第30話~新たな戦闘機~
翌朝、朝食を済ませて直ぐに出発した神影とエーリヒは、ルビーンへ歩みを進めながら、現れる魔物の討伐や組手を行っていた。
魔物の討伐において、最初は主に長剣を使ったり、エーリヒから教わった魔法や体術を使ったりして魔物を討伐していた神影だったが、今は攻撃方法を戦闘機に切り替え、上空からの機銃掃射で魔物を葬っている。
「コイツでも…………喰らいやがれ!」
道中に遭遇したゴブリンやオークの群れ目掛けて、ノースアメリカン社製のレシプロ戦闘機、P-51H型を纏った神影が、急降下してからの機銃掃射を仕掛ける。
「グギュッ!?」
「フゴッ!」
左右の主翼に搭載された、計6挺ものM2重機関銃から放たれる12.7㎜弾が、ゴブリンやオーク達の頭部や胸などに次々叩き込まれ、バタバタと倒れていく。
運良く生き残ったものも、反転して再び襲い掛かってくる神影には手も足も出ず、先に倒れていった仲間の後を追った。
「………良し、群れの全滅を確認」
魔物達の屍の山の上を旋回して生き残っているものが居ない事を確認した神影は、その上を通り過ぎて街道に着陸し、機体を解除した。
「相変わらず、機関銃の威力は恐ろしいね。こうもあっさり魔物を殺せるなんて」
安全のために少し離れて様子を見ていたエーリヒが、神影に歩み寄りながら声を掛けた。
「まあ、それは相手がゴブリンとかだったからだよ。ゴーレムみたいな固いのが相手だったら、機関銃だけじゃ足りねぇな。爆弾やロケット弾をしこたま喰らわせてやらないと倒れねぇだろうよ」
軽く笑みを浮かべながらそう言った神影は、屍の山から魔石を回収してサブバッグに入れる。
王都を出発してから倒した魔物の魔石と合計すると、その数は既に30個を超えていた。
「都合良く魔物と遭遇したからか、結構貯まったよね。僕なんて、多分君の半分くらいしか無いよ」
神影のサブバッグの中身を覗き込んだエーリヒが、そんな感想を溢した。
神影だけではなくエーリヒも魔物を討伐しているのだが、やはり倒した数は、神影の方が圧倒的に多かったのだ。
「………ところでミカゲ、現段階でのレベルはどんな感じなの?こんなに魔物を倒したんだから、かなり上がってると思うんだけど」
ひょいひょいと荷物を背負っていく神影に、エーリヒが訊ねる。
「さて、どうだろうな………」
長剣を拾い上げてからそう呟くと、神影はステータスプレートを取り出して自分のステータスを確認した。
名前:古代 神影
種族:ヒューマン族
年齢:17歳
性別:男
称号:異世界人
天職:航空傭兵
レベル:23
体力:430
筋力:400
防御:410
魔力:230
魔耐:240
敏捷性:650
特殊能力:言語理解、僚機勧誘、空中戦闘技能、物理耐性、麻痺耐性、魔力操作、魔力応用
それなりに多くの魔物を討伐した事やエーリヒとの組手を続けていた甲斐もあってか、レベルもかなり上がっていた。
「おおっ、良い具合に上がってるじゃないか!」
神影のステータスプレートを覗き込んだエーリヒが、嬉しそうに笑みを浮かべてそう言った。
因みに、現在のエーリヒのステータスは以下の通りである。
名前:エーリヒ・トヴァルカイン
種族:ヒューマン族
性別:男
年齢:17歳
称号:七光り魔術師
天職:魔術師
レベル:20
体力:370
筋力:350
防御:360
魔力:800
魔耐:820
敏捷性:590
特殊能力:詠唱破棄、全属性適性、全属性耐性、魔力感知、魔力操作、魔力応用
魔法以外では神影に及ばないものの、彼も確かに強くなっていた。
学生時代には大して使えなかった基礎魔法の応用も、神影との旅の最中で粗方使えるようになっている。
どうやら、城を出た事によって得た自由な生活は、2人の成長に大きな影響をもたらしているようだ。
「ああ。まさか俺も、こんなにレベルを上げられるとは思わなかったぜ」
城に居たままでは、こんな短期間では到底上げられなかったであろうレベルに到達している事に喜びを感じる神影はそう返し、頬を緩める。
そんな時だった。
『一定レベルを超えたため、機体がアンロックされました』
「ッ!?」
突然、女性の無機質な声が脳内に響く。
それは、未だ自分の天職についてよく分かっていなかった頃、城の部屋でボヤいていた神影の脳内に響いた声と同じものだったため、神影は目を見開いて辺りを見回すが、やはり、声の主は見えない。
「………?ミカゲ、どうしたの?」
「い、いや………何でもないんだ」
乾いた笑みを浮かべて誤魔化した神影は、現段階で使用出来る航空兵器の一覧を開く。
それには、『第一次世界大戦期』、『第二次世界大戦期』と続き、新たに『戦後』と『第1世代ジェット戦闘機』のリストが追加されていた。
「…………ッ!しゃあっ!!」
新たに追加された航空兵器の項目に、神影はガッツポーズをする。
いきなりの行動にエーリヒが驚くが、神影は気にも留めない。
ご存知の通り、神影はマニアとも呼べる程の戦闘機好きであり、天職も能力も、そんな彼にピッタリなものだ。
1人の戦闘機マニアとして、そして航空傭兵として、使用出来る機体が増えるのは、やはり嬉しいものなのだ。
「エーリヒ、ちょっと新しい機体でひとっ飛びしてくる!荷物頼んだ!」
「え?ちょっと、ミカゲ!?」
困惑するエーリヒの声も聞かずに神影は駆け出し、助走をつけて飛び上がると、新しく使えるようになった機体の名を叫んだ。
「行くぞ、F-86!」
すると、神影の体が目映い光に包まれ、その中では、神影の身体中を戦闘機の装甲が覆っていく。
両足をブーツ状の装甲が覆い、下腿には水平尾翼が、臀部には実機の後部にあたる部分が尻尾のように伸び、先端にはエンジンノズルと垂直尾翼が装着されている。
そして背中からは、アニメに登場する巨大ロボットのバックパックのように、後退翼の主翼が装着された。
加えて上半身では、胸や肩、腕を装甲が覆い、手から肘にかけての部分の装甲には、各々に3連装のM2重機関銃が装着された。
そして、弾けた光の中から飛び出した神影は、後ろを向いているエンジンノズルを全開で噴かして上昇すると、新たな機体が使えるようになった事の喜びを表すかのように、空を縦横無尽に飛び回ってみせた。
上空で旋回やローリングを繰り返したり、急降下してエーリヒの頭上を掠めたり……………その光景はまるで、上空で踊っているように見えた。
「やれやれ、あんなにはしゃいで…………まるで新しい玩具を買ってもらった子供みたいだな」
呆れたように言いながら見上げるエーリヒだが、その顔には柔らかな笑みが浮かんでいた。
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それから暫くして、F-86での飛行を楽しんだ神影が降りると、2人はこれまでの遅れを取り戻すべく、北へ向かって走り出すのだった。