プロローグ2
月曜日とは不思議なもので、この漢字3文字で構成されるたった1つの単語によって、多くの学生や社会人が、学校や仕事の面倒臭さや人間関係の問題から憂鬱な気分を味わわされ、休みだった日に戻りたいと思った事だろう。
そう思っているのは、肩から提げられている今日1日分の教材を詰め込んだボストンバッグに加えてサブバッグを背負い、その重さで前のめりになっている事によって黒縁の眼鏡を掛けた金色の目を長い黒髪で隠し、ヨロヨロと自分の教室に向かっている神影も例外ではない。
別に神影は、学校そのものが嫌いと言う訳ではないのだが、今はかなり面倒な位置に立たされているのだ。
とある理由から、彼は学校内における9割以上の男子生徒から敵視されている事に加え、クラスの男子からの嫌がらせの対象になっている。
そのため月曜日と言う日は、彼にとっては地獄の始まりとも呼べる日なのだ。
「はぁ………徹夜でMig-29のプラモ完成させて、気分良く二度寝出来ると思ったら今日が月曜とか、冗談じゃねぇよな」
陰鬱そうな溜め息をつき、神影は教室のドアを開ける。
すると、既に教室に居た男子生徒の殆んどから、『お前なんてお呼びじゃない』と言わんばかりの鋭い眼差しを頂戴する。
だが、教室に居た男子には、ただ神影を睨み付けるだけの者も居れば、あからさまに嫌がらせをする者も居るのだ。
この代表格と呼べるのが、彼等である。
「よお、マニア。月曜の朝っぱらから随分とフラフラじゃねぇか。夜通しエロ画像でも見て、1人で盛ってたのか?」
「うわっ、キモ~!」
「ちゃんと消臭剤使ってから来たんだろうなぁ?変な臭い撒き散らすんじゃねぇぞぉ~」
その言葉だけで一気に居心地が悪くなるような事を大声で言い、その男子生徒達はゲラゲラと笑った。
最初に声を掛けた男子生徒、富永 功や、その取り巻きと思わしき2人の男子生徒の下品な笑い声が教室内に響くと、他の男子生徒も便乗するかのように、侮蔑に満ちた視線を向けた。
「(やれやれ………毎回思うが、コイツ等も懲りねぇよな。このやり取り何回繰り返してると思ってんだよ?いい加減飽きたっての)」
そんな彼等に、神影は特に言い返したりする訳でもなく、ただ無視して自分の席に向かい、荷物を床にドスンと置くと、椅子に腰掛けて、何も聞こえていないかのように頬杖をついた。
そんな、自分達の事を歯牙にも掛けていないような態度が気に入らなかったのか、今度は神影の席に寄って嫌がらせをしようとする功達だったが、それを阻むかのように、赤茶色の髪を後頭部から三つ編みにした男子生徒が割り込むと、鋭い眼差しで一睨みして3人を退散させ、神影に話し掛けた。
「おはよう、古代」
その声に振り向いた神影は、話し掛けてきた人物を視界に捉え、安堵の溜め息をついた。
「ああ、何だ篠塚か…………良かった。誰が来たのかと一瞬不安になったぜ」
「はは…………まあ、君に話し掛ける男子は、大抵嫌がらせをするのが目的だからな。君と真っ当な話をしようとする男子など、私か幸雄くらいしか居ないだろう」
神影に声を掛けた男子生徒、篠塚 太助は苦笑を浮かべる。
「それにしても、情けない連中だな。たった1人を相手に複数で寄って集って潰そうとして、一体何が楽しいんだか………奴等の考えは理解に苦しむよ」
呆れたような表情を浮かべた太助の台詞は、暗に功達3人組や他の男子の事を語っており、それを悟った彼等は居心地が悪そうにしていた。
「まあ、何か知らんが学園中の男子に敵視されて、その上クラスの男子からは嫌がらせを受けるようになってから、早いもので5ヶ月も経っちまった訳だし……………もう慣れちまったよ」
「いやいや、古代。それ慣れたら駄目なヤツだろ」
達観したように言う神影に、また1人の男子生徒が近寄り、ツッコミを入れた。
彼は瀬上 幸雄と言い、太助の親友だ。
灰色の短髪に鋭い目を持つワイルド系イケメン男子で、部活動はしていないが、スポーツを趣味としている。
男子としては珍しい『私』を一人称とし、それに違わぬ真面目な性格の持ち主である太助とは反対に遊び好きである一方、全国模試トップ5に入る程の学力を持っているハイスペック男子だ。
「しっかし、連中も懲りねぇよな。あんなやり方で古代の立場を悪くしようったって、意味ねぇだろうに」
幸雄の言葉に、太助が腕を組んで相槌を打った。
「ああ、全くだ。連中はその辺りを全然理解していない…………いや、したくないのだろうな。だから性懲りも無く、古代にちょっかいを出そうとしているのだろう」
「はぁ…………ソイツ等、マジ馬鹿っしょ。高校2年にもなって、理解力無さすぎだっての」
神影に敵愾心を向ける男子達へ、何の躊躇いも無く辛口評価をつける2人に、功達が不快げな眼差しを向けるが、彼等は気にも留めない。
基本的に功達のように神影を敵視している男子は、神影が1人で居る時しか仕掛けてこない。
そのため、幸雄や太助からすれば、自分達が居ない時にしか神影に嫌がらせが出来ない彼等など、取るに足らない存在だったのだ。
「それよか古代、お前普段より眠そうだったけど、昨日は何して…………ん?」
幸雄がそう言いかけた時、廊下が賑やかになっているのが聞こえる。
「この声は…………彼奴等だな」
「ああ、間違いない」
幸雄と太助が言葉を交わした瞬間、再び教室のドアが開く音が響き、3人の女子生徒と2人の男子生徒が入ってきた。
それを見た2人は予想通りと言わんばかりの表情を浮かべ、神影の肩に手を置いた。
「さて……………これからが大変だな、古代」
「まっ、お前には俺様達がついてるから、安心しろや」
「…………ありがとな」
自分に近づいてくる黒髪の少女を視界に捉えた神影は、乾いた笑みを浮かべて礼を言うのだった。
此方での作品では、ハーメルン版では無かった"マトモな男子"が登場しています。
以前、ある方から提案やキャラ設定をいただき、その使用許可もいただけたので、こうして登場していただきました。