第21話~卑劣な勝ち方~
き、気づいたらブックマークが100件突破してるんですけど…………
((((;゜Д゜)))
「(クソッタレが、ムカついて仕方ねぇぜ…………こんな、何の取り柄もねぇマニア野郎なんかに……ッ!)」
神影に攻撃を仕掛けながら、功は内心悪態をついていた。
あれから一方的に攻撃を仕掛けている功だが、神影は相変わらず、その殆んどを避けている。
エーリヒとの特訓で養われた体術のスキルや動体視力、そして元々の敏捷性の高さが効果を発揮し、紙一重のところで神影の回避に繋がっていたのだ。
そして、観客席から聞こえてくる戸惑いの声も、功の苛立ちを掻き立てていた。
「良いぞ、ミカゲ!その調子だ!」
そんな中、神影を応援するエーリヒの声が響いてくる。
すると、まるで彼の声援に応えるかのように、神影は功の攻撃をスイスイ避ける。
それを見た功は、額に青筋を浮かべた。
「クソッ、いい加減に当たれや!このマニア野郎が!」
怒号と共に、功は神影を串刺しにするような勢いで木刀を突き出す。
「ぐっ!?」
それを何とか避けようとする神影だったが、今回は完全に回避する事は出来ずに少し掠り、表情を苦痛に歪めた。
「おらおら!さっきまで避けてたからって良い気になってんじゃねぇぞ!」
模擬戦開始から初めて、神影の表情を苦痛に歪めさせた事で幾分か調子を取り戻したのか、功は木刀を放り捨てて、拳や蹴りを次々に繰り出した。
「(クソッ、やっぱ強ぇよな…………腐っても勇者だ)」
時に体を反らしたりして攻撃を避け、時に木刀で受け止め、時に手で逸らしながら、神影は内心そう呟いた。
そして、避けられた功が、神影から数メートル離れた所で神影に向き直った、その時だった。
「あっ…………!?」
神影の体が一瞬ぐらつき、横向きに倒れ始めた。
長々続いた功の連続攻撃を避けている内に蓄積された疲労やダメージで、体が悲鳴を上げていたのだ。
「ッ!今だ!」
それによって生じた、今までスイスイと攻撃を避けていた神影に攻撃を叩き込む絶好のチャンスを、功は見逃さなかった。
「残念だったな、古代!これでお前は終わりだぁ!」
自分の勝利を確信した功が、物凄い勢いで飛び出して神影に迫る。
「(諦めるな…………今こそエーリヒに教わった、あの技の出番じゃねぇか!)」
体が傾いていく中で、神影は自分の体全体に魔力を流し、それを足に集中させながら、訓練場に入る前に交わしたエーリヒとの会話を思い出した。
──────────────
「ねえ、ミカゲ。突然だけど、魔法は何処から撃つ?」
訓練場に入る前、オリジナルの技を教えると言って物陰に連れ込まれた神影は、エーリヒからそんな質問を投げ掛けられていた。
「何処からって…………そりゃ、手とか展開した魔法陣とか…………後は、杖や他のアーティファクトからだろ?」
「そう、その通りだ」
大正解とばかりに拍手をするエーリヒだが、其処で意味深な表情を浮かべた。
「でもねぇ………それだけじゃないんだよ」
「…………?」
その言葉に、神影は首を傾げた。
勇者パーティーから切り離されるまでの訓練では、先程言ったものしか教えられていない。
攻撃魔法は基本的に手から放ち、回復魔法も、怪我をした部分に手を翳すものだと教えられている。
他にも、聖剣士の天職を持つ勇人のアーティファクトである聖剣のように、魔力を流して威力を上げるものもある。
後は、杖のアーティファクトを使う場合、展開される魔法陣から魔法を放つと言う話を聞いていた。
「実を言うとね、魔法はその気になれば、体の何処からでも撃てるんだよ」
そう言って、エーリヒは体全体に魔力を纏うと、右足を上げ、靴の裏を見せた。
「ホラ、見て」
エーリヒが指差した所には、野球ボール程度の大きさの光る球が出来ていた。
「以前、体全体に流した魔力を一点に集中させるって話をしたよね?コレはその応用なんだ」
それから続けるエーリヒ曰く、一点に集中させた魔力を一気に放出する事で、爆発的な威力の魔力砲を撃つ事が出来ると言うのだ。
「コレ、相手が迫ってきた時に使えるんだ。同期達に袋叩きにされていた時、よくやったものだよ。連中は吹っ飛んで大怪我するけど、僕は普通にノーダメージで逃げられたよ」
即ち、その技は接近してきた相手への攻撃と、その場からの離脱を同時に行えるものと言う事だ。
「コレが、僕のオリジナル技さ。体に魔力を流すのと、それを一点に集中させる事は教えているから、後はピンチの時に、思いっきりやっちゃえば良いよ!爆発で相手を吹っ飛ばしちゃえ!」
そう言って、エーリヒは親指を立てて笑みを向けたのだった。
──────────────
「(早速、それを使う時が来ちまったぜ、エーリヒ)」
神影は、体全体に流れる魔力が両足に集中していくのを感じながら、内心でエーリヒに語り掛けた。
段々横向きになっていく視界と、止めを刺そうと拳を構えて迫ってくる功の姿が、スローモーションで見える。
そして、神影に迫った功が拳を振り下ろした時…………
「…………ッ!」
神影は地面に手をつき、地面から若干離れ始めた両足を振り上げて腰を捻り、魔力の集中で光っている足の裏を功に見せつける。
「なっ!?」
それに驚いた功が急ブレーキを掛けて飛び退こうとした、正にその時だった。
「デカいの1発喰らっとけや!」
怒号を響かせ、神影は集中させていた魔力を放出した。
「ぐおぉぉぉおおおっ!!?」
火属性でも水属性でもない、謎の白い光を弾けさせながら、足の裏で球を形成していた魔力の塊が爆発する。
それで吹き飛ばされた功は、物凄い勢いで壁に叩きつけられて倒れ、彼とは逆向きに、ブーメランのように回転しながら吹き飛ばされた神影は、2、3回地面に叩きつけられたが、直ぐに体勢を立て直して着地を決めた。
それにより、倒れかけた時点で神影が負けると決めつけていた観客達が静まり返る。
幸雄や太助、それから沙那達美少女3人組や、教師であるシロナも、言葉を失っていた。
理由はどうあれ、勇者パーティーの中で神影を心の底から応援する数少ない人物である彼等だが、神影が倒れそうになった時は、流石に神影も限界なのだと思い、そのまま功に止めを刺されてしまう事を悔やんでいたのだが、其処で起こったまさかのどんでん返しに驚いていた。
本来なら、レベルの差による大きなハンデをひっくり返して功に大ダメージを与えた事に幸雄が喜び、太助もそれに同調したりするところだが、今回は状況が状況であるために、彼等はポカンとする事しか出来なかったのだ。
「おおっ、良いぞ良いぞ!」
だが、ただ1人、神影が活躍したのを喜ぶ人物が居た。
それが誰なのかは言うまでもなく、喜びに満ちた声を上げるエーリヒだった。
神影が、先程教えた技をぶっつけ本番でモノにし、見事に功にダメージを与えた事が余程嬉しいようだ。
「す、凄い………」
「ああ。彼と勇者殿のレベルの差は3倍以上あると言うのに…………あの立ち回りに加えて、あんな隠し球を持っていたとはな…………」
ソフィアとイリーナも、唖然とした様子で神影を見ていた。
「ち、畜生………ふざけんなよ…………何なんだよ、さっきの爆発は……!?」
地面に倒れ伏している功は、壁に叩きつけられた事による痛みで震える体を何とか起こそうとしながらそう呟いた。
神影の体がぐらつき、そのまま倒れ始めた時、功は、攻撃するなら今だと瞬時に判断した。
幾ら自分の攻撃を避け続けたと言っても、所詮はレベル5。
各ステータス値も、功の方が神影のを遥かに上回っている。
それは、この世界に召喚される前は神影より劣っていた足の速さや持久力も例外ではない。
そのため、体力が尽きるのも、当然ながら神影の方が早いと見ており、彼の予想通り、神影が地面に倒れそうになる。
其処で神影に肉薄し、そのまま勢い良く殴り倒して気絶させてやれば、最初は避けられたものの、最後は自分の圧勝と言う事で、神影に対して今より優位に立てると考えていた。
だが、現実は違った。
神影は自分の体が地面に倒れていく中でも諦めず、体に流した魔力を足に集中させ、肉薄してきた功が油断した隙に魔力を放出し、功を吹き飛ばしたのだ。
壁にぶつけられた事に加え、瓦礫も幾つか当たっているために、功の体は傷だらけ。
対して神影は、ある程度の傷はあるものの、未だ倒れていない。
それを見た功は、ずっと神影を見下して保ってきた自尊心が傷つけられるような気分を味わう。
そして遂に、例の計画を実行に移す決意を固めた。
「(生意気な野郎だ…………まあ良い、あの場で俺にやられなかった事を後悔させてやる!)」
功は、悲鳴を上げる体を無理矢理立たせると、そのまま神影目掛けて突進する。
「(彼奴もかなり弱ってる…………仕掛けるなら、今だ!)」
先程と比べて明らかに勢いが弱い上に体がふらついている事から、功もかなりの疲労やダメージが蓄積している事を悟った神影は、再びエーリヒから教わった技を発動させ、足に集中させた魔力を放出し、砲弾のような勢いで飛び出す。
だが、その時…………
「…………ッ!」
功の目が観客席のある方向へと向けられ、まるで彼の視線の先に居る何者かに合図をするかのように、一瞬細めた目をカッと見開いた。
「……!ぐっ、ぁ………!?」
その数秒後には、神影の腹に何かが巻き付き、その次には強烈な電流が流れた。
勢い良く飛び出したとは言え、神影もかなりの疲労を溜めている。
そんな中で不意打ちの電撃を受けた彼に、飛び出した時の勢いを保てる訳が無い。
結局、神影は体勢を崩して倒れ、そのまま数メートル程地面を滑った。
「ぐっ……一体、何が…………ぐあッ!?」
体が痺れ、思うように動けない神影は、辛うじて動く顔だけを動かして周囲を見ようとするが、今度は背中に魔力弾が叩き込まれ、神影は再び吹き飛ばされる。
そして、何度か地面に叩きつけられ、漸くその動きが止まった時、神影の目の前に誰かの足元が映る。
ゆっくりと顔を上げると、其所には勝ち誇った表情を浮かべた功が立っていた。
不意打ちの電撃に加えて魔力弾を受けて吹き飛ばされ、傷だらけになった神影に、嘲笑うような眼差しを向ける彼は、小さく口を動かす。
「ざまあみろ、ゴミ野郎」
そして次の瞬間には、神影の頭に拳が振り下ろされ、迫り来る拳と、功の下卑た笑みを最後に、神影の意識は刈り取られた。