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航空傭兵の異世界無双物語  作者: 弐式水戦
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第17話~訓練後の話~

「凄かったね、ミカゲ!前まで使っていた機体とは比べ物にならないようなスピードや素早い動きもそうだけど、的を木っ端微塵にしちゃうなんて!」


 零戦を展開してある程度飛び回った神影は、エーリヒの誘導を受けて地面に降り立っていた。

 機体を解除して一息ついている神影の元に、エーリヒが興奮した様子でやって来る。


「機関銃…………って言ったよね?あれが4つもついてるなんて、零戦って凄いんだね!ホラ、見てよ!あれで撃たれた的は全部粉々だよ!」


 エーリヒは、射撃訓練のために持ってきた的を設置した場所を指差した。

 幾つかの的は、撃たれなかったために無傷で佇んでいるが、残りは穴だらけだったり、木っ端微塵にされて原型を留めていない。


 凄い凄いと子供のようにはしゃいでいるエーリヒを見て、神影は苦笑を浮かべていた。


 零戦は、7.7㎜機銃または13.2㎜機銃と、20㎜機銃が2挺ずつ、つまりエーリヒが言った通り、計4挺の機銃を携えている。

 だが、それよりもっと多い、5挺や6挺もの機銃を持つ戦闘機だってあるのだから、機銃の数において、神影はそれ程驚いていなかった。


「(機銃だけでこんなにはしゃぐなら、爆弾やロケット弾見せたら、どんな反応するのかな…………?)」


 内心そう呟きつつ、次の機体を使うか、それとも撤収するかをエーリヒに聞こうとした時だった。


「こんな所に居たのですね」

「「ッ!?」」


 突然聞こえてきた女性の声に、先程までの賑やかな雰囲気は一気に消え失せた。

 目を見開いた2人は、辺りを見回して声の主を探すが、何処にも姿は見られない。


 神影は内心焦っていた。

 夜に訓練をしているのはレイヴィアや幸雄達も知っているのだが、王都を抜け出して夜間飛行をしていた事は言っていない。

 つまり、この事を知っているのは自分とエーリヒだけなのだ。

 それを、全く別の人物に見られてしまったのだから、彼の焦りは尋常ではなかった。

 自分の本当の能力を知られ、それを国に伝えられたら一貫の終わりである。

 そのため、何としてもその声の主を見つけ出し、この事を内密にするよう頼み込む必要があった。


「クソッ、何処にも居ねぇ………」


 だが、どんなに辺りを見回しても、声の主は現れない。


「(今のは、気のせいだったのか?エーリヒ以外誰にも見られたくないって思いが強すぎて、幻聴でも聞こえるようになっちまったか?)」


 そう思いながら、神影はエーリヒの方を見る。

 その視線に気づいたエーリヒは振り返ると、首を横に振った。

 どうやら彼も、声の主を見つけられなかったようだ。


「………まあ、気のせいって事にしておくか」


 そう呟いてエーリヒの方へ歩き出そうとした神影だが、再び声が聞こえた。


「気のせいではありませんよ、ミカゲ様」


 その言葉に足を止める神影だが、今度は先程のように驚かなかった。

 

 何故なら、その声の主は、はっきりと神影の名前を口にしたからだ。

 それに加えて、今では役立たずとして扱われている自分に敬語を使っている事や、何処と無く感じられる色気、そして、自分を"様"付けで呼ぶ人物に、神影は心当たりがあったのだ。


「…………レイヴィアさんですか?」


 虚空に向かって訊ねると、小さな袋を持ったレイヴィアが、神影の前に姿を現した。


「ッ!?」


 突然現れた事にエーリヒが驚いているが、レイヴィアは構わず、神影に話し掛けた。


「それでミカゲ様。随分と楽しんでおられたようですが…………もう、終わったのですか?」

「は、はい。そろそろ帰ろうと思っていまして………」


 神影は、まるで悪戯がバレて怒られている子供のように小さくなる。


「ま、待ってください!コレは単なる遊びと言う訳ではなく、ミカゲの訓練のためで………!」


 神影の能力を知っているエーリヒが口を挟んでくるが、言葉を続けるなら、必然的に神影の能力の事を彼女に言わなければならなくなるため、一気に勢いが弱まってしまう。


「……………」


 レイヴィアは、エーリヒと神影を交互に見た後、彼等の後ろで放置されている数枚の板へと視線を向け、その板へと近づいていった。


 勝手に王都を抜け出した事について怒られると思っていた2人は、そんな彼女の行動の意図が分からず、互いに顔を見合わせた後、彼女の後を追った。


「…………」


 板の前で屈んだレイヴィアは、板に描かれている絵を眺めていた。

 神影の機銃掃射を受けたため、見ていて痒くなる程に穴や傷が刻まれているその板には、人の絵が描かれているのが辛うじて見えていた。


 その描かれた人物は、顔はほぼ分からなくなっているが、耳が長く、尖っているのが見えた。

 弾が当たらなかった他の板に目を向けると、同じように耳の長い人物や、服装からして明らかに王族と思われるヒューマン族の男性や女性が描かれていた。

 

「描かれたものとは言え、同族や同盟相手を…………!」


 小さく呟いたレイヴィアの整った顔が、憎悪に染まる。

 そして、恐る恐る近寄ってきた神影とエーリヒを睨み付けた。


「………これ等の板を持ってきたのは、誰ですか?」


 そう訊ねられ、エーリヒが恐る恐る歩み出た。


「ぼ、僕ですけど………」


 すると、レイヴィアの鋭い視線がエーリヒに向けられる。

 そして彼女は手招きし、エーリヒのみを呼び寄せた。

 その場に取り残された神影は、板の前で話す2人を見ていた。

 

 レイヴィアがエーリヒに何かを話すと、エーリヒは胸の前で両手をブンブン振り、必死に何かを否定しているように見える。

 そんな2人を眺めながら、神影は首を傾げていた。


 自分達が夜な夜な勝手に王都を抜け出していた事について怒っているのかと思いきや、何故かエーリヒが用意した的を見て怒り、彼を問い詰めている。

 彼女が騎士団や魔術師団に所属していて、的を勝手に持ち出した事について怒っているなら話は別だろうが、そうには見えない。

 そのため、彼女が一体何に対して怒っているのか、神影には全く理解出来なかった。


「…………まあ、良いでしょう。ミカゲ様には、その気は無かったでしょうから」


 そうしている内に話は終わったらしく、レイヴィアは怒りを収めた。

 そして、その場にエーリヒを残して神影に歩み寄り、袋を差し出した。


「夜食のクッキーです。良ければどうぞ」

「………あっ、どうも」


 一瞬面食らった神影だが、ハッと我に返って袋を受け取った。


「それと、的を使った訓練について文句を言うつもりはございませんが…………あのような的は、今後使わないようにしてください。良いですね?」


 一体、自分達が使った的の何がいけないのか分からなかった神影だが、一先ず頷く事にした。


「最後に、今回ミカゲ様が纏っていた魔道具らしきものですが、口外するつもりはございませんので、ご安心ください。それでは」


 それだけ言うと、レイヴィアはフッと姿を消した。


「………何だったんだ?」


 ポカンとした様子で、神影はそう呟いた。


 自分の能力をレイヴィアに知られてしまった事については解決したが、自分達が使った的に対してレイヴィアが怒った理由は分からなかった。


「………まあ、良いか。使っちゃ駄目なら仕方無い。別の的を用意してもらうしかないか」


 そう呟き、神影はエーリヒに歩み寄った。


「エーリヒ、取り敢えず帰ろうぜ」

「う、うん………」


 声を掛けられたエーリヒは、気まずそうに返事を返した。

 そして、持ってきた的を回収し、2人は王都へと戻っていった。



──────────────



《…………そうか、そのような事が》

「はい」


 神影達が王都へ戻り始めた頃、転移魔法で先に帰ったレイヴィアは、またしても、ある人物と連絡を取っていた。


「申し訳ありません。作り物である上に、2人にその気は無かったとは言え、感情的になって…………」

《良いのだ、レイヴィア。たとえ作り物でも、描かれているのは我々魔人族や、ヒューマン族側の同盟国なのだ。お前が怒る気持ちも分かる》


 点滅する伝魔石から聞こえてくる低い声には、怒りの色は無かった。


《だが、謝るなら私ではなく、あの2人にするんだな。いきなり睨まれたのだから、きっと困惑しているだろう》


 そう言われたレイヴィアは、自分に睨み付けられた時の神影とエーリヒの顔を思い出した。

 いきなり睨み付けられた2人の表情は、その人物の言う通り、困惑の一色で染まっていた。

 それに、神影に今後、あの的を使わないように言った時も、彼女はかなり冷たい態度を取っていた。


「………分かりました」

《うむ。では、次の報告を待っているぞ》

「はい、グラディス様」


 そうして、グラディスと呼ばれる男とレイヴィアの通信は終わった。

 それからレイヴィアはメイド服を脱ぎ、寝間着であるネグリジェに着替えると、明かりを消してベッドに潜り込むのだった。



──────────────



 その頃、神影とエーリヒは王都に戻っていた。

 レイヴィアから受け取ったクッキーは、王都への道中で食べ尽くしているため、空になった袋は神影のズボンのポケットに押し込まれている。


「………なあ、エーリヒ。結局その的には何が描かれてたんだ?」


 城の敷地内に入り、持ち出した的が放置されていたゴミ置き場に、神影が纏った零戦の機銃掃射で粉々になった的の残骸や他の的を放り捨てるエーリヒに、神影は訊ねた。


「…………」


 その質問を受け、暫く神影に背を向けた状態で黙っていたエーリヒだが、このまま黙っていても仕方無い上に、この世界で暮らしていく以上、何時か必ず訪れる運命を伝えておくためにも、今言うべきだと結論を出し、的の1つを神影に渡した。

 それを受け取った神影は、的に描かれているものを見て首を傾げる。


「…………人?」


 そう呟く神影に、エーリヒは頷いた。


「そう。この的は全部、魔人族や、魔人族側に寝返った国の王族、それから兵士を描いたものなんだ。皆、それに魔法をぶつけたり、剣で斬りつけたりして訓練するんだよ」


 それを聞いた神影は、日本に居た頃、とある本で見た戦時中の日本の竹槍訓練を思い出していた。

 その本に載っていた写真には、自分達と同い年、はたまた年下の少年少女達や、その地域の住人と思わしき女性達。そして軍人達が、敵をイメージしたものであろう大きな藁人形らしきものに、竹槍の先を向けていたのだ。


「お前はやってたのか?的に魔法ぶつける訓練」

「…………」


 その質問に、エーリヒは無言で頷いた。

 

「…………」


 それを見た神影もまた、無言で板をゴミ置き場に置いた。


「ゴメンね、ミカゲ。ちゃんと教えておけば良かったよ」

「…………」


 すまなそうな表情を浮かべるエーリヒに、神影は無言で首を横に振った。


 そして、暫く積み上げられた的の山を眺めた後、エーリヒに視線を向けた。


「なあ、エーリヒ………魔人族って、本当に悪い奴等なのか………?」


 そう訊ねられたエーリヒは、直ぐに返事を返せなかった。

 神影が質問してきた事について、エーリヒ自身も疑問に思っていたのだ。

 

 暫く沈黙が流れた後、これ以上居ても仕方無いため、その場で解散する事になった。


 神影は部屋に戻ると、眼鏡を外して机に置き、空になった袋をゴミ箱に入れ、ベッドに飛び込んで眠りについた。

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