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航空傭兵の異世界無双物語  作者: 弐式水戦
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第18話~模擬戦と理不尽な決定~

 翌朝、レイヴィアが起こしに来る時間より少し早く起きた神影は、目覚ましも兼ねて、軽く準備運動をしていた。


 体育の授業でするようなラジオ体操に加え、腕立てや腹筋、スクワットなどの補強運動を各々100回ずつこなしていると、目もすっかり覚めていた。

 最後に大きく深呼吸して気持ちを落ち着かせていると、ドアがゆっくりと開かれてレイヴィアが入ってきた。


「ッ!?ミカゲ様………」


 普段は自分に起こされている神影が先に起きていた事に驚いたのか、レイヴィアは目を見開いていた。


「も、申し訳ありません。ドアを開けたら部屋の明かりがついているのが見えて、もしやと思いまして………」

「いえいえ、お気になさらず」


 そう言って、神影はレイヴィアが持ってきた着替えの服を受け取った。


「ああ、それから夜食のクッキー、ご馳走さまでした」

「い、いえ………」


 レイヴィアが返事を返すと、神影は着替えるために脱衣所に入ろうとする。

 だが、1歩踏み入れたところで、レイヴィアが呼び止めた。


「そ、その………昨夜は、申し訳ありませんでした」


 そう言って、深々と頭を下げるレイヴィア。

 彼女が何に対して謝っているのかを理解した神影は、特に気にした様子も無く、軽く笑みを浮かべながら手をヒラヒラと振った。

 昨日の事について整理が出来ていないため、無闇に話を掘り返すのは得策ではないと思った神影は、何故レイヴィアがあんなにも怒ったのかについては言及しなかった。



──────────────



 それから着替えを終えた神影は、何時ものように食堂へと来ていた。


「おはよう、古代」

「うっす!」


 普段の席に着くと、既に来ていた幸雄と太助が声を掛けた。


「ああ、おはよう」


 神影が返事を返すと、沙那や桜花、奏の3人とも挨拶を交わす。

 そうしている内に他の生徒達やシロナも食堂に到着し、一斉に朝食を摂り始めるのだが、何故かフランクが食堂に入ってきて待ったを掛けた。


「えー、朝食前なのに悪いが、今日の訓練について、1つ連絡したい事がある」


 そう言って、フランクは食堂全体を見渡して全員が居る事を確認し、頷いてから口を開いた。


「今日は、前衛組も後衛組も、全員訓練場に集まってくれ。急ではあるが予定を変更して、1対1で模擬戦を行う事にした」


 その言葉に、急な予定変更に戸惑った生徒達がざわめきを見せた。


 その理由を語り始めたフランクが言うには、今日まで剣や格闘技、そして魔法の訓練を積んでいたが、それらは全て、板や藁人形のように、反撃も回避もしない目標を相手としたものだったが、実戦の相手は常時動き回っている上に、回避も反撃もする。

 その戦闘に慣れさせる訓練をそろそろ始めた方が良いと考え、急遽予定を変更して模擬戦を行う事にしたとの事だ。


「…………そう言う訳だから、朝食が終わったら、全員訓練場まで来るように。以上!」


 そう言って、フランクは食堂を後にする。

 そして、戸惑いを残しつつ朝食を摂り始めた神影達だが、またしてもフランクがやって来た。


 何か連絡し忘れた事でもあったのかと思って手を止める生徒達だったが、フランクは先程のように前に出るのではなく、真っ直ぐ神影の元へとやって来た。


「ミカゲ、少し来てくれないか?」

「………?はい、構いませんが………」


 声を掛けられた神影は席を立ち、フランクと共に食堂を出る。

 そして、食堂の直ぐ近くにある空き部屋に入ると、フランクは話を切り出した。


「さっきの連絡の続きだが…………ミカゲ、お前さんにも参加してもらいたいんだ」


 そう言われた神影は、目を見開いた。

 勇者パーティーから外され、後はエーリヒとトレーニングをする毎日だと思っていたら、こうして再び、勇者パーティーの訓練に参加するよう頼まれたのだから、驚くのは無理もない事だった。


「成長の遅さもあって、お前には一旦勇者パーティーから外れてもらったが…………やはり今後の事を思うと、お前にも対人訓練は必要だと思ってな。今回の訓練だけでも参加してもらいたいんだ。どうだ?」

「…………」


 神影は考えた。

 エーリヒとの訓練で体術の手解きを受け、それなりの成長を遂げたとは言っても、自分と勇者で戦えば、負けるのは目に見えていた。

 それに、もし相手が幸雄や太助ではなく他の男子生徒なら、模擬戦の場を借りたリンチが待っている事も、十分有り得る。

 それで悩んでいる神影に、フランクは口を開いた。

 

「不安なのは分かるし、切り離しといてこんな事を言うのも虫が良い話だと思ってる。だが、やはりお前も、何時かは戦う事になる。今の内に、その感覚を身につけておいても損は無い」


 フランクにそう言われ、神影は暫く考えた後に小さく頷いた。

 それを見たフランクは、神影の参加を決め、軽い励ましの言葉を掛けて部屋を出ていった。

 それを見送った神影は、食堂へ戻って残りを平らげると、今日の事をエーリヒに伝えるため、何時もの場所へと向かった。



──────────────



 神影が城の裏にやって来ると、既にエーリヒが来ていた。

 昨日の事を気にしないようにしているのか、挨拶を交わしてから早速訓練を始めようとするエーリヒに、神影は待ったを掛ける。

 そして、食堂でフランクから連絡された事を伝えた。


「………成る程、勇者同士で模擬戦か」


 そう呟くエーリヒに、神影は頷いた。


「ああ。それでフランクさんが言うには、俺にも参加してほしいってさ」


 それを聞いたエーリヒは、目を丸くして神影を見た。


「………それ、本当?」


 その質問に頷き、神影はフランクに言われた事をそのまま伝えた。


「…………何と言うか、君を参加させるために考えたような文章だね」


 何とも微妙な表情を浮かべて言うエーリヒだが、フランクが言った事を頭ごなしに否定する事は出来なかった。

 確かに、自分で切り離しておいて急に勇者パーティーの訓練に参加させると言うのは虫の良い話だ。

 だが、今後の事を考えると、ただ自分と組手をするだけより効率が良くなる。

 何故なら、その模擬戦を経て何かを学べるかもしれないからだ。

 そう言った観点で考えると、神影を模擬戦に参加させるのは、少なくとも悪くないと言う結論に辿り着いた。


「…………ん?」


 そう考えていたエーリヒは、神影の表情が曇っている事に気づいた。


「ミカゲ…………やっぱり心配なのかい?」

「ああ…………だが、お前が思っている心配と俺が思っている心配は、多分別物だと思う」


 その言葉に、エーリヒは首を傾げた。


「それは、どういう意味だい?」


 そう訊ねられた神影は、この世界に召喚される前から、自分が一部を除いた男子生徒達に敵視され、嫌がらせを受けていた事や、今回の模擬戦で、何か仕掛けようとしてくるかもしれないと言う事を話した。


「成る程、過去にそんな事があったのか…………なら、その可能性は否めないね」


 エーリヒはそう言って、暫く考えた後に小さく頷いた。


「分かった。それなら僕も行くよ。その模擬戦とやらには他の騎士や魔術師達も居るだろうから、僕もその中に混じって見ておくね」

「………すまん、恩に着るぜ」


 そう言う神影に、エーリヒは優しげな笑みを向けた。


「大切な友達が理不尽な目に遭わされるかもしれないのに、それを見て見ぬフリする馬鹿が何処に居るのさ?」


 若干乱暴な言葉遣いだが、神影の表情に、少しだけ笑顔が戻った。

 そして、2人は訓練場へ向けて歩き出した。


 数分程歩くと、訓練場が見えてくる。

 勇者達が模擬戦をする事が知れ渡っているのか、騎士や魔術師の他に、貴族や国の上層部、おまけに王族の姿も見えていた。


 それを見て再び緊張した表情を浮かべる神影に、エーリヒが耳打ちした。


「ねえ、ミカゲ。入る前に、君に良い技を教えてあげよう。卒業後に僕が編み出した、オリジナルの技だ」


 訓練場へ向けて歩みを進めながら、エーリヒは自分の技を神影に伝えた。


 そして訓練場に入ると、神影は他の勇者達の列に並び、エーリヒは観客席の方へと移動していった。


 それから少ししてフランクがやって来ると、模擬戦で誰と組むかを決め、彼の元へ報告に来るよう指示を出した。

 幸雄か太助と組もうとする神影だったが、それよりも早くに功がやって来た。


「よお、古代。お前どうせペア居ねぇんだろ?俺と組めや」


 自分が心配していた事が現実になり、神影は内心溜め息をつきながら言った。


「いや、良いよ。俺は瀬上か篠塚と組むつもりだから」


 そう言って断る神影だが、それで簡単に引き下がる程、功は潔い人間ではなかった。


「はあ?お前ハブられ者の癖に何言ってんの?」

「功が態々、使えねぇお前にチャンスをやるって言ってんだぜ?」

「お前みてぇな使えねぇ奴に、拒否権なんてねぇんだよ!」


 功の言葉に便乗するかのように、取り巻きの三河みかわ じゅん上野うえの 慎哉しんやが囃し立てる。


「(チッ、相変わらずやりにくい連中だな…………やっぱり参加するんじゃなかったぜ)」


 神影が内心で悪態をついた時、騒ぎを聞き付けた幸雄と太助がやって来た。


「おい、お前等。さっきから何してやがる?」

「随分と古代に言い寄っていたみたいだが…………まさか、無理矢理ペアを組ませようとしていたんじゃないだろうな?」


 2人に睨まれた功達は色々と言い訳しようとするが、前々から彼等含む他の男子生徒達を嫌っていた2人は聞く耳を持たなかった。


「テメェ等…………マジいい加減にしとけよ」


 幸雄が無表情になり、両手をボキボキと鳴らし始めた。


 幸雄から溢れ出る殺気で功達が怯む中、太助は神影に、自分とペアを組む事を提案する。

 神影がそれを受けようとすると、またしても別の男子生徒が割り込んできた。


「何だか殺気を感じたから来てみたら…………またか」


 やって来たのは勇人だった。


「古代。お前が瀬上や篠塚と仲が良いのは前から知っていたけど、だからって何でもかんでも2人に頼ろうとするのは止めた方が良い」


 勇人はそう言うと、今度は太助の方を向いた。


「それに篠塚も、さっき瀬上とペアを組んでいたのに、態々古代に合わせる必要は無い。まあ、言い方は少々乱暴だったかもしれないけど、富永だって古代が1人だけポツンとしていたから声を掛けただけかもしれないだろ?」

「………ッ!そ、そうだよ。コイツだけ突っ立ってたからさ」

「俺等だって、別に強制しようとしてた訳じゃないんだぜ?」

「そうそう。あまりにも古代の断り方が失礼だったからさぁ、ちょっと苛立っただけなんだよ」


 何をどのようにすれば、あの断り方が失礼なものだと認識出来るのか不思議である上に、功に至っては自分とペアを組めと命令してきた上に、取り巻き2人は恫喝するかのように神影に怒鳴っていたのだから、失礼なのは寧ろ、この3人の方だと言えるだろう。


「兎に角、古代。態々誘ってくれた者の好意は、無下にするものじゃない」

「………俺は頼んでないし、寧ろ嫌なんだが?押し付けがましい好意なんて、此方の方から願い下げだ」


 此処で初めて、神影が反論した。

 余程苛立っているのか、目付きが鋭くなっている。


「お前のそう言う態度が、他人からの反感を買うんだ。何でもかんでも反抗的になるのは良くないぞ」


 勇人の言葉に、周りに居た他の男子がニヤニヤと笑みを浮かべながら相槌を打つ。

 

 すると、外野で様子を見ていた筈の恭吾が、ニヤニヤと笑みを浮かべながらやって来た。


「このままじゃ埒が明かないから、古代と富永、それから瀬上と篠塚でペア申請しといたよぉ」

「「はあ!?」」


嫌味ったらしい笑みを浮かべて言う恭吾に、神影と幸雄が声を荒げた。


「テメェ、ふざけてんじゃねぇぞゴラァ!其処までして古代を理不尽な目に遭わせてぇのか!?」


 真っ先に飛び出した幸雄が、慎哉を掴み上げる。


「桐村、お前!何を勝手に決めているんだ!ふざけているのか!?古代が嫌がっていたのはお前も見ていただろうが!!」


 表情を怒りに染めた太助も恭吾に詰め寄ると、彼の髪を掴み、そのまま引きちぎらんとばかりに引っ張った。


「イテテテッ!ちょ、ちょっと落ち着きなって。このままじゃ何時までも平行線だから上手く纏めただけじゃないかぁ!」

「何が『上手く纏めただけ』だ!寝言は寝てから言えやボケッ!!」


 これには流石に耐えかねたのか、神影も声を張り上げた。



 結局、恭吾が勝手に申請したものが受理され、神影と功が模擬戦のペアになり、神影は深く溜め息をつきつつ、この辺り一帯をP-51のロケット弾で焼き払ってしまおうかと本気で思ったのは余談である。

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