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航空傭兵の異世界無双物語  作者: 弐式水戦
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第31話~ルビーン到着~

 時刻は昼の12時。神影とエーリヒの2人は、レベルアップによって新しい機体を使えるようになった神影が、F-86を纏ってはしゃぎ回った事による遅れを取り戻すべく、街道を走り続けていた。

 とは言っても、別に神影は何時間も飛び回っていた訳ではなく、ホンの数分程度飛び回っただけなのだが、ルビーンまで未だ離れている以上、急ぐに越した事は無いと言うエーリヒの考えによるものだった。


「(不思議なモンだな。あれからずっと走り続けてるのに、あまり疲れてねぇや…………)」


 自分の前を走るエーリヒの背中を追いながら、神影はそう考えた。

 

 走り出してから2、3時間は経過しているのだが、神影とエーリヒは止まる事無く走り続けている。

 2人が走った距離は恐らく、神影が日本に居た頃、時折テレビで見たマラソン番組の距離以上だろう。


「(それにしても、俺は兎も角、エーリヒはこんなに走って平気なのか…………?)」


 神影が2、3時間も走り続けていられる理由は、元々の持久力の高さや、この世界に来てから訓練を積み重ねてきたのもあるだろうが、やはり異世界人である事が大きいだろう。

 カミングスは、神影達が元々住んでいた世界は、この世界、エーデルラントより高位に位置すると言っていた。そのため、神影達召喚組の身体スペックは、エーリヒやフランクのような現地人より遥かに高いと言う事になり、レベルを上げていけば、直ぐに彼等を追い越せてしまう。

 だが、そう言った考え方をすると、1つの疑問が浮上する。

 それは、何故エーリヒが、神影と同じように走り続けていられるのかと言う事だ。


 先述の通り、エーリヒは現地人であるため、専属講師になった当初は神影より高かったステータスも、今では下回っている。今まで互角に組手をしていたのは、経験の差があってのもので、何れは追い抜かれてしまうだろう。

 エーリヒのステータスで神影に勝っているものは、魔力と魔耐の2つだけ。普通なら、こうして神影と同じように走り続けている事が不思議なのだ。


「…………ちょっくら聞いてみるか」


 神影は少し速度を上げ、エーリヒに並んだ。


「なあ、エーリヒ。ちょっと良いか?」


 声を掛けられると、エーリヒは視線を神影に向ける。


「どうしたの?そろそろ休憩したいのかい?」

「いや、そうじゃねぇ。1つ聞きたい事があるんだ」


 聞き返してきたエーリヒに、神影は首を横に振った。


「お前、走り出してから2、3時間は経ってるのに、なんで俺と同じように走っていられるんだ?」


そう質問する神影だが、エーリヒは何を言っているんだとばかりに首を傾げるだけだった。


「え、えっと…………それは、どういう意味かな?意味がよく分からないんだけど…………」


 エーリヒはそう聞き返した。

 何の前触れも無く、何故自分と同じように走り続けていられるのかと聞かれたのだから、彼の反応は無理もなかった。


「ああ、それはな………」


 神影は、走りながら自分の考えを全て話し、それをエーリヒは、黙って聞いていた。


「…………まあ、こう言う訳で、なんでお前が、俺と同じように2、3時間も走り続けていられるのかと思ったんだよ」


 そう言って、神影は話を終える。


「何だ、そんな事気にしてたの?」


 エーリヒからすれば大した話ではなかったらしく、拍子抜けだとばかりに笑みを浮かべた。

 

「別に大した事じゃないよ。魔法で身体強化をしていただけなんだ。そうでもしないと、君と同じように走り続けたりは出来ないからね」


 エーリヒはそう言った。

 よく見ると、うっすらとした白いオーラのようなものが、まるで彼の体を縁取るかのように包んでいるのが見えた。


 エーリヒは、神影のように異世界から来た者と、自分達現地人との基本的な身体スペックの差、そして、自分と神影のステータスの差を理解していたのだ。

 そして、何の強化も無しに走り続ければ、神影より先に体力が切れてしまう事を悟り、魔法を使って身体強化を行ったと言う事だ。


「そ、そうか………成る程な………」


 神影は、何とも言えない表情を浮かべてそう言った。

 在学中だったとしても、はたまた卒業後だったとしても、こんな事が出来るなら、少なくとも"落ちこぼれ"とは呼ばれないのではないかとツッコミを入れたくなるが、神影は敢えて、何も言わなかった。


「さあ、ミカゲ!そんなボケッとしてないで、一気に速度を上げるよ!」


 唐突に、エーリヒがそんな事を言い出す。


「速度を上げるって………これでも結構スピード出してるってのに、未だ上げるのか?」

「ああ。と言っても一時的なものだけどね」


 そんな返答をするエーリヒに、今度は神影が首を傾げる番になった。


「えっと………すまん、言ってる意味が分からん」

「ああ、ちょっと言い方が分かりにくかったかな…………じゃあ、実際に見てもらった方が早いかな」


 苦笑を浮かべ、軽く頬を掻きながら言うと、エーリヒの体を包んでいたオーラに変化が表れた。


 今までは彼の体を包んでいただけだったオーラに流れが生じ、頭部から下半身へと流れ始めたのだ。

 その流れを追うように視線を下に下げると、彼の両足が光を放っているのが見えた。

 以前の功との模擬戦で神影がやったように、両足に魔力を集中させているのだ。

 それを見た神影は、エーリヒが何をしようとしているのかを何と無く悟り、少し距離を置く。


「こうやって………一気に飛び出すんだよッ!」


 そう言って軽く地面を蹴り出すと同時に、エーリヒは足に集中させた魔力を解放する。

 それにより、エーリヒは砲弾のような勢いで飛び出し、砂埃を巻き上げると共に轟音を響かせた。

 そして、神影の遥か前方に着地すると同時に再び走り出したエーリヒは、後ろを向き、早くおいでとばかりに手招きする。


「成る程。確かにあれなら、一時的とは言え一気に加速出来るな…………じゃあ、俺も」


 神影もエーリヒと同じように、自分の両足に魔力を集中させ、轟音と共に飛び出してエーリヒを追い掛けるのだった。



──────────────



「さ、さあ………着いたよ、ミカゲ。僕の故郷、ルビーンへ……よう、こそ………!」


 あれから更に走り続けた2人は、遂にエーリヒの故郷であるルビーンへ辿り着いた。

 余程王都から離れていたのか、休憩を挟みつつ、ほぼ全力で走り続けた上に、先程のように、足に集中させた魔力を一気に解放する事による加速を加えても、彼等が到着した頃には、既に日が傾き始めていた。


「………ほ、本当に………王都から……遠いん、だな……」

「ま、まあね………馬車で、行かなきゃならない程遠いって、言ったでしょ……?」


 町の前に着いた2人は、門番が何事かと目を見開いているのも構わず、その場に荷物を下ろして大の字に寝転がっていた。

 相当疲れているのか、各々の言葉も途切れ途切れになっており、滝のように汗を流していた。


「え、えっと………お前等、大丈夫か?凄く疲れてるようだが………」


 呆然と2人を眺めていた門番が、おずおず話し掛ける。


「な、何とか……」

「だ、大丈夫でぇす………」


 上から覗き込むように訊ねてくる門番に、2人は答えた。


「そ、そうか………まあ取り敢えず、町に入るんだよな?だったら、ステータスプレートを見せてくれ」


 そう言われて、エーリヒがズボンのポケットからプレートを取り出す中、神影は呼吸を整えながら、別の意味で汗を流していた。


 知っての通り、神影は異世界人であるため、ステータスプレートを見れば、彼が王都で召喚された勇者の1人である事など1発で分かる。

 

「(ヤバいな、何とか誤魔化さねぇと………)」


 そう思っているところへ、門番が話し掛けてきた。


「んじゃ、お前さんのも見せてもらいたいんだが………」


 そう言う門番に、神影は両手を上に向ける。


「ん?ミカゲ、何して………ッ!」


 何故、神影がステータスプレートを見せないのかと疑問を覚えたエーリヒだが、神影の境遇を思い出して目を見開いた。

 そして、何とか誤魔化すべく門番に声を掛けようとした時だった。


「もしかして、お前さん………プレート持ってないのか?」

「へ?」


 そう訊ねられた神影は、間の抜けた声を発した。

 どうやら門番は、神影の反応から彼が元々ステータスプレートを持っていないか、はたまた道中で無くしたと勘違いしているらしい。


「あ、ああ。そうなんですよ………この町まで、ずっと、走ってきたので」

「そうか………そりゃ大変だったな。あんなに疲れてたのも納得だ」


 良い具合に騙されてくれた事に、神影は内心で安堵の溜め息をついた。


 その後、過去の犯罪歴が無いかを調べるための鑑定石に触れるように言われた神影は、石に手を置く。

 そして犯罪歴は無いと判断され、休憩を終えた2人は、晴れてルビーンに足を踏み入れるのだった。






 その際、自分が戦闘機を展開し、エーリヒを背負うようにすれば、もっと早く着く上に、こんなにも疲れたりはしなかったのではないかと言う考えが脳裏を過る神影だったが、それは、王都を出てから僅か2日で、死に物狂いで駆け抜けてきた自分達の努力を否定する事になりかねないため、直ぐにその考えを放棄したのは余談である。

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