第33話~冒険者登録~
冒険者──
それは、ファンタジー系創作物において、必ず1度は見聞きするもので、冒険者ギルドと呼ばれる組織に所属し、様々な依頼をこなす事を仕事とする者達の事だ。
単独で行動する者も居れば、複数で行動するために、パーティーと呼ばれる数人程度の集団を結成する者も居る。
冒険者になる事の利点は物語によって多少異なるが、主に通行料が掛かる町の出入りが無料になったり、安くなったりする事や、国が如何なる事態に陥っても、自由に移動出来る事だ。
他には、ものの売買で多少の融通が利くようになる等、様々だ。
主に彼等がやる事は、前述の通りに依頼をこなしたり、一攫千金を求めて迷宮に潜ったりする事だ。
前者は勿論だが、後者の場合は探検中に死ぬ可能性があるため、ギルドで冒険者登録を行う際は、迷宮に潜って魔物と戦闘になった時、行方不明になったり死んだりしても、それらは全て自己責任になると言う事を了承しておかなければならない。
物語によっては、そんな彼等が何らかの危機に陥った際に救助隊が編成されたりするが、それは、ほぼ稀なケースと言えるだろう。
「冒険者か…………」
「うん。今の僕達の実力なら、十分やっていけると思うんだけど……………どうかな?」
エーリヒが訊ねた。
城で生活していた頃から、ある事を知りたがっていた神影は、冒険者になる事でそれに近づけるのではないかと考えていたため、彼の提案を否定しなかった。
「まあ、俺としては良いけど………肝心のギルドは何処にあるんだ?この町にあるのか?」
そう聞き返すと、エーリヒは表情を曇らせて首を横に振った。
「いや。残念だけど、この町には無い。だから、別の町に登録しに行くんだ」
そう言って、エーリヒは荷物の中から筒状にした地図を引っ張り出すと、テーブルの上に広げた。
彼曰く、冒険者ギルドがある最寄りの町は、このルビーンから東へ10㎞程移動した所にある、ルージュと呼ばれる町だ。
其所は、王都程ではないが活気があり、町の雰囲気も良いと、エーリヒは説明した。
「成る程な…………それにしても10㎞とは、意外に遠いんだな」
「王都から此処まで走ってきたってのに何言ってるのさ…………まあ、取り敢えず行こう」
そうして2人は、通行料や冒険者登録をする際に掛かる費用を払える程度の金や、魔石を入れた袋を持ち、神影はそれに加えて、城から持ってきた長剣を持つ。
そして家を出ると、2人はルージュへ向けて走り出すのだった。
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走り出してから1時間も経たない内に、2人はルージュに着いていた。
冒険者ではないために、通行料として銀貨2枚を支払って町に足を踏み入れる。
王都程ではないとは言え、ルビーンとは反対に活気のあるルージュ。
町を歩けば様々な店が並んでおり、客の呼び込みをする店員の姿が見られる。
そんな光景に目移りし、はたまた声を掛けられながら足を進めること数分、2人はギルドに辿り着いた。
「(さて、此処でテンプレが起きなきゃ良いんだがなぁ………)」
ドアノブに手を置いた神影は、内心そう呟いた。
ファンタジー系創作物の殆んどでは、ギルドに冒険者登録をしに来た主人公に、他の冒険者が絡んでくるのがお約束だ。
神影とエーリヒも、城を出てからレベルを大きく上げているために簡単にやられるような事にはならないだろうが、やはり争いが起こらないに越した事は無いのだ。
「………?ミカゲ、どうしたの?」
「あ、いや。何でもない」
怪訝そうに覗き込んでくるエーリヒにそう答え、神影はドアを開け放った。
ギルド内は賑わっており、冒険者達が掲示板の前に集まり、どの依頼を受けようかと依頼書を眺めたり、テーブル席で食事を摂ったりしている。
受付へ向けて恐る恐る歩みを進める神影だが、今のところ絡んでくるような輩は居らず、新顔であるためか、物珍しそうに視線を向けてくる冒険者がチラホラ居る程度だ。
そうしている内に、カウンターに到着する神影達。
「ルージュ冒険者ギルドへようこそ。本日はどのようなご用ですか?」
そう言って2人を出迎えたのは、ポニーテールの茶髪に赤紫の瞳を持つ少女だった。
そのおっとりした笑みに癒される神影とエーリヒだったが、そのままずっと見惚れている訳にはいかない。
2人は冒険者登録をしに来た事を伝え、その受付嬢が用意した登録用紙に記入していく。
その際、神影が持つ"航空傭兵"と言う天職に首を傾げる受付嬢に、下手をしたらステータスプレートの開示を求められるのではないかと冷や汗を流す神影だったが、そのような事にはならなかったために、ホッと安堵の溜め息をついた。
その後、2人は登録費用を支払った後に簡単な説明を受ける。
その内容は、ほぼ全て神影の知識通りであるため、省略させていただこう。
そして、この世界での冒険者のランクはアルファベットで表されるようになっており、最低でF、最高でSSSランクなのだが、現段階でそのランクに辿り着いている者は居ないらしい。
「………では、此方がギルドカードになります。無くしても再発行出来ますが、金貨1枚必要となりますので、ご注意ください」
そうして渡されたギルドカードを受け取り、2人は各々が持っていた魔石を売った後、一旦ギルドを出る。
「「……………」」
そして、互いに暫く見つめ合った後………
「「…………っしゃあ!」」
中立的な立場を手に入れ、国の面倒事にも関わらなくて良くなった事を喜び、互いの拳を付き合わせるのだった。