SS1~離脱の判明と公開処刑~
今回で、レイヴィアが神影の離脱に気づきます。
それと同士に、皆さんお待ちかね(?)の、功達への裁きが下ります。
そこそこキツい展開になってるかもです。
また極端すぎるような感じになってなければ良いけど………
神影とエーリヒの2人が王都を出た頃、レイヴィアは1人で廊下を歩きながら考え事をしていた。
その内容は勿論、神影に投げ掛けられた言葉だった。
『お疲れ様でした』と彼は言っていたが、レイヴィアはその言葉の意味が分からなかった。
朝、神影を起こしてその日の服を渡し、寝間着を受け取り、脱衣場の篭に入れられた昨日の服を取り出して持っていく。
この作業は今後も続けられるものだと言うのに、何故、あれが最後の仕事であるかのような言い方をするのか、彼女には理解出来なかった。
「それに、今になって鞄の中身を見たりして…………彼は、何を考えているの………?」
そんな彼女の質問に答えてくれる者は、当然ながら居ない。
そうして歩き回っている内に、レイヴィアは神影の部屋の前に来ていた。
「………部屋の掃除でもしておきましょうか」
そう呟いてドアを開け、レイヴィアは中に入る。
そして部屋の明かりをつけた時、彼女はある事に気づいた。
「あら?彼の鞄が………」
この部屋で生活する事になってから、ずっとテーブルセットの傍に置かれていた神影のボストンバッグやサブバッグ。そして、普段は殆んど持ち出さなかった長剣が無くなっていたのだ。
「……………?」
長剣なら兎も角、ボストンバッグやサブバッグは、訓練に持っていったところで何の使い道も無い。
それなのに何故、今日に限って全て持ち出すのかと、レイヴィアは首を傾げた。
ボストンバッグやサブバッグを何に使うのかと気になったレイヴィアは転移魔法を使って、神影とエーリヒが普段の訓練で使っている城の裏へと転移するのだが、其所には誰も居なかった。
他に訓練で使えそうな場所に行って2人の姿を探すのだが、結果は同じだった。
そうして神影の部屋に戻ってきたレイヴィアは、これ等の結果から、神影が城を出たと言う結論を導き出した。
よく考えたら、使わない筈の荷物を持ち出し、部屋に何も残さず姿を消している時点で考えつくものだった。
「成る程………あの時の言葉は、そう言う意味だったのね………」
神影に言われた、『お疲れ様でした』と言う言葉。
それに込められた意味を今になって理解したレイヴィアは、フッと小さく息をつき、神影の部屋を後にするのだが、その背中が何処と無く寂しそうだったのは余談である。
──────────────
その頃、昨日の模擬戦の舞台となった訓練場には、勇者達が集められていた。
横2列に並んだ彼等の前には、騎士団長のフランクと魔術師団長のハイネス・ヴィニーが並び立っており、その後ろには、ブルームを含む他の騎士団員や魔術師団員が立っていた。
「………えー、お前達。昨日の模擬戦では、本当に良くやったな。貴族や国の重鎮達も、感心していたぞ」
先ずはフランクが、勇者達に労いの言葉を掛けた。
日頃の訓練の成果や、勇者であるが故に成長が早いと言うのもあり、彼等はかなりの早さでレベルアップしていた。
その中でも勇人、一秋、沙那、桜花、奏の5人が勇者パーティーのトップを独占しており、彼等のレベルは25に達していた。
既にレベルが60であるフランクやハイネスには及ばないが、それでも強力な存在になっているのは間違いないだろう。
「先日の模擬戦では、前衛組も後衛組も、これまでの訓練の成果を遺憾無く発揮出来ていたと思う。これからも訓練に励むように」
フランクに続いてハイネスが言うと、勇者達からは威勢の良い返事が返される。
そして騎士団員や魔術師員達からの拍手が送られると、彼等は少し照れ臭そうにしていた。
そんな中、幸雄と太助はどうでも良さそうにしていた。
昨日、神影がエーリヒに治療された事で無事だったのを知って安心してはいるのだが、やはり、あの理不尽な結果には納得していなかった。
それに彼等は、こんな長たらしい話には興味など微塵も無く、早く訓練を終わらせて、神影の様子を見に行きたかったのだ。
加えて、倒れた神影を運び出して治療した、エーリヒと言う男の事も気になっていた。
そんな2人の心情を他所に続いていた拍手が鳴り止むと、フランクが何時ものように訓練を始めるべく、指示を出そうとした………………その時だった。
「騎士団長、魔術師団長。少しよろしいですか?」
突然、凛とした女性の声が上がる。
その声の主に視線を向けると、其所にはプラチナブロンドの長髪に紫色の瞳を持った女性騎士、イリーナ・レクサスが立っていた。
彼女の隣には、深い緑のロングヘアに碧眼を持つソフィア・フォアランも居る。
「イリーナにソフィアか…………何の用だ?」
「先日の模擬戦について、私の方から言わせていただきたい事があります」
「…………良いだろう。だが、あまり長くするなよ?」
そう言ってフランクとハイネスが下がると、それに入れ替わるように、イリーナとソフィアが勇者達の前に出た。
「先程騎士団長も仰有ったが、先日の模擬戦は本当に見事だった。未だ騎士団長達には及ばないが、あれ程の実力があるなら、追い越すのはそう遠くないと思っている。そんな君達が私達と共に戦ってくれるのは、本当に心強い」
イリーナの声が、この訓練場に響いた。
沙那達美少女3人組やシロナに匹敵する程の美人に褒められているのもあってか、何人かは嬉しさで頬を赤らめている。
「それじゃあ、前置きはこの辺にして、そろそろ本題に入ろう」
そう言って、イリーナは今から自分が呼んだ者は、前に歩み出るように伝え、功、淳、そして慎哉の3人を指名した。
「なあ、なんで俺等が呼ばれたんだ?」
「さ、さあ………俺にも分からねぇ」
「もしかして、あの時の功の圧倒的な勝利についてじゃね?レベルの差があったとは言え、あの野郎をぶちのめしたんだからさ」
功と慎哉が困惑する中、淳がそう言った。
模擬戦は1対1で行うルールであるため、3人がやったのは立派な反則行為なのだが、どうやらその事については頭から抜けており、"勇者が無能を完膚なきまでに叩きのめした"と言う事が、彼等にとっての最重要事項となっているようだ。
そうしている内に前に出た3人は、イリーナとソフィアの前に並ぶ。
「さて………では始めようか………」
彼等3人が横1列に並んだのを確認したイリーナは、右手を大きく振りかぶり、立て続けに3人の頬に平手打ちを喰らわせた。
乾いた音が3回、訓練場全体に響き渡る。
叩かれた功達は勿論だが、フランクやハイネス、騎士団員や魔術師団員達、そして勇者達は言葉を失っていた。
「「……………」」
それは幸雄や太助も例外ではなく、唖然とした表情を浮かべて互いに顔を見合わせている。
「………ハッ!?ちょ、いきなり何するんだよ!?」
最初に我に返った功が、叩かれて赤く腫れた頬を押さえながらイリーナに怒鳴った。
その声で淳や慎哉も続けて我に返り、イリーナを睨む。
「何をするだと………?それは此方の台詞だ!!」
すると、イリーナが功を上回る声で怒鳴り返した。
「貴様等…………自分達が昨日、どんなに卑劣な事をしたのか分かってるのか!?貴様等には、やって良い事と悪い事の区別すらつけられないのか!?」
物凄い剣幕で怒鳴るイリーナに、功達は瞬く間に勢いを失う。
「お、おいイリーナ!何をしている!?何故こんな事を!」
フランクがイリーナに詰め寄ろうとするが、其処でソフィアが立ちはだかった。
「貴方も貴方です、騎士団長。反則行為を働いた者に何の処罰も与えずあの一件を放置するとは、どういうつもりなのですか!?」
ソフィアに怒鳴られ、フランクが怯む。
最早その場は混沌と化し、殆んどの者達が、何が何だか分からず右往左往する。
「なあ、太助。ちょっと考えたんだが…………」
「奇遇だな、幸雄。私もだ」
幸雄や太助がこの場の状況を少しずつ掴み始める中、イリーナ達の口論は続いていた。
「イリーナ!ソフィア!反則行為とはどういう事だ!」
「そんなの、簡単な事です!」
そう言うと、イリーナは功達3人を指差した。
「ジュン・ミカワとシンヤ・ウエノは、イサオ・トミナガとミカゲ・コダイの模擬戦の際、ミカゲ・コダイを負けさせるために妨害行為を行い、それをイサオ・トミナガが指示していたのです!」
イリーナが叫ぶと、その場に居る誰もが息を呑み、功達3人に目を向けた。
「やっぱりか…………やっぱりテメェ等の仕業か!!」
「お前達………………覚悟は出来ているんだろうな?」
幸雄と太助が目に殺意を宿し、幸雄は2本の剣を構え、太助は籠手から鉤爪を出現させ、その先端を3人に向け、殺気に満ちた目で睨み付けた。
「そんな………何て事を……!」
「酷いよ………なんでこんな事するの!?神影君が何したって言うのよ!?」
桜花は3人を睨み、沙那は大声を張り上げて詰め寄る。
「ちょちょちょ、ちょっと待てよ!俺等じゃねぇって!」
「そ、そうだ!何かの間違いだ!」
「大体、俺等がやったって言う証拠は何処にあるってんだよ!?元の世界みたいな防犯カメラだってねぇんだぜ!?」
あたかも刑事ドラマの終盤で、追い詰められた犯人のように、証拠はあるのかと喚く3人。
確かに、この世界に防犯カメラなんて無く、今の幸雄や太助は、イリーナの言葉を鵜呑みにして暴走しているだけにしか見えないだろう。
だが、功達が尚も喚こうとするのを遮るようにして、イリーナが口を開いた。
「証拠なら、此処にあるぞ」
「えっ………?」
ポカンとした功の口から間の抜けた声が漏れ出すと、イリーナはソフィアに目を向ける。
それに頷いたソフィアは、懐から1つの水晶を取り出した。
「コレは魔力を流す事によって、所有者が見たものを映像として記録する事が出来る特殊な水晶だ。この水晶には、お前とミカゲ・コダイとの模擬戦の映像も記録されているぞ」
そう言われ、功達3人は言葉を失った。
防犯カメラが無い上に、この世界に来てから1ヶ月も経っているので、その間にクラスメイト達は異世界の景色を撮影したりしていたため、彼等が持っているスマホは、ほぼ全てがバッテリー切れで機能を停止している。
それに、そもそも訓練にスマホなど必要無いため、仮にモバイルバッテリーで充電して使えるものがあったとしても、持ってくる者は先ず居ない。
そうなれば、後は誰にも見られずに事を終わらせれば良い。
誰かに見つかるのではないかと内心ヒヤヒヤしていた淳と慎哉だが、神影に鎖が巻きついて電撃を喰らわせ、加えて魔力弾が直撃しても、それらが自分達の仕業だとは気づかれていない。
そのため、模擬戦が終わってからは適当にしらばっくれて、その話が立ち消えになるまで待てば良いと思っていた。
模擬戦後は幸雄と太助によってバレそうになったものの、勇人が割り込んだ事で話が有耶無耶になったため、このまま自然消滅するだろうと思っていたのだ。
だが、現実は彼等が思う程甘くはなく、元の世界とはまた別の手段で、彼等の行いが撮影されていたのだから、彼等からすれば予想外の事態だった。
「そ、そんなもの……何処で………?」
「それはな………」
震える指を水晶に向けて訊ねる功に、イリーナは説明を始めた。
──────────────
それは昨晩の事だった。
1日の訓練を終えて部屋に戻ったイリーナとソフィアは、風呂を終えて寝る準備をしていた。
「それにしても、今日の勇者達の模擬戦は中々のものでしたね」
「ああ。特にミカゲ・コダイが繰り出したあの技は、今まで見た事が無い。あのような技を、一体誰に教わったのだろうか………まあ、それもそうだが、やはりあの鎖や魔力弾が気になるな………」
そんな話をしていると、ドアがノックされる。
時計を見ると、時刻は11時を過ぎている。
こんな時間にやって来るような物好きは誰なんだと内心呟きながら、イリーナがドアを開けると、其所には白いネグリジェに身を包んだ銀髪碧眼の美少女が立っていた。
「夜分遅くに申し訳ありません。私は、今年度の士官学校魔術科を卒業した、アーシア・スレインと申します」
落ち着き払った様子で名乗ったアーシアに目を奪われそうになるのを何とか堪え、イリーナは口を開いた。
「そ、そうか………それでアーシア、私達に何の用かな?」
「……………」
イリーナの問いに暫く沈黙したアーシアは、澄んだ海のような色の瞳をイリーナに真っ直ぐ向けた。
「勇者イサオ・トミナガとミカゲ・コダイの模擬戦での一件、知りたくありませんか?」
「………何?」
そう聞き返したイリーナに、アーシアは懐から取り出した例の水晶を差し出し、その映像を見せるのだった。
──────────────
「…………こう言う訳だ」
話を終えたイリーナは、そのまま問答無用で水晶に魔力を流し、功と神影の模擬戦の様子を映し出す。
試合は進み、功に肉薄した神影に鎖が伸びたところで映像は止められ、鎖が現れた場所がズームされた。
「この2人は、誰なのかな?」
イリーナはそう問い掛けるが、3人は答えなかった。
勇者や騎士団員達から信じられないと言わんばかりの目を向けられている中でも、彼等は無言だった。
答えられるような精神的余裕が無かったのだ。
色々ありながらも、結局はバレずに済むだろうと思われていた自分達の企みが、完全に明るみに出てしまったのだ。
しかも、神影を除く勇者全員や、フランクやハイネス、そして他の騎士団員や魔術師団員の前で盛大に暴露されると言う公開処刑。
3人に逃げ場は無く、彼等の顔は真っ青になっていた。
「最低………!こんなの、人がやるような事じゃないよ!!」
「貴殿方は、古代さんを殺すつもりですか!?彼のステータスが他の方より低いのを知っているのに、あんな事をするなんて!」
動かぬ証拠を目の当たりにした沙那が言葉を続け、遂には桜花が声を張り上げた。
普段は温厚な彼女が表情を怒りに染めて訓練場に声を響かせる様子に、他の面々は驚愕する。
「貴方達には、もう人の心なんて残ってないのね。ルールを破って得た勝利で得意になって…………何より、パーティーから切り離されたのに必死に食らいつこうとした古代君への冒涜だわ」
更に、奏が口を開いた。
"学園三大美少女"全員からそう言われ、功達の顔は、最早青を通り越して白になっていた。
其処へ幸雄と太助が歩み寄り、幸雄は剣の先を、太助は鉤爪の先を3人に突き付けた。
「コイツ等、ふざけた真似しやがって………もう許さねぇ。その目ン玉に剣ブッ刺しても良いよな?答えは聞いてねぇぜ」
「その後は、この鉤爪でお前達の身体中をズタズタに引き裂いてやろう………醜い人間に似合うような姿にしてやるから覚悟しておけ!!」
殺気全開の2人に凄まれ、3人は遂に、その場に倒れた。
完全に四面楚歌な状況に加えて、武器を向けての惨殺宣言。
これが脅しであるか否かを問わず、その底知れぬ恐怖は、精神を削りに削られていた3人の意識を刈り取るには十分な威力を持っていた。
何十人もの前で意識を失った3人は、ズボンとその周辺の地面を濡らした。
神影に味わわせようとした屈辱が、何十倍にもなって彼等に跳ね返った瞬間だった。
結局、怒り心頭で今にも3人を攻撃しそうになっていた幸雄や太助達は、シロナやフランク、ハイネスの説得で何とか落ち着きを取り戻し、その後の話し合いの末、先ずは神影に今回の事を伝え、3人が目を覚ました際に謝罪させる事が決まった。
加えて、彼等には期間未定の謹慎と武器の取り上げ、今後一切の神影への接触禁止が言い渡される事になった。
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それから勇者達は、今回の事を伝えるために、神影とエーリヒがトレーニングに使っている城の裏へと向かうのだが、彼等は居らず、部屋を訪ねてももぬけの殻になっていた。
その後、一旦部屋に戻る事になり、自室に入った幸雄が神影からの手紙を見つけた事により、神影が王都を出た事が判明するのだった。
※SS=Side Storyの略です。