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航空傭兵の異世界無双物語  作者: 弐式水戦
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第23話~目覚める神影と、エーリヒの考え~

 模擬戦後、エーリヒによって運び出された神影を心配して訓練場を飛び出した幸雄達5人は、神影の容態を確認するために大急ぎで彼の部屋へと向かっていた。

 本来なら模擬戦のために訓練場に居る筈の勇者が5人、真剣な表情を浮かべて全力疾走していると言う異様な光景に、彼等と擦れ違う騎士や魔術師達は訝しそうな眼差しを向けていた。


 そんな眼差しを全て無視して走る一行は、城に入ると自分達が生活している区間に突入し、廊下を疾走する。


「この部屋が聖川で、此処が北条、それから此処が…………」


 相変わらず先頭を走っている幸雄が、誰の部屋なのかを呟きながら、部屋のドアを1つずつ指差していく。


「…………ッ!此処だ!」


 そして神影の部屋の前に到着すると即座に止まり、それに続くかのように、後続の4人も足を止めた。


「この部屋に、古代さんが………」

「ああ、居る筈だ…………つーか、居てもらわねぇと困るぜ」


 桜花の呟きにそう返した幸雄が、ドアを開け放とうとする。


「待て、幸雄」


 だが、それを太助が手で制した。


「何だよ太助?まさか、此処まで来て『やっぱり帰ろう』とか言うんじゃねぇだろうな?」


 そう言う幸雄に、太助は首を横に振った。


「そんな訳あるか。私だって、直ぐに古代の様子を確認したい。だが、古代はあの金髪の男に回復されているとは言え、あまり騒がしくするべきではない。一旦落ち着いてから入っても、遅くはないだろう」


 太助の言葉に、幸雄はハッとした。


 あの模擬線が終わって倒れた後、神影は誰よりも先に飛び出したエーリヒによって治療されている。

 だが、だからと言って、5人一気に部屋に押し入ったところで、神影を困惑させるだけだ。

 加えて、もし神影が寝ていたとすると、彼等が押し入った時の音で神影を起こしてしまい、休むのを邪魔してしまう事になるだろう。

 それにエーリヒが居た場合、警戒されかねない。

 そのため、早く部屋に入って神影の容態を確認したいと言う気持ちを一旦抑え、落ち着きを取り戻してから入った方が良いと言うのが、太助の考えだった。


「…………確かに、太助の言う通りだな」


 太助の考えを理解した幸雄は、ドアノブに伸ばしていた手を引っ込めると、1度大きく深呼吸する。

 そして気持ちを落ち着かせると、ドアをノックした。


「古代、居るか?」


 そう問い掛けてみるものの、返事は返されない。

 聞こえなかったのかと思ってもう1度試すが、結果は同じだった。


「やはり、未だ寝ているんだろうな」


 太助がそのように結論を出した。


「そうだね。神影君、あんなに頑張ったんだから」

「夕食の時間になれば、きっと起きて食堂にやって来るわよ」


 沙那や奏が言うと、桜花も頷く。

 そして、これからどうするかと話しながらその場を後にしようとした時、背後から声を掛けられた。


「あら、勇者の皆様。ミカゲ様の部屋に、何かご用ですか?」


 そう言われて振り向くと、其所には神影の専属メイドであるレイヴィアが立っていた。


「えっと、貴女は………?」

「確か、古代の専属メイドの人ッスよね?」


 太助の後に続いて言った幸雄に、レイヴィアは頷いた。


「はい、レイヴィアと申します。ミカゲ様の専属メイドをさせていただいております」


 そう言ってレイヴィアが一礼すると、5人も慌てて一礼した。


「それで…………皆様は、ミカゲ様の部屋の前で何をしていたのですか?」

「はい、実は………」


 太助は、今日行われた模擬戦で起きた事件について話した。


 功と戦っていた神影に突然鎖のようなものが巻き付き、其の鎖から流れた電流によって神影が倒れ、それに功が止めを刺すと言う形で模擬戦が終わり、神影が金髪の男によって訓練場から運び出されていくのを確認して慌てて訓練場を飛び出したのだが、既に金髪の男は居なくなっていたと言うのを伝えた。


「…………と言う訳で、神影君はこの部屋に居ると思って来たんですけど、何か、寝ているみたいで…………」


 そう言う沙那だが、レイヴィアは一瞬首を傾げた後、彼女等の考えを真っ向から否定するような言葉を投げ掛けた。


「ミカゲ様はこの部屋には居りませんし………そもそも、朝食後に訓練に向かわれてから、部屋には1度も戻っておりませんが…………」

『『『…………は?』』』


 そう言われた5人は、揃って間の抜けた声を発した。


「う、嘘………ですよね?」

「いいえ、本当です」


 桜花の質問にそう答えたレイヴィアは、部屋のドアを開ける。

 5人が中に雪崩れ込むと、其所はもぬけの殻だった。

 部屋の中は暗く、レイヴィアが言ったように、この部屋に戻ってきたような痕跡すら見当たらない。

 当然、ベッドに潜り込んで隠れている訳でもなかった。


「おいおい、こりゃ何の冗談だよ?」


 部屋の中を見渡しながら、幸雄がそう呟く。

 他の4人も、信じられないと言わんばかりの表情を浮かべていた。


 念のため、そのフロアにある鍵が開いた部屋を片っ端から調べたものの、神影の姿は何処にも無かった。


「どういう事?部屋にも居ないなら、古代君は一体何処に連れていかれたと言うの………?」


 最後の部屋から出てくると、奏がそう呟いた。


 それから一行は城内を歩き回り、騎士や魔術師達を捕まえては、神影や彼を抱き抱えた金髪の男を見ていないか訊ねるものの、全員が首を横に振った。


 結局幸雄達は、彼等が突然訓練場を飛び出していった事を心配して探しに来たシロナ達に見つかるまで城内を歩き回ったが、神影やエーリヒを見つける事は出来なかった。



──────────────



 その頃、城の裏ではエーリヒが神影の傍に座り、寝息を立てる神影の様子を見ていた。


「…………」


 何も話さず、ただ神影の寝顔を眺めるエーリヒが考えているのは、これまでの神影に対する周囲の扱いだった。


 ステータスの確認で勇者の称号が無い上にステータスも最弱と言う事から、"役立たず"、"成り損ない勇者"として認識された神影。

 衣食住は他の勇者達と変わらないが、扱いには大きな差があった。

 騎士や魔術師、他の貴族達からの接し方が他の勇者達と比べて悪いのは言うまでもなく、中には役立たずなど早く追放するべきだと主張する者も居た。

 加えて訓練では、彼を勇者パーティーから切り離し、専属講師として士官学校の落ちこぼれである自分を抜擢する。

 それを決めた者の心情は間違いなく、『落ちこぼれの講師は落ちこぼれで十分』と言ったところだろう。

 挙げ句の果てには、今日の模擬戦で神影が倒れた際には誰もが功を称賛し、神影の事など歯牙にも掛けない始末。

 模擬戦終了後、負傷してその場から動けない者が出た場合、救援として向かう事になっている回復師達も神影の時だけ出てこなかった。

 彼等にとって神影がその程度の存在でしかないのだと悟ると、エーリヒは怒りと共に呆れや失望を覚えた。

 

「(このまま此処に居ても、ミカゲが苦しむだけだ。僕とは違って友人が何人か居るみたいだけど………彼等が居ないところで、ミカゲにちょっかいを出す奴が居るだろうな………)」


 内心そう呟いたエーリヒは、ある事を思いつく。


「いっそ、この城から出てしまえば………」


 エーリヒは小さく呟いた。


 あのようにぞんざいな扱いをする城の関係者なら、神影が一言『城を出ていく』と言えば喜んで送り出すだろうし、それはエーリヒが言った場合も同じだろう。

 ただ見下され、理不尽な扱いを受け、邪魔者として扱われる生活を延々続けるくらいなら、いっそ、共にこの城を出て自由な生活を手に入れるほうが良いに決まっていると、彼は考える。


「でも、ミカゲには…………友達が、居るんだよね……」


 そう呟くエーリヒが思い浮かべたのは、模擬戦前に聞かされた神影の境遇。


 この世界に召喚される前から、神影は学校中の男子生徒から敵視され、特に同じクラスの男子からは嫌がらせも受けていた。

 だが2人だけ、そんな彼の味方をした男子が居たと言う事も、エーリヒは聞いている。

 

 城を出ていくとなれば、神影は居心地の悪い空間から解放されるが、同時に彼等と離れ離れになってしまう。

 そのため、エーリヒは自分と一緒に城を出る事を提案する事に躊躇いを感じていたのだ。


 そんな時だった。


「うっ、ん…………?」


 神影が小さく声を発し、目をゆっくり開いた。


「……!ミカゲ!」


 それを見たエーリヒが、声を掛ける。


「……エー……リヒ………」


 途切れ途切れにエーリヒの名を呼んだ神影は、ゆっくりと体を起こして辺りを見回した。


「……此処って…………何時も訓練してる所……だよな?」

「うん。本当は君の部屋に行こうと思ったんだけど…………そもそも僕、君達異世界人が何処で生活しているのか知らなくてね。態々探すより、此処で寝かせた方が良いと思ったんだ。まあ、普通なら君の部屋で寝かせた方が良いんだけどね」


 苦笑を浮かべながら、エーリヒはそう言った。


「一応、君が倒れた後に回復魔法を掛けておいたんだけど……………どう?何処か痛かったりしない?」

「…………」


 そう訊ねられた神影は、軽く腕を回したり足を上げ下げするが、特に痛みは感じない。

 ステータスを開いて状態異常を確認するが、それにも異常は見られなかった。


「いや、問題無いみてぇだ。ありがとな」


 自分の体に何の異常も無い事を確認した神影は、エーリヒに礼を言った。


「気にしないで。それより何ともないみたいで、僕も安心したよ」


 軽く手を振り、柔らかな笑みを浮かべるエーリヒ。

 彼の言葉に嘘偽りは一切無く、本心から神影の無事に安堵していた。


「ところで、俺はあの後どうなったんだ?」

「…………」


 神影からの質問に暫く口を閉ざしていたエーリヒだが、やがて小さく溜め息をつき、ポツリポツリと語り始めた。



──────────────



「…………と言う訳なんだよ」

「そっか……こりゃ参ったな………」


 エーリヒからの話を聞き終えた神影は、苦笑を浮かべながら後頭部を軽く掻いた。


 神影が模擬戦をしたのは後の方なので、他の生徒達の模擬戦も当然見ている。

 そのため、負傷して城の回復師によって治療される生徒を何人も見ているし、中には気絶したために担架で運び出される生徒も見ていた。そんな中で、自分だけ倒れてもその場に放置され、エーリヒ以外に彼を助けようと動いた者は誰も居なかったと言う徹底した扱いの差に、神影には最早、怒る気力すら湧いてこなかった。

 

「…………」


 そんな神影を黙って見つめながら、エーリヒは神影が目覚めるまで考えていた事を、今言うべきか否かについて考えていた。


 『僕と城を出て一緒に暮らそう』と、何の考えも無しに言ってしまうのは簡単だ。

 彼の田舎はお世辞にも良い町とは言えないが、少なくとも出自や肩書きで差別されるようなこの城より幾分か居心地は良い。

 家もかなり古いが十分生活出来るし、住む人間が1人増えたところで大した問題は無い。

 それに生活資金なら、冒険者登録をして依頼をこなすなり、魔物を討伐して魔石を売るなりして稼げば良い。他にも金を稼ぐ方法など、探せば幾らでもある。

 だが、だからと言って、そう簡単に城を出る事を決められるのかと聞かれれば、答えは当然"NO"だ。


 王都に来てからはずっと味方が居らず、孤独な生活を送っていたエーリヒとは違い、神影には友人が居る。

 この城を出ると言う事は、先述の通り神影が友人達と離れ離れになってしまう事を意味している。

 加えて神影は異世界人であるため、何時かは元の世界に帰る事になる。

 もし、神影が城に居ない間に元の世界に帰れるようになったら、最悪の場合は神影が置き去りにされるかもしれない。


 それらの事を考えると、提案する勇気が中々起こらなかったのだ。


「あっ、そういや俺の眼鏡無くなってる。模擬戦の時に壊れちまったのかな………クソッ、日本に帰ったら母さんに何て説明しよう…………?」


 そんな彼の傍では、神影が自分の顔をペタペタ触り、自分の眼鏡が無くなっている事でブツブツ呟いている。

 そんな神影を見て、何故そんな事を気にするのかと苦笑しながら、エーリヒはあの模擬戦で神影に巻き付いて電撃を喰らわせた、謎の鎖の事へと考えをシフトした。


 何処からともなく伸びてきて神影に巻き付いた、あの謎の鎖。

 神影の背後から伸びてきた事から、観客の中に神影を負けさせようとした者が居ると、エーリヒは予想した。


「(犯人が勇者であれ、騎士や魔術師の誰かであれ…………全く、胸糞悪い話だな)」


 あの出来事の犯人が功や彼の取り巻き達だと言う事を知れば、エーリヒは激怒すると共に勇者への失望を覚えるだろう。

 いや、彼が勇者に向ける信頼など、最初から無かったのかもしれない。


 神影や自分の今後の生活。そして、あの模擬戦の出来事…………

 この2つの疑問が解決する事は無く、何とも言えないモヤモヤを感じるエーリヒ。


「(まあ、取り敢えず明日にでも、その事について話し合おう)」


 このまま考えても仕方無いと結論を出したエーリヒは、明日の予定を決める。

 そして、未だに何やら呟いている神影の肩を叩いた。


「取り敢えず、今日は部屋に戻ろう。もう夕方だからね」


 そう言うエーリヒが指差した時計の針は、午後5時を指していた。

 

「うわっ、何時の間に…………」


 時刻を確認した神影が、目を丸くした。

 

 それから2人は、各々の部屋に戻るために歩き出すのだった。



──────────────



 その頃、勇者達は模擬戦を終えて各々の部屋に戻っていた。


「クククッ…………ざまあねぇぜ、古代の野郎。日本じゃただの戦闘機マニアで、此方じゃ無能で役立たずな癖に天野達と仲良くして調子に乗ってるからこうなるんだよ」


 部屋に入った功は、下卑た笑みを浮かべてそう呟いていた。


 元々神影が気に入らなかった彼にとって、模擬戦と言う大勢の人間に見られている前で神影を叩きのめせたのは非常に愉快だった。

 倒すのは予想以上に手こずったが、功が合図を出したら神影に攻撃するようにと秘密裏に伝えていた取り巻き達の援護で勝てたため、結果オーライだと割り切っていた。


「さて、明日から彼奴がどんな目で見られるのか、楽しみで仕方ねぇな………」


 そう呟き、功は下卑た笑い声を小さく部屋に響かせるのだった。





「成る程、そう言う事だったのね………この国を救う者として召喚された勇者が、まさかこれ程までに酷い人だなんて………兎に角、コレは彼女等に伝えておいた方が良いわね。ちょうど彼女等も、あの模擬戦には疑問を感じていたようだし」


 彼の企みが、既にバレてしまっている事も知らず。

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