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航空傭兵の異世界無双物語  作者: 弐式水戦
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第16話~射撃訓練とレイヴィアの嫌悪~

 神影達が勇者パーティーから外されてエーリヒと訓練をするようになってから、更に数週間が過ぎた。


 あれから神影は、昼間はエーリヒとの組手や魔法の訓練に励んでいた。

 勿論、力だけでなく知識も必要となるため、エーリヒが学生時代に使っていた教材を借りての勉強も、忘れてはいない。

 因みに夜間飛行は、本当は毎日行うつもりだった神影だが、それだと流石に怪しまれると言うエーリヒの意見を受け、2~4日程度の間隔を設けて行っていた。

 機体を纏って空を飛び、最終的に着陸する感覚に慣れるため、ずっと初期の戦闘機を使っていた神影だが、慣れてきたのもあり、そろそろスペックが上の機体を使おうと考えていた。



「……そう言えば、今日で俺等がこの世界に召喚されてから、もう2ヶ月以上が経ってんだよな………」

「ん?……ああ、確かにそうだね」


 その日の訓練を終え、城の裏にあるベンチに寝転がって呟いた神影に、エーリヒがそう返した。


「あのステータス確認で役立たず認定されてから、少しずつだけどレベル上がったよな。俺」


 神影は徐にステータスプレートを取り出すと、見上げるようにして眺めた。




名前:古代 神影

種族:ヒューマン族

年齢:17歳

性別:男

称号:異世界人

天職:航空傭兵

レベル:5

体力:90

筋力:90

防御:90

魔力:40

魔耐:40

敏捷性:230

特殊能力:言語理解、僚機勧誘、空中戦闘技能、物理耐性




 勇者達と比べると明らかに成長は遅いが、それでも確かにレベルは上がっていた。


「それにしても、敏捷性だけは凄い事になってんな。コレだけ数値が200超えてやがる」


 相変わらずのスピード特化のステータスに、神影は苦笑を浮かべる。


「おお、前と比べると結構高くなってるね。特殊能力も1つ増えてるし」


 そうしていると、何時の間にか傍に来ていたエーリヒがステータスプレートを覗き込んでいた。


「ああ、お前が講師をしてくれたお陰だよ。ありがとな」

「へへっ………どういたしまして」


 ステータスプレートをしまいながら礼を言う神影に、エーリヒは微笑んだ。

 人に感謝される事に慣れていないのか、頬は若干赤く染まっている。


「ところでミカゲ、今日は行くんだよね?」

「ああ。そろそろ、今までのより性能の高い戦闘機を使いたいからな」


 これまで、ずっと初期の戦闘機ばかり使ってきた神影は、そろそろ次の段階に進み、零戦のような、今までのものより性能が高い機体をずっと使いたかったのだ。


「ついでに言うと、射撃訓練もしたいところだが…………」

「……あの機銃とか言うヤツを撃ちまくる、あれの事かい?」


 神影から戦闘機に搭載されている武装について、ある程度の説明を受けているエーリヒが訊ねると、神影は頷いた。


「そうなんだが…………何処かに的として使えそうなもの、無いかなぁ………」

「あるよ」


 仰向けになって右腕をプラプラと垂らし、だらけたような調子で言う神影に、エーリヒは答える。


「えっ、本当か?何処にある!?」


 その瞬間、勢い良く起き上がった神影はベンチから転がり落ちると、そのままエーリヒに詰め寄った。


「ぼ、僕が学生だった頃、魔人族に魔法を当てる練習として使った木の板があるんだ。本来は倉庫にしまってあるんだけど、古いのが幾つか放置されているのを見たから、今夜持ってきてあげるよ」


 今までのものより高性能の機体で射撃訓練が出来るかもしれないと言う事に興奮している神影の気迫に怯みながら、エーリヒはそう言った。


「おう、ありがとな!」


 ただ飛び回るだけでなく、機銃を撃つと言う戦闘機らしい訓練が出来る事に、神影は喜んだ。

 それから2人は、また何時もの時間に会う事を約束し、解散するのだった。



─────────────



「なあ、古代。お前最近何やってんだ?飯食い終わったらさっさと行っちまうしよぉ」


 場所は変わって、此処は食堂。

 何時ものように、さっさと食事を終えて席を立とうとする神影を引き止め、幸雄が話し掛けた。


「幸雄の言う通りだ。最近の君は、食事中は私達と殆んど話さないし、早めに食事を終えて、さっさと出ていってしまう事が多い…………古代。君は一体、食後に何をしているんだ?」


 太助も幸雄に同調し、沙那達も頷いた。


 そう。幸雄や太助が言うように、夜間飛行をする日、神影は座る席こそ変わらないものの、幸雄と太助が、沙那や桜花、奏の3人との会話を楽しみながら食事を摂っている中、1人だけ急いだ様子で食べ進め、食事が終わると、さっさと食器を返して食堂を出ており、彼等はそれを怪しんでいたのだ。


「(マズいな………此方の事すっかり忘れてた)」


 内心そう呟き、神影は冷や汗を流した。

 衛兵に怪しまれないようにする事ばかりに重点を置いていた神影は、以前とは全く違った自分の食事スピードでクラスメイトに怪しまれる可能性を考慮していなかったのだ。


「あ、ああ。心配させてゴメンな。俺、結構ハードな訓練してるから、早めに食い終えて休憩しておかないと、訓練中に気分悪くなっちまうんだ」


 咄嗟に思い付いたでっち上げの理由を述べ、一先ずその場を凌ごうとする神影。

 決して幸雄達を信用していない訳ではないのだが、自分の秘密を知っている人物は、現段階ではエーリヒ1人だけで十分だと考えているため、自分が戦闘機を扱う能力を持っている事をクラスメイトに教えるつもりは毛頭無かったのだ。


「まさか、古代……………君、食後も訓練をしているのか?」

「え?………ま、まあな」


 訓練と言っても、ただ準備運動した後に王都を出て戦闘機を纏って飛び回るだけなのだが、急降下や急旋回をすると、体には思いの外負担が掛かるため、少なくとも単なるお遊びとは言えないだろうと判断した神影は、一先ず頷いた。


「古代……お前って奴は…………」


 幸雄が溜め息混じりに言った。


「だ、駄目だよ神影君。ご飯食べて直ぐにトレーニングなんかしたら、体壊しちゃうよ!今日は訓練止めとこう?」

「そうですよ、古代さん。あまり無理はなさらないでください」

「沙那と桜花の言う通りよ。今日はゆっくり休みなさい」

「い、いや。でもだな………」


 現段階ではなるべくクラスメイトに戦闘機の事を話したくない神影からすれば、咄嗟に思い付いた作り話に彼等を見事乗せる事が出来た訳だが、それによって話がややこしい方向に進み始めたため、焦った。


「古代………遅れを取り戻そうと頑張るのは良い事だが、それで無茶をして体を壊すような事になれば本末転倒だ。だから今日ぐらいは、ゆっくりしていかないか?」


 太助がそう言って、席を立とうとしていた神影を再び座らせようとする。


「い、いや。もう食い終わったし、体の方なら大丈夫だから」


 そうして細やかな抵抗を見せる神影だったが、日頃仲良くしてくれた5人の友人達からの説得を躱す事は出来ず、結局、彼等が食事を終えて食堂を出る時まで席を立つ事は出来なかった。



──────────────



「………98……99……100!良し、準備運動終わり!」


 食事を終えた幸雄達から解放された神影は、急ぎめに自室に戻って数分程休憩した後、何時ものように準備運動をして夜間飛行に備えていた。

 今日は普段より高性能の機体を使う上に、エーリヒが用意してくれる的を使っての射撃訓練も行うため、かなり張り切っている。


「さて…………そろそろ行くか!」


 部屋の時計で時間を確認した神影は、明かりを消して部屋を出ると、大急ぎで城の裏へと向かう。

 そして的を用意して待っていたエーリヒと合流し、そのまま王都の外へと向かうのだった。







「…………今日は、行くみたいね」


 楽しそうに歩いていく神影とエーリヒの後ろ姿を、物陰から眺める者が居た。


「成る程。毎日行くのではなく、間隔を設けて衛兵に怪しまれないようにすると言うやり方ね………然り気無く部屋の前を通るようにしておいて正解だったわ」


 その正体は、神影の専属メイドであるレイヴィアだった。

 このヴィステリア王国で勇者召喚が行われると言う情報を掴んだ魔王の命令を受けて、魔人族側の斥候としてやって来た彼女は、城のメイドとして潜伏し、自分が担当する事になった神影の動向を監視していた。

 あの夜間飛行を目撃して以来、それに関する詳しい情報を掴もうとしていた彼女だったが、神影が部屋を出る日が不定期であるため、何時でもタイミングを掴めるように然り気無く神影の部屋の前を通るようにして見張り、神影が部屋を出るのを見つけると、姿と気配を消して神影達の後をつけていた。

 そして今日、夜食を渡す事を口実に神影の部屋を訪れ、然り気無く魔人族への認識や神影の能力について聞こうと思っていた時、神影が部屋を出ていく姿を目撃した彼女は、また何時ものように後をつけてきたのだ。


「あの2人の会話からすると、彼の鎧の種類は1つや2つ程度のものではない…………なら、出来る限り多くの情報を…………」


 そう呟き、彼女は2人と一定の間隔を空けつつ後に続くのだった。



──────────────



「さて、この辺りで良いか」


 王都から2㎞程離れると、神影は早速始めようとしていた。


「それでミカゲ、今日は何を使うんだい?」


 ウキウキした様子で、エーリヒが訊ねる。

 自分は神影の能力を使えないが見るだけでも楽しいと感じていた彼は、早く今回使用する機体を見たくて堪らなかった。


「……………」


 神影達から離れた場所で待機しているレイヴィアも、この後の展開を見守っていた。


「今日使うのは…………」


 神影は両目を閉じ、暫くの間を空ける。

 彼等に見つからないようにしているレイヴィアは勿論だが、エーリヒも黙って神影の次の動きを待っている。

 その沈黙の時間が長くなると、レイヴィアとエーリヒは緊張して小さな汗の粒を額から流す。


 そして遂に、神影の両目がカッと見開かれた。


「コイツだ!」


 そう叫んだ瞬間、神影は光に包まれる。

 その際、ある程度の耐性がついているのか、エーリヒとレイヴィアは軽く手で目を覆う程度で済ませていた。

 そして光が消えると、戦闘機を纏った神影が立っていた。


 体を覆う装甲は深緑で、プロペラがある膝下の部分は黒くなっている。

 加えて、背中から生えている機関砲付きの主翼や、臀部から尻尾のように生えている、実機で言う機体後部に当たる部分には、外側を白で縁取りした赤い丸が描かれており、最後に両腕には主翼に搭載されているものより小さめの機関銃が装着されて、指が引き金に掛けられていた。

 

 そう、日本軍戦闘機の代表格とも呼ぶべき戦闘機、零式艦上戦闘機こと、零戦だ。

 因みに神影が纏っているのは、その52型だ。


 太平洋戦争初期までは、長大な航続距離や20㎜機関砲による重武装、そして高い運動性能を誇り、そのスペックと腕利きパイロットとの抜群のコンビネーションに苦しめられた敵機は数知れない。


 神影は、飛行訓練で使用する戦闘機のレベルを上げる際には、零戦を最初に使うと決めていたのだ。


「…………」


 言葉を失っているエーリヒだが、その目は子供のように輝いていた。


「コレは零戦。まあ正しくは零式艦上戦闘機って名前で、日本…………まあ俺等が住んでた国なんだけど、其所で作られた戦闘機なんだよ」


 そんなエーリヒに、零戦について簡単に説明する神影。

 本音を言えばもっと語りたかったのだが、そのままペラペラ喋るだけで終わるのでは、飛行訓練の意味は無い。

 そのため、神影は説明を一旦切り上げ、エーリヒを離れさせた上でエンジンを始動させる。

 脛部分の装甲に生えている排気口から時々火を噴きながら、プロペラが回転する。


「よっしゃ…………行くぞッ!」


 神影は勢い良く飛び出し、地面を離れた。

 体の体勢が変わって飛行モードになり、星や月が輝く夜空を縦横無尽に飛び回る。


「(凄い………今までのと比べると、速さが格段に違う)」


 飛び回る神影を見上げていたレイヴィアは、その速さに目を見開いた。

 それもその筈。神影が今まで使っていた戦闘機は、最高速度が時速200㎞未満のものだったのに対し、零戦の最高速度は500㎞を超える。

 今まで使用していた戦闘機との速さの違いに気づくのは当然だった。


「………ん?」


 其処でレイヴィアは、エーリヒが飛び回る神影を時々見上げながら何か作業しているのを視界に捉えた。


 城の裏で神影と待ち合わせていた時からずっと持っていた数枚の板を、あまり離れすぎないような感覚で設置していたのだ。


「(あの板は……?)」


 そう思っていると、エーリヒは空へ向けて光の玉を発射する。

 すると、それに気づいた神影が反転して地上を見下ろし、エーリヒは自分で設置した数枚の板を指差すと、大急ぎでその場を退いた。


「(…………ッ!まさか、あれって!?)」


 レイヴィアは、視線の先で並べられている板の正体を悟った。

 それは、この国の城でメイドとして働き始めた頃から何度も目にしてきたものだった。


 その板は、魔人族や魔人族側へ寝返った国の者を魔力弾で攻撃する訓練のための的だったのだ。


 自分に背を向けて立っている何枚もの板。

 あの表面には、きっと魔人族の幹部や魔王、はたまた魔人族側に寝返った国の上層部の者の顔が描かれているだろう。

 城の敷地内を歩いていた時、訓練でボロボロになったその板を見つけ、何度不快な気分を味わったことか。

 その回数は、最早数えるのも億劫になる程だ。


 そうとも知らず、神影は並べられた板目掛けて急降下する。

 そして両腕を突き出して引き金を引き、更に主翼に搭載されている機関砲にも意識を向け、7.7㎜弾と20㎜弾を発射する。

 4つの銃口が激しいマズルフラッシュを弾けさせ、銃弾が的に降り注ぐ。

 命中した銃弾は的を貫き、瞬く間に半分近くの的を蜂の巣の如く穴だらけにした。


「……………」


 それを目の当たりにしたレイヴィアは、差し入れとして神影に渡すつもりだったクッキーの入った袋を落とした。


 神影からすれば、これは単なる射撃訓練である上に、そもそも的に何が描かれているのかを確認する事無く飛び出していったので、魔人族への攻撃の意図は無かったのだろうし、それを見ていたレイヴィアも、神影にその気は無かったと理解している。

 だが、それでも彼女からすれば、同族や同盟相手を惨たらしく殺されているような気がしてならなかったのだ。

 そしてその姿に、魔人族や魔人族側に寝返った国への反感を煽るような教育を真に受けた騎士や魔術師達の姿が重なり、嫌悪感が沸き上がる。


 レイヴィアは落とした袋を拾い上げ、降りてくる神影と、光魔法で地面を照らして彼を誘導しているエーリヒの元へと歩み寄っていくのであった。

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