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航空傭兵の異世界無双物語  作者: 弐式水戦
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第28話~魔物との戦闘~

 勇者パーティーを本格的に離脱し、エーリヒと共に王都を脱出する事に成功した神影は、暫くの活動拠点になるであろうエーリヒの故郷、ルビーンを目指していた。


「…………成る程。ルビーンってこの国の北端にある町なんだな」

「そう。王都から北へ向かって一直線に進めば良いから、対して苦にはならないんだ。まあ、凄く遠いのが難点だけどね」


 エーリヒ曰く、ルビーンは王都から遠く離れているため、徒歩で向かうのなら、1日では休み無しで歩いても到底辿り着けない。

 そのため、エーリヒは士官学校入学のために王都に向かう際には、高速馬車を使っていたと言う。


 それなら此方も馬車を使えば良かったのではないかと思う神影だが、もう王都を出てから数㎞は歩いている。

 今更王都に戻って馬車を利用するのは、時間が無駄になる上に金が掛かる。

 一応、彼等召喚組には、何か必要なものがあった時のために城の方から小遣いが支給されているのだが、今後の事を考えると、なるべく温存しておく方が良いだろう。

 加えて、自分達が王都を出た事が誰かに知られ、城の方へと伝わってしまう可能性もあるため、その考えは即座に放棄した。


「(そう考えると…………やっぱり、歩く以外に方法はねぇな。戦闘機の力を使えるのは俺だけだし、ただ移動するだけのためにエーリヒを僚機にするってのも変な話だからな………)」


 内心そう呟き、神影は小さく溜め息をついた。


 神影の特殊能力の1つである"僚機勧誘"は、互いに了承し合った相手に使う事によって、自分の天職を相手にコピーする事が出来る。つまり、エーリヒの天職を、"魔術師"から神影と同じ"航空傭兵"に変え、自分と同じように、戦闘機を使えるようにする事が出来るのだ。

 だが、このファンタジーの世界において、戦闘機はオーバーテクノロジーの塊。国に知られでもしたら、国は放っておかないだろう。

 そんなものを扱う能力を、ただ早く移動したいと言うつまらない理由で他人にコピーすると言うのは、憚られて当然だった。


 勿論エーリヒは、神影から戦闘機に関する話は聞いているため、それを悪用しようとは思わないし、たとえ国の方から情報を渡すように言われたとしても断ってくれるだろうが、それでもだった。

 エーリヒは神影にとって、この世界に召喚されてから初めて出来た友達であり、自分の師匠でもある。

 当然、それなりに高い信頼を寄せているが、だからと言って天職をコピーするのとは、話が違うと言うものだ。


「………ところでミカゲ」


 神影が考え込んでいると、急にエーリヒが立ち止まって神影の方を向いた。


「ん?どうした?」

「王都からはそれなりに離れたし………魔物を相手にした実戦トレーニングしてみない?」


 そう言って、エーリヒは神影が肩に担いでいる長剣に視線を向けた。


 魔物とは、神影達の世界に居るような猛獣とは比べ物にならない程に狂暴な化け物の事で、この世界でも生誕の理由がはっきりしていない、謎の生物だ。

 ファンタジー系の創作物では必ず登場するもので、主に、小柄な体格に加えて緑色の肌や出っ張った鼻を持った醜い小人のような容姿をしているゴブリンや、二足歩行する巨大な豚のような生き物のオーク、二足歩行の牛のような生き物、ミノタウロス等が、それに該当する。


 そして、彼等が現在通っているこの街道は、しばしば魔物が目撃されている場所だ。

 と言っても、魔物の殆んどがゴブリンである上に、レベルもそれ程高くないため、冒険者達が迷宮に潜る前の腕試しに使ったりしている。


「そうだな。今のところ、戦ったのはお前との組手やあの時の模擬戦くらいだし………まあ、迷宮に潜っての訓練もあったが、俺は後ろに居るだけだったからな………」


 エーリヒからの提案を受け入れる事にした神影は、言っている内につくづく自分の実戦経験が乏しい事を思い知らされ、深く溜め息をついた


 それから歩みを進めると、タイミング良く1体のゴブリンが現れた。

 いきなり実戦経験の乏しい神影をぶつけるのは得策とは言えないため、先ずはエーリヒが魔法で攻撃して弱らせる。

 其処へ、長剣を鞘から抜いた神影が飛び掛かり、ゴブリンの胸に剣を突き刺した。


「グッ……キギィ………ッ!」


 だが、刺さり具合が浅かったのか、ゴブリンは苦しそうにしながらも生きている。

 そして、簡単に殺されて堪るかと言わんばかりに腕を振り回し、足をバタバタと動かした。


「ッ!?この野郎!」


 神影は再び、ゴブリンの胸に剣を突き刺した。

 これが本当の止めとなり、そのゴブリンは事切れた。


「…………」


 それを見ていたエーリヒは、刀身についたゴブリンの血を振り払おうとしている神影に歩み寄った。


「ねえ、ミカゲ。さっきの戦闘を見て思ったんだけど………」

「ん?」


 振り向いた神影に、エーリヒは洗浄魔法で神影の剣についた血などを消し去ると、ズバリ訊ねた。


「ゴブリンの胸に剣を突き刺す時………君、ちょっとビビらなかった?」

「ッ!」


 ストレートに放たれたその質問が、神影の胸に突き刺さる。

 エーリヒの言う通り、あの時の神影には躊躇いがあったのだ。


 迷宮で訓練した時、勇者組が魔物をどんどん倒していく中で殆んど活躍していなかった神影。即ち、彼は迷宮での訓練についていっただけでであり、魔物との実戦経験は、ほぼ皆無なのだ。

 それに、幾らファンタジー小説で主人公や仲間達が魔物を殺す描写があっても、所詮は物語であって、実際にするのではない。

 小さな虫を叩き殺すのとは訳が違うのだ。


 それに加えて経験が不足していると言う事が、悪い意味で拍車を掛けていた。


「………すまん」

「あ、ゴメン。別に怒ってる訳じゃないんだ」


 表情を曇らせる神影に、エーリヒは慌てて言った。


「さっき君が呟いていた事からすると、君は魔物と戦った事が殆んど無いみたいだからね、そうなるのは無理もないよ。僕だって、君みたいに剣で殺す訳じゃないとは言え、最初は戸惑ったものさ」


 苦笑を浮かべて言うエーリヒだったが、突然、真面目な表情を浮かべた。


「ただ…………覚えておいてほしい事が1つだけあるんだ」


 神影はそんなエーリヒを見つめ、次の言葉を待つ。

 エーリヒは暫くの沈黙の後、語り始めた。


「魔物であるか否かを問わず、中途半端な攻撃と言うもの程、怖いものは無い。相手が僕なら幾らでも加減してあげられるけど、今回は相手が違う。加減するなんて考えは最初から持ち合わせちゃいない。奴等は最初から、君を殺しに来るんだよ」


 普段の優しそうなものとは一転した鋭い視線を向けられ、神影は蛇に睨まれた蛙のように動けなくなる。

 そんな神影に、エーリヒは言葉を続けた。


「なら、君も最初から、奴等を一撃で仕留める覚悟を持たなきゃいけない。己の全ての覚悟を乗せないと駄目なんだ。そうしないと…………………殺されるのは君なんだからね」


 エーリヒからの言葉が、重く神影にのし掛かった。


 この世界においては、エーリヒの方が先輩だ。

 魔物との戦闘に関する知識も、少なくとも神影より多い。

 そのため、彼の言葉には説得力があり、多少キツくても、受け入れる以外に選択肢は無かった。


「………ああ、何とか頑張るよ」


 神影はそう答えた。


 それから神影は、エーリヒから言われた事を強く胸に刻みつけ、ルビーンに向かいながらの訓練に励んだ。

 それによってレベルが上がったのは良いのだが、ルビーンへの距離は、魔物での訓練を始めた時からあまり縮まっていない。

 そのため2人は、近くにあった小さな村に入り、古い宿で休むのだった。

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