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航空傭兵の異世界無双物語  作者: 弐式水戦
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第25話~追放の計画~

「…………と言う事があったんだよ」


 幸雄達に迫られ、彼等が探し回っている間何をしていたのかを話す事になった神影は、落ち着きを取り戻した沙那達を引き剥がして何時もの席に座り、意外にも用意されていた食事を口に運びながら、自分がエーリヒから聞いた事を話していた。

…………とは言うものの、模擬戦が終わって倒れてから数時間は気絶していた上に、起きてからは自分が倒れた時の周囲の反応をエーリヒから聞かされただけなので語る事は殆んど無く、本来なら何をしていたのかを話すのがメインとなる筈が、逆に夕食を摂るのがメインとなってしまった。


 話を終え、最後の一口を口に運ぶ神影に、奏が口を開いた。


「………つまり、貴方が部屋に居なかったのは、エーリヒとか言う人が普段トレーニングで使っている城の裏に運んだから…………と言う解釈で良いのね?」

「ああ」

「で、その理由は彼が貴方の部屋の場所を知らなくて、普段練習に使っている場所に運んだ方が良いと判断したからだと………そう言う事なのね?」

「その通りだ」


 話の内容を確認する奏に、神影は口に放り込んだ一口を飲み込んで頷き、それを聞いていた4人は唖然としていた。


 異世界人組の居住スペースに入れるのは、彼等やメイドや執事くらいであるため、居住スペースに入れないエーリヒが神影の部屋の場所を知らず、別の場所へ運ぶ事になるのは仕方無いが、だからと言って何故、城の裏を選んだのかと、内心ツッコミを入れていた。


「ま、まあ………運ばれた場所について思う事は色々あるのだが…………」


 何とも言えないような表情で話を切り出した太助に、神影達は視線を向ける。


 太助は神影に真っ直ぐ視線を向けて暫く見つめた後、頬を緩めた。


「先ずは、君が無事で何よりだよ………そうだろ?皆」


 そう言って、席に座っている幸雄や沙那、奏、桜花の4人に視線を向ける太助。

 その言葉を受けた4人は、互いに顔を見合せた後に、笑みを浮かべて頷いた。


「皆………ありがとな」


 神影は、これ程にも自分を心配してくれる友人が居る事への嬉しさで目頭が熱くなるのを感じつつ、そう返すのだった。



──────────────



 夕食を終え、幸雄達と別れた神影は、自分達の居住スペースに向かうために城の廊下を歩いていた。


 今日は夜間飛行について何も話していなかった上に、模擬戦で疲れている。

 そのため、今回は部屋に戻ったら直ぐに風呂を済ませて寝てしまおうと考えたのだ。


「そうだ、風呂に入る前にステータスの確認を……………っと、いけね。道間違えた」


 考え事に夢中になるあまり、本来曲がるべき場所で間違えて直進すると言う、何とも間抜けな失敗をした神影は、直ぐに引き返そうと回れ右をする。

 だが、その際にふと、閉まりきっていないドアが目に留まった。


 耳を済ませてみると、老人らしき声と、中年男性の声が小さく聞こえてくる。


「この声って、確か…………宰相とフランクさんだな」


 聞き覚えのある声だったために声の主を直ぐに悟った神影は、周りに人が居ない事を確認すると、無意識の内にドアに近寄り、聞き耳を立てていた。


「…………以上が、本日の勇者達による模擬戦の結果です」

「うむ、ご苦労だった」


 どうやら、フランクが今日の模擬戦の結果を報告しているらしく、その内容を聞き終えたカミングスは、何の感情も籠っていない声音で労いの言葉を掛ける。

 そして、その手に持っている数枚の羊皮紙に目を通していった。

 

 目線を左から右へと動かして結果を読み、1枚、また1枚と紙を入れ換えていくカミングス。

 

「ふむ、やはりトップはヒジリカワ殿のようだな………」

「はい。彼は最初の確認の時から、勇者達の中では最も高いステータスを持っておりましたので」


 カミングスの呟きに、フランクが答える。

 それから交わされる2人の会話から順位をつけると、男性陣では1位が勇人で2位が一秋。3位に幸雄で4位に太助、それから功達3人組と続き、後は他の男子と言う結果に。女性陣での1位は沙那で、2位に奏。3位に桜花、4位にシロナ。そして残りの女子生徒の結果になっているようだ。


 因みに、この模擬戦は1人1回ずつで行われているため、順位はフランクや他の騎士、魔術師達の主観や、模擬戦後に報告させたステータスからつけているらしい。


「ああ、閣下。それでなのですが、ミカゲ・コダイのステータスについて………」

「ああ、それについては別に良い。あんな役立たずには、最初から何の期待もしておらぬからな」


 フランクの言葉を遮ったカミングスは、質問を投げ掛けた。


「例の試合を見ていた者達の話によると、奴は何者かによる攻撃を受けたそうだな?」

「はい。それについて一部の勇者達からは、ミカゲ・コダイを攻撃した者を見つけ出し、謝罪させようと言う意見も出ております。今のところ、勇者イサオ・トミナガとジュン・ミカワ、シンヤ・ウエノがそうなのではないかと、言われております」

「(マジか、それは知らなかったな………)」


 幸雄達からは聞かされなかった事実に、神影は目を丸くする。


「そうか………別に良い、そんなものは放っておけ。それに、仮に彼等が犯人だとしても、相手は役立たずだ。向こうが騒ぐなら、短期間謹慎させる程度で済ませておけ………それより、あの役立たずに渡しておいてもらいたいものがある」


 神影の一件をバッサリと切り捨てたカミングスは、机の引き出しから封筒を取り出してフランクに差し出した。


「コレは………?」


 そう訊ねるフランクに、カミングスは封を開けて中身を取り出すと、それを広げて内容を告げた。


「あの役立たずへの追放命令だ」

「………ッ!?」


 その言葉を聞いた瞬間、フランクが息を呑むのが聞こえた。

 神影も目を大きく見開き、ドアの隙間からカミングスを見ている。


「今までの訓練、そして今日の模擬戦から、彼奴は使えない者だと判断した………まあ、そのために彼奴を模擬戦に参加させるよう、お前に言わせたのだがな」


 それを聞いた神影は、自分を追放する動機を作るために模擬戦に参加させられたと言う事実に表情をしかめた。

 最初のステータス確認において、自分には勇者の称号が無かった上に、ステータスは召喚組の中で最弱。それによって、今後お荷物扱いされるのが決定され、事実、徐々に訓練についていけなくなる神影を見る騎士や魔術師達は、使えないものを見るような目をしていた。

 そして勇者パーティーから切り離され、ある日いきなり勇者達の模擬戦に参加するよう言われる。

 その行いは最早、神影にとって理不尽以外の何物でもなかった。


「た、確かにそうですが………しかし閣下!彼も我々の都合に巻き込まれた者の1人なのですよ!?」


 フランクが声を張り上げるが、その言葉はカミングスには届かない。

 彼は蔑むような表情を浮かべ、くだらないと言わんばかりに鼻を鳴らした。 


「フンッ、そんなもの私には関係無い事だ。我々が召喚したのは使える勇者であって、役立たずではない」

「………ッ!」


 非情な事を平然と言い放つカミングスに、フランクは拳を震わせていた。


「そもそも、この約2ヶ月もの間、城に置いてただ飯を食わせてやっただけでも感謝してほしいものだ。この国だったから良かったが、もしも帝国だったら弱いと分かった瞬間その場で処分されるか、追放されるかのどちらかなのだからな」

「……………」


 それを聞いた神影の表情に、怒りの色が浮かび始めた。

 戦闘機好きである一方でオタクでもある神影は、ファンタジー系の創作物を読み漁っていたために、ステータスに恵まれなかった者に理不尽な扱いが待っている事は承知している。

 それに、今まで男子生徒達から散々嫌がらせを受けてきたと言うのもあって、ある程度の理不尽な扱いなら耐えられるくらいに頑丈な精神を持っていたが、彼とて人間だ、当然ながら我慢にも限界がある。


「(このクソジジイ、言いたい放題しやがって…………B-29でこの城ごと爆撃してやろうか………!)」


 内心そう呟く神影だったが、2人の会話が終わりそうなのを悟り、盗み聞きしていた事に気づかれないように注意しながら来た道を逆戻りして居住スペースに入ると、一目散に部屋へ駆け戻った。


 その勢いに任せてドアを開け放つと、其所にはレイヴィアが居り、彼女はドアが開かれる大きな音にビクリと体を強張らせた後、振り返った。


「み、ミカゲ様でしたか…………お帰りなさいませ」


 部屋に入ってきた人物が神影だった事に安堵したレイヴィアは、軽く一礼して神影を出迎える。


「………ただいま」


 それだけ言うと、神影はテーブルセットの傍に置かれてある荷物を開けて中身を確認する。

 因みに、召喚された日に着ていた制服等は既に洗濯されており、それらは全てサブバッグの中に入れていた。


「み、ミカゲ様………一体何を………?」


 鞄やサブバッグから中身を出し入れする作業を繰り返し、不足しているものが無い事を確認している神影に、おずおずと話し掛けるレイヴィア。

 その問い掛けに動きを止めた神影は一旦手を止めると、顔だけ彼女の方へ向けた。


「………ちょっと、荷物確認を」


 それだけ言って、再び作業を始める神影。

 何故今になってそんな事をするのかと訊ねたくなるレイヴィアだったが、自分に背を向けて作業をしている神影が何と無く怒っているように見え、下手に刺激するのは避けた方が良いと言う脳からの警告に従い、言及はしなかった。



 それから作業を終えた神影はレイヴィアから着替えを受け取り、彼女が部屋を出るのを見送ってからシャワーを済ませて着替えると、明かりを消してさっさとベッドに潜り込んだ。


「瀬上達には悪いが………俺は、この城を出ていかせてもらう事にするぜ」


 そう呟き、神影は眠りにつくのだった。

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