第39話~蹂躙と、黒尾の壊滅~
戦闘描写、上手く描けてたら良いなぁ……(遠い目)
満天の星や月が輝く夜空の下、視界全体に広がる山岳地帯を真っ正面に捉え、イギリスの戦闘機"ホーカー・ハンター"を纏った神影とエーリヒが、ターボジェットエンジンの轟音を響かせて飛んでいた。
《…………見えてきたよ、ミカゲ。あれが"黒尾"のアジトだ》
"僚機念話"で話し掛けたエーリヒが、遠くに小さく見える巨大な砦を、リヴォルヴァーカノンの砲口で指し示した。
「彼処に、"黒尾"の連中が居るんだな………」
エーリヒが指した方向を睨みながら、神影は小さく呟いた。
このまま作戦通り、砦を破壊して突入すれば、"黒尾"との戦闘が始まる。
後は、この機体に搭載されている全ての武装を使用して、メンバーを皆殺しにするだけだ。
《………未だ、人を殺すのが怖いかい?》
《まあ、本音を言えばな》
エーリヒにそう答え、暫く無言になって目を伏せる神影だったが、やがて、決意を込めた表情を浮かべた。
《でも、もう決めたんだ。此処まで来ておいて、『やっぱり怖いから無理』とか言って投げ出す訳にはいかねぇよ》
《そうか……………うん、そうだね》
その言葉を受けて力強く頷いたエーリヒは、何時でも戦闘を開始出来るように、両腕に2門ずつ搭載されているリヴォルヴァーカノンを構え、主翼下のハードポイントに、4基の18連装ロケットポッドを展開した。
《準備完了。何時でも良いよ、ミカゲ》
《ああ》
短く返事を返した神影は、大きく深呼吸する。
そして目を瞑ったまま、城に残してきた2人の親友や、日本に居る家族に、これから人を殺める事を心の中で謝罪し、ハードポイントに4発のAGM-65空対地ミサイルを展開し、照準を砦に合わせるのだった。
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その頃、何も知らない"黒尾"の男達は、女達を踊らせるための舞台の設営を終え、殆んどの者が蓙の上に腰を下ろし、村から奪ってきた食料が洞穴から運び出されてくるのを眺めながら、"宴"が始まる時を今か今かと待ちわびていた。
「やれやれ、やっと準備が終わったぜ………」
「ああ、後は食いモンの用意が終わるのを待つだけだな」
先程、蓙を敷く作業をしていた男と、丸太を運んでいた2人組の内の1人が背中合わせで座っていた。
あれからずっと動き回っていたのか額には少量の汗が浮かんでおり、2人はそれを腕で拭っていた。
「まあ、取り敢えず外の準備は終わったし、食いモンの運搬だって、もう直ぐ終わるんだ、お楽しみの時は近いぜ?」
背を向けた状態で2人の話を聞いていた別の男が、顔だけ彼等の方へ向けてそう言った。
「そうだな。後少しだもんな」
「美味い飯食った後は、裸の女共の躍りだ!」
「んで、最後は………」
そう言いかけたところで、彼等の下卑た会話は遮断された。
奪ってきた食料の運搬が終了して他のメンバー全員が蓙に腰を下ろし、彼等の前に、1人の男が歩み出たのだ。
「おっと、お頭の登場だ」
1人の男がそう言った。
彼に『お頭』と呼ばれたその男は短めに切り揃えられた黒髪を持ち、左の頬には傷跡らしきものが浮かんでいる。
服の上からでも分かる筋肉質な体つきと相まって、歴然の戦士を思わせるような風貌を持っていた。
「お頭。"宴"の準備が整い、メンバー56人、全員揃いました」
「おう、ご苦労」
目の前に跪いた1人の男に労いの言葉を掛け、その男は蓙に座っている手下達に視線を向けた。
「さて、テメェ等。今日は23人もの女共を捕まえてきたみてぇだな…………中々の大漁じゃねぇか、よくやった」
その野太い声が、砦内に響く。
「さあ、"宴"の始まりだ!たらふく食って女共とのお楽しみに備えとけ!今日はこの俺、ディオンも参加するぜ!全員気絶するまでノンストップだ!」
その言葉に、手下の男達は歓声を上げた。
お頭ことディオンは、普段は何故か、手下達が盛り上がっているのを傍で見ているだけなのだが、今回は彼も最初から参加する。
それが、手下達の興奮を掻き立てていたのだ。
「さて、さっさと食い終えてお楽しみを始めようぜ!」
「ああ。早く俺のでヒィヒィ言わされてやりたいぜ!」
そんな下卑た話で盛り上がりながら、男達は並べられた食料を貪るように食べ始めるのだった。
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「………遂に、始まったみたいね」
その頃、牢屋ではアメリアが外の様子に聞き耳を立てていた。
ガヤガヤと男達の声が聞こえてくる事から"宴"が始まった事を悟り、表情を曇らせる。
「私達………もう、家に帰れないのかな…………?」
1人の女性が、弱々しい声で呟く。
今まで、"黒尾"に捕まって無事に帰ってこられたと言うケースは無い。
彼女の呟きに対する答えなど、言うまでもなかった。
「くっ………こんな所で………!」
悔しそうに歯軋りして、出口の方を睨み付けるアメリア。
先程までは、せめて縄を解かれた際に、殺される覚悟で抵抗してやろうと考えていたが、数からして、その成功率は皆無に等しい。
数で捩じ伏せられるか、捕まった時のように、村の女性達を人質にされるのがオチだ。
外で男達が盛り上がる中、牢屋の中ではこの世の終わりのような雰囲気が流れる。
だが、男達の"お楽しみ"も、彼女等の"絶望"も、既に終わっていたのだ。
何故なら……………
「AGM-65、発射!」
盗賊達を叩き潰すためのミサイルが、神影によって放たれたのだから。
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最初に異変に気づいたのは、酒を飲もうとしていた1人の男だった。
「…………?おい、何か変な音が聞こえねぇか?」
「音?」
そう聞き返したもう1人の男は、空へ向かって聞き耳を立てる。
「ああ、本当だ」
「だろ?一体何が…………」
その男が最後まで話す事は無かった。
突如として砦が爆発し、破片が雨のように降り注いだのだ。
「うおっ!いきなり何だ!?」
「と、兎に角逃げろ!下敷きになっちまうぞ!」
訳が分からないままに、男達は砦内を必死に逃げ回り、一先ず穴の中に避難しようとするが、50人以上が一気に押し寄せて入れる程、穴は広くない。
そんな中、1人穴に向かうのが遅れた男は、砦があった場所から上がる黒煙の中から、2人の少年が轟音を響かせながら飛び出してくるのを目にした。
「な、何だよ………彼奴r──」
思わず疑問を口にする男だったが、その次の瞬間には、小さな粒に身体中を食い破られ、何が起こったのか分からないままこの世を去るのだった。
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砦を空対地ミサイルで破壊してアジトに突入した神影は、自分が放った30㎜砲弾で肉片と化した男に見向きもせず、穴に殺到している男達を捉え、近くを飛んでいるエーリヒに指示を出した。
《エーリヒ、彼奴等にロケット弾を喰らわせてやれ!》
《了解………全弾発射!》
神影の指示を受けたエーリヒは、突入前にハードポイントに展開していた4基の18連装ポッドに入れられているロケット弾を間髪入れずに発射した。
「…………ッ!に、逃げろ!よく分からんが、当たったらヤバそうだぞ!!」
後ろ向きに火を噴きながら飛んでくる72発ものロケット弾を目の当たりにして、あれに当たると無傷では済まないと本能的に悟った男達は、穴に入るのを諦めて散開し、逃げ回る。
「逃がすかよ………!」
だが、逃げた先には武装を無誘導爆弾に切り替えた神影が向かってきていた。
「爆弾投下!」
4箇所のハードポイントから切り離された爆弾が落下を始め、地面に当たると同時に爆発し、何人もの男達を吹き飛ばす。
爆心地に居た男達は体をバラバラにされて呆気なくこの世を去り、離れていても、爆風で勢い良く吹き飛ばされる。
50人以上の規模を持つ"黒尾"のメンバーは、この数分程度の蹂躙劇で半分程にまで数を減らされており、彼等はパニックに陥っていた。
「クソッ……………餓鬼が舐めてんじゃねぇぞ!」
其処へ、ディオンの声が響き渡った。
傍に大量の矢が入った篭や弓、剣や槍などの武器を山のように積み上げた彼は、1本の矢を篭から引っこ抜き、すかさず射る。
その矢はエーリヒ目掛けて飛んでいくが、あっさりと避けられた。
「お、お頭………?」
何とか生き残っていた男達が、ディオンに目を向ける。
「たった2人の餓鬼相手に何ビビってんだテメェ等!あんなの撃ち落としちまえば問題ねぇだろうが!さっさと武器取って戦え!死んだ奴等の分、思いっきり苦しめてやれ!!」
その言葉にハッと我に返った男達は、何人かはディオンの傍に積み上げられている武器の山へ向かって走り出し、他は魔法の詠唱を始める。
「(対空攻撃ってか?クソッ、面倒な…………!)」
神影が悪態をついた瞬間、詠唱を終えた男達の手から魔力弾が放たれた。
他にも、低空飛行している2人を狙って、男達が武器を投げ始めた。
「そう来たか……………騎士団が手を焼くだけあって、彼奴等も馬鹿じゃないって事だね………」
そう呟いたエーリヒは、神影に通信を入れた。
《ねえ、ミカゲ。僕が連中の注意を引いている間に掃討する事って出来るかい?》
《さあな、やってみなけりゃ分からん!》
エーリヒからの質問に答えながら、神影は次々に飛んでくる魔力弾や他の武器を避けていく。
《了解》
そう短く答えたエーリヒは、神影に攻撃が集中している隙に一旦離れると、地上数メートル程度まで高度を落とし、そのまま両腕のリヴォルヴァーカノンを構え、発砲した。
「ぐあっ!?」
「クソッ、あの野r──」
男達がエーリヒに気づくが時既に遅し。数人の男達が30㎜弾の餌食になった。
「お前等!あの金髪の餓鬼を先に殺すぞ!」
そして、彼等の目標はエーリヒに変わるが、彼は気にしなかった。
「(そうだ、それで良い。怒れ、もっと怒れ)」
作戦が上手くいった事に、エーリヒはほくそ笑んで急上昇する。
《ミカゲ、連中の狙いが僕になった。掃討頼んだよ!》
《了解。ありがとよ、エーリヒ!》
そう言って、神影はエーリヒと擦れ違うように急降下すると、先程のエーリヒと同じように低空を飛行する。
岩場に沿って大きく回り込み、ディオン達を視界に捉えると、先程エーリヒが展開していた4基の18連装ロケットポッドをハードポイントに展開するの共に、両腕のリヴォルヴァーカノンを構えた。
「………お、お頭!黒髪の餓鬼が此方に!」
「ッ!?」
それに気づいた男が声を張り上げるが、その頃には、神影はロケット弾を発射しており、おまけとばかりに30㎜弾も加えていた。
「………クソッ!」
悪態をついたディオンが近くの穴に1人飛び込んだ次の瞬間、手下の男達の元に吸い込まれるように飛んできた72発のロケット弾が、地面に着弾して大爆発を起こし、その中に30㎜砲弾が吸い込まれていった。
ロケット弾の爆発で体をバラバラにされ、仮に生きていても、今度は煙の外から30㎜砲弾が降り注ぐ。
ディオンと共に武器を投げていた男達が死んだのは、言うまでもなかった。
エーリヒも、魔法を使用し続けたために魔力切れを起こし、その場に倒れ伏した男達に向けて容赦無い機銃掃射を喰らわせた上に、4発の無誘導爆弾を投下する。
それによって、魔法組の男達も呆気なくこの世を去り、穴の中に飛び込んだディオンだけが辛うじて生き残る結果になるのだった。
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「ふ……ふざ、けんなよ…………この、ディオン様が………あんな、訳分かんねぇ……クソ餓鬼共に………!」
爆風で奥へ吹っ飛ばれたディオンは悪態をつきながら、地面を這いつくばるようにして穴の外に向かっていた。
服は粗方破れており、自慢の筋肉質の体も、目も当てられない程に傷だらけになり、血で赤く染まっている。
おまけに骨が折れたのか、左足や右腕が言う事を聞かない上に、右目が見えなくなっている。
あのような爆発があれば、部下達の生存は絶望的だ。
自分が助かったところで勝ち目は無いだろう。
だが、それでも彼は諦めなかった。
「(確か倉庫に、あの冒険者共から盗んだ高位ポーションがある筈だ。本来売り飛ばすつもりだったが、この際仕方ねぇ。それを使って、さっさと傷の回復を…………!)」
やっとの思いで穴の外に這い出たディオンは、目を見開いた。
彼が出てくるまでに着陸を終えていた神影とエーリヒが、リヴォルヴァーカノンを向けて待ち構えていたのだ。
「クソッ……………何だよ、何なんだよテメェ等は!?」
ディオンが血の泡を吐きながら叫んだ。
「ただの冒険者だよ」
淡々とした声で、神影が答えた。
「ある人から、お前等に拐われた人達の救出を依頼されてな。それで彼女に話を聞いてみたら……………随分と非道な事してるみたいじゃねぇか。好きでもない男の前で裸で踊らせて乱暴した挙げ句、奴隷商人に売り飛ばすとは…………」
「それの、何が悪いってんだよ………?女はなぁ、大人しく俺等に奉仕してりゃ良いんだよ!」
自棄を起こして喚き散らすディオンに、神影は心底呆れ返る。
「(信じられん。こんなクソ野郎を殺す事に戸惑ってたのかよ………ったく、アホらしいったらねぇ)」
この時程、神影の心が冷めきった事は無いだろう。
彼は右腕のリヴォルヴァーカノンを作動させ、あっという間にディオンを肉片に変えた。
彼の頭頂から爪先まで、身体中に30㎜弾を叩き込み、その返り血を浴びて、自分の体や砲身が赤く染まる。
そして、彼の姿を跡形も無く消し去ると、神影は自分と同じように返り血を浴び、所々が赤く染まっているエーリヒに向き直った。
「………悪い、汚しちまった上に見苦しいところ見せちまったな」
そう言う神影に、エーリヒは首を横に振った。
こうして、ヴィステリア王国とクルゼレイ皇国の国境線上に根城を構え、悪事の限りを尽くしていた盗賊団"黒尾"は、たった2人の少年によって壊滅させられたのだった。