第34話~考えと仕事~
冒険者登録を終え、本格的に自由な立場を手に入れた神影とエーリヒは、再びギルドに入って昼食を摂っていた。
それなりに賑わっている町である事もあってか、料理は城で出されたもの程とは言えないが中々美味く、2人は料理を口に運んでは、その美味さに舌鼓を打っていた。
「………ところでミカゲ、これからどうする?何か依頼でも受ける?」
鶏の唐揚げを飲み込んだエーリヒがそう訊ねた。
「そうだな………先ずは無難に、魔物退治でもやるか。早めにレベル上げておきたいし、ランクアップにも繋がるからな」
神影はそう答えた。
そもそも、神影がエーリヒの提案を受け入れたのは、国の事情に巻き込まれずに済む上に、いざと言う時に自由に移動出来る中立的立場を手に入れるためと言うのもあるが、それは、彼が考えている目的全体の2割程度でしかない。
彼が冒険者になる事を決めた本当の目的は、この世界についての正しい情報を手に入れるためだ。
一応この世界に召喚された日のカミングスの話や、座学の授業による教官の話で、この世界に関する知識はある程度得ている神影だが、種族間戦争が起こった事については、ヒューマン族と魔人族が対立したと言う事しか分かっていない上に、彼等の話の内容からすると、兎に角魔人族や、魔人族側についたヒューマン族側の国への当たりが酷かったのだ。
それに加えて、数日前に行った零戦での射撃訓練。
エーリヒが用意してくれた木の板の的に描かれていたのは、ダーツや弓道で用いられる的のような模様ではなく、魔人族や、魔人族側についたヒューマン族の国の王族の絵で、士官学校の生徒達は、敵に見立てたこの的を攻撃していたと言う。
それを知った神影は少なくとも良い思いはしなかったし、彼等を追ってきたレイヴィアも表情をしかめていた。
そうなると、何故この国は、こんなにも魔人族を悪者扱いするのかと言う疑問や、魔人族が本当に悪者なら、何故幾つかのヒューマン族側の国が彼等の方につくのかと言う疑問が自然と思い浮かぶのだが、仮にその事についてこの国の上層部に質問したとしても、全員口を揃えて『魔人族が悪い』と言い出すのは必然だろう。
そのため、高ランク冒険者になる事で知名度を上げて情報を仕入れやすくして、あわよくば魔人族や、魔人族側についた国の上層部とのコネを作り、彼等からの情報も仕入れようと考えていたのだ。
「(まあ、そう上手くいくとは最初から思ってねぇし、個人的な欲求もあるんだがな………)」
色々と考えている神影だが、やはり戦闘機に並ぶ程にファンタジー系の創作物が好きであるため、せっかく異世界に召喚されたのだから、ケモミミやエルフと言った、異世界ならではの種族に会ってみたいと言う思いもある。
真面目に考えている中にそんな考えも含めてしまう自分自身に、神影は苦笑を浮かべた。
「………?ねえ、ミカゲ。どうしたの?」
「え?何が?」
そんな彼を不思議に思ったエーリヒに突然話し掛けられ、神影は我に返って聞き返す。
「いや、さっき微妙な表情してたから、何かあるのかと思ってね」
「ああ、いや。何でもないんだ………それより、早く食って魔物討伐の依頼受けようぜ。早くしないと取られちまうかもしれねぇ」
「う、うん………」
何処と無く挙動不審に見える神影の反応に、いまいち腑に落ちないような表情を浮かべつつ、エーリヒは頷いた。
それから残りを平らげた2人は、食器を返して依頼書が貼りつけてある掲示板の前に立つと、偶然にもあったゴブリン討伐の依頼を受ける事にするのだった。
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「………シッ!」
「うらぁ!」
依頼を遂行するべく、一旦ルージュの町を出た神影とエーリヒは、ルビーン・ルージュ間の街道で魔物狩りを行っていた。
実は、この街道でも魔物の存在が確認されており、神影とエーリヒがルージュへ向かっている時に魔物と全く出会さなかったのは、単なる偶然なのだ。
「ギギィ!」
「フゴッ!?」
街道に出現する魔物はゴブリンだけではなく、人間の体に犬の頭部を持ち、毛に覆われたコボルトや、半透明のゲル状の体を持つ、魔物の中では最も有名なものの1つに入るスライム、豚人間とも呼べる魔物のオークも居る。
今回2人は、偶然出会ったゴブリンやオーク、そしてコボルトの群れと戦っており、日頃の訓練を活かして、城で"落ちこぼれ"と呼ばれていたとは思えないような蹂躙劇を繰り広げていた。
既に半分以上の魔物が倒れており、残りの魔物達も、怯んでいる間に次々に葬られていく。
「エーリヒ!オークが1体そっちに行きやがった!」
「了解!」
次々に倒れていく他の魔物達に恐れをなしたのか、1体のオークが逃げようとするのだが、不運にも、その先にはゴブリンを倒したばかりのエーリヒが居た。
神影の指示を受けたエーリヒは、自身の魔力で作り出した槍を軽く振り回し、そのままオークへ突貫すると、その胸に槍を突き刺し、一撃で絶命させる。
神影も剣を振り回すだけではなく、エーリヒから教わった技を喰らわせて魔物を葬り、2人は瞬く間に、群れを全滅させた。
「………何か、結構多かった割には呆気なく倒しちまったな」
「まあ、今までずっと鍛えてたからね………」
街道に転がる死体の数々を見て拍子抜けしたように呟く神影に、エーリヒが答えた。
それから2人は、ゴブリンの討伐を証明するために、それらの耳や手を切り取り、受付嬢から受け取った袋に入れていく。
そのついでに其処ら中に転がっている魔石も集めて袋に入れた後、エーリヒが魔法で死体を1ヶ所に集め、神影が上空から爆弾を落とす事で纏めて処分し、依頼完了の報告をするために、ルージュへと戻っていった。
自分達がそうしている間に、ルージュの冒険者ギルドではちょっとした騒ぎが起こっている事や、この世界に来て、人生初の人殺しを経験する事になるとは、今の神影には知る由も無かった。