第32話~ステータスと、これからについて~
ルビーンに到着した神影とエーリヒは、町に入った後、食料の買い出しをしてからエーリヒの家に向かっていた。
ルビーンの町は、城の騎士達から"終わりの町"と呼ばれて蔑まれているだけあって、人気は殆んど無い上に、町並みも廃れたものだった。
石を敷き詰めて作ったのであろう道は、あちこちにヒビが入っており、それは、建ち並ぶ煉瓦造りの家々も同じ事だった。
住人は痩せこけていると言う訳ではないが、やはり王都と比べると、活気が無かった。
そんな町の中を、神影とエーリヒは買い物袋を提げて歩いていた。
「…………それにしても、何か悪いな。お前の家で世話になるなんて」
「気にしなくて良いよ。どうせ家に帰っても僕1人だからね。寧ろ、君が来てくれて嬉しいよ」
すまなさそうに謝る神影に、エーリヒが言った。
それから言葉を続けるエーリヒ曰く、彼の両親は家には居らず、彼が士官学校に入学してから旅に出ていると言うのだ。
加えて彼は、入学してから今に至るまで、両親には1度も会っていないと言う。
「前までは手紙が届いてたから、一応生きているとは思うんだけど…………もう城を出ちゃったから、2人が今、何処で何をしているのかは全く分からないんだよね…………」
そう言うエーリヒを横目に見ながら、神影は日本に居る家族の事を考えていた。
神影の家は、彼と両親、そして妹の4人家族で、仲は良好だった。
この世界に召喚された日、徹夜で戦闘機のプラモデルを完成させ、二度寝して昼間で寝てしまおうとしたら、その日が月曜日であり、しかも自分が起きる時間であったために仕方無くリビングに降りた時、『てっきり二度寝して、学校に遅刻するんじゃないかと思った』と父親にからかわれた事が、未だ彼の記憶に鮮明に残っていた。
「(父さん達、今頃何してるのかな………?)」
朝、学校に行く際に交わした、『行ってきます』、『行ってらっしゃい』のやり取りを最後に、家族と離れ離れになってしまった神影。
しかも、今のところは日本に帰れそうにない。
そのため、日本に残してきた家族の事が、今になって頭に思い浮かんだ。
「ミカゲ………?ねえ、ミカゲってば!」
「うおっ!?」
すると、何時の間にか前に回り込んでいたエーリヒが声を張り上げ、神影は驚いて足を止めた。
「ど、どうした?」
「『どうした?』じゃないよ。さっきから声掛けてたのに、全く返事してくれないんだから………お陰で家の前通り過ぎちゃったし」
そう言って、ある方向を指差すエーリヒ。
その先に視線を向けると、この町に建ち並ぶ家々と同じように、古い煉瓦造りの2階建ての家が建っているのが見えた。
「ああ、すまん。ちょっと考え事してたんだよ」
神影はそう言って、誤魔化し笑いを浮かべた。
その後、2人は行き過ぎた分を逆戻りしてエーリヒの家に入り、夕食を済ませて2階の寝室へと上がると、ルビーンに着くまでの疲れもあって、ベッドに飛び込むや否や、死んだように眠るのだった。
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そして迎えた翌朝。朝食を終えた2人は、家の前で何時もの組手を行っていた。
幾ら城から出て自由な生活を手に入れたとは言っても、今後何が起こるか分からない以上、やはり鍛練を怠ける訳にはいかないと神影が言い出し、それにエーリヒが同意したのだ。
「ミカゲ…………前と比べて、凄く強くなった………ねっ!」
「そりゃあ魔物倒したり、こうしてお前も組手したりしてきたからな………シッ!」
シンとした町に、2人の会話や足音が響く。
2人の動きは、組手を始めたばかりの頃より鋭くなっており、拳や蹴りの1発1発の威力も格段に上がっていた。
廃れた町には少なくとも似合わない光景だが、2人は気にしなかった。
それから暫くすると、2人は組手を止めて家に戻り、リビングで寛ぎ始めた。
「ふぅ…………昨日ぶっ続けで走りまくったのもあるし、ステータスも増えてるかな」
ソファーに腰掛けた神影は、ズボンのポケットからステータスプレートを取り出して眺める。
名前:古代 神影
種族:ヒューマン族
年齢:17歳
性別:男
称号:異世界人
天職:航空傭兵
レベル:23
体力:670
筋力:650
防御:620
魔力:370
魔耐:330
敏捷性:960
特殊能力:言語理解、僚機勧誘、空中戦闘技能、物理耐性、麻痺耐性、魔力操作、魔力応用
やはり、昨日死に物狂いで街道を走り抜けてきた事や先程の組手もあって、各ステータス値もそれなりに伸びていた。
相変わらず魔法面のステータス値の伸び具合は他と比べて低いが、それでも城で生活していた頃と比べると、格段に上がっていた。
「それにしても、死ぬ気で走ったり組手したりするだけなのに、こんなにも伸びるモンなんだな。ステータスってのは」
「そうだね………ところでミカゲ、今の君のステータスはどんな感じ?」
「ああ、こんな感じだよ」
そう言って、別の椅子に座っているエーリヒに自分のステータスプレートを投げ渡す神影。
それを受け取ったエーリヒは、自分のステータスプレートを取り出して神影のと見比べる。
名前:エーリヒ・トヴァルカイン
種族:ヒューマン族
年齢:17歳
性別:男
称号:七光り魔術師
天職:魔術師
レベル:20
体力:500
筋力:480
防御:490
魔力:980
魔耐:1000
敏捷性:750
特殊能力:詠唱破棄、全属性適性、全属性耐性、魔力感知、魔力操作、魔力応用
エーリヒも、神影と同じようにかなりのレベルアップを遂げており、特に魔力面においては、神影の3倍以上の数値を叩き出していた。
「(魔法だけ見れば、僕の方が勝ってるけど………それ以外では負けてるのか………)」
初めて会った頃と比べると、ほぼ逆転してしまったステータスに、エーリヒは何とも言えない気持ちを味わいながらプレートを神影に返す。
「…………」
それを受け取った神影は、プレートをポケットに押し込みながら、壁に掛けられている地図に目を向ける。
横長にしたカレンダー程度の大きさを持つその地図には、神影達のようなヒューマン族が支配している大陸、人間大陸の全貌がデカデカと描かれており、幾つかの国名らしき単語が記されていた。
地図によると、このヴィステリア王国は内陸国で、東側に隣接するクルゼレイ皇国を始めとした、4つの国に囲まれているようだ。
「(それにしても、同族同士で敵対するとは………やっぱり、何か理由でもあるのかな………?)」
神影が内心でそんな事を呟いた時だった。
「ねえ、ミカゲ。ちょっと良いかな?」
「ん?」
不意にエーリヒに話し掛けられ、神影は彼の方へと視線を向けた。
「単刀直入に聞くけど………これからどうする?此処に留まるのも良いけど、やはり、いざって時に自由に移動出来るようになっておいた方が良いと思わない?」
「……………」
突然そんな事を訊ねられた神影だが、どういう意味かと聞き返したりはしなかった。
何故なら、彼の質問に込められた意味を理解しているからだ。
城を抜け出してきたのは良いものの、勇者や騎士団達がそれを放っておいてくれるかどうかは分からない。
何かしらの理由をつけて、2人を連れ戻そうとする可能性も、十分有り得るのだ。
それに今の2人は、少なくとも城に居た頃より格段にレベルアップしているため、戦力になり得る。
加えて神影は、恐らくこの世界では最強の兵器と言えるであろう戦闘機を扱う能力を有している。
これ等の事が何らかの形で知られでもすれば、彼等は自分達を連れ戻そうと動きかねないのだ。
「そうだな………元の世界に帰れるようになるまで此処に留まっていたいが……やっぱ、お前の言う通り、いざと言う時に自由に移動出来るようにはしておきたいな」
「………ッ!それなら!」
神影がそう言うと、エーリヒは我が意を得たりと言わんばかりの表情を浮かべて彼の真ん前に移動すると、こう言うのだった。
「それなら、僕と冒険者にならない!?」
金、土、日の三連休、全てバイト入ってましたぜ。HAHAHA