第40話~急成長と戦利品~
「それにしても、派手に荒らしたモンだよな………」
盗賊団"黒尾"の親玉であるディオンを跡形も無く消し去った神影は外の方へと顔を向け、目の前で広がる惨状に何とも言えない表情を浮かべて呟いた。
空対地ミサイルやロケット弾、爆弾を受けて大部分が砕け散り、30㎜砲弾の弾痕が痛々しく刻み込まれている岩場や、其処ら中に転がっている盗賊メンバーの残骸とも言うべき死体が、2人の蹂躙劇の恐ろしさを物語っている。
「まあ、相手が弓とかを使っていたのに、此方はミサイルや爆弾だからね。こうなるのは当然だよ」
エーリヒが苦笑混じりに返す。
「まあ、そんな事より、俺は捕まってる人達を探してくるよ」
「あっ、ちょっと待って」
歩き出そうとする神影を止めたエーリヒは、洗浄魔法を使って神影についた返り血を消した。
「そんな血塗れで行けば、捕まってる人達が怖がっちゃうからね…………ああ、それから死体の処理は僕がやっておくよ」
「すまん、助かるよ」
そう言うと、神影は今度こそ歩き出し、捕まっている女性達を探すため、一旦平地の真ん中に移動する。
「(さて、捕まってる人達はどの穴に居るのやら………?)」
内心そう呟きながら、神影は幾つもの穴を見渡した。
驚くべき事に、ロケット弾や爆弾や空対地ミサイルを撒き散らした割りには、崩落しているものが1つも無かった。
其所が狙われなかったのもあるだろうが、平地が掘り返され、岩場が砕かれている中、それらの穴だけは攻撃前の姿を留めていた。
「(こう言う時、人の気配を感じ取れる特殊能力があれば便利なんだけどなぁ………)」
そう呟き、神影は自分のステータスを開く。
名前:古代 神影
種族:ヒューマン族
年齢:17歳
性別:男
称号:異世界人、血塗られた死神、無慈悲な狩人
天職:航空傭兵
レベル:56
体力:2350
筋力:2200
防御:2190
魔力:1060
魔耐:1100
敏捷性:2850
特殊能力:言語理解、僚機勧誘、空中戦闘技能、物理耐性、麻痺耐性、魔力操作、魔力応用、自動強化、僚機念話
「うっわぁ…………」
神影は表情を引き攣らせた。
国の騎士団すら手を焼く程のレベルや数を誇る"黒尾"を全滅させた事もあって、レベルが一気に跳ね上がっている。
それに"自動強化"の効果も加わって、各ステータス値の桁が4桁になっていた。
出撃前はレベルが30で、ステータス値の桁が4桁になっているのが"敏捷性"の1つだけだった頃とは比べ物にならないような成長ぶりである。
残念ながら彼が期待していた能力は無かったが、今回の急成長は、それが気にならなくなる程のプラスだった。
「何と言うか、凄い事になっちまったな………」
そう呟いた神影は、今度は航空兵器の一覧を開いた。
『一定レベルを超えたため、機体がアンロックされました』
その瞬間、またしても無機質な女性の声が脳内に響く。
そして一覧に目を通していくと、『第2世代ジェット戦闘機』のリストが新たに加わっているのが目に留まった。
それに加えて、成長系の特殊能力の中で最も効果の強い、"成長速度向上(極)"も追加された上に、"自動強化"による成長の割合が増えた事も知らされた。
「おお………」
神影の口から、感嘆の溜め息が漏れ出した。
この世界に召喚された当初は、勇者の称号も無い上にステータスも召喚組の中で最悪。
それによって蔑まれ、肩身の狭い思いや理不尽な扱いを強いられていた頃から一転して、今では有り得ない程の成長を遂げている。
「ははは……………ナンテコッタイ」
顔を覆った右手の下で乾いた笑みを浮かべ、片言でそう呟く神影。
ファンタジーの世界で戦闘機が使える。それだけでも十分チートだと言うのに、更に拍車が掛かっていた。
「おーい、ミカゲ!そんな所で突っ立って、何してるんだい!?」
すると、中々動かない神影を不思議に思ったエーリヒが、魔法で盗賊メンバーの死体や舞台の残骸を1ヶ所に集めながら声を掛けてくる。
「あ、すまん!今から行く!」
そう言うと、神影は適当に選んだ穴へと駆け込んでいった。
──────────
数分後……………
「何だよ、1人も居ねぇじゃねぇかよ」
捕まった女性の代わりに大きな箱を持って出てきた神影が、投げやり気味に言いながら箱を放り出した。
どうやら、ハズレを引いたようだ。
「ミカゲ、その箱はどうしたんだい?」
箱が地面に打ち付けられる大きな音で作業を中断したエーリヒが、近寄りながら訊ねる。
「分からん、何か奥の方に置かれてたんだ。ついでに言うと、後2個ぐらい残ってる」
適当な答えを返し、神影は穴の中を指差した。
「成る程ね………」
そう言って、エーリヒは暫く箱を眺めた後、その蓋を開ける。
中には大量の金貨や銀貨、ファンタジー系創作物の回復薬として知られるポーションと思わしき瓶、魔道具らしき彼是が詰め込まれていた。
「こりゃまた、凄いな……」
「ああ………恐らく、今までに村や冒険者達から奪ってきたものだろうね」
一体、何れだけ村や冒険者を襲えばこんなに奪えるのかと、エーリヒは言葉を付け加える。
「コレ、どうするんだ?ギルドにでも持っていけば良いのか?」
「いや。討伐した盗賊の持ち物は、基本的に討伐した本人が全部貰って良い事になってるよ。暗黙のルールって感じでね」
エーリヒが即答した。
つまり、神影が持ってきた箱や、未だ穴の奥に残されている箱の中身は、全て2人で独占出来ると言う事なのだ。
「……………」
神影は、再度箱の中身に視線を向けて絶句した。
「………捕まってる人達探そう」
一先ず箱の事を忘れ、未だに牢屋に閉じ込められている女性達を探す事に決めた神影は、再び平地の真ん中に戻り、並んでいる穴を眺める。
「(ん~、当てずっぽうに入っても時間が無駄になるだけだし…………あっ、そうだ)」
其処で何かを閃いた神影は、盗賊の死体や舞台の残骸を山のように積み上げていくエーリヒを呼び寄せた。
「どうしたの?」
「ああ、ちょっと手伝ってほしくてな」
そう言って、神影はエーリヒの"魔力感知"で女性達の居場所を見つけられないかと訊ねる。
「………あっ、その手があったか」
エーリヒは右手に拳を作り、それを左手に打ち付けた。
"気配察知"の特殊能力は勿論だが、"魔力感知"でも、使い方次第で人を見つける事が出来る。
神影はそれを使って、女性達がどの穴の奥に居るのかを探し出そうと思ったのだ。
「それじゃあ、早速始めるよ」
そう言って、エーリヒは"魔力感知"を発動する。
彼の体から魔力のオーラが溢れ出し、それは平地全体に広がっていく。
「…………ッ!」
そして、エーリヒは一番奥にある穴を指差した。
「あれだね。強さの違う魔力の反応が幾つもあるから間違いないよ」
「そっか……………了解、ありがとな!」
神影はそう言うと、その穴へと足を踏み入れるのだった。