第44話~盗賊の根城で一泊・後編~
展開考えてたら1週間以上掛かっちまった。
お陰でテスト週間突入だぜ………
(つД`)
エーリヒに女性達の世話を任せた神影は、岩場に凭れて月を眺めつつ、今日1日の出来事について考えていた。
冒険者登録に加えて初めての依頼の達成。そして盗賊団"黒尾"の殲滅……………たった1日で3つのイベントに遭遇したのだから、十分濃密な1日だったと言えるだろう。
「それに今日、初めて人を殺したんだからな………」
そう呟き、神影は月明かりに照らされている平地全体を見回した。
其所には、"黒尾"の男達との戦闘による爪痕が、痛々しく刻み込まれていた。
ミサイルや爆弾、ロケット弾での攻撃により、平地は粗方掘り返されてデコボコになっており、岩場に至ってはあちこちが砕かれ、その破片が散乱していた。
その惨状は、洞穴が全て無傷で残っている事が不思議に思えてくる程だ。
そして、エーリヒが"黒尾"のメンバーの死体や瓦礫を燃やした場所には、黒焦げになった破片や骨が小さな山を築いている。
この平地には、何十人もの男達の血が染み込んでいると言っても過言ではないだろう。
「それにしても、初めての人殺しで何十人も殺す事になるとはな………」
"黒尾"の男達の人数を正確には把握していない神影だが、少なくとも10人や20人どころの話ではないと言う事は分かっている。
それだけに、今こうして戦闘を振り返って感じるショックはかなり大きい。
「…………いや、こんなんじゃ駄目だ。シャキッとしやがれ、俺」
頭を振り、神影は自分の頬を叩いた。
エーリヒからこの世界の残酷さを聞いた時に覚悟を決めた以上、それを貫かなければならない。
盗賊を殺した事で一々気落ちしている場合ではないのだ。
「………ん?」
そんな時、何と無く人の気配を感じ取った神影は、思考を中断して穴の方へと顔を向けた。
「あっ………!」
彼の視線の先には、穴からひょっこり顔を出しているエーリヒの姿があった。
「ったく…………覗き見とは感心しねぇな、エーリヒ」
「いやぁ~、あははは………」
ジト目を向ける神影に、穴から出てきたエーリヒは誤魔化し笑いを浮かべた。
「まあ、別に良いけどさ…………で、どうしたんだ?火の番の仕事放り出して」
「ちょっ、失礼な。ちゃんと対策してるよ」
エーリヒはそう言って、壁に展開しておいた魔法陣から出てくる風によって、煙が外に出るようになっている事を説明した。
「ホラ、此方に来てごらんよ。風が出ているのが見えるだろ?決してサボった訳じゃないんだからね?」
「はいはい、分かりましたよ」
穴から出てくる風を受け、僅かに靡いている自分の髪を指差して言うエーリヒに苦笑を浮かべながら、神影は両手を挙げて降参のポーズを取った。
「それで………俺に何か用か?」
「うん………ちょっと、ね」
曖昧な返事を返したエーリヒは、おずおずと言葉を続けた。
「気にしてるんだね…………盗賊を殺した事」
「……………」
ちょうど考えていた事を口にしたエーリヒに、神影は一瞬言葉を失った。
「お前…………気づいてたのか?」
「まあね。あんな複雑そうな顔してたら、誰でも分かるさ………それに、僕だってそうだからね」
依頼を受ける前、神影が人を殺す事に戸惑っているのを見抜いただけあって、今回も神影の心境を見抜いていたエーリヒは、そう言って苦笑を浮かべた。
「…………ルージュで覚悟を決めたとは言え、やはり気分の良いモンじゃねぇな」
「そりゃ、人を殺して気分が良くなる奴なんて、相当な精神異常者だろうからね。君の意見は尤もだよ」
溜め息混じりに呟く神影にエーリヒが言葉を返した、その時だった。
「ミカゲ………」
「ん?………ああ、ニコルさんか」
控えめに呼ぶ声に振り向くと、其所にはニコルが立っていた。
彼女が穴から出てくると、アメリアとオリヴィア、そしてエレインが続いて出てきた。
「君達は寝なくて良いのかい?」
「ああ、何か寝つけなくてね。それに、ちょうど君達と話してみたかったから出てきたのさ」
エーリヒの質問にそう答えたオリヴィアの腕には、彼が破壊した格子の破片が抱えられていた。
「準備万端ッスね………」
苦笑を浮かべながら、神影はそう言うのだった。
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それから6人は、オリヴィアが持ってきた格子の破片を積み上げ、エーリヒの火属性魔法で燃やし、その周りを囲むように座った。
「………ところでミカゲ、質問して良いかしら?」
「………?」
その言葉に神影が振り向き、返事を返す間も無く、アメリアは言葉を続けた。
「貴方って、雰囲気が其処らの人とは違うわよね。それに名前も珍しいし…………何処か遠くから来たの?」
「あ、ああ………そんな感じですね」
神影は曖昧な返事を返した。
本当は異世界人なのだが、それを正直に言ったとして信じてもらえるのか、そもそも言っても良いのかと疑問に感じていたからだ。
「……………」
だが、そんな神影の様子から、何かある事を敏感に感じ取ったオリヴィアは、具体的に何処から来たのか訊ねようとするアメリアより先に質問した。
「そう言えば、王都で君ぐらいの異世界人が勇者として召喚されたと言う噂を聞いたんだけど…………名前の珍しさからして、君はその1人じゃないのかな?」
「………ッ!?」
その質問に、神影はぎょっとした。
確かに創作物でも、日本人の名前は異世界人に珍しがられる。
だが、まさかこうもあっさりバレるとは到底思えなかった。
「その様子だと、当たりみたいだね」
「…………」
神影は答えなかった。
オリヴィアの質問に過剰な反応を示したために誤魔化しは効かないだろうし、盗賊を壊滅させるような強さを見せたのだから、自分が異世界人である事を認めても問題無いだろう。
だが、未だ問題は残る。
それは、事が終わって彼女等と別れた時、自分の事を他人に話されるのではないか、と言うものだ。
それが王都に居る勇者達に知られたら、自分が持っている本当の力の事も知られてしまう。それだけは何としても避けたかったのだ。
「大丈夫………」
どうしたものかと頭を悩ませている神影に、隣に座っていたニコルが体を寄せた。
「興味、あるだけ………誰にも、言わない」
そう言うと、彼女はオリヴィアへと視線を向けた。
その『フォローしろ』と言わんばかりの視線に圧されるかのように、オリヴィアは頷いた。
「あ、ああ、勿論だよ。ちょっとした知的好奇心みたいなものだったんだ。なあ、アメリア?」
「えっ、私!?」
いきなり話を振ってくるとは思わなかったとばかりに目を丸くするアメリアだが、彼女にもニコルの目が向けられる。
「そ、そうね………勿論言わないわ」
その言葉を受けて満足そうに頷き、神影に視線を向けるニコル。
それに促されるかのように頷いた神影は、今に至るまでの出来事を話すのだった。
「グスッ………ミカゲとエーリヒ、可哀想………」
神影が話を終えた時、ニコルが開口一番にそう言った。
「気分の悪い話ね。ただステータスが低いとか、そんな理由で底辺扱いするなんて」
「城や士官学校の関係者は、ステータスや肩書きのような、上辺だけの情報で人を判断すると言われているけど…………まさか、本当だったとはね」
アメリアやオリヴィアもニコルに賛同し、エレインも不快げに表情を歪めている。
「まあ、今となっちゃどうでも良いんですけどね。お陰で、こうして城を出て自由の身になれた訳だし、冒険者になったんだから、この国がどうなろうが気にしなくても良いし」
全く気にしていないと言った様子で言う神影だが、内心では城に残してきた幸雄や太助、それから沙那達の事を心配していた。
自分が学園中の男子生徒から敵視されるようになっても変わらず接してくれた上に、この世界に召喚された時も、彼等には何度も世話になっていた。
幸雄には手紙を残してきたものの、何時も一緒に騒いでいた友人に会えないと言うのは、やはり寂しかった。
「………………」
「あ、あれ?」
そんな時、何故か不満そうな表情で見上げているニコルが視界に入り、神影は戸惑った。
何か彼女を怒らせるような事でも言ってしまったのかと、今までの自分の言葉を振り返ろうとする神影に、ニコルが口を開いた。
「ミカゲ………ずっと、敬語………」
「へ?」
そんなニコルの言葉に、神影は間の抜けた表情を浮かべて聞き返す。
「えっと………ニコルさん?敬語使ってるのが、どうかしましたか?」
「………」
神影の言葉に、ニコルはますます不満げな表情を浮かべた。
「タメ口で、良い。後、"さん"も要らない………他人行儀っぽいから嫌」
「は、はあ………」
何事かと心配した割りには大した理由ではなかった事に、神影は拍子抜けしたような表情を浮かべる。
「確かにそうだね。ミカゲやエーリヒは、見たところボク達と年は変わらないだろうし………ボクとしても、タメ口の方が良いかな」
「ええ。それに、年が近いのに"さん"を付けるなんて、何かむず痒いし………」
オリヴィアとアメリアがニコルに同調し、既に彼女等とタメ口で話していたエーリヒも、相槌を打った。
話によると、アメリアとオリヴィアの2人は、神影やエーリヒと同じ17歳で、ニコルは16歳だと言うのだ。
そしてエレインは19歳なのだが、彼女もタメ口で良いとの事だ。
「じゃあ………そうさせてもらおうかな」
自分以外の全員にそう言われた神影は、タメ口で話す事に決めた。
「ああ、それからもう1つ、聞いても良いかな?」
「ん?」
その次の瞬間には、オリヴィアが口を開いた。
「さっきエーリヒが使っていた、あの鎧みたいなアーティファクトの事なんだけど…………あれは、君も使えるんだよね?」
「ああ。実際、彼奴等を壊滅させる時に使ったからな」
そう答えた神影は、立ち上がって少し離れると、"黒尾"を攻撃する際に使ったハンターを展開する。
「す、凄いわね………そんなアーティファクト、何処で手に入れたの?」
直ぐに機体を解除した神影に、間髪入れずにアメリアが訊ねる。
「いや、別に手に入れた訳じゃなくて、この世界に来た時から使えると言うか………」
そう言って、神影は自分の天職や戦闘機、そして、それに関連する特殊能力の事を話した。
戦闘機が、神影が住んでいた世界の兵器の1つであり、その破壊力が凄まじい事や、それを"航空傭兵"の天職を持つ者だけが使える事。他にも、互いに了承し合った相手に天職をコピーする"僚機勧誘"、同じ天職を持つ者同士で会話が出来る"僚機念話"の事を話すと、4人は驚きのあまり、暫く口が利けなくなっていた。
「………あ、逆に此方から、1つ聞きたい事があるんだが………」
そんな彼女等に、今度は神影が質問を始めた。
その内容は、彼やエーリヒが持つ特殊能力の1つ、"自動強化"についてだ。
何もしなくても勝手にステータス値が上がると言う、このご都合主義満載な能力。
ファンタジー系の創作物を読み漁ってきた神影でも、こんな能力は聞いた事が無かった。
そのため、神影は自分やエーリヒ以外に、この能力の所有者は居るのか、そもそも、この能力は他の現地人達にも知られた能力なのかを確認したかったのだ。
「………と言う訳なんだが、この能力の事を知ってる奴って居るか?」
そう訊ねる神影だが、彼女達から返された返答は"NO"だった。
成長速度を向上させる特殊能力の存在なら知っているが、何もしなくても勝手にステータス値が上がる能力は聞いた事が無いと言うのが、彼女等の言い分だった。
「………だとすると、コレは"航空傭兵"の天職を持つ者だけが使える能力、と言う可能性もあるね。現に僕も、この能力の事はステータスを確認するまで知らなかった訳だし」
エーリヒがそう言った。
「………何とも言うか、取り敢えず貴方達がトンでもない能力を持ってるって事だけは分かったわ」
「ああ。こんな馬鹿げた力を持っているのにFランクなのが、未だに信じられないけどね」
そのように結論を出したアメリアとオリヴィアに、ニコルとエレインは相槌を打つのだった。
それから、6人はオリヴィアが持ってきた格子の破片を使い果たすまで談笑していたのだが、火が消えて冷えてきたため、彼女等4人は、穴の奥に戻って寝る事になった。
「本当に、見張りを任せて良いのですか?これくらい、交代でやれば良いのでは…………?」
不安そうに訊ねるエレインに、神影は首を横に振った。
「大丈夫だよ。俺、徹夜なんて慣れっこだから」
「で、でも………」
「ミカゲだけに、苦労………させられない……」
「2人の言う通りだ。君も休んだ方が良いよ」
アメリア達も渋り、神影も休むように言う。
だが、彼の返答は変わらなかった。
「お前等はずっと辛い思いしてきたんだから、ゆっくり休め。俺なら大丈夫だから」
神影はそう言って、手を前後に振って穴に入るよう促した。
「………ゴメンね、助けてもらっておきながら、大したお礼も出来なくて」
「別に良いさ。俺等が助けたお前等の笑顔が曇らなくて済むんだからな。明日になったら、さっきみてぇな可愛らしい笑顔で挨拶してくれや」
「ッ………あ、ありがとう」
そうして彼女等は、威力を弱めた"灯光"で照らして先導するエーリヒに続いて穴の奥へと入っていくのだが、4人の頬は、赤く染まっていた。
それも気にせず、神影は岩場に凭れて見張りを始める。
「(やれやれ、あんな事を平然と言うなんて…………ある意味大物だよ、君は)」
彼女等を先導しながら、エーリヒは内心そう呟いた。
こうして、波乱に満ちた神影とエーリヒの冒険者生活1日目が、幕を下ろした。
「………傭兵なのに、何カッコつけたような事言ってんだろうな、俺………ぜってぇ似合わねぇだろ」
エーリヒ達が入っていった後、神影がそんな事を呟いていたのは余談である。
そろそろクラスサイド書きたいな……