾げた。


「えっと………どうしたんだ?」


 おずおず問い掛ける神影だが、3人は答えなかった。

 周囲に目を向けると、エレインや他の女性達も、ただ無言で箱に視線を向けている。


「…………?」


 一言も喋らない女性達を不気味に思う神影だが、其処でニコルが動いた。

 右手をゆっくり動かし、1つの箱から出ている杖を指差して口を開いた。


「あれ………あたしの、杖……」


 相変わらずの途切れ途切れな口調で、杖が自分のものであると言い出したのだ。


「それと、コレが……オリヴィアの武器………あれは、アメリアの………」


 紐付きのナイフ、短剣、そして剣の順に指差して、ニコルが言った。

 どうやらこれ等の武器は、彼女等が"黒尾"に捕まる前に使っていたもののようだ。


「…………」


 だがニコルは、それらの武器の持ち主が自分達である事を言ったきり黙ってしまった。

 オリヴィアとアメリアも、何も言わずに立ち尽くすだけだ。


「(………もしかして、返してほしいのか?)」


 内心でそのように考えた神影は、其処で再び首を傾げた。


 あの武器が本当に彼女等の持ち物なら、一言『返せ』と言ってしまえば良い。

 なのに、何故それを言わないのか。何故、所有権を主張しないのかと疑問が沸き上がる。


「(………あっ、そう言えば)」


 だが、此処で神影は、昨日エーリヒから聞いた事を思い出した。


 盗賊が討伐された際、討伐した者が、彼等の持ち物を全て得る事が出来る。

 持ち主が存在しても、それは変わらない。


 つまり今回の場合、アメリア達の武器も、他の金品も、全て"黒尾"を討伐した神影とエーリヒのものと言う事になる。

 そのため、元々自分達が使っていたものでも、『それは自分達のものだから返せ』と言えないのだ。


「………なあ、エーリヒ」


 箱の中身と女性達を交互に見た神影は、自分に集中する視線にたじろいでいるエーリヒに近寄った。


「ちょっと来てくれ。話がある」


 そう言って、彼は立ち上がったエーリヒの手を引いて1台の馬車に乗り込むと、早速話を切り出した。



──────────────



「………ミカゲ、それ本気なの?」


 話を終えた神影に、エーリヒがそう訊ねた。


 神影は、盗賊達が奪った金品を女性達に返そうと提案したのだ。


「ああ。あんな複雑そうな表情見せられたら………なぁ?」


 そう言われたエーリヒは、自分に───正確には箱の中身に視線を向ける女性達の表情を思い浮かべた。


 あの箱の中身は、元々は彼女等の所有物だ。それなりに思い入れのあるものも、多数入っているだろう。

 だが、盗賊の持ち物や彼等が奪った金品は全て、それを討伐した者の所有物になると言うのがこの世界での考え方だ。

 加えて、自分達が神影とエーリヒに助けられた身であるため、自分達のものを返すように言いたくても言えないのだ。


「まあ、君の気持ちは分かるけど………本当に良いのかい?あれは言わば、僕等の戦利品だよ?」

「別に良いよ」


 その言葉を受ける神影だが、何の躊躇いも無く頷いた。


「それに、あれはもう俺等のモンだから、返しちまっても問題無いんだろ?」

「……………」


 そんな神影を暫く見つめていたエーリヒは、小さく溜め息をついた。


「やれやれ。優しいと言うべきか、お人好しと言うべきか…………まあ、異世界人だからこそ、そんな自由な考え方が出来るのかもしれないね」


 そう呟き、エーリヒは頷いた。


「良いよ、君の好きなようにしてごらん。彼女等、きっと驚くよ?」

「おう」


 何処か悪戯めいた笑みを浮かべて言うエーリヒにそう返し、神影は馬車から出る。

 そして、律儀に待っていた女性達に、彼女等個人や村の所有物があるなら全て持っていくように伝えた。

 

「………本当に、良いの?それ、もう貴方達のものなのに」

「ああ。コレをどうしようと俺等の勝手だってんなら、別に返しちまっても良いだろ」


 おずおず問い掛けるアメリアに、神影はそう答えた。


「でも、エーリヒは………?」

「別に良いってさ」


 そう言った神影は、ちょうど馬車から出てきたエーリヒに視線を向ける。

 それを感じ取ったエーリヒは、笑みを浮かべて手を振った。


 せっかくの戦利品を手放す事に何の躊躇いも無い彼等を不思議に思うアメリア達。

 だが、そんな彼女等に、神影は早く持っていくように視線で促した後、準備が出来るまで待ってるとばかりに背を向けた。

 それから箱へと近づき、中身を手に取った女性達は、自分達が大切にしていたものが戻ってきた事を実感し、涙を流しながら抱えていく。


「………やっぱ、返して正解だったな」

「そうだね」


 そんなやり取りを交わし、2人は彼女等の気が済むまで待ち続けた。


 そして、全員が各々の持ち物を取った事を確認した2人は、彼女等を2台の馬車に分けて乗せ、余り物が入った箱を放り込み、二手に分かれて山岳地帯を出発するのだった。




「あの山、"破滅の煉獄(ルイン・フレア)"で吹っ飛ばしたかったなぁ…………」


 そんな物騒なエーリヒの呟きを残して……………



─────────────



「はぁ、やっと着いた………」


 神影がルージュに着いた頃には、辺りは真っ暗になっていた。


 "黒尾"に捕まっていた女性達は、基本的に山岳地帯に近い村の出身なのだが、中には山岳地帯から離れた村に住んでいた者も居たため、ルージュへの帰還が予定より遅れてしまったのだ。

 遅れを取り戻すために戦闘機を使うと言う案も考えついたが、それは試される事無くボツになった。

 そもそも、戦闘機で馬車を引っ張ると言うのは、常識的に有り得ない事だ。

 それに加えて、引っ張っている間にスピードが乗って地面から離れたり、馬車の車軸がスピードに耐えきれなくなって壊れる事も、十分有り得る。

 そのため、神影は自分自身の力で馬車を引き続けたのだ。


「逸早くルージュに着きたいと思ったとは言え………馬鹿な事考えたモンだよな。俺も」


 思考がおかしくなりつつある自分に苦笑を浮かべていると、馬車の扉が開いてアメリア達が降りてきた。

 因みに、現段階で神影が引いている馬車に乗っているのは、"アルディア"の3人とエレインの4人だけだ。


「お、おい。いきなり降りちゃ駄目だって言ったろ」


 急に出てきた事に驚きつつ、神影はそう言った。


 今の彼女等は、エーリヒが自宅から持ってきた親の服以外には、何も身に付けていない。

 ズボンやスカートは勿論、下着もだ。

 つまり服が無ければ、彼女等は、その豊満な体を晒す事になる。

 そのため神影は、安全だと判断するまで車外に出ないよう、予め言い聞かせていたのだ。


「別に良いじゃないか。今のところ、君以外に男は居ないみたいだからね」

「いや、そうだけどさ………」


 反論してきたオリヴィアに微妙な返事を返し、神影は数十メートル先にあるルージュの門へと視線を向けた。


 確かに彼女の言う通り、門番や住人らしき影は見当たらないし、自分達に誰かが気づいているような気配も感じられない。

 だが、自分達が危ない格好をしていると言う事を、もう少し自覚してもらいたいと言うのが彼の本音だった。


「………つーか、俺なら良いのかよ?俺も男なんだぜ?それも年頃の」


 神影はそう言うが、4人は気にした様子を見せなかった。


「だってミカゲは、私達を襲わないでしょう?」

「それに君は、ボク等に邪な目を向けないよう、気を使ってくれているからね」

「………安心、する」

「ええ。少なくとも私達は、貴方なら大丈夫だと思っています」

「………そう言ってくれるのはありがたいが、あまりホイホイ信じたらロクな事にならねぇからな?其処んとこ覚えといてくれよ?」


 そう言って、神影は話を切り上げた。


 その時、神影の耳に、車輪が回る音が入ってきた。

 その音が聞こえる方へと目を向けると、月明かりに照らされて、馬車を引っ張るエーリヒの姿が見えた。


 彼は大きく手を振り、速度を上げた。


「やあ、遅れてゴメンね」

「いやいや、俺等もさっき来たところだよ」


 そう返した神影は、以前までは無かった首飾りがつけられているのを視界に捉えた。


「エーリヒ………それ、どったの?」

「この首飾りかい?ルドミラさんがくれたんだよ」


 エーリヒ曰く、ルドミラとは、貧血気味だったあの女性の事で、村への道中、何度も彼の世話になった事への礼と言う事で、その首飾りをくれたのだと言う。


「この近くの村に住んでるから、良かったらまた来てくれと言われたよ………何故か親も連れてくるように言われたけど」

「(あっ、コイツ絶対にフラグ建てたな)」


 その言葉から、神影は瞬時に悟った。

 元々、エーリヒの容姿はそれなりに整っており、加えて面倒見が良い。

 接し方次第では、彼に好意を抱く女性が現れても不思議ではないだろう。


「まあ、何はともあれ」


 そう言って、エーリヒは前方に見えるルージュの門へと視線を向けた。


「………遂に、帰ってきたね」

「ああ」


 向かい合った2人は、暫く見つめ合った後、どちらからともなく口を開いた。


「「依頼達成」」


 そう言うと、2人はアメリア達を馬車へと押し戻し、ルージュへ向けて歩き出すのだった。

(祝)!50話到達!

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